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戦士ステラ   作者: 安田けいじ
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訪問者①

 ユウキの自殺未遂から二週間が経っていて、彼は、ステラの献身的な介護によって心身の元気を取り戻し、職場復帰を果たしていた。

 彼は、正常な判断が出来るようになると、ステラに失恋して、命を捨てようとした自分が情けなく惨めに思えた。


 このままではいけないと思ったユウキは、自分はこれからの人生を、どう生きればいいのかと、真剣に考えだした。そして、その答えを見つけようと、寸暇を惜しむように、哲学書、宗教書等を読み漁っていったのである。

                  

 その中で、彼の心を引き付けたのは、仏教の因果論と利他という考え方だった。

 過去に積んだ因が、縁によって今世に結果として現れるという因果論。世の中に偶然という事は無く、この世で自分に起こる事は全て、過去世と、今の自分の行動で決まってしまうと言うのだ。


 ユウキは、この因果論を、出会いという観点から考えてみた。

 ステラとの出会いも単なる偶然ではなく、過去世において、彼女と何らかの関係があったのかも知れないと考えたのだ。

 本来会えるはずもない、次元を越えて巡り会った二人に、不思議な縁を感じない訳にはいかなかった。


 もう一つの利他は、この大宇宙には、生命を慈しみ育む慈悲という本然の力が備わっていて、その大宇宙のリズムに合わせた生き方が、人間としての最高の生き方であると説かれていた。

 そして、小さな自分にのみ固執する利己を突き抜けて、他人を慈しむ利他の実践こそが、自分の人生を充実させる最高の生き方だと示されてあった。


 勉強するうちに、ユウキは、ステラへの恋心に固執していた小さな自分を思わない訳にはいかなかった。そして、尊極の自分の命を自分で殺すという愚かな行動は、絶対にしてはならないと猛省した。


 彼は、自分にとって最高の利他の行動とは何かを考えた。――ステラと別れて、地球で、人の為のボランティア活動に人生をかけるのか、もしくは、ステラの世界へ行って、戦士となって異世界の民衆の為に戦うのか、彼は、この二択しか無いと思った。


 前者は、現実的な選択で、それなりの人生は約束されるだろう。だが、後者は、――異世界からの迎えが来たらという条件付きだが――、命の保証も無い過酷な選択となる。


 ユウキは自分自身に問いかけた。

 ――ステラに振られて自暴自棄になってはいないのか? 仮に異世界へ行っても、ステラが他人に抱かれるのを我慢出来るのか? それでも異世界へ行く意味はあるのか? 悔いは残らないのか、と。


 再び、悩み苦しみ始めたユウキを見て、ステラは心配したが、彼はよく食べ、元気に会社へも行った。深く思い悩んではいたが、前回の時とは明らかに違っていたのだ。


 彼は、数日考えに考えて、一つの結論に達した。


「よし! 一度死んだ命だ。自分やステラの為ではなく、戦争で苦しむ異世界の民衆の為にこの命を使おう!」


 ユウキは拳を握り、そう決意したのである。 



 次の日の早朝の事である。ステラとユウキが出会った山の上の池に、再び閃光が走り、銀色の球体が突然姿を現したのである。球体は静かに着地すると、そこから二つの人影が降り立ち、何処かへ消えていった。


 ステラがユウキを送り出して、家事が一段落した頃、玄関のチャイムが鳴った。


「はーい!」


 ステラがドアを開けると、二人の男が立っていた。


「レグルス! サルガス!」


 ステラは、辺りを見回してから二人を招き入れた。二人は、ステラの守護役で、長身の方がサルガス、知的な方が親衛隊長のレグルスだ。二人共、サファイヤ星では最強クラスの戦士である。


「ステラ様、よくぞご無事で、私達が居ながら申し訳ありません……」


 レグルス達が跪くと、ステラは涙を流しながら彼らの手を取って、約半年ぶりの再会を喜んだ。

 彼女は、彼らを客間に招き入れると、はやる心を押さえて、彼らと向き合った。


「博士が次元移動装置を完成させたのね?」


「はい。ステラ様が消えた場所から痕跡を辿って、ここまでやって来ました」


「それで、向こうの戦況はどうなの?」


 ステラの顔が、戦士の厳しい顔に変わった。


「予断を許せません。ステラ様の死亡説が流れ、兵士達が弔い合戦だと奮起したため、何とか持ち堪えていますが……」


「そう、早急に帰らなければいけないようね」


「お願いします。実は陛下もお見えになっているんです」


「お母さまが!?」


「はい、ステラ様が行方不明になってから、ご心労で体調を崩されていたのですが、今回どうしても同行するとおっしゃって。もうすぐお着きになります」


 レグルスとの話が一段落した頃、母アンドロメダが、軍の大佐であるハダルを従えて現れた。


 ステラの母アンドロメダは、ネーロ軍との戦いで戦死した、夫シリウス王の後を継いで、ライト王国を今日まで支えて来た女王なのだ。その女王としての辛労の為か、五十代の年令の割には、老けて見えた。


「ステラ! よく無事で。よかった、本当によかった」


 母は、わが子の無事を確かめるように、何度も何度も抱きしめ、その頬を撫でた。ステラは抱きしめた母の細さに驚いて、ソファーに座らせた。


「お母さま、お痩せになられて……ご心配をおかけして申し訳ありません」


「大丈夫よ、あなたの元気な顔を見て、私も元気が出てきたわ」


 ステラは、母を気遣いながら、地球での出来事を簡単に説明し、ユウキという青年に救われ、共に暮らしている事を伝えた。


「一緒に暮らしているって、どういう事なの?」


 アンドロメダの顔から笑みが消えた。


「夫婦のまねごとをしています。もうすぐ帰ってくるから紹介するわね」


「夫婦? あなたにはデネブ大佐と言う婚約者がいるんですよ。まさか、その人を好きになったのではないでしょうね?」


 アンドロメダは驚いた様子でステラを見つめ、レグルス達も厳しい表情を浮かべた。



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