コスモ②
「博士。サウスシティでの戦いでは、サイボーグスーツのヤミの前に、私達は成す術がありませんでした。あの様なサイボーグスーツが何体も出てきたら、ユウキがいくら強くても対応出来なくなります。私達の戦闘スーツもパワーアップが必要です」
軍を率いるステラにとって、スーツの性能アップは喫緊の課題だった。
「分かっておる。修羅化したお前でも、ヤミには勝てなかったのだ。スーツの強化を急がねばならんのは分かっているのだが、そう簡単に、新しいスーツなど出来るものではない」
戦闘スーツの開発責任者として、誰よりも新しいスーツの完成の為に、辛労を尽くしているのはストレンジしかいなかった。だが、彼も自分の力の限界を感じない訳にはいかなかった。
「そうだわ、博士、エイリアンのスーツの、コスモと話せないの?」
ステラが、名案でも浮かんだような顔で訊いた。
「いや、あれから話しかけてはおらんが、どうじゃろう?」
ストレンジも、ユウキの肉体改造が終わるまでは邪魔してはいけないと、コスモに話しかけることはしなかったのである。
「コスモ、私はステラ。スーツの性能を上げる為の知恵を貸して貰いたいんだけどダメかな?」
ステラが、横たわっているエイリアンのスーツに、遠慮がちに言ってみた。
『知恵はお貸しします』
以外にも、コスモから返事があって、ストレンジとステラは目を輝かせた。
「ありがたい! コスモ、今はユウキの身体の改造中だが、この状態でも何か出来るのか?」
『私は離れるわけにはいきませんが、守護ロボットを呼びましょう』
次の瞬間、クリスタルのボディのロボットが、二人の前に具現化された。
『守護ロボットのルナです。彼女に何でも聞いてください』
現れたルナは、博士が話しづらそうにしているのを見て、人間の女性に変身した。彼女は、身体を自在に変化させることが出来るようだ。
「おお、これは綺麗なお嬢さんだ。ルナ、早速だが、この部分を改造したいのだ、話を聞かせてくれないか」
ストレンジは、戦闘スーツの設計図を空間に投影して、ルナに意見を求めた。
その後、ストレンジ博士とルナは、スーツの改造に没頭し、たった一週間のうちに、一体のスーツを完成させてしまったのである。
「ステラ、エイリアンの科学力は凄いぞ。テストしてみてくれ」
興奮気味のストレンジの要請を受けて、ステラは、新型スーツを着用して、エネルギー弾、ビームサーベル、シールド、動きの速さ等を試してみた。
「博士、凄いわ! 全てのパワーが倍加しているし、高速の動きにも身体の負担は感じません。これなら、ヤミと戦えます!」
弾んだステラの声が研究室に響いた。それは、彼女が求めていた以上の出来栄えだった。
「そうか、何とか間に合ったな。ルナありがとう」
博士とルナが握手して、仕事を終えた彼女が消えてしまうと、彼は寂しそうな顔で、その空間を見つめた。
新型スーツはエイリアンの頭文字を取ってAタイプと名付けられ、工場では戦闘スーツの大量生産に入り、全戦士に配布する手筈が整えられた。
ネーロ帝国への侵攻の準備が着々と進む中、一月が経った。
ステラ達が見守る内、ユウキの戦闘スーツの孔雀がひと際鮮やかに輝くと、彼はむっくりと起き上がった。
「あなた、大丈夫なの?」
「ああ。頭に、いっぱい情報を詰められた感じだ」
『すぐに慣れます。宇宙へ出て、少し身体を動かして来ましょう』
「このスーツの試運転だね。どんな力があるのか楽しみだ」
ユウキは、研究所の外へ出ると、一気に空へ舞い上がった。次の瞬間、ユウキは、サファイヤ星を遥かに望む宇宙へと飛び出していて、コバルトブルーのスーツは眩いばかりの黄金色に変わっていた。
彼が、更に加速し光速に達すると、サファイヤ星は、瞬時に銀河の彼方へと消えていった。
『この銀河なら、ワープ航法を使えば、数時間で何処へでも行く事が出来ます』
「百万光年を数時間で行けるなんて、考えも及ばない速さだ……」
ユウキは、暫く光速飛行を楽しんだ後、近くの岩ばかりの星に下り立ち、戦闘能力を確かめる為に、守護ロボットのフレアを呼び出した。フレアとルナの二体の守護ロボットは、ユウキが任意に召喚可能となっていた。
フレアも女性型ロボットで、燃える身体は傍に居るだけでも熱いほどである。彼女の高速の動きは、人間の目には捉えられないほど早かったが、ユウキにはその動きがよく見えた。
拳で、エネルギー弾で、ビームサーベルで、ユウキとフレアは全力で戦ったが、彼女と互角に戦えるだけの戦闘能力を、彼は、既に身に着けている事を知った。
最後にユウキは、直径数キロはあろうかという小惑星の前に来て、両手を前面に突き出し、渾身のエネルギー弾を放った。彼が、凄まじい衝撃を身体に感じた刹那、小惑星は木っ端微塵に吹き飛んでしまったのである。
「何!!」ユウキは、その威力に恐怖を覚えるほどだった。今までの力の数百倍、いや、それ以上のパワーがあった。
『今ので、最大出力から言えば数パーセントです。今後は、力を加減する事も覚えて下さい』
事も無げに言うコスモの話に、ユウキは、更に怖くなった。
彼は、自分に今起こっている事が現実なのかと、夢心地だったが、サファイヤ星へ帰る頃には、エイリアンの最強スーツを自分のものに出来たという実感が湧いて来ていた。そして、この力をいかに使うべきかを思いあぐねた。
研究所に戻ったユウキは、スーツの性能を博士達に報告した後、ステラと共にサウスシティへと帰った。
ステラハウスに戻ったユウキは、スーツを脱ぎ、上半身裸になって素肌をステラに見せた。彼女は、一瞬顔を背けたが、その身体に大した変化の無い事が分かると、傍に来てあちこちと触りだした。
「ステラ、くすぐったいよ。この通り見かけは普通の人間だ。エイリアンの技術は凄いね」
ユウキは、そう言って、ステラを抱き寄せ唇を合わせた。
「どう? キスの感触は変わっているかい」
「変わらないわ、抱きしめられた感触も同じよ。全て元通りになったのね、本当に良かった」
彼女は、怪我をして自暴自棄になっていたユウキの事を思うと、夢のようだと、目頭が熱くなるのを覚えた。
「エイリアンのスーツには、本当に感謝しかない。この上は、この世界の平和の為に尽くすのみだ」
「そのとおりね」
「……それでも、僕はサイボーグだ。こんな僕でも、ステラは愛してくれるかい」
「もちろんよ。最初は、あなたが機械化されたらどうしようと思った事もあったけど、心さえ失わなかったら何も変わらないのだと、今は、思えるようになったわ」
ステラは何を思ったのか、ユウキの手を取って自分の腕を掴ませた。
「実はね、私の両腕、両足の筋肉もサイボーグ化してあるの。分かる?」
「えっ、何時そんな手術をしたんだい?」
ユウキが驚いて、触っている彼女の腕を見つめた。
「十五歳の時、最初に修羅となった時に全ての筋肉を壊してしまったの。修羅化は怒りに任せて人間の限界を超えた動きをしてしまうから、身体を壊してしまったのね。それで、ストレンジ博士が、サイボーグ技術を駆使して手術をしてくれて、戦士として戦えるようになったの」
「そうだったのか。この身体で、国を護って来たんだね。君は凄いよ」
ユウキは、感謝の思いを込めて、ステラの顔や腕に何度もキスをした。
「あなたこそ、私なんかの為に二度も命を投げ出すなんて……」
「ステラあっての僕だからね。惚れてしまったのが運の尽きさ」
「何それ?」
二人は声をあげて笑った。
その夜、ステラとユウキは、明日からの戦いの事を思いながら、抱き合って眠りに就いた。




