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第10話 わずかばかりの自由

 一週間後。


 私は首からぶら下げた鍵を使い、部屋の扉を開けた。


「ごきげんよう、シスタージナ」

「ごきげんよう、シスターばぶちゃん」


 私たちはイタズラな笑みを浮かべる。


 これは皮肉を込めたシスターごっこだ。

 私にも修道服が与えられてから、この遊びをするようになった。


 子供用の修道服などなかったのだが、司教がわざわざ用意させたのだ。

 あの変態は相当私を気に入っているようである。ああ、気持ち悪い。


「ジナ、今日も大盛りにしておきましたよ」


 食事を配るのは私の役目。いくらでも融通は利く。


「わあ、嬉しい!ありがとね!」


 ジナが食事を終えるまで、私たちは軽く雑談をした。

 といっても、ここは閉じられた世界。話題はだいたいいつも一緒。

 ドジな客のやらかし話や、僧兵同士のいざこざ話などだ。



「ではジナ、また夕食の時に」

「もういっちゃうの? 寂しいよ、ばぶちゃん」


 それは私も同じ気持ちだが、この仕事に就くことは脱走に必要不可欠。自由のために耐えるしかない。


「ごめんなさいジナ」

「いいのいいの気にしないで。お仕事頑張ってね。出世に期待してるよ。うふ」


「ではごきげんよう、シスタージナ」

「ごきげんよう、シスターばぶちゃん」


 軽く一笑いしてからジナの部屋を出て、別の女の部屋に食事を届ける。


「ミレヤさん、食事を持ってきましたよ」

「ありがとうマルチェラ」


 ミレヤの食事は並盛。大盛りのサービスはおこなっていない。

 これは他の女たちも一緒だ。私が大盛りにしているのはジナだけである。


 彼女たちが私に意地悪するからか? いや、そんなことはない。

 性悪なダフネと違い、私は無力な幼児。彼女たちにとって相当安心できる存在らしく、むしろ好かれていると言って良い。

 まだお互い顔を知ったばかりの間柄だが、私に客の愚痴をこぼす女もいるくらいだ。それくらいには信用されている。


 ではなぜ大盛りにしないのか?

 理由は単純で、彼女たちをそこまで信頼していないからだ。

 つまらない褒美目当てに、司教に告げ口されるかもしれない。


 千年以上の時を生きてきた私だが、慈悲に対する返しが裏切りだった経験は何十回とある。また同じ過ちを繰り返すほど愚かではない。



「ではミレヤさん、また夕食の時に」

「じゃあねマルチェラ」


 この調子で、私は計8人分の配膳をおこなう。

 それだけでもなかなか大変だが、今度は彼女たちの修道服とベッドのシーツを洗濯しなくてはいけない。

 さらに、わざわざ言わなくても想像つくと思うが、彼女たちの衣類や寝具は“非常に”汚れる。


「うえっ、手で触ってしまった……! 殺すぞちくしょう! はぁ……こんな仕事ばかりしていては、性悪ババアになるのも致し方なしですね……」



 ようやく洗濯を終えた私だが、まだ自由時間は来ない。

 今度は箒を持ち、聖堂及び敷地内の掃除である。


 だがこの仕事は悪くない。

 僧兵や他の職員の動きを観察できるからだ。


 しっかりと自分の目で確かめられるようになったのは大きい。

 探知や兎の耳だけよりも、得られる情報量は圧倒的だ。



「城門前の僧兵2人は4クール交代、聖堂の荷物検査係2名は3クール交代で確定ですね」


 屋外にいる方がしんどいからだろう。城門前の方が勤務時間は短い。

 そして――。


「デブの奴と、体臭のきつい奴が狙い目でしょうか。この2人は交代時間によく遅れて来ますが、他人が遅れることは許さないクズです。時間が来たら休憩室に行ってしまいます」


 早くも警備の穴を見つけている。実に幸先が良い。



 聖堂内の清掃を終えたので、荷物検査担当の僧兵に声をかけてから外へ出る。

 許可なしで出ると脱走と見なされるので注意しなくてはいけない。


「あれは……?」


 門が開き、一台の荷馬車が敷地内に入って来た。


 また新しい奴隷が連れて来られたのだろうか?


 そう思ったのだが、どうやら違うようだ。

 荷馬車はわき道を進み、聖堂の裏口の方へと回った。


 私は隠密スキルを使い、馬車の見える位置に潜む。



「どうもー! 野菜のお届けに参りましたー!」


 配達人が、大きい蓋つきの木箱を次々と地面に降ろしていく。

 あれにイモがパンパンに入っているのだとしたら、相当重いだろうな。


「かー、来やがったか、ちくしょう!」


 調理人のオヤジが悪態をつきながら、倉庫に木箱を運んでいく。

 やはり相当重いらしい。


 それが終わると、今度は倉庫から荷馬車へと木箱を移し始めた。


 あれは空になった箱だろうか?

 なるほど、箱は再利用するために回収するのか……。



 その時、私の脳に稲妻が走る。


 この荷馬車……使えるぞ。


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