11 許さない
俺への殺意と怒りで溢れ返っていたギルド内だったが、サルタナの登場により一瞬で静まり返った。
そんな中、最初に言葉を発したのは受付嬢のエレナだった。
「お疲れ様です、サルタナさん。どうされましたか?」
「レッドホークの新メンバーが決まったんでな。面倒だが、手続きに来た」
本当に面倒そうな表情のサルタナ。
すると、奥から別の受付嬢らしき女が現れた。
「私が受け付けます。サルタナさん、こちらへ」
「あぁ」
もう一人の受付嬢の後ろを、堂々と歩くサルタナ。
そんなサルタナを、ステラはまじまじと見つめる。
「(この人がテッドさんを追放したっていうサルタナさん……。すごいステータス……期待の若手パーティのリーダーを務めているだけありますね)」
どうやらステラは『鑑定』を使ってサルタナのステータスを見ているらしい。
だが、サルタナの方はステラなど気にも留めず、手続きを続ける。
「……はい、完了です。ありがとうございました」
「あぁ」
手続きを終えて立ち上がるサルタナ。
そこで初めて、サルタナはステラの存在に気が付く。
「あ? 何見てんだお前」
「い、いえ……失礼しました」
「ほう、よく見たら可愛い顔してるじゃねぇか」
今度はサルタナが、ステラの顔をじっと見つめ始める。
「ちょ、ちょっと……」
「残念、あと少しお前と早く出会っていれば、俺のパーティに歓迎してやったんだがな。もう代わりを見つけちまった」
「代わり、ですか?」
何故か食い付くステラ。
会話が続くと思っていなかったのか、サルタナは一瞬驚いた表情をするが、すぐに不敵な笑みを浮かべ、話を続けた。
「あぁ。前のメンバーは中々使える奴ではあったんだが、色々と気持ち悪い奴でな。俺のパーティに悪影響を及ぼすと考え、追放した。だからその代わりってことだ」
「気持ち悪い……そんな理由で?」
「あぁ。まぁ追放した直後に、そいつはモンスターに食われて死んじまったらしいけどな。ククッ、どの道使えないゴミだったって訳だ」
不敵な笑みから、退屈そうな表情へと変わるサルタナ。
相変わらず表情がコロコロ変わる奴だ。俺からすれば、お前の方が何を考えているか分からなくて不気味だよ、サルタナ。まぁ今更コイツにどう思われていようと知った事ではない。むしろ関わるのはもう面倒だから、ステラには適当に会話を切り上げてもらい、こちらに戻って来てほしいところだ。
なんて思っていたのだが──
「取り消してください」
「……なんか言ったか?」
「取り消してくださいって言ったんです! 仲間を大切にできない人は最低です! その人に対する侮辱、私は許しません!」
どうやら俺が侮辱されたことに対して怒っている様子のステラ。
仲間の為に怒れるというのは素晴らしい事かもしれないが、サルタナと揉めるのは正直避けたいところだな。
「あ~……。はは」
そんな激昂するステラに対して、乾いた笑い声を出すサルタナ。
「もしかして、俺の事怒ってんのか?」
「当然です。さっきの言葉、取り消してください」
「はぁ、可愛いからって優しくしてやったらこれかよ。人ってのはどこに地雷があるか分からねぇもんだな」
感情の籠っていない声でそう言ったサルタナは、気だるそうに続ける。
「おいクソアマ。俺は優しいから、今の偉そうな発言は無かったことにしてやる。謝れ」
「なんで私が謝らなきゃいけないんですか。嫌です」
「ふ。はははは」
人間の真似をするロボットのような笑い声をあげるサルタナ。
まずいな、サルタナの目に無機質な殺意が宿ったのを、分身越しに感じる。
このままだとステラが危ない。
「偉そうにしやがって。もういいや、お前ここで死ねよ」
「……え?」
拳を握り、素早く殴りかかるサルタナ。
ステラには到底見切れない動きだ。
「ステラちゃん!」
周囲の冒険者の誰かが叫んだ。
全く……何をくだらない事で揉めてるんだか。
さっきの騒ぎといい、どうやら俺は随分なトラブルメーカーとパーティを組むことになってしまったらしい。
パーティ申請しに来ただけでこれだ。先の事を考えると、本当に頭が痛くなる。
──だが、仕方ない。今回は助けてやるとするか。
俺は無詠唱で魔法を発動し、一瞬でサルタナとステラの間に移動した。
所謂、瞬間移動ってやつだ。
そして俺は、ステラに当たる寸前の拳を掌で受け止めた。
「テ、テッドさん!」
「全く。面倒ばかりかけるな、お前は」
俺は、後ろで涙目になっているステラにそう言った。