第41話 裏切り
大浴場にて一っ風呂浴びた私は脱衣所へと戻る。
「あら?」
私の制服と下着、丸々一式がない。
「またイザベラたちの仕業ですね……」
私が退学を免れたことが心底気に食わないらしい。
ここ最近、連中の嫌がらせはより一層激しさを増している。
「ここにありましたか」
水桶の中に服が突っ込まれていた。
当然グショグショである。
「並の女であれば、このずぶ濡れの服を着て帰るのでしょうが、私はそんなたまではありません」
私は服をギュッとしぼって抱え、そのまま大浴場を出る。
「きゃあっ! 露出狂!?」
「見て! マルチェラちゃんがすっぽんぽんだ!」
「いやん♡ えっちな子ねえ♡」
生徒たちの反応を無視し、堂々と部屋へと戻った。
「ただいまです」
「おかえ――ちょ、ちょっとぉ!」
フアニーは恥ずかしそうに手で顔を覆ったが、指と指との間隔は広い。
「マルチェラ! あなた、恥ずかしくないの!?」
「はい」
「信じられない! どういう教育を受けて来たの!? レディとしてあり得ないよ!」
「教育というよりは経験によるものですね。性経験を腐るほど積めば、あなたもこうなりますよフアニー」
「は!? あなた、まさか……したことあるの……!?」
「はい」
「ウソでしょ!? え、誰と!?」
「誰と言われましても……まあ、色んな人とです」
「信じられない! 穢れてる! あなたは穢れてるよマルチェラ!」
「うふふ、いかにも生娘の反応といった感じで可愛いですよフアニー」
「むかつくー! ていうかショック! マルチェラがそんな子だったなんて!」
フアニーの顔は真っ赤で、涙目にもなっている。
どうやら本気で怒っているらしい。
「まあまあ、そんなに怒らないでください。好きな男に抱かれる悦びを知れば、あなたもこうなりますよ? ――しかし、それはそうと、イザベラには困ったものです。さすがに何か手を打とうかと思うのですが」
「うん、どんどんエスカレートしてるもんね。先生に相談してみる? あなたは私と違って優等生だから、先生も力になってくれるかも」
それはないな。
優秀な平民の娘と、優秀な侯爵の娘、どちらが優先されるかなど分かり切っている。
「イザベラが苦手なものを知っていますか?」
「うーん……まあ女の子だったらみんなそうだと思うけど、虫が苦手みたいだよ。クモやゴキブリが出た時に悲鳴あげてたから」
「うふふ、お可愛いこと。――では、こういうのはどうでしょう? 今度の園芸の授業の際、イザベラに昆虫の誘引剤を仕込むのです。花壇に近づいた途端、彼女は羽虫に覆いつくされることでしょう」
「あはは、それはおもしろそうだね。でもどうやって仕込むの?」
「今週の配膳係は私です。彼女の昼食に誘引剤を入れます」
「なるほど。でも誘引剤って食べても効果あるんだ?」
「はい、汗や皮脂から臭いが放たれます」
「そうなんだ。私に何か手伝えることはある?」
「いえ特に。自然な態度でいてくれれば、それでいいですよ」
「うん、分かった」
――翌日。
「図書室に行きましょうフアニー」
「うん、分かった」
私たちはいつものように図書館へ向かった。
「そろそろツバメの子供たちが巣立つ頃ですね。楽しみです」
「うん、そうだね」
――ん? 妙だな。
「今日は雛たちの声が聞こえませんね」
「あ……確かに……」
何か嫌な気がし、私は急ぎ足でツバメの巣へと向かう。
「巣が……ない……」
「――え!? もしかして野良猫に襲われた!?」
「いえ、これは猫にやられた跡ではありません」
周囲を見回す。
――あった。
私は踏み潰された雛たちの死骸を手ですくう。
「そんな……マルチェラ……」
「イザベラは越えてはならない線を越えた」
* * *
――その日の夜。
イザベラの部屋。
「――という計画をマルチェラは練っています」
「虫の誘引剤? へえー、そんなものがあるのね。ところであいつの様子はどうだったんですのフアニー? 大好きなクソ鳥が死んで、相当ヘコんでるんじゃないかしら?」
「あんまりそういった感情を表に出す子じゃないのでよく分からないですけど、かなりショックを受けているように感じました」
「おほほほほ! いい気味ですわ!」
「さすがにあれはやりすぎだと思います……生物を殺すのはちょっと……」
「あらそう? じゃあ、あなたはやっぱり仲間から外すことにするわ」
「ご、ごめんなさい……! そういうつもりじゃ……!」
「おほほほ。マルチェラを憎む者同士、仲良くやりましょう?」
「は、はい……」
「妙案を思いつきましたわ。いいことフアニー? 明日の昼食、私とマルチェラのものを取り換えなさいな。そしたら虫にたかられるのはあのガキですわ。おほほほ!」
「分かりましたイザベラ嬢。うまくやってみせます」




