第34話 勇者達との戦い
「<死与>だ! <死与>を使われている!」
「敵はどこだ!?」
ベテラン勇者達が、すぐに戦闘態勢を整える。
「<死与>は暗黒魔法! 魔族にしか使えませぬ! あの2人しかおるまいよ!」
宰相が魔王とデスグラシアを指差す。
「おのれ! 魔族め! よくも父上を!」
フォンゼルは剣を抜いた。
『待て! 我等ではない!』
「ひ、ひいいいいい!」
通訳の男が逃げ出した。これでは会話が通じなくなる。俺がやるしかないだろう。
「王太子殿下! お待ちください! 魔王陛下は否定しています!」
「そうほざくに決まっておろう! 勇者達よ、奴等を討ち取れ!」
「御意!!!!」
ベテラン勇者と、地方勇者が一斉に魔王とデスグラシアに武器を向ける。
「早まってはいけません王太子殿下! 陛下たちは、極めて高い即死魔法耐性を持っていました! 魔王陛下及び、魔王太子殿下の魔力では、即死させる事はできません!」
「何故そんな事が分かる!? ……いや、そういえば貴様は暗黒魔法が使えたな! 勇者達よ! あの平民も討ち取るが良い!」
「御意!!!!」
「お止めください殿下! このままでは真犯人の思うつぼです!」
「黙れ! 魔族に寝返った裏切者め!」
とんでもない事になってしまった。
そうか、これが王族襲撃の真実なのか……!
何者かが王たちを暗殺し、その罪を2人になすり付ける。
フォンゼルは2人を討ち取ろうとし、そして殺し合いとなってしまったのだ。
「あははははー! みんな死んじゃったー! クーデリカもドロシーも! お母様も! ニル様もデスグラシア様も死んじゃうんだー! あははははー!」
リリーが狂ったように笑いだす。気が触れてしまったようだ。
その様子に、フォンゼルと勇者達も動揺を見せている。
「ニル君!!」
「セレナーデ! 君はリリーを連れて、安全な場所へ!」
「で、でも……!」
「頼む!」
セレナーデは悲痛な面持ちで、リリーを連れて会場の外に脱出した。
「セラフィンも行ってくれ! お前とは戦いたくない!」
「心配するなよ! 僕は君と共に戦う!」
「やめろ! 死ぬぞ!」
「やってみなきゃ分からないさ」
セラフィンは小剣を抜き、祝福のエンチャントを掛けた。
「セラフィン! 貴様も魔族の手の者だったのか!」
「フォンゼル! 今すぐ攻撃を中止し、きちんと犯人の捜査をおこなうんだ! 君はとんでもない過ちを犯そうとしているぞ!」
「黙れ! 勇者達よ! 4人を殺せ!」
「おおおおお!!!!」
ベテラン勇者4人と、地方勇者3人が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
『デス! 殺るぞ……!』
『はっ!』
魔王もデスグラシアも武器を持たず、防御力の低いドレスのみである。
それに対し、勇者達は完全武装。非常に不利だ。
「<雷撃>」
「<吹雪>」
『<影槍>』
『<伝雷>』
勇者の雷撃をかわし、魔王が影の槍で地方勇者1人の心臓を貫いた。
デスグラシアは、ガチガチと歯を鳴らしながら、伝播していく雷撃を勇者達に浴びせる。
「<範癒>」
ベテラン勇者のヒーラーが、デスグラシアから受けたダメージを一気に回復する。
あいつを先に仕留めないと、敗北は必至だ。
俺は右手にクーデリカの刀を、左手に氷の剣を持ち、斬り掛かって来た地方勇者の攻撃を受け、斬り捨てた。
「うおおおお!」
「おりゃあっ!」「せえいっ!」
セラフィンはベテラン勇者2人と切り結んでいる。
圧倒的に不利だ。
「ぐわあっ!」
セラフィンの脇腹が斬られた。
「<快癒>」
彼の傷を一瞬で治療する。
リリーがいないので、回復魔法が使えるのは俺だけだ。
だが、敵の攻撃を受けながら回復をおこなうのは難しい。
今のは、たまたまタイミングが良かっただけである。
まずはこの2人から倒すか……!
「紫電流奥義! 旋風刃!」
俺は独楽のように体を回転させながら、2本の剣で連続斬りを放つ。
1人のベテラン勇者を切り刻んだ。
「セラフィン!」
「おう!」
俺とセラフィンはお互いが交錯するように、もう1人のベテラン勇者に横切りを繰り出す。2人連携技<エックス斬り>だ。
ベテラン勇者は3等分になり、絨毯の上に崩れ落ちる。
「<範癒>」
『礼を言うぞ!』
『ニル! すまぬ!』
2人の体力を回復させた俺は、ヒーラーを仕留める為、一気に距離を詰める。
「はっ!」
そしてそのままの勢いで、ヒーラーの喉を貫いた。
「いかん! 一旦退却だ! 勇者達よ、私を守るのだ!」
「ぎょ、御意!!」
生き残ったベテラン勇者と地方勇者1人が、フォンゼルに続き会場を後にする。
『魔王陛下! 今のうちに脱出を!』
彼女達を無事に本国へ送り届ければ、人間種族全員を恨むような事にはならない。人類の破滅は防げるはず。
『うむ!』
『俺が先陣を切ります!』
俺は先頭に立ち、会場の扉を出ようとした。
――その瞬間、殺気を感じ、咄嗟にしゃがみ込む。
ドゴオッ!
俺の頭の位置にあった壁が崩れた。
そして、その崩れた壁から2匹の化け物が姿を見せた。
「こいつは!? 孤島の地下の!?」
「一体どういう事だ!?」
「グオオオオオオオッ!!」
化け物2匹が飛び掛かって来た。
「うおっ!」
俺は咄嗟に剣で受け、後ろに吹っ飛ばされる。
『影槍』
『影槍』
2本の漆黒の槍が、化け物を貫く。
奴の動きを止めたが、殺せはしなかった。
「ガアアアッ!」
化け物は鋭い爪で、魔王の首を刎ね飛ばした。
『母上……! よくも!』
デスグラシアは落ちていた両手剣を拾い、斬り掛かる。
ガキンッ!
爪で受け止められた。
もう1匹が、デスグラシアに襲いかかろうとしたところを、セラフィンが斬り掛かり、これを牽制した。
俺は地面を転がりながら受け身を取り、すぐさま起き上がる。
伸ばした右手の肘をクイッと折り曲げた。
1体の化け物を、炎の龍が焼き尽くす。
――が、奴は燃えながらも、セラフィンに襲い掛かった。
セラフィンが倒れる。――まずい。
「<快癒>」
何も起こらない。――彼は一撃で絶命していた。
俺の<邪炎>を受けた化け物が、やっと燃え尽きる。
ビュンッ!
『うぐっ!』
尻尾で打ち付けられ、デスグラシアが壁に叩きつけられる。
化け物は彼女をつかみ上げた。――まずい! デスグラシアが殺られる!
俺は再び<邪炎>の構えを取る。
「待て!! 動けば、魔王太子も、この女も殺す!!」
逃げたはずのフォンゼルが、邪悪な笑みを浮かべながら、会場に入って来た。
勇者2人の姿は見当たらないが、大勢の兵士達を引き連れており、その中には捕らわれたセレナーデがいた。
化け物たちは、フォンゼルが来た途端、急に大人しくなり、デスグラシアをつかみ上げたまま、じっとしている。
「奴に手枷を!」
「はっ!」
兵士1人がデスグラシアに手枷を掛ける。
あれは孤島の地下で見つけたものだ。なくなったと聞いていたが、何故ここに?
「奴にもだ!」
「はっ! ただちに!」
動けば、2人は本当に殺されてしまうだろう。
ここは素直に拘束されるしかないようだ。
俺は兵士に魔力封印の手枷を嵌められる。
これで魔法は使用できなくなった。
「こいつ等を牢に入れろ! 拷問をおこなった後、公開処刑とする!」
「はっ!」
こうして俺とデスグラシアは、王宮の地下牢へと放り込まれたのであった。
 





