第25話 ピクニック開始
俺は今目隠しをされ、船に乗せられている。
行き先は分からない。……いや、俺だけは分かっている。無人島だ。
ガタンッ。
船を岸に着けたようだ。
教員が、俺の目隠しをほどいていく。
「やっぱりここか……」
もしかしたら場所が変わるかもしれないと思っていたが、良かった。いつもの無人島だ。
「3班集合! 班長は赤い目隠しの者だ!」
俺は自分の目隠しを見る。黒い布だ。
どんなに成績が良くても、さすがに班長に選ばれる事はないようだ。
「3ぱーん! こっちだよー!」
クーデリカが、赤い目隠しを振っている。
俺がクーデリカの元に着くと同時に、レオンティオスとセラフィンがやって来た。
やはり、今回は全くメンバーが違う。
いつもは、セレナーデ、フォンゼル、ステイフだった。
この違いがどう影響してくるか?
この島には危険なものは存在しないはずなのではあるが、対校試合の事もある。気を抜かないようにしよう。
「公女殿下、ご一緒できて光栄です!」
「あはははー……、ありがとう」
レオンティオスがクーデリカLOVEなのは知っている。
だが、あまり好かれていないようだ。2人が結ばれた事は一度もない。
「クーデリカが班長かー。気楽でいいやー」
「よろー」
クーデリカとセラフィンは仲がいい。友人としてという意味だが。
2人とも人懐こい性格をしているので、気が合うのだろう。
「よし、全員集まったな! では、諸君に今回の課題を発表する!」
アシスタントの教員が、バックパックを俺たちに配り始めた。
このバックパックには2日分の水と1日分の食料、1回分の傷薬と毒消し、そして地図とコンパス、発煙筒が入っている。
「各自、バックパックから地図を出し、見てくれたまえ!」
俺は地図を広げ、目標地点を確認する。
脱出地点は一緒だ。だが、中間地点と任務が変更になっている。
「諸君には、今から7日以内に脱出地点へと向かってもらう! ただし、中間地点にて、地図に記載してある任務を完遂してからだ!」
自然環境でのサバイバル能力と、期限内での作戦遂行能力、そしてチームワーク力を評価する試験、それがこの通称ピクニックだ。
王族や大貴族に、こんな過酷な事をやらせるとは大したもんだと、感心したものである。
フォンゼルと同じ班になっているので分かっているが、この試験にヤラセはない。全員ガチでやらされる。
どうも担当教師によって、その辺りのさじ加減が違うようだ。
「何かトラブルが発生し、続行不可能と判断した場合は、発煙筒を焚くように! 直ちに救助隊が向かう! では開始!」
「はい!!」
開始の号令があったが、俺達は動かない。
まずは、地図を見るところから始めなくてはいけないからだ。
「他の班も同じ島にいるのかなー?」
「だと思うぞ。班ごとに別の島にすると、監視が大変だからな」
「あはははー! 確かにー!」
いつものパターンであれば、全員この島にいるはず。
ちなみに、班ごとに出発地点、中間地点、脱出地点は異なるようだ。
つまり他の班と合同で、任務を遂行する事はできない。
「クソ! この地図、いい加減じゃねえか!」
レオンティオスは地図を砂浜に叩きつける。
この地図は島の海岸線しか書かれていない。
縮尺が表記されていないので島の全長も不明だし、どこに川があるのかも分からない。
水は2日分しかないので、水魔法の使えない班は、まず水源を確保する必要があるのだが、それが困難となっている訳だ。
「そもそも俺達は今、どこにいんだよ!?」
この不親切な地図には、当然現在地が記載されていない。
湾の形状から、現在地点を判別する必要がある。
「うーん、ここかなあ……?」
クーデリカが指し示す場所を見る。――違う。
「いや、ここだよ。この入り江と、あの岬の形がピッタリだと思う」
「あー、本当だー! よく分かったねー! やるなー、ニルー!」
いつもと同じ場所だから分かっただけだ。申し訳ない。
別の場所だったら、もう少し時間がかかったはずだ。
「ちっ、平民は野山を駆けまわっているから、こういうのは得意なんだろ」
レオンティオスは面白くないようで、砂浜に唾を吐いた。
……まったく、それが貴族のやる事か? 平民の俺でもやらんぞ。
「じゃあ中間地点はこっちの方角だねー! どうしよっか? 地形が分からないから、まっすぐ進んでみる?」
「とりあえず、それでいいと思うけどさー、距離はどれくらいあるのかなー?」
俺は中間地点の方角を見る。
少し高い山が見える。あれを迂回するか登るかで変わってくるか……。
「3日はかかると思っていた方がよろしいかと」
「はっ! 何言ってんだ平民! ここは小さな島だぞ! そんなかかる訳ねえだろ!」
何故小さな島と決めつけてしまうのか。キャルタンソン侯爵家の行く末が心配である。
「地図とあの岬の大きさを比較してください。かなり大きな岬ですが、地図では小さく描かれています。つまりこの島は、相当な広さがあります」
「そうだねー! あの山が中間地点かと思ったけど、どうやらもっと先みたいだねー!」
「うわー、もしかしてあんな山がいくつもあんのかなー」
「ちっ、平民の分際で調子に乗りやがって……!」
こいつとフォンゼルは本当にブレない。
たまには、俺に優しくしてくれるパターンも見てみたいのだが。
俺を何回も殺しているデスグラシアでもできたんだから、お前らだってできるだろう!
「よーし、では3班しゅっぱーつ!」
クーデリカは笑顔で手を突き上げ、元気よく出発した。
彼女を見ていると、本当にただのピクニックに来た気分になる。
この時の俺は、まさかあんな事になろうなど、夢にも思っていなかった。




