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3分読み切り短編集

浴びるほど。

作者: 庵アルス

 酒を浴びるほど飲む、という表現があるだろう。大量に酒を呑んで、呑まれることの例えだ。

 そこまで酒を呑むのは、人それぞれ理由があると思う。

 何故『浴びる』なのかわからなかったが、今の自分なら納得いくような気がする。

 なんでもいい、とにかく浴びてしまえば、自分の嫌なものが流れてくれるような気がする。昨日今日の嫌なことでも、呑んでいる間は考えなくてよかったし、生来のコンプレックスも、まるで別人のもののように気にならなくなるし。

 呑む前は、どん底にいるような気分だ。なにもかもが嫌になって、食事が喉を通らないから、キツい味した液体を口に流し込む。喉が灼けて、胃がひくついて、それでもざぶざぶ呑んでしまう。

 そのうちに気分がよくなって、度を過ごして。ハイになっている間は、溺れていることにさえ気がつかない。ただ、自分にまとわりつく嫌なものが、違うものにすり替わっている、そんな自覚がかすかに漂うだけ。

 酔いも回りきって、意識を攫って、次に目を開けてみると、それはもう他にないくらいに気持ちが悪い。頭は痛いし、喉はヒリヒリする。

 前夜の思い出したくもない出来事は蘇ってくるわ、ここまで呑んだ自分に嫌気が差すわで、なにも手を付けられない。

 まるで、干からびそうなほどに居心地の悪い岸辺に打ち上げられたみたいだ。水を失った魚が足掻くように、どうにか動いてみる。

 気だるい身体を引き摺って、シャワーを浴びる。熱い水を浴びて、シャボンの匂いに包まれているうちに、どうにか冷静になってくる。

 前回の宿酔(ふつかよい)の時にも同じ境地に達しているのに、禁酒や断酒は思いつかない。考えないようにしている、という方が正確かもしれない。酒をやめたところで、沈みきった気分が浮上してくれるわけではない。

 酒を続けたところで、泥酔と宿酔を繰り返すだけなのだが。

 酒の匂いや汗をさっぱり洗い流すと、少しは自分がマシな人間になった気がする。けれどその矢先に、ねちっこい自己嫌悪が這い上がってくる。足元から、ずるずると。

 ローテーブルを前にどっかり座る。ペットボトルのお茶をぐびぐびと飲んだ。喉がよほど渇いていたのか、ほとんど飲みきってしまった。

 リサイクルゴミの回収、明後日だったな、と思い出した。嫌なものをなにも含まないフラットな思いつき。

 そこで自分は、なにかを浴びたいのではなく、なにかに溺れたいのでもなく、地に足をつけていたいのだなと気がついた。

「⋯⋯酒やめようかなぁ」

2020/11/18

ちなみに僕は下戸です。

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