107 誰
「よっしゃ! いくぜお前らぁ!」
「「おぉう!」」
大量のモンスターたちを前に、酒カス共が叫ぶ。そして……
「「乾杯ィーーーーーー!!」」
手に持った酒を一斉に飲み始めた。本当、何しに来たんだコイツら。俺は無能な酒カス共を無視して、黒い大剣を構える。
「ダンジョンの奥から強い反応がある。俺はそこへ向かう」
「はいはい了解。じゃあ私たちは雑魚の掃除でもしてるわね」
「勝手にしろ」
吐き捨てるようにそう言い、俺はダンジョンへと足を踏み入れる。そして、スキル『紫電』で電光石火が如し速度でモンスターの群れを通過した。モンスターたちは一瞬で俺を見失い、辺りをキョロキョロと見渡し始める。その直後……
「「グギャァアァァァッ!!」」
阿鼻叫喚と共に、100体以上のモンスターの体が真っ二つになっていく。切断されたモンスターたちの体から、大量の血が噴水のように吹き出した。
「ひ、ひぃ! いきなりグロイですぅ!」
後ろからそんなステラの声が聞こえてきたが、俺は無視して先に進むことにした。
◇◆◇
「なんだ今の……。移動も攻撃も、まるで見えなかったぞ」
一瞬でモンスターたちが100体以上斬り殺されるという異様な光景を前に、思わずそう呟くドンファン。
「まぁ私を倒した男だし、あれくらいは当然でしょ」
何故か少しドヤ顔でそう口にするジャスパーに少し疑問を抱きつつも、ドンファンは話を続ける。
「というかいいのか? テッドの奴、一人で勝手に行っちまったぞ」
「あー大丈夫よ。ウチのパーティは個人プレイ重視だから」
「そうなのか?」
周囲のスカーレット、リンリンに確認するドンファン。2人は黙って頷く。
「なんというか、自由なパーティなんだな」
「リーダーのアイツが一番好き勝手に動くからね。しかもウザいくらい強いし。なんでパーティやってんのか不思議なくらいだわ。あーそうだ。ねぇステラ。アンタ最初にテッドと仲間になったとき……」
バイオレットリーパーの初期メンバーであるステラに話を聞こうとするジャスパー。しかし、周囲にステラの姿はなかった。
「ほらね?」
「何がほらねだ! どいつもこいつも好き勝手いなくなって! 協調性がないにもほどがあるだろ!」
パーティメンバーでないにも関わらず、一番的を得た指摘をするドンファン。それを聞いたスカーレットは思わず苦笑いを浮かべる。
「ま、まぁ。このパーティはそれでいいんじゃないか。それよりも皆。まずは奴らをどうにかしないか?」
そう口にし、周囲のモンスター軍団を見渡すスカーレット。
「賛成! テッド君が随分倒したとはいっても、モンスターはまだまだ沢山いる訳だしね! 本当はそんな事思ってないけど!」
「なぁ。さっきから思ってたんだけどよ、その口癖なんなんだ?」
「あー気にしなくていいわよドンファン。特に意味とかないから」
「ひどいよジャスパーちゃん! 本当は傷ついてないけど! あ、そういえばいい事思いついたんだけどさ──」
「「グギャアオッ!!」」
中々戦いに来ない「バイオレットリーパー」に痺れを切らしたのか、モンスターの大群が一斉にジャスパーたちに襲い掛かってきた。
◇◆◇
「なんでお前がここにいる」
モンスター軍団をジャスパーたちに押し付け、ダンジョンの奥へと進んでいた俺だったが、何故かステラが俺を追いかけてやって来たのだった。
「モンスターたちから逃げ回っていたら道に迷っちゃいまして……。気が付いたら1人になっていたので、テッドさんの魔力を辿ってここまでやって来ました!」
「邪魔だ。帰れ」
「酷いです! こんなか弱い乙女をあのモンスターの群れにもう一度放り込むんですか!?」
「そう言ってる。それに、お前はか弱い乙女でもなんでもないだろ」
「えっ!? ま、まぁ。これでもテッドさんたちと一緒にたくさん戦ってますからね! 上級職にもなりましたし!」
俺の一言を急な誉め言葉と受け取ったのか、顔をほのかに赤くしながらそう口にするステラ。しかし、俺はそれを否定する。
「いや、そうじゃない」
「え? じゃあどういう意味ですか」
「お前ステラじゃないだろ。何者だ」
きょとんとするステラに向けて、俺ははっきりとそう告げた。
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