第36話 そして100周目
「――ニル・アドミラリ、今日限りで、お前をこの勇者パーティーから追放する!」
これで100回目の追放だ。
今まで自殺をした事は、何度かある。
死ぬまでに、耐え難い苦痛がある場合などだ。
「今回もまあ、そんな感じか……」
「何をブツブツ言ってるんだ! さあ、僕に『パーティーにいさせてください』と懇願するがいい! はははは!」
本当は地下牢から脱出し、真犯人の調査をするつもりだった。
しかし、彼女が兵士達を殺す姿だけは、絶対に見たくなかったので、自殺を選んだ。
後悔はしていない。死を選んで正解だったと思っている。
あれ以上、彼女を悲しませる訳にはいかない。
「おい! ニル! 僕の話を聞いてるのか!?」
「――ん? ああ、追放だよな? じゃあまたな。対校試合で会おう」
俺はルーチェに軽く挨拶すると、バックパックを空気の膜で保護する。
「お、おい! 随分あっさりだな!」
「ニル君、悔しくないのぉ?」
「ていうか対校試合って何よ?」
「気にしないでくれ。じゃっ!」
俺はバックパックを背負い、湖へと向かう。
「ま、待て! 実は昨晩アーテルと――」
「構わん。そんな女はどうでもいい。俺には、他に守るべき女がいる」
「何それぇ!? ニル君、二股かけてたのぉ!?」
「とんでもないクソ野郎ね!」
俺はルーチェ達の言葉を無視し、ザブザブと湖の中へと入って行く。
「お、おい!? お前、何してんだ!?」
「あははは! もしかして入水自殺ぅ!? やっぱり悔しかったんだぁ!?」
「強がっちゃって! だっさー!」
こんな馬鹿どもに構っている暇は無い。
――と思ったが、何故ここまで嫌われているのかが気になった。
もしかしたら、俺が何か悪い事をしたんじゃないのか? そう、思えてきたのだ。
「……なあ。俺って、何かお前達にしたんだっけ?」
「貴様あああああ!! まさか忘れたとか、抜かすのかああああああ!!」
ルーチェがとんでもないブチギレ方をした。
アーテルと女魔導士も、鬼の形相で俺を睨みつけている。
これはマジで何かやらかしてるっぽいぞ……。
「俺達がカジノで所持金全額すったのに、1ゴールドも貸さなかっただろうがあああああ!!」
「私達、装備を売る羽目になったんだからねぇぇぇ!!」
「アンタの金は、私達の金でしょうがああああ!!」
「良かった、安心したわ。<発光><呼吸>」
俺はギャアギャア騒ぐ馬鹿どもを無視して、湖の中へと潜っていく。
守護者を<死与>で倒し、湖底の神殿で早熟の指輪を手に入れると、北の岸から上がった。
<強風>で服を乾かし、山小屋へと進んで行く。
「――すみません! 山賊に襲われて父がケガをしたんです! 助けてもらえないでしょうか!?」
1人の少女が山小屋の方から走って来た。
「なあ……何で君は山賊なんてやってるんだ? そんな事はやめて、真っ当に生きないか?」
「ちくしょう! なんでバレた!? おやぶうううん!」
山賊の女は大声で助けを呼びながら、山小屋へと駆けて行く。
「なんだあ!?」
山賊の親分と、手下2人が小屋から飛び出してきた。
「親分! あいつ、私達の正体知ってましたよ!」
「何だと!? 野郎ども、あいつを殺せ!!」
「へい!」
山賊達は俺を囲む。
「山賊なんて続けていても、いつか必ず殺される。普通に働いた方がいいぞ」
「がはははは! 馬鹿な奴だ! 俺達は殺して奪い取るのが好きで好きでたまんねえから、山賊やってんのよ!」
「――だよな。<死与><死与><死与><死与>」
バタバタバタバタッ。山賊全滅。
「悪人は何周しても悪人なんだよな。まあ、当たり前か」
という事は、デスグラシアは今までずっと善人だった事になる。
それが人間を滅ぼそうとするまでに、憎しみにとりつかれるのだ。
「99周目では、すぐに牢を脱出できていたが、それ以前の周では、1か月以上投獄されていたと聞いている。相当酷い目に遭わされたんだろうな……」
前の周で、彼女が簡単に手枷を外せたのは、王国で用意された手枷ではなく、孤島の地下で見つけた手枷を嵌められていたからだろう。
「何故あそこにあったのかは謎だが、リリーがあれを持ち帰ってくれていて助かった」
もし、通常の手枷が嵌められていたとしたら彼女は……いや、想像したくもない。
俺は燕の盾と鉄の斧3つを入手し、いつものキャンプ地点へと走り始めた。
俺はスープを食べながら、情報を整理していく。
会食の日は、色々な事が起こり過ぎて、話がよく分からなくなっているのだ。
「まず魔王とデスグラシアは、人間を滅ぼそうなどとは、まったく考えていない。むしろ良い関係を築こうとしている」
この事が、はっきりと分かったのは大きい。
前の周の前半は、デスグラシアを敵と想定していたので、距離を置いていたが、今回は全力で彼女に味方できる。
「リリー、クーデリカ、デスグラシアの3名は、フォンゼルの妃に選ばれる為に入学している。だが、王族としての責務を果たそうという義務感と、本音との間に葛藤があるようだ」
リリーは男と結婚などしたくないだろうし、クーデリカは自由を欲している。
デスグラシアは、俺と一緒にいたかったのだろう。――まあ99周目に限っての話だが。
「トバイアス国王を始め、全員やり方が強引すぎるんだよな。もう少し本人たちの意思を尊重させてやるべきだと思うんだが……」
俺がリリー達の立場だったら、卒業試験は絶対ビリを狙う。
彼女達も本当はそうしたいのだろうが、国の為に己を捧げたのだろう。王族というのは大変である。本当平民で良かった。
「黒幕は……やはり宰相か?」
即死耐性を完全にしない事を、国王達に進言したのは奴だし、暗殺直後に真っ先に魔王達を犯人と決めつけたのも奴だ。あの男が黒幕としか、考えられない。
フォンゼルを傀儡の王とすることで、実質的な最高権力者となり、さらに他国の王と、その優秀な後継ぎを始末する事で、完全な一強体勢を築くつもりなのだろう。
「早々に暗殺するべきか……いや、無理だな……」
隠密LV9でも、王宮内の警護をくぐり抜ける事は不可能である。
あそこには、手練れの護衛がウヨウヨいるのだ。
それに、他国の手による暗殺と判断された場合、戦争の火種となってしまう恐れがある。
奴が黒である証拠をつかむまでは、下手に手を出さない方が良いだろう。
「国王達の殺害を実行したのも奴なのだろうか?」
あの会場内にいた者達は、全員鑑定済みである。
<死与>が使えたのは、魔王とデスグラシアだけだった。
しかし、隠蔽スキルがLV9ならば、俺の鑑定でも真の力は見抜く事ができない。その可能性は十分ある。
「あとは、あの化け物だな……あいつは一体なんなんだ?」
2体出現した事で、あれが破滅の魔女なんかではない事は分かる。
しかも、あいつはフォンゼルの命令に従っているようだった。
「ベテラン勇者と地方学院勇者がいなくなっていた。恐らく化け物に変化させられたんだろう。そういう薬でもあるのだろうか?」
もし人為的に、あのような化け物を作り出せるのであれば、アトラギア王国に勝てる国は存在しないだろう。魔王ですら一撃で葬られたのだから。
「だが、アトラギア王国が、あっさりとデスグラシアに滅ぼされた事を考えれば、そんな技術は持っていないと判断すべきだな」
あの化け物については、もっと調査が必要だ。
そのチャンスは、11月のピクニックまでお預けである。
「とりあえずは、こんなところか。まずは入学しないとな」
俺は、今回の勇者学院入学ルートの変更点を頭に浮かべながら、寝袋に包まった。




