第21話 攻城戦
「応援歌歌うねー! おっおっおっおっおっおおう! おうおうおうおうおう! いぇい、いぇい、いぇい、いぇい!」
ふざけているようにしか思えないが、しっかり全能力値がアップされている。
それもかなりの上り幅だ。さすがは最高位の詩人である。
「申し訳ありません。私には、成功を祈る事くらいしかできませんわ」
「ありがたく頂戴いたします」
魔力特化型のリリーは、魔法を封じられてしまうと、できる事が少ない。
彼女が俺に勝利の祈りを捧げる姿を見て、フォンゼルがギリギリと歯を噛み締める。そんなに悔しいんだったら、単身で突撃して来い!
「ごめんなさい、ニル君の力になりたかったのですが……」
セレナーデがしょんぼりする。
魔法が使えないマジックアーチャーは、普通の射手と変わらない。
追尾性能を持った魔法の矢が使えれば、大活躍できるのだが。
「気にする必要はない」
「どうかご無事で……!」
彼女は俺の手を握る。
バルトが口の端から血を流しだした。なんと残酷な事を……。
(しかし、長いな……まだ手を放してくれない)
彼女の顔をよく見ると、目が真横を向いていた。
(セレナーデは何を見ている……?)
そちらに目を向けると、固まっているデスグラシアの姿が見えた。
俺と目が合うと、すぐに視線を落とす。
ようやく手を放したセレナーデは、デスグラシアを見て「うふっ」と笑う。
彼女が、こんな挑発的な行動をとるとは……。
俺は短めの木剣を2本取り、両手に持った。
『では殿下、準備はよろしいですか?』
『う、うむ……』
「よし、いくぞ!」
クーデリカの応援歌を背に、俺は城門へと突っ込む。
射手たちが俺めがけて、矢を放って来た。
「ヒノモトでの修行に比べれば!」
俺は飛んで来た矢を、2本の剣で打ち落としていく。
ヒノモトでは弟子たちに100本の矢を射らせた事もある。
それに比べれば、どうという事はない。
『殿下! 今です!』
『死ねええええええええい!!』
物凄い気迫で、デスグラシアが大木槌をフルスイングする。
バキャッ!!
憎しみの籠っていそうな一撃が、門を打ち破った。
今の一言、セレナーデに向けたものじゃないよな……?
「突撃せよおおおおお!!」
フォンゼルの号令で、本体が砦内への突入を開始した。
だが奴は、隣にリリーを置き、小高い丘の上に陣取ったままだ。
「先陣を切れよ、まったく。――さて、城壁の射手を始末するか」
俺は一気に城壁内に駆け上がり、制圧を開始する。
デスグラシアも反対方向から城壁に上がった。
「どんなに手加減しても、あの大木槌で殴られたら死ぬぞ。大丈夫か?」
デスグラシアは大木槌を捨て、拾ったタワーシールドを装備した。
そして、盾を構えると、射手に向かって突進する。
射手たちは次々に弾き飛ばされ、城壁から落下した。
「おいおい、そんなに高さがある城壁じゃないが、結構痛いだろう……」
この辺りが魔族の感覚というやつなのだろうか。
落ちた射手達は、すぐに治療班によって回復魔法を掛けられる。
「おおおおおお!! 玉座の間へ急げええええ!!」
本隊が砦内部へと突入する。
その後ろを、リリーを引き連れたフォンゼルが悠然と歩く。
「じゃあ俺も砦内部に向かいますか」
俺は城壁から飛び降り、フォンゼル達の前に出た。
「待て! お前の出番はこれで終わりだ! 後は私に任せるがいい!」
「……御意」
美味しいところは自分がいただくって寸法ね。はいはい、いいでしょう。いいでしょう。
「ニル様、魔王太子殿下、お見事です……とっても素敵でしたわ」
「いえ、それ程でも……ってあれ?」
リリーはデスグラシアの手を握り、目を見つめている。――あれ……これは……? 彼女はデスグラシアを女と認識しているかと思っていたんだが……。
それを見て、フォンゼルはわなわなと震えている。
奴は、デスグラシアを男として見ているので、面白くないだろう。
「聖王女殿下、今すぐ私が王冠を手に入れてきます!」
フォンゼルは砦内部へと駆けて行った。
『聖王女よ、手を放してはくれまいか……? 私も砦内部へ向かわなくては』
デスグラシアは困り顔だ。助けを求めるように俺を見る。
「聖王女殿下、魔王太子が手を放して欲しいと……」
「あら! 申し訳ありません! 私ったらつい……!」
リリーは慌てて手を放す。――え? いや、まさかな……。
「よし、私達も内部へ侵入しましょう!」
「ええ!」
俺はリリーとデスグラシアを伴って、建物内に入る。
当校の生徒と地方学院の生徒が死闘を繰り広げている中、フォンゼルが颯爽と玉座へと向かう。
そして、玉座に置いてある王冠を手に取った。
「ははははは! 王冠を手に入れたぞ!」
「――殿下! 後ろです!」
俺の声にフォンゼルは反応できなかった。
玉座の裏から現れた敵に、木剣を突き付けられてしまう。
「あの馬鹿! こんな恥ずかしい負け方があるか!」
「総大将フォンゼル王太子殿下退場! よってラスニオン勇者学院の勝利!」
地方学院の生徒たちが、歓声を上げる。
反対に当校の生徒たちはガックリとうなだれてしまった。
ほぼ勝利が決まっていたのだから、当然の反応である。
「わ、私は悪くない! あらかじめ伏兵を始末しなかったお前達が悪いのだ!」
フォンゼルの言葉に全員がため息をつき、舌打ちをする。
クーデリカとセラフィンから「ゴブリン並みの知能」とか「ステイフのダイアウルフの方が賢い」といった声が聞こえてくる。
『殿下、申し訳ありません。殿下に勝利を捧げたかったのですが……』
『良い。恥をかいたのは王太子だけで、皆の名誉は守られたのだからな。ニル、そなたに感謝を』
うん、どう見てもデスグラシアの方が王としての器が大きい。
こりゃ、デスグラシアと現魔王が国王達を襲ったという話も、疑った方がいいな。
なにせ俺は、その現場に居合わせた事が一度も無いのだから。
 





