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四話

 二重人格なのだろうか。ゴブリンと闘っているときと普通に生活しているとき、なにかが違うのだ。ゴブリンナイトの時もそうだった。自分が変わっていく感覚が心地良かった。今までの弱い自分から卒業できたような気がしたから。

 だから溺れたんだ。自分の思うがままに。

 ゴブリンどもの悲鳴が聞こえる度に、強敵と刃を交える度に、見も心も昂っていった。


 俺はそれが心地良(こわ)かった。


 人でないものを殺していくうちに、自分が人でなくなっていくような気がした。



……だからだろう。


 彼らに肯定された気がして、

 味方が出来た気がして、

 

 嬉しかった。



「なんだ、そういう顔も出来るじゃん」

「初めて笑ってくれたね!よかったよかった」


 ヘンリー達が笑いかけてくれる。それだけで救われた気がする。涙が出そうになるのを、グッと堪える。

……どうやらケインに気づかれたようで、微笑ましいものを見るような目で見てくる。やめてほしい。



「いや、それにしても凄いね。アッシュは冒険者になってまだ数日だろう?これはSランクも夢じゃないな!」

「そうか?」


 ヘンリーが褒めてくれる。褒められるのも初めてだ。


「わかんないでしょ。Sランクは化け物ばっかよ?Aランクとは全くの別物。そこの調子乗ってる馬鹿とは違ってね」

「は?Bランク風情が何言ってるんですかねぇ!?」

「おい、それはBランクの俺達を馬鹿にしてんのか?」

「酷いです、リーダー……私、信じてたのに……」

「サイテー」

「え!?いやいやいや、嘘だよ嘘!そんなこと思ってるわけ無いじゃないか!!」


 そんな会話に、つい声を出して笑ってしまった。


「はははは、ふ、ふふっ……あはははは!」

「なに笑ってるんだいアッシュ、うろたえる僕を見てそんなに楽しいかい?」

「いや、ふふっ、悪い。お前らみたいな奴は初めてだ。このパーティーに入ってよかった。ははは」




……嗚呼、この時間がずっと続きますように。







 その後も俺達は北の森で魔物と闘った。

 初めて遭遇する魔物達、その不可思議な生態に驚かされるばかりだった。 


 角が剣のような素早い鹿、ソーディアー


 豚の顔をした愚鈍な大男、オーク


 根が動く不気味な木、ウォークウッド


 鎌の動きが捉えられない巨大蟷螂、インビジブルマンティス


 土に擬態した鰐、グランドゲーター


 さらには複数の魔法を行使するゴリラザードまで出てきた。


 最初から順に北の森の中心に近づくにつれ出てくる魔物だ。

 だが、何よりもおかしかったのはゴブリンの遭遇率。数えるのも面倒なほどに出現してくる。あんなにも苦戦したゴブリンナイトは勿論、Cランクのゴブリンデュークや、同じくCランクのゴブリンウォーロック、Dランクのゴブリンクレリックなどが大量に出てくるのだ。


 だが、ヘンリー達も負けていない。流石はBランクのパーティーだ。

 ケインはゴブリンデュークの攻撃にも無傷だし、ロゼッタは百匹を越えるゴブリン達を風魔法で瞬殺。マーレは木に引火しない炎魔法で次々にゴブリンを焼き殺していき、ヘンリーは剣も魔法も扱える魔法剣士で、一番多く殺しているだろう。

 やはりBランクは凄まじい。ゴブリン達が憐れに思えるほどだった。


「ふぅ、今回はやけにゴブリンが多いな」

「そうですね、もしかしたら近くにゴブリンの集落が出来ているのかもしれません」

「ふむ、ギルドに報告しておいた方がいいだろうな。これは異常だ」

「はああぁぁ、疲れたぁ!何で森の中なのよ!炎魔法が使えないじゃない!」

「そうカッカすんなって。十分活躍してたじゃねぇか」

「いいえ違うわ!炎魔法は開けた場所でこそ、その本領を発揮するのよ!こんなじめじめした場所でなんか、相性最悪!」

「ごめんね、マーレ。しばらくは我慢してくれ」

「おっ、珍しい。ヘンリーがマーレに謝ってるぞ」

「そうですね、明日は雨でしょうか?」

「違えねぇ」


 そんな談笑をしながら、帰路につく。今日も夕焼けが綺麗だった。




   ◆◆◆





 翌日、報酬金を受け取った俺達は、ロゼッタの予言が見事命中してしまったことに溜め息を吐く


「まさか本当に雨が降るとは……」

「くっ!マーレになんて謝るんじゃなかった……!」

「ねぇヘンリー。ちょっと表に出ましょう?」

「嫌だね」

「まあまあ、せっかくだし今日はダンジョンに行く準備でもしないか?そろそろ気分をリフレッシュするのも悪くないと思わないか?」

「良いですね。そこならマーレちゃんも魔法が使えますし」

「よし! 今日は各自でダンジョン攻略の準備だ!」

「ダンジョン……か」


 ダンジョン。それはこの星の至るところに存在するもので、例えば、迷路のように複雑な道、強力な魔物、そして夢がつまった宝箱、と思えば擬態した魔物だったり、特殊な仕掛けがあるものや、ひたすらに強い魔物が出てくる場所なんかもある。

 そんな危険で、死と隣会わせな場所であるにも関わらず人は無謀に、蛮勇に挑み続ける。何故か?

 それは地上の魔物より、手に入れられる経験値の量が多いのだ。


「アッシュはダンジョンについてわからない所でもあるかい?」

「いや、恐らく問題ない」

「ならば、君のレベルアップも兼ねての攻略としよう。準備については僕が教えるね」

「よろしく頼む、リーダー」

「おぉ。リーダーっぽいわよ、ヘンリー」

「リーダーだよ! ぽいじゃなくて正真正銘のリーダーだから!」


 さて、ダンジョンの準備で最も必要なもの、それは飲料水だ。食料なんかはダンジョンの中でも手にはいるが、水は手に入らない。様々な説があるらしいが、原因は分からないそうだ。魔物が飲み干してしまう説、ダンジョンの壁が水を通さない説などが有力説だとヘンリーが言っていた。

 話を戻すが、飲料水が重要な中で役立つのが、空間魔法が組み込まれた水筒だ。かなり高価だが、持ってると持ってないとでは、天と地ほどの差がある。空間魔法により、入る水の量が数倍にもなるという。さらに高価なものは、入る量も増え、品質も落ちにくくなるらしい。

 そんなものは貴族や王族ぐらいしか手に入れられないが、これでも元貴族なので見たことはある。まあ、どうでも良いことだ。



「よし、水はこんなもんで良いだろう。次は魔石をいれる袋だ」


 魔石とは、ダンジョンで発生した魔物のみがたまに落とす魔法の込められた石のことで、かなり多くのものに使える。

 例えば炎魔法が中に入っていれば、その魔石を砕いたり、魔力を注入することによって、炎魔法の再現が出来るというものだ。だが、魔石を砕けばもう二度とその魔石は使えないし、魔石に魔力を注入するといっても、かなりの努力や準備が必要だ。


 この魔石を使ったもので有名な武器がある。

 大昔のこと、賢者と呼ばれた大魔法使いアルケイドと、最高の武器鍛冶師と呼ばれた鍛冶師サイドンの共作、その名も魔導剣レドだ。

 剣の柄に雷属性と氷属性の魔石、そしてそれらの魔石に込められた魔法を発動させる魔法式が描かれており、二属性の魔法を同時に扱える他、剣自体もとんでもない切れ味という代物で、ユーデルト王国の国宝剣に指定されている。


 そんな魔石だが、勿論のことで高く売れる。中の魔法によって値段が変わるが、少なくともゴブリンの数十匹の命より高い。

 ゴブリンと言えば、ゴブリンナイトが落とした綺麗な石だが、あれは何なのだろうか。


「リーダー、少し聞きたいことがある」

「うん?何かな?」

「これなんだが……」

「これは……魔石? いや、少し違うか……これを何処で手に入れたんだい?」


どうやらヘンリーには何かが分かるようだ。


「この前、ゴブリンナイトと闘ったんだが、倒したときにソイツを落としたんだ」

「うぅぅん……見たことがない。ダンジョンでって訳じゃないんだろう?」

「ああ。確かに北の森で手に入れた」


 しばらく触ったり光にかざしたりしていたが、よく分からなかった。だが、興味津々なようで、貰っても良いかと聞かれた。普通に断った。







   ◆◆◆








 雨が降っている。空を覆い隠すその暗雲に隠れる影に、誰も気付かない。

 見えないからじゃない。見れないのだ。


 それは黒い鳥。


 誰も見ることを許されない。


 それは強欲の鳥。


 天候すら操作する規格外の力。


 それは神話に名を残す、伝説の内の一匹だった。



―――――雨は降り続けている。






   ◆◆◆





「おいおい、これは流石におかしいんじゃねぇか?リーダー」

「ああ。この前のゴブリンといい一週間も降り続ける雨といい、何か異変が起きているんだろう。だが、それを調べるのは僕らの仕事じゃない」


 一週間も降り続ける雨に、ユーデルト王国の人々はうんざりしていた。

 川は氾濫し、あまりの雨に誰も外に行けない。畑はぐちゃぐちゃで、もう既に見る影もないほどの豪雨。生活に困る人々を尻目に、未だその勢いが落ちる兆しが見られない。

 さらに追い討ちをかけるように起こる魔物の謎の活発化。天候で足場の悪くなった場所では、いつもの実力を発揮できない。だと言うのに魔物は異常に強くなっている。この一週間で死んだ人間は五十人を越えると言う。まさに異常現象だ。


 このような異常現象の原因を調べるのも冒険者の仕事であり、実際今日もAランクパーティーの冒険者達が辺りを調査している。そこに自分達の出る幕はないと、ギルド内で暇そうにしている他の冒険者。


「暇だ~」

「この後何する?」



「あ!てめえイカサマしやがったな!?」

「証拠は?」

「っう!……くそっ!次は見破ってやる!」



「ちくしょーー!やってられっかこんなこと!」

「まあまあ、良いじゃねぇかよ。奥さんに逃げられたくらい」

「良くねぇよ!ああぁぁぁ!今日は飲むぞオラァ!」



「最近さぁ、レベルの延びが悪いんだよねー」

「分かるわ~。俺も今そんな感じなんだよ」

「なんか良いクエストないのかね?」



 そんな喧騒に包まれていた冒険者ギルドに、ある爆弾が落とされた。


「おい聞いたか!この雨の原因調査してる奴等が一人残して全滅したらしいぞ!」


 シン……と一瞬で静まり返るギルド。暇をもて余していた冒険者達に、その言葉は最も効果的だった。


「詳しく教えろ!」

「いつ?どこで!?だれが!?」

「その生き残りはどうした!?」

「っていうか、原因は分かったのかよ!?」


 それはまるで、餌に釣られてよって来た元気な魚のようだ。彼らは一斉に喋り、誰が何を言ったのかも分からないほどに騒がしくなる。


「うるせぇうるせぇ!落ち着け!順に話すから!」

「早く話せよ!」


 話によると、調査していたAランクパーティーは、東の火山に向かったらしい。そこで見たのは、普段は狂暴な魔物達が、何かに怯え、逃げ惑っていた姿だった。怪しく思ったそのパーティーのリーダーが火山を上ることを決め、他のメンバーも賛成した。

 そして、山の中腹辺りだろうか、そこで奇妙な魔物の死体を見つけた。それは、皮から下が全部抜き取られ、血の一滴も残っていない不気味な死体だった。

 しかもそれと似た様子の死体がわんさかと出てきた。異様な光景に目が話せなかった彼らは、背後に迫る何者かに気付かなかった。生き残りが得た情報は、それが黒い何かであると言うことだけだった。




   ◆◆◆






 空は暗雲に覆われ、日の光をその身体に浴びることはできず、鬱陶しいほどの雨が降る広場の中でひたすらに剣の訓練をしていると、ヘンリーが走ってきて、「緊急クエストに参加してほしい」と、言い出すもんだから理由を聞いたら、この雨の調査に赴いていたAランクパーティーが謎の魔物に襲われたらしく、その魔物の討伐のために緊急クエストという形でギルドが冒険者に依頼し、Bランクパーティーの一員となった俺にも参加する義務があるらしい。


「そんなことが……」

「ま、とりあえずは着替えて、装備とかも準備してギルドの正面に集合。この天候のせいでかなり危険なクエストになるだろうから、無理そうなら来なくても……いや、愚問だったね。」


 俺もこの雨にはそろそろうんざりしてきたところだ。その謎の魔物が原因かは未だ分からないらしいが、Aランクパーティーを全滅させるその強さ、興味がある。

東の火山にそいつはいるらしい。行ったことの無い場所だ。


「ふふふ、面白くなりそうだ……」




    ◆◆◆




 そして、時は朝と昼の中間ほど。場所は冒険者ギルド正面門。そこには多くの冒険者が集まっていた。ほとんどがAランクだが、Bランクもいる。俺たちの他に一つBランクパーティーがあり、Aランクパーティーは三つ。ギルドの大奮発で、このクエストに関係する人全員に4000000ダルの報酬金がもらえるらしい。とんでもない大金だ。恐らく、この雨の厄介さが、報酬を豪華にしているのだろう。


「お、おいあれって……」

「ああ、間違いない……! Sランクパーティー、【瑪瑙の鷹】だ!」


 瑪瑙の鷹?何それと言う視線をヘンリー達に送る。


「知らないのか!?ここらで有名なパーティーだよ!まさか彼らが来てくれるとは……」

「心強いですね……!」


 見たところ人数は六人。

 長い青色の髪で優しげな瞳をした青年、

 茶髪で弓をもった背の高い女性、

 教会のシスターが着るような服を着た緑の瞳の美女、

 短剣を手で回している黒髪の少年、

 眼鏡をかけた女か男か分からない金髪の人、

 見るからに頑丈で重そうな盾を軽々と持つ壮年で頭の涼しい男性。


 全員がSランク冒険者で、SSランクパーティーに昇格するのも近いと言われているらしい。

 こんな大人数で山登りは危険なのでは……と思ったが、火山自体はなだらかな傾斜で、そこまで疲れないそうだ。

……と、どうやらギルドオーナーの登場のようだ。


 五十代くらいの、服の上からでも分かるくらい鍛えられた体、白髪混じりの黒髪は綺麗に整えられている。渋いおじさんって感じの人だ。 

 多分、昔は冒険者だったとか、そんな感じだと思う。


「皆、よく来てくれた!話は聞いているだろうが一応諸々の説明をしておく。今回の緊急クエストだが、今までに類を見ないほどの大雨に突如現れた謎の魔物。この二つの異常自体を解決してもらいたい。報酬は多めにしてある。是非全員が協力して……」

「あーあー、ごちゃごちゃうるせぇなぁ。そんなのはどうでもいいんだよ」


 ギルドオーナーの話を遮る声。声のした場所を見てみると、Sランクパーティーの一人、黒髪の少年のようだ。


「何だと?」

「要はその魔物ぶっ殺せばいいんだろ?簡単じゃねぇか。こんな雑魚供の力借りる必要ねぇよ。俺たちだけで終わらせる」


 とんだ自信家だ。見たところ俺よりも年下なのに、胆が据わってる。ここにいる大勢の冒険者達を敵に回すような発言、俺ならば出来ないだろう。


「ハッ!言い返す言葉も無えか?所詮その程度ってこった!」


……これは、腹立つなぁ。クソガキが調子のってんじゃねえ!と、声を大にして言いたいが、そんなことをして地面に顔をつけるのは自分になるだろうから、言いたくても言えない。


「そのへんにしとけよ、レオ」


 と、頭の寂しい盾のおじさんが咎める。

 やはりあの人は常識人か。何となくだがそんな気がしていたのだ。

 舌打ちをしながら少年、レオと呼ばれた彼は口を閉じる。あのおじさんには逆らえないらしい。


「すまん。話を続けてくれ」

「あ、ああ。ゴホンッ!えー是非とも皆には協力して事に当たってほしい!以上だ」


 話が終わったギルドオーナーはすごすごと帰っていった。

……可哀想に。話の盛り上がる部分をあんなクソガキに邪魔されるなんて。あのレオとかいう奴は、分かっていて邪魔したに違いない。

……おっと!考え事をしていたら人とぶつかってしまったらしい。


「すまん。前を見ていなかった」

「あ?ケンカ売ってんのか?」


……げ、クソガキじゃねえか。よりにもよって何で一番ぶつかりたくない奴と……


「あいつ、噂の新人じゃね? あのゴブリンの!」

「あ、マジだ! 度胸あるなぁ」


何て会話が耳にはいる。

いやわざとやったわけでは……


「新人だぁ? おい、俺が誰だか分かっていてぶつかってきたのか? あぁ!?」


 こちらを睨んでくる姿がどこか弟を思い出させる。

 だからだろう。心にもないことを口走ってしまった。


「いや、小さすぎて視界に入らなかった」





……ブチッ


 何かが切れた音がした。


「うわぁ……レオが一番気にしていることを……」


と、茶髪の弓使いらしき女性が言っている。

あぁ、何で俺小さいとか言っちゃったんだろ……


「殺す!絶対殺す!!」


怒ってらっしゃる、やっぱり怒髪天を衝かれていらっしゃる。


「雑魚が調子のってんじゃねぇ!」


 危ない!ギリギリだ……

 怒りで攻撃が単調になっているから避けれているが、冷静なら今ごろ四回は死んでるな。だってレオ君が短剣で突く度に風圧で髪の毛がブワッてなってる。Sランクヤバイな!

 うわっ!……と、そろそろ怒りも収まってきただろうか。収まってくれてなきゃ困るんだが


「死ねぇぇ!!」


 全然そんなこと無かった。というか、なんか結構粘れてるな。短剣が来るであろう場所が何となく分かる。目線、踏み込み、筋肉、それらの情報が簡単に掴める。

 何だ、Sランクってそんなに大したこと無い?と、数秒前と全く別のことを考える。

 とか思ってたら、急に彼が加速した。

 成る程、本気じゃなかったと!


「てめえほんとに新人か!?……いいぜ、ちょっとだけ本気を見せてやるよ!」


……舐めやがって。ぶっ殺してやる


「はいはい、そこまで!」


 急に目前に現れた影。

 全然見えなかった……まるで瞬間移動したかのような、あり得ない速度だった。

 正体は長い青髪の男。分かる、こいつはヤバイ。


「若いことは良いことだけど、場所を考えようね、レオ」

「……チッ!命拾いしたな、新人!」


 どうやらあちらが引き下がってくれるようだ。ま、全体的に悪いのは俺だが、ここはSランクパーティーの寛容さに甘えるとしよう。


「ちょ、ちょっと!大丈夫なの!?」

「ああ、マーレか」

「何ケンカ売ってんのよ!馬鹿じゃないの!?」

「すまん」


 それでもマーレは何か言いたげだった。何だろうか、もしかしてレオくんの事が気になるのか?もしそうなら悪いことをしてしまった。


「何でDランクのあんたがSランクの動きについていけてんのよ!?」

「……いや、相手は本気じゃなかったらしいが……」

「そうだとしてもアタシはその動きについて行ける自信無いわよ!アンタもしかしてDランク何て嘘なんじゃないの!?」

「いやいやマーレ、アッシュはこの前冒険者になったばかりだよ?たしかにアッシュの動きはベテランのそれだったけど……」


 なんか、周りから驚きの目で見られている。そんな視線は慣れていない。

 今までは見下されてばかりいた。蔑まれ、虐げられ、踏みにじられてきた。




……ふざけるな、ふざけるな!誇りを汚すんじゃない!俺を、馬鹿にするな!!

終わらない……終わらせない、このままで――――――




「……ッシュ!…アッシュ!おい!」

「……え?」

「え?じゃねぇよ。大丈夫か?」

「さっきから呼んでるのに、どうしたの?」

「い、いや、問題ない」


どうやらレオくんが弟に似てたもんだから、つい考え事をしていたようだ。

何故かその考え事が思い出せないが……


何か嫌な予感がする。自分が自分じゃなくなってしまうような、

……そんな予感が。



???「惜しい。だが、もう少しで....」


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