第28話 興奮の夜
「8人いて良かったな……」
8人いれば、見張りの時間も短くなる。ただし、正確に言えば7人か。
何故なら、フォンゼルは見張りをしないのだ。リリーやデスグラシアでもやるというのに。まったくどうしようもない奴である。
「さーて、交代してもらおっと……」
俺は見張りの時間を終えたので、デスグラシアのテントを訪ねる。
『殿下ー、時間ですよー』
返事がない。
スキル兎の耳を使うと、寝息が聞こえてきた。どうやら熟睡してしまっているようだ。
『お邪魔します』
デスグラシアのテントを開け、中の様子をうかがう。
寝袋にくるまった彼女の寝顔が見えた。可愛い。
『殿下ー。交代をお願いしまーす』
『あと5分……』
あの恐怖の魔王が、まさかこんなセリフを吐くとは!
『駄目ですよー。起きて下さい』
俺はデスグラシアをユサユサと揺すった。
『あああっ……!』
不機嫌そうな顔で、彼女は寝袋から出る。
デスグラシアの薄着姿を見るのは初めてだ。何故か裸を見た時より色っぽく感じる。
「――ん?」
『何だ?』
『い、いえ、何でも』
理由が分かった!
わずかではあるが、デスグラシアの胸が膨らんでいる! 俺でなきゃ見過ごしちゃうね!
最終的にどこまで成長するのだろうか? 母親が爆乳である事を考えると……。
『――何をそんなに真剣な顔をしているのだ?』
『ちょっと、未来の事を考えていました』
『こんな時にか? お前はよく分から――ふぁあ……』
デスグラシアは大あくびをすると、いつもの服を手に取る。
そして、それを羽織る時にピクッと固まった。
『あ……え……? ウソ……私……』
デスグラシアが自分の胸を見て驚いている。
もしかして、今気付いたのか? という事は、昨日まではツルペタだったという事か。
『どうかしましたか殿下?』
わざと気付いていない振りをして聞いてみる。
『い、いや、何でもない!』
デスグラシアは急いで上着の前を閉じると、魔斧を担いでテントの外へと出て行った。
俺は彼女の可愛らしい反応に満足し、自分のテントへと戻る。
「――は?」
クーデリカが俺の寝袋で寝ている。
「おい、クーデリカ。お前、間違えてるぞ。ここは俺のテントだ」
「いや、いーの。レオンティオス君に夜這いされそうだから、こっちに逃げてきたのー」
「え? 襲われたのか?」
だとしたら、奴を1回懲らしめないといけないが。
「そういう訳じゃないけどー。見張りの交代の時ね、私のテントに入って来たからー」
あ、やべっ。俺もデスグラシアにやってるわ。気を付けよう。
でもあいつは、まだ完全に女になった訳じゃないから、いいのか?
……いや、駄目か。俺は彼女を完全に女として見てしまっている。
「リリーや、セレナーデと一緒にいたらどうだ? さすがに俺といるのはマズいぞ?」
「彼氏なんだから別にいいじゃん?」
「いや、嘘の彼氏だからな」
「昨日の話の続き、聞かせてあげるよ?」
「どうぞごゆるりと」
俺は笑顔で快諾した。
「やったね! ――昨日はどこまで話したっけ?」
「お前達がドロシーの胸を大きくしようと、画策したところまでだな」
これは今日も寝不足になってしまいそうだ。だが、欲望には勝てない。
「あー、そうだったね。――あ、そうだ。昨日の事で思い出したんだけど、本当に私とヒノモトに行ってみる気はない? ……実はね、結構前から準備してるんだ。嵐にも耐えられる大型船舶を建造中なんだよー」
「まさか、国外逃亡する為だけに?」
「そうだよー。名目はヒノモトとの貿易をおこなう為って事になってるけどねー。その為の会社も、もう興してるんだよー?」
さすがはクーデリカ。やる事が違う。
もし彼女が会食で存命していたら、ヒノモトに到達できていたのだろうか?
「そうだな……前向きに考えておこうか」
ヒノモトはとても良い国だ。景色が美しく、飯も美味い。
あそこで平和に暮らすのも悪くはない。
「ほんとー!? 嬉しいー! 来てー!」
クーデリカは寝袋から両手を出し、俺に向けて広げる。
顔可愛い。声可愛い。性格可愛い。胸4人の中で一番大きい。お尻キュート。
この誘惑に勝てる男はほとんどいないだろう。
だが俺はメンタルアイアンマン・ニル! 大往生を迎える為なら、我慢できるのだ!
「お前を傷物にしたら処刑されてしまう。それより早く話の続きを聞かせてくれないか?」
「もー! ニルの性癖は歪んでるなー!」
リリー達が、どのようにしてドロシーの胸を大きくしようとしたのかを聞いた俺は、興奮のあまり寝付けなくなってしまった。




