ステラの異変①
ステラが無事帰った事は、その日の内に国民に知らされた。中でも、兵士達の喜びようは半端なものではなく、士気は一気に上がった。
彼らは、女性としての幸せを投げうって最前線に立ち続けるステラを、これまで護りに護って来たのだ。彼らにとってステラは、我が子であり、姉妹であり、希望だったのである。
ステラは、ライト王国に帰ると、真っ先にストレンジ博士を訪ねた。ユウキを護る戦闘スーツの依頼の為である。
「おお、ステラ、よくぞ戻って来てくれた。心配したんだぞ、いや良かった。どれ、近くへ来て顔を見せてくれ」
ステラが博士に抱き着くと、彼は「良かった、良かった」と彼女の背中を優しく撫でた。
「博士、ご心配をおかけしました。次元移動装置をありがとうございます」
「うむ、間にあって良かった。お陰でくたくたじゃ」
「本当に有難う!」
ステラは、再び、彼の胸に顔をうずめた。
ストレンジ博士は、まだ五十台だが頭は白く、度のきつい眼鏡をかけている。ライト王国の武器開発の責任者で、ステラが父親とも慕う人物なのである。
「博士、お願いがあるの。次元移動装置を戦闘スーツにつけられないかしら。あと一つ、防御能力の高いスーツを作ってほしいんだけど……」
「相変わらず、お前は人使いが荒いな。向こうで何かあったのか?」
ステラは、地球での出来事を掻い摘んで話し、ユウキを戦士にしたい旨を伝えた。
「なるほど。それで、そのユウキと半年も一緒に暮らして何もなかったのか?」
「……彼は、私を愛してくれていますが、私にはこの国を護る使命があります。愛などと言っている時ではありませんから……」
ステラはそう言って目を伏せた。
「なんだ、気になっておるのか? ……まあ、良かろう、ステラの恩人なら儂も力を貸そうじゃないか」
「博士、無理を言ってすみません」
ストレンジは、ステラが時折見せる物憂げな表情が気になりながらも、王宮へ帰る彼女を見送った。
このサファイヤ星には、南、北、中央と三つの大陸がある。中央の大陸がステラの国でライト王国。南の大陸は、核戦争の傷跡が未だに残る不毛の大陸で人は住んでいない。北には、宿敵、ネーロ帝国があった。
ライト王国は、この、ネーロ帝国の侵略を受けて、十年越しの戦争が、まだ続いていたのである。
この世界では、悲惨な核戦争の反省から、大量破壊兵器を封印し、戦闘スーツやアンドロイド等による肉弾戦が、戦争の主力兵器になっていた。
この戦闘スーツは、重力制御で自在に空を飛び、シールドの防御装置、エネルギー弾、ビームサーベルなどの兵器を搭載していて、一体だけでも、戦闘機や戦艦以上の働きをする優れものである。
ステラは、帰任してすぐに北の戦線へ飛んだ。大陸北部の海岸線では、ネーロ軍との小競り合いが続いていたからだ。
例の銀色のタイプのアンドロイド百体が、小さな町に出現したという情報を受けると、ステラは、十剣士を含む百名の体制で現場に急行した。
ステラ達が現地に到着すると、既にあちこちで火災や黒い煙が上がっていて、町の上空には、敵のアンドロイドが飛び回っていた。
彼女が、ビームサーベルを翳し、敵のど真ん中に斬り込んでいくと、レグルス率いる十剣士がそれに続いた。
エネルギー弾が飛び交い、ビームサーベルが火花を散らし、敵味方入り乱れての激しい空中戦が始まった。
すると、敵のリーダー格のアンドロイドが、ステラ目掛けて突進し、ビームサーベルで攻撃を仕掛けて来たのだ。
ステラは、いつもの様に敵を迎え打とうと、ビームサーベルを振るったが、何故か、身体が思うように動かないのである。ステラは、重い身体を叱咤するように、必死で応戦したが、相手の勢いに押されっぱなしになっていた。
(いったいどうしたというの、戦闘感覚がおかしい!)
ステラが自分の異変に気付いた、その瞬間、彼女のサーベルは弾かれ、戦闘スーツは切り裂かれた――。