01 パーティ追放
今回からスタートです。よろしくお願いします!
「テッド、お前をこのパーティから追放する」
とあるダンジョンの最下層にて。
期待の若手パーティ『レッドホーク』のリーダー、サルタナが吐き捨てるようにそう言った。
「……え?」
一瞬、硬直してしまうが、徐々にサルタナの言葉の意味を理解するテッド。
だが、その言葉をすぐに受け入れることはできなかった。
「な、なんで僕が? これまでちゃんとパーティに貢献してきたじゃないか!」
「確かに、お前はレッドホークに貢献してきた。それは間違いない」
予想に反して、テッドの功績を素直に認めるサルタナ。
その後ろにいるスカーレット、ノアもその点に異論はない様子。
「お前は、俺たちのパーティで魔法による遠距離攻撃を担うだけでなく、支援魔法を使って回復や強化、モンスターの弱体化を行って見せた。文句無しの活躍だ」
「じゃあなんで……」
「テッド。お前は何故、魔法を無詠唱で発動できるんだ?」
「え、それは……」
「俺が知る限り、魔法を無詠唱で使える者など聞いたことが無い」
言葉に詰まるテッド。
そんなテッドを余所に、今度は黒髪の少女、ノアが言葉を発した。
「怪しいから貴方の力をもう一度鑑定してみたの。表面上、アンタのレベルは14だった。けれど、これはダミー情報。貴方の本当のレベルは0だった」
「いよいよ怪しいな。どんな職業でもレベルの初期値は1だ。レベル0なんて聞いたことが無い」
「それだけじゃない。貴方の職業とステータスは、何度鑑定しても表示されなかった。レベル0で職業、ステータスは不明……でも貴方は魔法を満遍なく使える上、しかも無詠唱で発動してみせた」
「という訳だ、テッド。お前は戦力としては十二分だが、こんな得体の知れない奴をパーティに置いておく訳にはいかない。今後、どんな悪影響を及ぼすか分かったものじゃないからな」
再び、吐き捨てるように言い放つサルタナ。
その目に光は宿っていない。
「……分かったよ。皆を騙すような真似をして、本当にごめん。僕はパーティを抜けるよ」
踵を返すテッド。
だが、そんなテッドにサルタナが再び声を掛ける。
「待てテッド、お前にチャンスをやろう」
「チャンス?」
「あぁ、ついてこい」
勝手な理由でパーティを追放しておいて尚、不遜な態度を崩す事のないサルタナ。
ダンジョン内を黙って歩き続ける事、10分弱。
岩と岩の狭間の、モンスターの影も無い小さな隙間の中に入っていくパーティ一同。
しばらく歩くと、そこには真っ黒な扉があった。
「これは?」
「恐らくダンジョンの隠し部屋だ。ノアが見つけてくれたんだが、どうにも扉を開けるのに難儀していてな」
「私たちでいくらダンジョン内を探索しても、鍵のようなものは見つからないし、力任せにこじ開けようともビクともしない。貴方には、この隠し部屋を開けてもらいたいの」
緋色の長髪が特徴のスカーレットがそう言った。
続いてサルタナが口を開く。
「テッド。お前にこの正体不明の黒い扉を開けてもらいたい。もし、1時間以内にこの扉を開けることができたら、その時はお前を再びパーティに歓迎しよう」
「本当かい?」
「あぁ」
薄く微笑むサルタナだったが、その笑みに感情は含まれていない。
「……分かったよ」
テッドはゆっくりと黒い扉に向かって歩き出す。
「この扉……どこかで」
恐る恐る黒い扉に触れようと、手を伸ばすテッド。
だが、伸ばした手は扉に触れることなく、そのまま黒い扉をすり抜けた。
「なっ!?」
声を上げたのはテッド……ではなくサルタナだった。
テッドの腕が、黒い扉に吸い寄せられるようにどんどん沈んでいく。
奇妙な光景に一切動揺することなく、テッドはそのままゆっくりと歩を進め、黒い扉の奥へと消えていった。
「本当に……何者なんだ、あの男は」
驚きと嫌悪感を含めた表情で、サルタナはそう呟いた。