撮影現場 ~最後まで見ると死ぬ映画~
「きゃぁあっ!」
悲鳴が響く。
「あの映画を見て一週間後に死ぬなんて……、そんなの本当だって思う訳……っ!?」
頭に過ぎった経緯を、後悔と共に口にしたのが、頼子の最期の言葉となった。
「……」
憐れな頼子を一瞬で絞め殺した黒髪の死霊は、そんなことをしたとは信じられないような細腕を這わせ、よろりと立ち上がる。目元どころか顔の半分以上が見えない程に前髪の長いその女は、そのまま“こちら”へ視線をむけ――
「はい! カットぉ!!」
小気味いい拍子木の音に重ねて、監督の威勢いい声がスタジオに轟く。
「どうでした?」
「すごく良かったよぉ、私も思わずぞくぞくしちゃった」
むくりと起き上がって自分の死に様の感想を聞いた頼子に、前髪をかき分けながら死霊が朗らかに答える。――ここは映画「死ネマ」の撮影現場。
「監督はどうでした?」
頼子役の女優が次いで感想を尋ねると、監督は拍子木を見ていた。
「お祓い用……でしたっけ? それ」
「ああ、知り合いの神主に借りたものなんだが……ほら」
監督の手元では、綺麗な白木の拍子木にヒビがはいっていた。
「なんか不気味ですねぇ」
歩み寄ってきた死霊役の女優も、自分の体を抱くようにする。
「どうした?」
ふと頼子役女優の顔色が悪くなったことに、監督は気付いた。
「いえ……この映画の撮影も、最後のシーンまで終わったな……って」
最後まで見ると死ぬ映画という題材が、今更の不気味さを醸し出す。
「……スタッフさん達は?」
「ああ、今君たちに渡す花束を取りにね」
続いた呟きに監督が答え、揃って広いスタジオの出入り口へと視線を向ける。だが時間が経っても誰も現れず不安から言葉も続かない。
「あがっ!?」
沈黙を破ったのは監督の苦鳴。
「ひぃっ!」
頼子役女優の戦慄が続き。
「――ぃゃぁぁああ!」
死霊を演じた女が何かに気付いて上げた悲鳴を最後に、場は完全に静かになった。
後に残るは三つの体。伏して動かず、もはや生気も見当たらない。
「――」
完全に沈黙したと思われた場に、微かな擦過音。
それはぎこちなく動いた指先が床を擦る音だった。
そして何かに引き上げられるような不自然な動作で、かつて死霊役女優だったモノが立ち上がる。
それは確かに“こちら”を凝視する。前髪に覆われているはずの両目が、はっきりと感じられる。そして――
――最後まで読んだわね。……あなたのことも、見えているから。ほら、本当は薄々と、背中に感じているでしょう? もうそこに――




