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戦士ステラ   作者: 安田けいじ
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募る思い

  日増しに募る、ステラへの想いはどうしようもなかったが、彼女の本音が分かった事で、ユウキの気持ちもある程度整理が出来た。そして、別れが来た時に、出来るだけショックを受けないよう、距離を置こうと彼なりに考えていた。


 次の日曜日、例の如くケンジがやって来た。ステラが買い物に行っている間に、ユウキは、自分の彼女への気持ちと、先日のステラの本音を彼に話した。


「そうだったのか。お前の気持ちは何となく分かっていたが、そうか、振られたか。

 ……実を言うとな、俺も彼女の事が好きになってしまっていたんだ。共に暮らすお前が羨ましかったんだが、向うの世界に帰ってしまってはなあ」


「まだ、確実に迎えが来ると決まったわけじゃないが、必ず来るというのは僕の勘だ」


「お前の勘はよく当たるからな。……それで、今日はステラさんとデートしたいんだがいいか?」


 ケンジの顔は笑っていたが、眼は真剣だった。


「僕は単なる同居人だ。彼女に聞いてくれ」


 二人がそんな話をしている内、ステラが買い物から帰って来た。


「ステラさん、面白い映画があるんだ、一緒に行かないか?」


 ケンジが待ちかねたように、二枚の映画の鑑賞券を見せると、彼女は、ユウキの方をチラリと見た。


「僕に遠慮はいらないから楽しんでおいでよ」


 ユウキが笑顔で言うと、ステラも頷いた。



 ケンジとステラがデートに出た後、ユウキは畳の上に寝転がって、考えに耽りだした。


 最近彼は、ステラが異世界へ帰ってしまう夢をよく見るようになっていた。ステラの名前を叫んだり、泣いたりして目が覚めるのである。

 ステラへの想いは、二階にいる彼女の事を思うだけで胸がキュンとなった。だが、彼女の心が自分には無い事を知ってから、やり場のない思いを引きずっていたのだ。


 報われぬ片思いに、ユウキの心は沈み、溜息が漏れた。



 夕刻になって、ステラがデートから帰って来た。


「ごめんなさい、すぐに食事をつくるから」


 ステラは、お土産を食卓の上に置くと、コートを脱いで、エプロンを着けながら食事の支度に取りかかった。


「どう、映画は楽しかったかい?」


「そうね、貴方も行けばよかったのに」


「彼は、ステラを好きだと言ってたから、一度二人きりで過ごさせてやりたいと思っていたんだ。厳密に言えばステラは、僕の単なる同居人だからね。迷惑だったらごめんよ」


「……彼に求婚されたわ」


「えっ、求婚!?」


「ユウキは反対なの?」


「当たり前だ。振られたとはいえ、君を他人に取られたくはない」


「……」


 何も言わないステラを、ユウキが急かせた。


「君は、何と答えたんだ?」


「ノーに決まってるじゃない。この平和な日本で暮らすあなた方には、異世界で私の夫となって戦うことなど出来っこないわ。だから、恋愛対象外なの。何度言えば分かるの!」


 ステラの突き放すような言葉は、ユウキの心を更に打ちのめした。彼は反論する事も出来ず自室に閉じこもると、その日は食事も摂らず部屋から出て来なかった。


 翌朝、朝食を共にしても、ユウキが一言も話さないので、二人の間には気まずい空気が流れていた。


「貴方の気持ちに応えられないんだから、一緒に暮らす事は出来ないわね。明日にも出て行くから」


 ステラが、真顔で言うのをユウキも覚めた心で聞いていた。


「出て行くって? 生活はどうするんだ? また、人の良さそうな男を騙して一緒に暮らすのか? それなら、ケンジの所へ行けばいい!」


「貴方の指図は受けないわ!」


 流石にステラも声を荒げて怒り出した。



 そして、ステラは、ユウキの前から姿を消した――。



 ステラが居なくなると、ユウキは心にぽっかりと穴が開いたようになって、何をする気も起こらなかった。ケンジが励ましに来ても、虚ろな返事をするばかりだった。

 終には、会社を休み、ろくな物も食べずに家から出る事も無くなり、日増しにやつれていったのである。


「ステラ……」


 ユウキは、誰もいない部屋の中で彼女の名前を呼んでは、溜息をついた。

 そんな日々が二十日も続いたある日、ユウキは発作的に死の衝動にかられ、首を吊って死のうとしたのだ。

 ふらつく身体で天井の柱にロープをかけ、椅子の上に載って、輪の中に首を入れ、目を瞑って一気に椅子を蹴った。


 その時、青いビームサーベルが煌めいて、そのロープを斬った。ユウキは床にドスンと落ちた。目を開けると、そこには、戦闘スーツを着たステラが立っていた。


 彼女はスーツを脱ぐと、起き上がろうとしたユウキの頬を平手で打った。パシッ!と大きな音が部屋に響いた。


「何をするんだ!」


 ユウキは、ステラを睨んで怒鳴ったが、その声に力は無かった。そこには、凛々しかった彼の面影は何処にもなかった。


「ユウキの馬鹿! そんなに死にたいんだったら、私が死に場所を見つけてあげるわ!」


「余計なお世話だ。お前の世話になんかなるものか!」


 ユウキが、顔を背けて言うと、ステラは、興奮するユウキを宥めて立たせ、ソファーに座らせ、その横に寄り添った。


「馬鹿よ、あなたは……。こんな平和な国を捨てて、異世界の女の為に死のうとするなんて……。

 迎えが来たらの話だけど、貴方が異世界へ行けるかどうか検討してみるわ。異世界へ行っても無駄死にするだけだと思うけど、それでもいいのね?」


「本当か? 本当なんだね?」


 ステラが頷くと、ユウキはポロポロと涙を流した。


「何か作るから、食事をしましょう。何も食べて無いんでしょう」


 ステラは台所に立つと、手際よく雑炊をつくった。


「最初は、柔らかいものがいいでしょ、ゆっくり食べて」


 ユウキは、久しぶりの彼女の手料理を「美味しい美味しい」と涙を流しながら食べた。


 それからのステラは、人が変わったように良く笑い、良く話し、優しくユウキに接してくれた。だが、それはユウキへの愛ゆえではなく、今迄世話になったユウキへの、せめてもの恩返しだったのである。

 

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