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戦士ステラ   作者: 安田けいじ
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訪問者②

ユウキへの想いが仇になって弱くなったステラは立ち直れるか?

一方ユウキは、いよいよ戦士への訓練が始まる。

「いえ、そうではありませんが、彼は私を心から愛してくれています。私がその愛には応えられないと言うと、彼は自殺を図ったほどです。そこまで私を思ってくれる彼の願いを、今は、叶えてやりたいと思っています」


「その願いは何なの?」


 アンドロメダは、硬い表情を崩さずに訊いた。


「私達の世界で死にたいというのです」


「えっ、話がよく分からないわね……。いいわ、その話は彼が帰ってからにしましょう。ステラ、貴方の顔を見たら安心して、お腹が空いて来たわ。何かあるかしら」


 ステラは「はい」と答えて台所で支度を始めた。レグルスが、そんな彼女を目で追いながら感慨深げに言った。


「ステラ様がお元気で本当に良かった。こんなに嬉しい事はありません」


「あなたは、ステラの戦闘の師匠だったわね。これからも守ってあげて頂戴」


「はっ! 十剣士の名にかけてお守り致します」


 レグルスとサルガスが手を胸に当て、頭を下げて女王に敬礼した。十剣士とは、十人の剣の達人で、レグルス率いるステラの親衛隊のことである。



 夕刻となって、ユウキが帰宅した。彼は、玄関の見慣れぬ靴を見て、異世界からの迎えが来たと悟った。


「ユウキさん、お帰りなさい。国から母が迎えに来てくれたの」


「そうか、来てくれたのか……」


 ユウキは、「よかったね」と言おうとしたが、言葉が出なかった。彼が客間の方に歩いて行こうとした時、ステラが耳元で囁いた。


「母は女王でもあるの。挨拶して下さる」


 ユウキは「えっ」と驚いてステラを見たが、彼女は微笑んでユウキの背中を押した。ユウキは緊張した面持ちで、アンドロメダの前に進むと、頭を下げた。


「初めまして、ユウキと申します。縁あって、ステラさんと一緒に暮らしています。宜しくお願いします」


「母のアンドロメダです、娘が大変にお世話になりました。心からお礼を申します」


 女王はユウキに頭を下げてから、サルガス、レグルス、そして坊主頭のハダル大佐を紹介した。

 六人は、小さな食卓を囲んで、ステラの手料理を食した。若いサルガスが、感激したように言った。


「うまい! ステラ様に、こんな料理が出来るとは思いませんでした」


「あら、私だって料理くらい出来るわ。といっても、地球に来て初めて作り始めたんだけどね」


 と、ペロッと舌を出した。



 好評の食事も終わり、コーヒーを飲みながら、アンドロメダが話を切り出した。


「ユウキ殿、明日ステラを連れて帰ろうと思いますが、よろしいですか?」


 アンドロメダは、ユウキの反応を確かめるように言った。


「ステラは私の大事な人です。帰す訳には行きません」


「えっ!」


 アンドロメダが、厳しい表情でユウキを見た。


「お母さま、ジョークです。この人は、そんな分からず屋じゃないわ」


 ステラは、ユウキの顔を見て微笑むと、彼の腕を抓った。


 ユウキは「痛っ」と腕を引いてステラを睨んだ。


「まじめにやって」


 ステラに言われるとユウキは居住いを正した。


 アンドロメダ達は、そんな二人のやり取りを見ていて、ステラの心の変化に気付き始めていた。


「すみません。ステラへの未練がまだ残っているようで、本音が出てしまいました。

 私は、ステラの苦悩も、彼女の帰りを待ちわびる人達がいる事も、分かっているつもりです。どうぞ、お連れ下さい。

 ……それで、陛下にお願いがあります。私は、彼女に振られて死のうとした不甲斐ない人間ですが、今は、個人的な感情は捨てて、純粋にライト王国の為に戦士となって戦いたいと思っています。あなた方の世界に連れて行ってもらう事は出来ないでしょうか?」


「ユウキ殿、ステラには既に婚約者がいます。向こうへ行っても、あなたの居場所はないと思うのですが……」


「構いません、ステラさんへの想いは断ち切ります。ただ、次元を越えて巡り会った不思議な縁にはこだわりたいのです。彼女が守ろうとしている人たちの為に、戦かわせて下さい!」


 ユウキは、頭を下げて懇願した。暫しの沈黙の後、坊主頭のハダル大佐が口を開いた。


「戦うと言っても適合性というものもありますから、取り敢えず、訓練を受けてみてはどうですか?」


「そうなると、戦闘スーツも作ってもらわなければいけないし、戦闘訓練の師匠を誰にするかも決めねばなりません。お母様、この話を進めてよろしいですね?」


 ステラが、強引に話をまとめると、アンドロメダも渋々頷いた。


「有難うございます、このご恩に必ず報います!」


 ユウキは晴れ晴れとした顔で、女王に頭を下げた。


 

 次の日の早朝、ユウキに別れを告げたステラは、半年暮らした家を後にした。愛情が無いとはいえ、ユウキは半年間一緒に暮らしてくれた恩人である。ステラは何度も振り返り、手を振って、朝もやの中に消えていった。


 その日から、ユウキは、ステラからの便りを待つことが最大の仕事となった。


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