一話
俺は落ちこぼれだ。魔法がすべてのこの世界で、魔法が使えない。顔は普通で特徴がない黒髪黒目。背も高くないし、筋肉もない。
ざっと挙げただけで俺がどんな奴かがわかると思う。
それに比べて姉は魔法が優秀で、弟は強化魔法の扱いが上手い。おまけに両方容姿端麗、性格もいい。と、思われている
だからだろう。周りから余計に落ちこぼれ扱いされる。性格がひねくれていると自覚している。俺に近づくのは姉と弟に取り入りたい下心丸出しの輩ばかり。
もちろんひねくれている俺は会話すらしようと思わない。おかげで友達ゼロ。
最近姉に、ごみを見るかのような目で見られる。弟は目も会わせてくれない。親は二人に構ってばかり。今日なんか、「お前は恥ずかしくないのか?それでも歴史ある我が家の長男か!」と父に怒鳴られた。
俺の家は、俺の生まれた国であるユーデルト王国に古くからある位の高い貴族だ。
自分の息子を道具としか思ってない親が嫌になる。
話が変わるが、この世にはステータスが存在する。例えば俺のステータス、
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種族:人間
個体名:アッシュ・グレ・トワイクス
年齢:17歳
レベル:2
職業:貴族
ステータス一覧
体力:18
筋力:16
脚力:12
防御力:19
魔力:5
魔法防御力:16
技能:14
運:16
スキル一覧
硬化:防御力、魔法防御力両方の数値を上げる
微回復:体力を少し回復する
称号一覧
落ちこぼれ:効果無し
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とまあ、こんな感じだ。成人男性の平均ステータスが15らしいので、タイマンしてもたぶんこっちが勝つ。……まあ、鍛えてるからだけど。
姉は最近魔力が200を突破したらしい。トワイクス一族の誇りだと、母が喜んでた。
……羨ましくなんかねえよチクショウ。
それで、急に何故話を変えたかと言うと、このステータスを見た父がプッツン来たのだ。たぶん称号を見たからだろう。
そしてついに「このトワイクスの面汚しがっ!貴様などもう知らん!この家から出ていけぇ!」、だ。
これが親の言うことか?弟はニヤニヤしながらこっち見てるし。
「……貴様なぞ、生まれてこなければ良かったのだ!その顔を見ているだけで、気が立ってしょうがない。はした金ならくれてやる。とっとと出ていけ!」
その言葉が、俺の心に傷を付けた。まるで、存在を全否定されたかのようだ。
いや、むしろ消えてほしいのだろう。
分かったよ。お前らがそう言うのなら、俺だって消えてやる。好きでこんなところに生まれた訳じゃない!
そう言ったところで、鼻で笑われるだけだと知っている。だから、精一杯睨み付けて、この家をでていった。朝、小鳥の囀りが鬱陶しく思う今日この頃。
……金はありがたく貰っておいた。
◆◆◆
ユーデルト王国。王族が優雅に暮らす優美であり厳格もある巨大な城を中心に、水の波紋のようにレンガ造りの家が複雑に立ち並ぶ。俺にはそれが窮屈でしかたない。そんな町中で俺は頭を抱えていた。
……さて、どうしよう。
早速路頭に迷った。何をすればいいのか全くわからない。曲がりなりにも貴族やってた俺は、世間のことなどこれっぽっちも知らない。
「よう、兄ちゃん。どうしたんだぁ?そんな項垂れてよ! 溜め息なんぞついてたら幸せが逃げちまうぜ?」
と、どうやらいつの間にか店が並ぶ、人の会話が騒がしい大通りに出てしまったらしく、近くにいた魚屋の人にそんな声をかけられる。
……そうだ!この人にどうすればいいか聞こう!
「あの……」
「オン?どうした、なんか買ってくかい?」
「その、今路頭に迷っているのだが、どうすればいいんだろうか?」
「いやぁ、んなこと言われてもな……」
「……そうか。商売の邪魔をしてすまなかった。忘れてくれ」
「……なあ、兄ちゃん。詳しくは聞かねえけどよ、もし興味があんなら冒険者……なんてどうだ?」
「それは、良いかもしれないな……」
冒険者……昔、母に冒険者が主役の絵本を寝る前に読んでもらったことがある。俺はその冒険者の自由な生き方に心を惹かれた。懐かしい思い出だ。
「そうか! そんじゃ頑張れよ! ほれ」
そう言って渡してくれたのは、小さめのナイフだった。
「これは?」
「新しい冒険者の成功を願って、俺からのプレゼントだ!受け取ってくれ」
「いいのか?こんなものをただで貰ってしまって……」
「ま、未来投資と思えばいいさ! 金が入ったらここで魚でも買ってくれよ」
「ああ、約束しよう。……感謝する」
……人に親切にされたことなんて久しぶりで、泣きそうになる。この優しい魚屋さんの幸せを願おう。
「そう言えば、まだ名乗ってなかったな。俺はクイリだ。よろしく、兄ちゃん!」
「俺は……」
数瞬、貴族の名を使っても良いのかという考えが頭を過る。
……やめておこう。
「アッシュだ。よろしく頼む」
「おう!」
姓は、王族、貴族、高い地位を得た騎士などしか名乗れない。だから、もう貴族でない俺は、トワイクスの名を捨てた。名残惜しくなどなかった。
◆◆◆
冒険者。荒くれものたちが、己の命の価値を確かめるためにその命を懸ける野蛮な職業。普通は身分を証明できないものや、職を失ったものたちが行き着く職業なのだが、最近は実力試しにと、若い人も多くなってきているそうだ。
ということを、冒険者ギルドと言う古くからある組合の、受付の男性から聞かされる。どうやら俺の事を遠回しに指摘しているようだ。後ろからは冒険者なのだろう、ガタイの良いおじさんたちが大騒ぎしていた。朝っぱらから元気だなぁ……
「……俺は別に、実力を試しに来た訳じゃない。行く当てが他に無いから来たんだ」
「そ、そうでしたか。それは失礼いたしました。ですが、あなたがまだ若いのも事実です。もう一度お考えになってみては?」
「だが、俺はもうとある人物と約束したのだ。今更変えることなど出来ない」
「はぁ、解りました。あなたを歓迎します。では、冒険者カードを作成しますので、質問にお答えください」
そう言って、一枚の紙を渡してくる。……ふむ、年齢、名前にスキルか。これだけでいいのか、と思うが、これでいいから渡してきたんだろう。
よし、書き終わった。
「では、次にあなたの血を採取いたしますので、手をお出しください。」
おもむろに、注射器を取り出す。
血、か。恐らく偽造を塞ぐとか、そういった意味があるんだろう。少しチクりとしたが、この程度で痛がったりはしない。この先、もっとひどい怪我をしたりするかもしれないんだ。それを思えば、なんてことないな。
そしてその血を先程俺が書いた紙に数滴垂らす。すると紙の文字が焼かれたような音を立てて紙に写された。どんな仕組みだ?魔法に詳しい人なら分かるんだろうか。
「完成いたしました。こちらがあなたの冒険者カードとなります。決してなくしたり、壊したりしないようにしてください」
新品の冒険者カードを受け取る。詳しく見てみれば、さっき俺が書いたことがそのままカードにかかれていた。
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種族:人間
名前:アッシュ
レベル:2
職業:冒険者
年齢:17歳
冒険者ランク:F
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スキルとかは隠されるらしい。持ち主の魔力に反応して確認できたりもするらしい。ほんとにどういう仕組みなんだろう。
冒険者ランクとは、クエスト達成の数や難易度似よって変動する、目安のようなものだ。
下から、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSの九ランクだ。ステータスが高ければ、最初からEやDから始めれるなんてこともあるみたいだ。
……そうだよ、俺には関係ない話だよ。クソが!
さて、早速クエストでも、とクエストの書かれた紙が貼られている大きい板を見る。……お、これ良いんじゃないか?
【常設クエスト】
内容:ゴブリン三匹を討伐。
報酬:300ダル
推奨ランク:F~D
詳細、北の森でゴブリンの討伐。数は多い分、報酬も増加する。一匹100ダル
よし、これにしよう。ゴブリンなら一度相手したことがある。
あれは、まだ俺が落ちこぼれだと判明していなかった頃、大体六歳ぐらいだった俺は父に連れられ、ゴブリンのいる森に行ったことがある。鬱蒼と木々が生え放題の伸び放題な森。そこで何回か戦ったのだ。レベルが2なのは、それのおかげだ。
幼い俺は、魔物とはいえ生物を殺した感触に嫌悪していた。飛び散る血、肉を切ったときの不快な音、今でこそ特に感じるものもないが、昔はとても嫌だった。
そのクエストがかかれた張り紙を受付の人に渡す。
「確認いたしました。それではお気をつけて」
◆◆◆
ゴブリンの討伐の証しは両耳だ。殺した後、耳を切って専用の袋に入れる。
また、冒険者カードにも、討伐の成功が記されるようになっている。
俺はゴブリン討伐のため、北に広がる森に来ていた。ここら辺は安全だ。地面は何回も踏まれているのか固く、木はそれほど生えていない。
装備はすでに買ってある。胸、肩、腰をある程度守ってくれる皮の軽装に、片手でも振れる鉄の長剣。準備は万端だ。
さて、ゴブリンは……と。いたいた!すぐさま茂みに隠れて様子をうかがう。森の中で奴等はこちらの存在を確認できないようだ。
緑の肌に、低い身長、醜い顔がゴブリンの特徴だ。恐らく数は四匹。一匹多いがまあ大丈夫だろう。ゴブリンは知能が低く、敵を見つけたら突っ込んでくることしか頭にない。だから石を投げて挑発し、こちらに気づいた一匹をおびき寄せてサクッと首を切って殺す。
……そしてどうやら、三匹になったゴブリンたちは仲間が一匹死んだことに気づきお怒りのようだ。木の棒を振り回すやつ、叫びまくるやつ、そしてキョロキョロとこちらを探すやつ。
こちらを探してるやつから殺すか。あいつは少し賢いらしい。
ソロリソロリとを出さないようにして近づく。そして長剣を思いっきり振り抜く。が、しかし手応えがない。とっさに気づいて致命傷だけは避けやがった。やはりどこか違うな。
レベルが高いのか。進化されると厄介だ。そして先程の一撃でもう二匹が走って近づいてくる。真正面では分が悪い。……と思ったのだが、俺の振り下ろした剣を受けきれなかったのか、持っていたボロボロの短剣ごと叩き切ってしまった。と、あと二匹が少し後ずさる。バッサリと切られた仲間の姿を見て、俺に恐怖したようだ。情けない声が漏れてるぞ、ゴブリン。
昔、もう俺のではないが家にあった少し広めの図書館の中で魔物に関する本を読んだことがある。魔物はレベルが一定以上になると進化する。ゴブリンはゴブリンファイター、もしくはゴブリンメイジとなる。どちらも知能が高くなり、ステータスも大幅に上がるらしい。見たことはないが。
極々希に、ゴブリンの最終進化形態である、ゴブリンキングが現れたりするらしい。推奨ランクはA~S。マジの化け物である。
「ギャッ!グギャギャ!」
「おっと、危ない危ない。」
だんだんイラついてきたのか、ゴブリンの攻撃が単調になってくる。やはりゴブリンはゴブリン。冷静さを保てないようだ。こちらはスキル『微回復』で、多少攻撃を受けても少しすれば回復する。何よりもリーチが違う。俺は鉄の長剣。ゴブリンは持ち手が折れた石の斧と、半ばから折れた錆び付いた剣。
「はっ!」
「グギャアァ!?グギッ……」
一匹を腹を切って殺す。
「グギャァァ!」
あ!逃げられた!頭が良かったゴブリンが情けなくも逃げていく。……まあ良い。三匹殺したし、初日にしては十分と言えよう。
どうやらレベルが上がったようだ。2から4に上昇し、ステータスも上がる。
上がったのは、筋力と体力だった。どちらも2だけ上昇した。
「ん?」
あれは、新しいゴブリンか。しかも六...いや、七匹か。多いな。
だが、俺はここで帰るようなチキンじゃない。やれるだけやってみよう。
まずは、一番近い奴に石を当ててこちらに誘い出す。のんきに通りかかったところを、長剣で一刺し。
……よし、まだ気付いてない。それを繰り返し、七匹から五匹まで下げることができた。が、今度は気付かれた。一気にこちらに向かってくるのを落ち着いて迎え撃つ。
「ふっ!」
まずは一匹。レベルアップのおかげでサクッと殺せる。
二匹、三匹……お?どうやら少しびびっているようだ。
あと二匹。一気に決める!
「はっ!」
一歩踏み込み、二匹同時に首を切断する。またもレベルアップ。レベル5になり、脚力が1上がった。
……信じられないくらい快調だ。どうやら俺はゴブリンを殺すことに向いているらしい。まだ時間はあるし、もう少し進もう。
この北の森は、奥に進めば進むほど魔物が強力になっていく。俺がいる場所は初心者向けの狩り場で、ゴブリンやコボルト、たまにオークぐらいしか現れないもっとも安全な場所だ。
またゴブリンに出会う。今度も七匹か。
ほとんど同じ展開だった。最初に数匹殺して、次に残ったやつを殺していく。今度も1レベル上がったようだ。防御力が3、筋力が1上がる。これで十八匹殺したことになる。俺は防御力の延びしろが良い。その分技能や魔方系は全然駄目だ。金がある程度揃ったら良い盾でも買ってみようか。
「……またゴブリンか」
今度は十一匹。かなり多いが、今の俺なら行ける気がする。
どうやらあちらは全員俺の存在に気付いている。……面白い。今まで溜めてきた鬱憤をお前らで消化してやる!
まずは一匹、鳩尾を剣で一刺。次にそのゴブリンを首をもって盾にし、相手の進行を止める。驚いているゴブリン三匹の首を一気に飛ばす。あと七匹。
今の一瞬の出来事を呆然と見ていた奴を頭をかち割って殺す。あと六匹。
三匹が纏まってやってくる。所詮はゴブリン、戦術のせの字もない行動に思わず笑ってしまう。そして十分に近づいたところで、剣を一振り。ゴブリンの三匹の上半身と下半身がおさらばした。あと三匹。
どうやらあと三匹とも俺に勝てないと践んだのか、逃げようと背を向ける。
馬鹿め、脚力は俺が上。すぐに追い付き、二匹殺す。あと一匹。
最後の一匹は俺を心底怯えた目で見る。その目に何か思うでもなく、俺は剣を振り下ろす。
ゴブリンの鳴き声が止んだ。全部死んだようだ。以外とあっけなかったが、レベルが4も上がっている。ステータスは防御力が5、筋力と体力が2、脚力が1上がった。
今日はここらで帰るとしよう。帰り血で服が酷いことになっている。