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二話

少し短めです。

 あのゴブリン大量虐殺から帰還した俺は、再び冒険者ギルドに戻ってきた。周りの人達が、ギョッとしてこちらを二度見してくる。何せ服や鎧の前半分だけ真っ赤に染まって、変な臭いを漂わせているのだ。そんな奴がいたら誰だって目を惹かれてしまうだろう。悪い意味でだ。

 森に行く前とは別の人の受付に行く


「お、お疲れ様です...あの、先に汚れを落とした方が……」

「ああ、うん。それもそうだ。……汚れはどこで落とせば良いんだ?」

「え!?えぇっと、大衆浴場が近くにありますけど……道、分かりますか?」


 首を横にふる。すると、臭いを必死に我慢しているであろう二十歳ぐらいの受付さんが、やっぱり……という顔をする。


「此処を出たところを右に曲がって、二つ目の角をまた右に曲がれば着きますよ。……ぅぷっ!」

「そこは無料で使えるのか?」

「い、いいえ。料金が要りますが?」

「やはりな……これの報酬を貰おう。恐らく足りるはずだ」

「あ、そうでしたか。おぇっ……すみません。すぐに計算します」


 別に悲しくなんてない。これはゴブリンの返り血のせいだ。だから彼女が吐きかけているのは俺が臭いって訳じゃない。ないったらない。


 少し、ほんの少しだけ悲しみを感じつつ、俺は受付さんから報酬を受け取る。今日討伐したゴブリンの数は二十九匹。一匹100ダルなので、2900ダル。だいたい三日は食べていける量だ。多分だが……


 さて、大衆浴場に向かうとしよう。


「ぉぇぇぇぇぇ!」




 今のは気のせいだ。そうに違いない。





         ◆◆◆




「ふうぅぅぅぅ……」


 と、前髪から滴る水滴を見ながら、俺はあまりの心地よさに声を出してしまう。

 最初こそ、慣れない公共施設に戸惑いはしたが、いざ入ってみると、なんと心地良いことか。これは金を払ってでも来る価値があるかもしれない。



 それにしても、意外とゴブリンを多く殺せたことに未だ実感が湧かない。この世界は魔法がすべてだ。魔物を殺すにしても、日常生活にしても基本は魔法なのだ。


 俺の弟のように、剣や肉体の強化魔法

 他にも、炎魔法や氷魔法など、魔法は万に通じている。

 だからこそ人の優劣を、魔力量や扱える魔法で決める。そんな世界で、基本の魔法も満足に使えない俺があんなにも簡単にゴブリンを殺せたのが不思議でならない。俺はそこまで剣は強くなかったはずだが……


 まぁ、気にしていても何か分かるわけでもない。せっかく自由な冒険者になれたのだ。好きに生きよう。



 スッキリした。今まであまり汚れることがなかったので、今日はじめて仕事終わりの風呂の気持ちよさがわかった気がする。

 この町に来たときに予約しておいた宿屋に帰る。この宿屋の部屋が俺にとってはちょうど良い広さで、とてもリラックスできる。


「こんなにも充実した一日を過ごせるとは……家を出てよかった……!」


 しばらくはこの町で暮らそう。そう決意した。






         ◆◆◆





 翌日、宿で出る安っぽい朝食を食べ終え、今日も稼ぎのために一際騒がしい冒険者ギルドにてちょうど良いクエストを探しているのだが、どうもランクE以上じゃないと受けれないクエストばかりだ。……しょうがない。昨日と同じ常設クエストでゴブリン狩りにしよう。




そうして、森に向かう途中の、木が疎らに生えている寂しい道で違和感に気付く。

……なんか視線を感じる。何か常識はずれなことをやってしまったのだろうか。それとも恨まれることでもしたか。


尾行されてるのか?あまりよく分からないが、気になって仕方ない。試しに声を掛けてみるか。


「……何か用だろうか。先ほどからこちらを見ているんだろう?」


 と、端から見たら何もない場所で、誰も居ないのに声を出している変人だと思われてしまうであろう行動をする。

……返事はない。当然と言えば当然だが、誰か居るのはわかっているのだ。




 しょうがない、諦めよう。だが、もしかしたら魔物との交戦中に妨害されるかもしれない。警戒はしておこう。







 北の森、別名『初心者殺しの森(ルーキーマーダー)』。この森の特徴として、奥に行けば行くほど魔物が強くなっていく。

 浅いところでランクF~D、中間辺りでC~A、深いところでS。このように大まかにだが、出現する魔物は区切られている。


 だが、もちろん例外が存在する。中間辺りの魔物が森が浅いところに出現し、油断していた初心者があっさり殺されるなんて珍しいことじゃない。

 だから、『初心者殺しの森』と呼ばれるのだそうだ。




 その森で俺は、今日も元気にゴブリン狩りをしている。つい先程も十匹の団体様が無惨にも俺の手で殺された。ここまでなら昨日と一緒なのだが、今日は運が良かったのか悪かったのか分からないが、とにかく昨日とは違った。

 なんとゴブリンの進化種、ゴブリンファイターがいたのだ。しかも三匹。さらにはゴブリンメイジまでご一緒だった。これは挑むべきか、俺は考える。


 もし負けたら俺は死ぬだろう。

 だが、もし勝ったら達成感に包まれ、さらには報酬金も上がるかもしれない。



……よし、殺るか!



「グギャギャギャッ!」

「ギャグギギィ!ゴギャギャギャッ!」


 ゴブリンファイター、こいつはゴブリンの強化版で、ステータスがかなり上がっている。知能も上がっているため、良い連携で翻弄してくる。

 ゴブリンメイジ、ファイターとは逆で魔法が扱えるようになっている。知能がかなり高く、ファイター達の司令塔といった役割を担っているようだ。


 一言で言うなら、厄介(めんどくせぇ)

 まずファイター三匹の時点で五分五分なのだ。なのにメイジまで加わって、危険度が急上昇している。


 さっきからの視線も気になるし……ヤバイな。

……っと、隙有り!


「はぁッ!!」

「グギッ!?」


よし!一匹殺した。少しは楽になったか。


「ギャギャギャギャギャ!!」


仲間が殺され、憤怒の表情でこちらに向かってくるファイター二匹。

そこに横薙ぎと見せかけての突きでさらに一匹。うまい具合にフェイントに引っ掛かってくれた。


「ギャギャ!?」


そして一瞬だが立ち止まったファイターに一対一で挑む。

メイジはファイターが邪魔で魔法が使えないようだ。ふふふ、計画通り……!


「ふんっ!」


 やはり一対一ならたとえ進化したゴブリンであろうとも、さらにレベルアップした俺には敵わない。


「グギャ!?グ……ギギィ……」


 こうしてファイター三兄弟は俺の前に屈した。あとはゴブリンメイジただ一匹。簡潔にいうと接近戦に持ち込んで瞬殺した。


「ふぅ...疲れたな。」


 一旦帰って整理しよう。ゴブリンの耳をいれるようの袋がすでにパンパンだった。

 しかし、さっきのさらに上がいると考えると、かなり厳しい戦いになりそうだ。




   ◆◆◆



 魔物が群雄割拠する北の森。その少し深い場所で、他のゴブリンより頭の良かったゴブリンが何かから逃げるように、それはそれは必死に走っていた。

 木の根に足を取られ、体に浅い切り傷ができても、そのゴブリンは走った。

 

 思い出す殺戮。目の前で体を断たれた仲間の顔が、空虚な目でこちらを覗く。


 

 怖い!怖い怖い怖い怖い怖い!


 あの男が怖い……!



 だが、それと同時にそのゴブリンは思う。

 考えてはいけないことを、仲間だったもの達を裏切るようなことを。


 それは憧憬。一瞬ですべてを壊したあの力への、真っ直ぐで、美しささえあったあの剣への、あまりにも矛盾した憧れだった。

 

 

 嗚呼、あの男が、あの男がぁ、羨ま(怨疚)しいぃぃぃぃ……!





 














 それを見ていたモノが居た。遥か上空から、禍々しい黒雲を携えて、それは嗤う。


 嬉しそうに。楽しそうに、嗤い続ける。


 

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