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104 清算


 俺たち「バイオレットリーパー」の当面の目標が「サルタナの確保」に決まり、随分と月日が経った頃。俺たちはギルドのA級クエストを受注し、とあるダンジョンに潜り込んでいた。


「ふぅ。粗方片付いたな」


 緋色の長髪をなびかせながら、スカーレットは疲弊した様子でそう口にした。


「疲れたか?」


「当たり前だ」


「お前の敵になるモンスターがそれほどいたとも思えないがな」


「そうかもしれないが、数が多すぎたかな……」


 珍しく弱った様子のスカーレットは、周囲にモンスターがいないことを確認し、地面に座った。


「……というか、本当にこれでサルタナが見つかるのだろうか」


 ふと疑問を口にするスカーレット。俺は答える。


「問題無い。前にスカーレットが話した通りなら、サルタナの目的はお前とリンリンに復讐することにある。なら、こうしてA級のクエストをクリアし続け、『バイオレットリーパー』として目立った活動を続けていれば、いずれは奴の耳に入り、向こうから勝手にやって来るだろうさ」


 居場所の分からないサルタナを探し回るなんて時間の無駄でしかない。奴を探すのであれば、拠点はポカリ街から動かさない方がいい。


「まぁ……。取り敢えずお前を信じるよ。テッド」


「そうしてもらえると楽で助かる」


「しかし……」


 スカーレットの視線が、俺からジャスパーの方へと向く。


「まさか……ジャスパーが魔族だったとはな。しかも、元七幻魔だなんて……」


「何回言うの? それ」


 呆れたように笑うジャスパー。

 少し前に、スカーレットとリンリンには、これまで隠していたジャスパーの正体について掻い摘んで説明させてもらった。だが、魔族……まして元七幻魔がパーティのメンバーであるという事実を、スカーレットは未だに常識として受け入れられていないらしく、こうして度々驚きを口にしている。そして、その度にジャスパーがその事を指摘する……という、やり取りを繰り返していた。何度も見聞きしたやり取りなので適当に流していると、ふと、ジャスパーの魔族としてのステータス画面が目に入った。



----------------------------------------


名称:ジャスパー

ランク:S+

属性:炎、闇


----------------------------------------



「ジャスパー。お前、前よりランクが上がってないか?」


 以前、コイツのランクはたしかSだった筈。


「アンタ。今更気が付いたの?」


 先ほどよりも呆れた様子で、ジャスパーがそう口にする。


「魔族もランクが上がるのか」


「アンタって……結構知らないこと多いよね」


「そうだな。で?」


「あーはいはい。私たち魔族は人間やモンスター、そして同じ魔族を倒して魔力を吸収する事で成長する。んで、そんな事を繰り返してると稀にランクが上がんのよ。まぁ、人間のレベルと違って細かく数字に表れたりはしないから、ホント稀にだけど。上の方のランクだと尚更ね」


「いつ上がった」


「魔王城に行って七幻魔の一人と戦った時ね。あの時の七幻魔は、魔王からさらに追加で魔力を貰ってたから、きっと倒した時にとんでもない量の魔力を放出したんでしょうね」


「そうか。よかったな」


「あぁ、あの時の! 私とジャスパーさんで協力して七幻魔を倒して、私のレベルが100に達した時の話ですよね!」


 適当に会話を終わらせると、横からステラがぴょこぴょこと首を突っ込んできた。しかも、馴れ馴れしく俺の背中に乗ってきた。鬱陶しいな。


「消えろ砂利が」


「辛辣ですね~。あの時も私の職業を勝手に転職させたし! 忘れたとは言わせませんからね!」


「死ね」


「そこはせめて忘れたって言って下さいよぉ!」


 涙目になって俺の口を塞ぎ始めるステラ。俺は腕を後ろに回し、背中についたひっつき虫を引き剝がし、そのまま地面に叩きつけた。


「ごぱぁっ!?」


「心なしか前よりも頑丈になったな。上級職に転職した事でパラメータの平均値が上がった影響だな。俺に感謝しろ」


 地面に倒れているステラを見下し、吐き捨てるようにそう口にすると、モンスターの後始末を終えたリンリンが小走りでやって来た。


「はぁ~やっと終わったよ~。本当は思ってないけど正直めんどくさかったぁ~」


「そうか。それよりどうだ。上級職に転職した感想は」


「そうだね。パラメータの平均値は上がったし、獲得できるスキルも強力なものばかりだし、上級職さまさまって感じかも! まぁレベルを1から上げるのはちょっとめんどくさいけどね。本当はそんなこと思ってないけど」


 クエストをこなしていく過程で、リンリンは上級職である「バトルマスター」へと転職した。正直、スカーレットのついでに引き入れたコイツにそれほど期待はしていなかったのだが、リンリンの成長速度は俺の想像以上であり、今では少し前に転職した筈のステラとほぼ同じレベルにまで達している。まぁ、ステラと違って前線で戦い続けるリンリンの方が経験値を多く貰えるので、当然といえば当然の結果なのかもしれないが、それを考慮しても目覚ましい成長ぶりと言えるだろう。


「というか、やっぱりテッド君の強さって尋常じゃないよね。とても通常職の強さとは思えないよ」


「確かにな。いくらレベル100を少し超えているとはいえ、通常職を継続させている者がここまで強くなれるものなのか……。私たちが歯が立たなかったあのガイアを倒したっていうし……。というか、倒した奴のスキルをコピーするスキルなんて出鱈目すぎるし……本当に何者なんだお前は……」


 俺の力に疑問を持ち始めたリンリンとスカーレット。それもそのはず。実はこの2人には俺の真のステータスは明かしておらず、「擬態」でレベル100弱の勇者のステータスであるように見せている。元々は「レッドホーク」との面倒な揉め事を避ける為に、こんな手間をかけてまで自分の正体を隠してきた訳だが、「レッドホーク」が解散した今となっては、その必要性も無くなったな。俺は自分のステータスにかけた「擬態」を解除する。


「スカーレット、リンリン。お前たちに俺の本当のステータスを見せてやる」


「え、ちょっとテッドさん! なんで急に!?」


 地面から起き上がり声を上げるステラ。ジャスパーの方は事情は知っているものの、さして興味が無いのか、ただ静観していた。


「職業不明……ステータス不明……。レベルは違うけど、前に見たサルタナさんと同じ……」


 俺の真のステータスを見て、驚愕するリンリン。


「そうか。やっぱり、お前だったんだな……。テッド」


 以前から俺の正体を怪しんでいたスカーレットは、驚くというよりもむしろ納得がいった様子。また、スカーレットの発言を聞いたリンリンも、遅れて俺の正体に気が付く。


「え……。テッド君ってまさか……サルタナさんに『レッドホーク』を追放されたっていう、あの……」


 俺と入れ替わりで「レッドホーク」に加入したリンリンは、ばつが悪そうな表情を浮かべる。それと同時に、スカーレットの表情が罪悪感一色に染まっていく。


「別に謝罪を求めている訳じゃない」


 下らない謝罪を口にしそうな雰囲気だったので先に封じておく。そんなものは心底どうでもいい。


「俺が今、自分の本当のステータスを明かした理由。それは、お前たちの不安要素を取り除く為だ。お前たちが抱いていた俺の正体に関する疑念……それを払拭したかっただけだ。それ以上でも以下でもない」


「だが、私は……」


「それ以上は口にするな。今後、役に立てばそれでいい」


 俺がそう口にすると、スカーレットは目に涙を浮かべていた。自分勝手なサルタナや、目的の為なら手段を選ばないノアと違って、コイツは生真面目だからな。あの日の事を多少悔いているのだろうか。だとしたら、そんな必要は全く無いな。俺は「レッドホーク」を追放された事をなんとも思っていない。当然だ。そもそも俺は「レッドホーク」に加入したときから、お前たちを仲間だと思ったことは一度もないのだから。


「……ありがとうテッド。だがその、聞きたい事が色々と……」


「それは今度話す。取り敢えずポカリ街に戻るぞ」


 俺は瞬間移動を発動させ、その場の全員を一瞬でポカリ街付近へと飛ばした。


「はぁ疲れましたね! スカーレットさん! 本当に気にしなくて大丈夫ですよ! テッドさんにはそもそも何かを気にするような心が無いんですから! 大体カミングアウトが急すぎるんですよ! なんですかあのタイミング! 意味不明です!」


「そーそー。アイツ戦う事と強くなる事以外何も考えてないからさー。そんなん忘れて仲良くやりましょうよ」


「そ、そうか……。なんというか、凄い雑な扱いだな……」


「パーティのリーダーがここまで蔑ろにされてるの初めて見たかも。本当はそんなこと思ってないけど」


 帰って早々秒で繰り広げられる失礼な会話を余所に、俺はポカリ街へと足を踏み入れる。


「……?」


 その時、俺は不気味な違和感を覚えた。

 まるで、ポカリ街に何か異物が混じっているかのような、そんな違和感だった。



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