第69話 破滅の魔女との決着
「ニル君、今のは何周目の話なのでしょうか?」
俺は99周目と言おうとしたのだが、声が出ない。
「――ああ、やっぱり言えないのですね?」
「ああ、その通りだ」
会食の間にいる全員が、唖然としている。
当然の反応だろう。目の前に人智を越えた存在が2人もいるのだから。
「では、今周の話をしましょうか?」
「いや、もういい。お前の考えている事はよく分かった」
セレナーデは満足気にうなずいた。
「皆さん、聞いた通りです。あなた達は何度も死と破滅を迎えているのですよ」
誰も口を開けない中、デスグラシアがようやく言葉を発した。
「――ニル、本当なノ……?」
「ああ。事実だ」
全員がゴクリと唾を飲み込む。
そして1人が怒声を響き渡らせた。
「この大馬鹿者があああああ!!」
「ぶべしっ!」
トバイアス国王が、フォンゼルの顔面をぶん殴る。
「破滅の魔女の陰謀に加担するとは、そこまでお前は愚かだったのかああああ!!」
「うぐっ! うごっ! ぐげっ!」
トバイアス国王は、倒れたフォンゼルに何度も蹴りを入れる。
バルトとステイフが急いで国王を止めた。
「フォンゼル! お前は追放だ! そこの3人の勇者! お前達もだ!」
「そ、そんなああああ!」
「ニル……もしかシテ、前の周デ私に辛い思いをさせナイ為に、自害したノ?」
俺はうなずく。
「ニル、ありがトウ……愛チテル」
俺はデスグラシアと抱き合った。
「ニル君、言ったはずですよ? 浮気は駄目ですよと……」
セレナーデは鬼の形相で俺達を睨み、そして手枷を破壊した。
「うふっ、嫉妬の力で壊せちゃいました。頑張ればできるもんですね」
「陛下たちを守れ!」
セラフィンの号令で、全員が臨戦態勢に入った。
それを見ても、セレナーデは余裕の笑みを浮かべている。
「隠蔽を解きました。私の能力値を見てみてください」
俺は鑑定を使う。
クラス:オールラウンダー
体力 :255
持久力:255
筋力 :255
技量 :255
魔力 :255
……化け物だ。こんな奴に勝てる訳がない。
今回俺は成長力上昇の恩恵を受けているが、それでも130台といったところだ。
デスグラシアも顔が青ざめている。
「こうなってしまった以上、人間と魔族を争わせるのは不可能でしょう。ニル君がいますからね」
その通りだ。
黒幕が彼女だと分かった今、国王暗殺事件は簡単に防げるようになった。
ここで俺が死んでも、101周目開始してすぐに、手を打つ事ができる。
「ですので、私と取引をしましょう。――ニル君、私と悠久の時を生きて下さい。そうすれば、私は破滅の魔女をやめ、普通の女となりましょう」
つまり、寿命が来る前に自害し、何度も彼女と同じ時を生きるという事か……。
大往生も出来ない……デスグラシアと一緒になる事もできない……だが、世界が平和になるのなら……。
「ニル! ダメ!」
デスグラシアの声に、俺は我に返る。
「そうだな。彼女の言う事など信用できない。――戦うしかない!」
「皆の者! 世界の平和の為に戦うぞ!」
「おおおおおおお!!!!」
国王の鼓舞により、全員が一斉に攻撃する。
セレナーデはため息をつくと、全ての攻撃を華麗に避けた。
そして川の流れのように自然な動きで、次々とノックアウトしていく。
「清流拳か……」
「はい、私が編み出した技なんですよ?」
そうだったのか……。
立っているのは俺とデスグラシアだけ。
『ニル。私が何とかして、あいつの動きを止める』
俺はうなずくと、クーデリカのカタナを拾い、柄に手をかけた。
「紫電流ですね。その技は私でも使えません。どんなものか楽しみです」
セレナーデはフォンゼルの長剣を拾い、構える。
「おうおうおうおう! いぇい、いぇい、いぇい、いぇい!」
セレナーデとデスグラシアが、ポカンと俺を見る。
いや、セレナーデ、お前は分かるだろう! 応援歌だよ、応援歌!
「あ、ああ……歌ですね……ニル君が歌ったところを見るのは、初めてだったので……」
再び緊張した空気が張り詰める。
『ふんっ!』
デスグラシアのフルスイングを、セレナーデは長剣で鮮やかに受け流す。
そして、その勢いで彼女の両腕を斬り落とした。
『<闇手>』
デスグラシアの切断された腕から、漆黒の腕が出現する。
この腕は、触れた相手の体力を吸収する力を持つ。
デスグラシアはダークハンドでセレナーデをがしりとつかんだ。
『今だ! ニル!』
俺は神速の居合切り、紫電流秘技<一閃>を放とうと、カタナを抜き始める。
セレナーデは笑いながら、255の筋力で強引にデスグラシアを盾にした。
このまま斬れば、デスグラシアを殺してしまう。手を止めなくては!
――いや、斬る! 己の力を信じろ、ニル!
俺は神速の居合切りで2人を斬った。
ズル……ドサッ。
セレナーデの上半身が崩れ落ちた。
『え……? え……?』
デスグラシアは困惑しながら、自分のお腹を触る。
紫電流秘技<影抜き>
技量255を超えた者だけが扱える、最強の抜刀術。
神の領域に達した、その剣技は斬る者と斬らぬ者を選択する事ができる。
(鑑定)
俺は自分の能力値を見る。
体力 :199
持久力:225
筋力 :201
技量 :313
魔力 :212
俺の歌の効果、龍の血による限界突破、ドラゴンスレイヤーの不敵の効果、そして邪神討伐の破邪の力が重ね合わさり、とんでもない能力値となっている。
これによって、俺はセレナーデ……いや、破滅の魔女に勝利する事ができたのだ。
「見ろ……赤子になっている……」
俺は赤子になったセレナーデを抱きかかえる。
彼女は、じっと俺を見た。
『――ニル、その女はどうする?』
『彼女の不死の力を解くまでは、魔力を封じて幽閉するしかないな……』
そんな事が可能なのだろうか?
だが、世界は広い。きっと手段はあるだろう。
いよいよ、次で最終話です。
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