表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/133

第53話 ついにその日が……

 ディマルカス神王とジルベルト第一王太子が消えた事で、バルチナ神王国の神王は当然第二王太子のヤコプとなる。

 愚鈍という言葉がこれほど似合う奴はそういない。簡単に私の操り人形となることであろう。


 しかし、周りの重臣たちは愚かではない。

 あまり目立った動きをすれば、ヤコプをそそのかしていることが見抜かれてしまう。

 ここはしばらく大人しくしているのが吉なのだが、なにせ私には時間がない。



「マルチェラ、一人で風呂に入っても退屈だ。お前も一緒に入れ」

「お風呂? うふ、私の裸を見たいのですか?」


 ヤコプはしばしば私の部屋を訪れ、このようにエロいことをしようとする。

 何度胸や尻を揉まれたことか。どうしようもないエロガキである。


「そ、そういうつもりではない! お前と親交を深めようと――」

「陛下にはラタシャ様という婚約者がおるではありませんか。人妻と親交を深めてはいけません」


 今年いっぱいは喪に服す期間なので、それまで私はディマルカス神王の妻。

 だがそれを過ぎたら、こいつは即私を側室にしようとするだろう。


「だ、だから、そういうつもりでは……! よ、よし! じゃあ縄跳びをしよう! 縄跳び!」

「縄跳び? うふふ、私の胸がバユンバユンと揺れる様を見たいのでしょう? いけませんよ?」


「ぐうぅ……!」


 ヤコプのお付きが頭を抱えている。

 これで神王の座が務まるのか、不安で仕方ないのだろう。



 コンコンッ!

 ドアが強めにノックされた。何か急ぎの用があるようである。


「どうしましたか?」

「マルチェラ殿下に謁見を希望する者が! お父上のことだそうです!」


 ヴォルヘルムの……!

 ついに来てしまったか……!


「今行きます! ――ヤコプ陛下、急用ができてしまったので、これにて失礼いたします」

「おう。すぐ戻って来いよ?」


 ヤコプに一礼し、急ぎ来賓用の応接間へと向かう。



「マルチェラ殿下の御入室! 一同……礼!」


 衛兵と客人が頭を下げる中、私は豪華なイスに座る。


「皆の者、面を上げよ」


 一同が頭を上げた。


 私の前に座る二人の男……とても懐かしい。


「お久しぶりですね。ウルホ、タンクレッド」

「まったくでさぁ。しかし立派になったもんですねお嬢――いや、マルチェラ殿下」


「うふ、お嬢でいいですよ。……ヴォルヘルムは……もう駄目なのですか?」

「……へい。治癒士の話では、もってあと三月だそうです」


「三月……」


 くそっ……! どうやっても間に合わぬ……!


「お嬢、ヴォルヘルムの旦那が頼みたいことがあるそうでさぁ。あっしらと来ていただけやすか?」

「……もちろんです」


 来たか……。死ぬ前の最後の頼みだ。

 彼には数え切れぬほどの恩がある。断る訳にはいかない。


 ……例えそれがどんな願いだとしても。


「聞いていましたねお前達。私はこれから父の元へと参ります」

「はっ! 今すぐ馬車をご用意いたします!」

「お嬢、アクティノヴォローを連れて来ています」


 アクティノヴォローとは私の愛馬。

 白く輝く美しい馬だ。


「さすがはタンクレッド。気が利きますね。――という訳で馬車は必要ありません

「え? ――は、はっ!」


 衛兵たちは今この瞬間、私が馬に乗れることを知ったのだろう。

 若干の動揺が感じられる。


「では参りましょう」

「了解でさあお嬢」

「イエスマム」


 ウルホとタンクレッドを従え、正門へと向かう


「あなたたちといると、なんだか戦場を思い出しますね」

「へい、あっしもです! お嬢の魔法弓の輝き、また見たいでさぁ!」


「ああ……あの頃の方が楽しかったな……」

「お嬢……」


 大男どもに囲まれる毎日。

 むさ苦しくはあったが、孤独ではなかった。



「殿下、こちらです!」


 衛兵が声をかけてきた。

 彼のすぐそばには3頭の馬が。


 私は白馬の元へと駆けて行く。


「アクティノヴォロー、久しぶりですね! 元気にしていましたか?」


 彼の首に抱き着くと、「当然だ」と言わんばかりに力強くいななく。


「初老の馬とは思えぬほどの精気。さすがは私の馬です。――しかもしっかりと馬鎧まで装備して、なんと勇ましいことか。ありがとうタンクレッド」

「恐れ入りますお嬢」


 私の沈んだ気持ちを何とか上げようとしてくれているのだ。

 その心遣いがひたすら嬉しい。


「これで私の鎧もあれば良かったのですが、まあさすがにね」

「用意しておりますお嬢。――ぜんたぁぁぁい! きりぃぃぃぃぃつ!」


 草むらから、ぬっと漆黒の鎧を身にまとった男たちが現れた。

 彼らが潜伏していることを知らない衛兵は、思わず尻もちをついてしまう。


「相変わらず重装鎧を身に着けているとは思えない隠密性……! デーモンハントは落ちていませんね……!」


 まさか団員全員で迎えに来るとは……!


 いや、そうだよな……! ヴォルヘルムの最期を飾るには当然そうでなくては……!


「その言葉、ぜひ直接団長に聞かせてやってくだせえ。――お嬢の鎧を持って来い!」

「あら、レオパルドはいないのですか?」


「団長はヴォルヘルムの旦那のとこでさぁ」


 それはまあそうか。

 急に症状が悪化し、死に至ることもある。

 ヴォルヘルムの最後の言葉を聞く者が、そばにいなくてはならない。


 私はドレスの裾を破り捨て、ミスリル製の軽装鎧を装着した。


「やはり私は、ドレスより鎧の方が似合う。そう思いませんか?」

「へい。まさに戦女神のごとしでさぁ」


 別にウルホは、私をインヴィアートゥと知って、そう言ったわけではない。

 私の正体を知る者はヴォルヘルムただ一人だけだ。




 私は愛馬に跨り、片腕を挙げた。


「全隊、二列縦隊! 目標地点、神王国領コセリア村! ――いざ出発!」

「おおおおおおおおおお!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ