108 合言葉
「へ? ステラじゃないって誰がですか?」
「お前に決まってるだろ」
俺の問いに対し、マヌケ面を下げながらバカ回答を繰り出すステラ。しかし、こうして見ると、姿だけでなく話し方や仕草、ウザさやバカさ加減まで完全にステラそのものだな。あのクソみたいな女の特徴をここまで再現するとはな、正直称賛に値する。だが……
「どうしたんですかテッドさん……。いきなりそんな事言うなんて……。私はステラですよー! ほら! ステラスマイルー!☆」
心配そうな表情から弾けるような笑顔を見せてくるステラ。正直今のは、本物、偽物に関係無くぶちのめしてやりたい衝動に駆られたが、殴り始めたら止まらなそうなので、ここは抑えて話を進めることに。
「下らないやり取りを繰り返すつもりはない。お前が本物のステラであるというのならここで証明して見せろ」
「証明ってどうやって……あっ! 私はステラ。『バイオレットリーパー』の一員で、好きな食べ物は綿あめとアイスです! あとケーキも好きです!」
「ここに来る前。お前には合言葉を伝えた筈だ。それを一言一句違わず口にしろ」
ステラの白々しい演技を無視して、俺はそう言い放った。
◇◆◇
それは今日の午後。A級クエストを終え、ポカリ街へ戻って来たときのこと。俺以外の『バイオレットリーパー』の4人がそれぞれ別行動を開始する中、俺はステラを追いかけ、宿まで一緒に戻ることにした。
「あれ? テッドさんもおねむですか?」
「まぁそんなところだ」
適当に相槌を打ちながら歩くこと10分弱、借りておいた宿にステラと共に入る。
「はぁ~。私疲れちゃいましたよ! 眠りますね!」
「寝るときくらい静かにしろ」
「ふぁ~い……おやす……み」
直前の騒々しさが嘘のように秒で眠りにつくステラ。俺もゆっくりと目を閉じる。
数分後。
俺は再び目を開け、惰眠を貪っているステラに声をかける。
「起きろ」
「むにゃ……羊がマトン……子羊がラム……」
「起きろ」
「ごふっ!! ……テッドさん。毎回毎回起こす時に鳩尾殴るのやめてくださいよ……」
咳き込みつつも目を擦りながら体を起こすステラ。
……よし、問題なさそうだな。
「ステラ。今から俺が言うことをよく覚えておけ」
「は、はい分かりました。え、覚えるってどこからですか?」
「今後、俺たちの誰かに成り済まして接触を図ろうとする者が現れる。だから、今からお前に合言葉を伝える。今後もし怪しいと思う奴が現れたらこの合言葉を確認しろ。1文字でも間違えたら殺せ。いいな」
「そんな物騒な……。で、合言葉というのは……」
「VRST37564……だ」
「え、そういう感じですか!? なんかもっと『可愛い可愛いステラちゃん』みたいな感じかと思ってたんですけど……」
「ちゃんと覚えておけよ。他の連中には後で伝えておく。じゃあな」
俺は一足先に宿を出て、一人でギルドへと向かった。
◇◆◇
「あい……ことば……」
不安そうな表情を浮かべ、唇を小さく振るわせるステラ。
「どうした。言えないならここで殺すぞ」
「ま、待って下さいよぉっ! 今思い出しました! 今!」
あたふたしながら俺を制止するステラ。額に汗を滲ませながら、ステラはゆっくりと口を開いた。
「VST……3296……でした……よね? ……え? 違う?」
恐る恐る、自信なさげといった様子で合言葉を口にするステラ。
俺が伝えた合言葉はVRST37564。部分的に一致してはいるが、残念ながら完全な一致とはならなかった。
よって。目前の少女はステラの偽物。
処理を実行すべく、俺は黒い大剣を召喚した。
お読みいただきありがとうございました!
よろしければブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします!