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第35話 終局

 魔力を封じる力を持った、鎖付きの手枷と足枷を嵌められ、汚い囚人服を着せられている。

 そんな姿の俺に、牢越しにフォンゼルが笑いながら語り掛けてきた。


「礼を言おう。お前達が父上を殺してくれたおかげで、見事私が王位を継承する事ができた」

「お前が陛下達の暗殺を計画したのか?」


「……え? いや、違うが? ――い、いや、そうだ! そう! 全て私が仕組んだ事なのだ! ふははは! どうだ、見事だろう!?」


 やはり違ったか。

 なにせ、攻城戦で全軍突撃しかできないような男だ。こんな手の込んだ事ができるはずがない。


 とすると、黒幕は宰相だろうな。

 この馬鹿が国王になっても、まともに政治ができるはずがない。

 実権を握るのは、あの宰相になる。つまり実質的な最高権力者になる訳だ。



「セレナーデはどうした?」

「彼女は無事だ。安心したまえ。だが、お前と親しい間柄であった以上、自由にはさせておけない。我が城で軟禁生活を送ってもらう」


 嘘をついているようには見えない。彼女が無事で良かった。


「リリーは、正気に戻ったのか?」

「残念ながら、完全に発狂した。もうあの女に未練はない。本国に送り届ける事にする」


 俺と親しくしてくれた人達は全員破滅か……。


「……デスグラシアは?」

「魔王太子は今頃、囚人達に凌辱されている事だろう。連中ときたら、男でも女でもどちらでも良いようで、大喜びだったそうだぞ」


 フォンゼルは醜悪な笑みを浮かべる。


「そうか……俺の拷問はさっさと始めなくていいのか?」

「うむ、では始めよう。じっくり見学させてもらうぞ。――やれ!」

「へいっ!」


 拷問官が牢の扉を開け、兵士2人と共に入って来る。


「お供の兵士が少ないんじゃないか? 手枷・足枷がしてあれば大丈夫だと思ったか?」


 俺は拷問官の顔面を手枷で殴りつけ、兵士の1人に体当たりを食らわす。


「な、何をしている!? さっさと始末するのだ!」

「はっ! うおおおお!」


 兵士の斬撃を手枷の鎖で受ける。

 そして、鎖を剣に巻き付け、兵士から奪った。


「せいっ!」

「うごっ……!」


 兵士の顎を手枷で打ち付け、ダウンさせる。


「くそっ! 誰か! 誰かおらぬか!」


 フォンゼルは兵士を呼びながら、逃げ去っていく。


 俺は拷問官と兵士に追撃を食らわし、2人をノックアウトする。

 そしてカギを奪い、手枷と足枷を外した。


「デスグラシア! 今、助けに行くぞ!」


 俺は兵士の剣を拾い、牢を飛び出す。

 デスグラシアは一体どこにいるのだろうか?


 俺は地下牢の奥へと駆けて行く。



「ぎゃああああ!」

「助けてくれええええ!」

「た、頼む! 許してくれ! う、うわあああ!」


「こっちだ!」


 俺は悲鳴のする方へと、急いで向かう。


「ひ、ひいいいいいい!」


 2名の兵士が、こちらに逃げてきたので気絶させ、牢の鍵を奪う。



『殿下!』

『ニル……無事だったか……良かった……』


 大部屋の牢の中には、囚人達の惨たらしい死体と、ゴリマッチョ化してしまったデスグラシアの姿があった。


『殿下……覚醒したのですね……』

『うむ……お前を守る為に仕方なかった……』


 デスグラシアの足元には壊れた手枷がある。力づくで破壊したようだ。


 そうか……俺を助け出す為に男になったのか。本当は女になりたかったのに……。



『今、牢を開けます』


 俺はカギを使って牢の扉を開けた。

 ムキムキになったデスグラシアが、のっしのっしと牢から出てくる。


 変わり過ぎだろ……身長もこんなに伸びるのかよ。


『ニル……私は男となった事で、かけがえのないものを失ってしまった。お前への恋慕の情だ』

『殿下……』



『……今だから言えるが、お前と共に虹色の魔石を探しに行きたかった』


 そうだったのか……俺の部屋を訪ねたのは、迷宮の場所を知りたかっただけではなかったのか。


『水色の髪の女にお前を取られた時は、本当に落ち込んだ』


 邪神祭の時か。確かにあの時、がっかりしていたな。


『お前に私のハミナーヤを食べてもらい、美味しいと言ってもらいたかった』


 俺が日記を盗み読みしなければ……。


『そういった気持ちを抱く事も、もうないようだ……』


 デスグラシアは悲し気な表情でうつむく。


『殿下……殿下のプリンセスガードの件、お引き受けさせていただきます!』

『……何を言っている? そんな話はもう無効だ』



『デスグラシア……俺と一緒に迷宮に潜りに行こう』

『ニル?』



「――いたぞ! あそこだ!」


 兵士達がガチャガチャと鎧の音を立てながら、こっちへと向かってくる。


『邪神祭の屋台で美味しい物を2人で食べよう。きっと楽しいぞ』

『ニル! しっかりしろ!』



「構え!」


 兵士達が二列横隊を組み、槍を構える。


『お前の手料理、今度こそ食べさせてくれ』

『正気を保て! ニル!』



「攻撃!」


 兵士達が俺達を串刺しにしようと、突っ込んでくる。


『デスグラシア。次は絶対にお前を守ってみせる』



――俺は自分の胸に剣を突き刺した。


 ここまで読んでくれた読者の皆様、10万文字のプロローグにお付き合いいただき、本当にありがとうございます。


 次話から、本編100回目の追放が始まります。

 どうぞ、最後までお付き合いください。

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