お祭り
結美とお付き合いを初めてから、なんだか世界がもっと色鮮やかな感じがする!
雨の日の空も濃淡があったり、いつもの部活後の帰り道の夕日も燃えるように感じたり、
林道に生えている沢山の木の葉もとても青々しく感じる。
恋ってすごいね!
もう少しで夏休みが終わる頃、結美が花火を見に行こうと誘ってくれた。
今、結美と見る花火は一生忘れられないんだろうなぁって思う。
2人で可愛い浴衣を買いに行って、当日はお揃いのかんざしにヘアセットし合って、お揃いのカゴバッグを持つ。
結美は紺の大人っぽい感じの浴衣で、すずらんが描かれている。
そのすずらんが雪の結晶のように首から足に向かって舞っていて、足に近いところから生えたすずらんの花が上を見上げている。
本物は下を向いているはずなのに上を向いているのが珍しくて結美が一目惚れをして買っていた。
私のは白と淡い水色のグラデーションの浴衣で、
花びらが紫で花の蜜の所が黄色い小ぶりの花が足元を中心にぽぽぽぽんっと描かれている。
調べるとシオンって花らしい。
私は始め、ヒマワリの様な大きい花が描かれた浴衣にしようかと思ったけど、この花の絵柄が素敵すぎて気に入ったのでこの浴衣にした。
ママに着付けを教わって、自分たちで着てみるけど中々難しくて最後はママが手直しして綺麗に着させてくれた。
絢愛「ママ、ありがとう!」
結美「ありがとうございます。」
絢愛ママ「楽しんできてね。」
「「はーい!」」
2人で花火大会がある会場に向かう。
慣れた靴じゃなく、浴衣に合わせて下駄を履いてきたからいつものように大股で歩けない。
せっかくなにも考えないで自由に遊べる高校生活最後の夏だから思いっきり楽しまないと!
去年までサンダルだったけれど、下駄の足音もいいなって歩きながら思った。
結美「結構混んでそうだねー。」
絢愛「電車、混んでるね!みんな会場に向かうのかな?」
結美「私たちみたいに浴衣着てたら絶対だね。」
絢愛「結構いるね!」
花火大会の最寄り駅のホームに降りると、そこに居る4割が浴衣を着た人たちだった。
しかもみんな花火大会の会場がある南口に降りて行く。
結美「食べ物買ったらすぐに場所確保した方が良さそうだね。」
絢愛「そうしよ!」
2人で軽く早歩きで会場に向かい、お目当てのたこ焼きとポテリング、水飴を買い座れそうな場所を探す。
結美「あ!あそこならいいんじゃない?」
絢愛「いいね!あそこ行こ!」
駆け足で花火が上がる少し遠くの比較的人のいない場所に座る。
結美「ちょっと遠いけど、見えるからいいよね。」
絢愛「うん!結美と花火見れるなら私はどこでも大丈夫!」
結美「…そういうのサラッと言うのは反則だよ。」
絢愛「?」
結美「そう言う所が好き。」
絢愛「私も結美の事好き!」
結美と一緒に笑い合いながら、水飴を食べる。
私はソーダ飴が入った水飴、結美はセミドライの苺の水飴。
ぬちょぬちょ感がまさにお祭りに来たなって感じがする。
結美「あ!」
ボトっと落ちる音とともに結美が叫ぶ。
みると結美が水飴を落としてしまっていた。
絢愛「わ!買いに行こっか!」
結美「うん!でも1人で大丈夫!」
絢愛「迷わない?」
結美「2人で行ったらもう場所取られちゃいそうだし、絢愛に頼むのも心配だし。」
絢愛「うーん。わかった!待ってるね!」
結美「うん!水飴の店近いから大丈夫。すぐ戻るよ。」
絢愛「うん!いってらっしゃい!」
結美は必要なお金だけ手に持ち、私に手を振る。
慣れない下駄で急いでここから見える500円玉くらいの水飴屋さんに行く。
人混みに紛らながらも結美を見つける。
さっき店に行った時よりも混んでいて、並んでいるっぽい。
私は携帯をバッグから取り出し、時間を確認する。
あと20分、さすがに花火が上がる前には結美は戻ってこれるなと確認した。
携帯を入れて、ハンカチで汗を拭こうとバッグを漁っていると、
「あやっ…!」
焦った結美の声が賑わっている人々の声の中から聞こえてきた。
私は何事かと思い、さっきまでいた水飴屋さんを見る。
絢愛「…いない?」
さっきまで結美はあそこの水飴屋さんで並んでいたのに。
私は立ち上がり、付近の人混みに目をやり結美を探すが全く見つからない。
絢愛「え…え、結美…?」
私は全ての荷物を持ち、人混みの中に入り込む。
絢愛「結美!どこー!?」
私は結美の名前を呼びながら水飴屋さんのおじさんに結美がどこに行ったか聞く。
すると結美の後ろに並んでいた、大学生くらいの男3人がずっとナンパしていたそう。
私はおじさんが教えてくれた方向に走る。
慣れない下駄がもどかしい。
もっと早く走らないと、もっともっと早く…。
…結美が泣いてかもしれない。
私は下駄を脱ぎ、カゴバッグに差し込むように入れ、
小股でしか動けない浴衣の裾を両方上げ、帯に入れ込む。
絢愛「よし。動ける。」
ミニスカートくらいの丈になった浴衣で裸足で走る私は他人から見て、面白さんに見えただろう。
けど、貴方達が知らない所で私の大切な人が泣いてるかもしれないんだ。
私なんか見てないで結美を一緒に探してよ。
まだ熱がこもっているアスファルトと小さな砂利が痛い。
こうなるならいつものシューズ持って来ればよかった。
結美の名前を呼びながら、会場から走って5分の林の近くを通りすがろうとすると、素足で何か割り箸の様なものを踏んでしまい痛くて足元を崩して転んでしまう。
絢愛「いったぁー…」
その割り箸があった所を見ると、それは割り箸ではなく私と同じかんざしが落ちていた。
私は自分の後頭部のかんざしがあるか確認する。
絢愛「…結美のだ。」
私は擦りむいた足を気にせず、かんざしに駆け寄る。
かんざしの頭が差しているのは林の方向。
でも…そんな事あるのかな。
結美…、ここにいるかな…?
「…ゃ!」
小さくなったお祭りの音色と、林の中から結美と似ている声が小さく聞こえる。
絢愛「結美!」
私はかんざしを手に持ち、その林の中に向かう。
少し大きくなった石を素足で何回踏んでも気にしてはいられない。
絢愛「結美!結美!」
私は呼吸を整えるのも忘れて、結美の名前をよび続ける。
お願い、答えて。こんなに広い所、なんの手がかりも無かったら見つからないよ。
袋の中でぐちゃぐちゃになってしまった、たこ焼きとポテリングに気づけないほど焦っていた。
私は呼吸を忘れていた事に気付き、たくさんの酸素を肺に入れる時、少し遠くから複数の男の人の笑い声が聞こえた。
私はその人達に結美を見てないか聞きに行こうとその人たちがいる所に走る。
すると男の人3人と見覚えのあるすずらんの浴衣が着崩れ、ぐちゃぐちゃの髪の毛の女の子が2人に体を押さえつけられ、1人に口を塞がれている。
私は一瞬背中に寒気が走り、すぐに怒りで体が熱くなる。
絢愛「結美!」
結美が目だけこちらを向けて、涙ぐむ。
「なんだ?幽霊か?」
「ねーちゃん、そんなに乱れた格好で誘ってんのか?」
「こんな血だらけだと、萎えるわー。」
3人ともニヤニヤと笑いながら私に気持ち悪い言葉を発する。
絢愛「結美を離して。」
「あ、お友達も参加したいの?」
絢愛「離して。」
「あ?テメェ話聞けよ。女が男に楯突くな。」
絢愛「結美を離して!」
「馬鹿なの?同じこと言うな。」
私は荷物をそっと置いて、結美と自分のかんざしを両手で握る。
今からかんざしとしての使い方を間違えると思うけど、いいよね。パパママ。
大切な人を守れなきゃ、なんで私が生きているのか分からない。
「何?やんの?」
絢愛「うん!」
私は結美に安心してもらうために笑顔で男の言葉に返事する。
すると結美はぼろぼろと涙を流し、男達はゲラゲラ笑う。
大丈夫!結美と一緒に遊ぶために鍛えた体は裏切らない!
私は心の中で結美で伝えて、一層笑顔を作る。
これしか今は安心させる事が出来ないから、今から結美をちゃんと心の底から安心させるから少し待ってね。
「キモ。お前らは血みどろ女からヤっとけ。」
「まぁ…可愛いからいいけどさ。」
「変な性癖つきそう。」
と言って、結美の体を掴んでいた2人が私めがけて走ってくる。
私もその人達めがけて走る。
大丈夫、向こうは素手で殴りかかろうとしてるだけ。
私は鉄で出来たかんざしを持ってる。
私の方が有利!
「ごめんな。」
男が謝りながら、私のお腹を殴ろうと下に腕を伸ばす。
絢愛「謝るなら、結美に謝れ。」
私はその男の頬に力一杯込めてかんざしを差し込む。
差し込んですぐに抜き取り、男を自分の体重で押し倒す。
ぶつかった時の反動で少し頭がクラクラするが殴られるよりいい方!
男は私に構わず頬を抑えて声を上げる。
「おい!テメェ、先輩の顔傷つけたな!」
絢愛「顔ぐらいなんなの?結美の心は?」
私は立ち上がり、急に冷静になった男の顎を殴る。
倒すためにはこうしろってヤンキー漫画に書いてあった。
その通り、男は白目を向いて倒れる。
「おい!女1人に何手ェ焼いてんだ!」
絢愛「女、男関係ない。人としてあんたらは間違ってる!」
私は結美の口を塞ぎながら盾にし、自分の体を守る男にめがけて走る。
「お、おい!やめ…」
絢愛「謝れよ。」
「ごめんなさいっ!」
絢愛「違う。結美にだよ。」
「っ!」
私は最後にチャンスを挙げたがその選択さえ間違う男に腹が立ち、結美より若干背の高いその頭を私の拳で撃ち抜く。
それと同時に花火が上がる音が聞こえ始める。
「…っぐ!」
男が倒れる。
結美「絢愛!」
男の手が離れて結美の口が自由になる。
絢愛「…最後までやんないと。」
結美「もういい!逃げよ!」
結美は泣きながら、私を力なく引っ張る。
私は結美を最後まで拘束していた男をもう一発くらい殴ろうとしたがその人は気絶をしていた。
絢愛「…ごめん。逃げよ!」
結美を強引におぶって、置いていた荷物を拾いあげ、林から出る。
その間ずっと結美が泣いていた。
ごめんね、怖かったよね。
私が強引に一緒に行けばこんなことにならなかったのに。
私は会場の方へなんとなく脚を向けて歩いていると、見回りの警察官に事情聴取をされた。
よく考えるとそうだよね。
2人とも着崩れした泥だらけの浴衣で髪の毛はぐちゃぐちゃ、私の脚はダラダラと出血してちょっとした返り血を浴びているんだもん。
パイプ椅子を用意されて、手当をされながら事情を話すとその警察官はどこかに連絡を入れ、しばらくするとあの林にいる男たちを捕まえてくれた。
警察官が私たちの親に連絡を入れて、わざわざ来てもらった。
絢愛「パパママ、ごめんなさい。」
絢愛パパ「なんで絢愛が謝ってんだ。」
絢愛「だってまた暴力…」
絢愛ママ「ううん、謝ることないの。絢愛は結美ちゃん守るために動いたんだもん。」
絢愛パパ「そうだ。こんなになってまで人は動けないものだ。絢愛はすごい!」
2人が私を抱きしめる。
絢愛「…ありがとう!」
2人を抱き返した。
結美「ご、ごめんなさい。私、絢愛にいっ…」
絢愛パパ「結美ちゃんも謝るな。悪くないのに謝る必要はない。」
結美ママ「…本当にっ、ありがとう、ございます…!」
結美のママが泣きながら私の目を見てお礼を言う。
絢愛「結美も結美のママも笑ってよ!私は大丈夫!ただ怪我しただけ!結美が無事ならそれでいい!」
2人に私は笑顔を配った。
2人は泣きながら笑ってくれる。
そして、最後のフィナーレの花火を見れた。全ての花火は見れなかったけど結美が隣にいてくれればいいや。
若干疲れて、眠かったけど降ってくるような花火は目を奪われた。
とても色鮮やかで、宝石が空に飛んでるかと思った!
良かった。私はちゃんと守りたい者を守れる人なんだ!
これからはもっと沢山の人を助けないといけないからさらに頑張らないとね!