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肉屋と料理人

作者: 飽易
掲載日:2018/01/29

ミッドナイト用の作品を書いているときにふと思いついて書いたものです。

 駆け出しの料理人がいた。

 まだ少年というような年齢ながら料理に情熱を燃やしていた。

 その少年は肉料理を食べるのが好きだったため、自分は肉専門の料理人になるつもりだった。

 今は作った料理を近所の人に振舞っている程度だが、一等地に大きな店を構えるのが夢だった。


 少年は色々な肉屋やハンターから肉を仕入れた。

 どの肉屋がいい肉を仕入れているか、どのハンターが肉を傷めずに獲物を取るのが上手いかを調べるためだ。

 しかし、ハンターはそこそこ手ごたえのある魔物を狩る者が多いため肉の質が安定していなかった。

 そんな中、いつも安定して上質な肉を仕入れている肉屋を見つけた。


 おそらく優秀なハンターと直接契約しているのだろう。

 そのハンターを紹介してもらいたいが流石にそれは無理だろうから肉を卸してもらう契約をしようと考えた。


「いらっしゃい!」

「俺は料理人なんだが、ここの肉屋が安定して良質だから肉を卸してもらう契約をしたいんだ」

「そういうのはやらねぇんだ。帰んな」

「じゃあ、ハンターを貸してもらえないだろうか。対価は払う」

「は?ハンター?おまえ何言ってんだ?」

「え?ハンターを雇って肉を確保しているんじゃないのか?」

「おまえにうちの肉を料理する資格はねぇ!帰れ!二度と来るな!」


 そう言って店の外に突き飛ばされてしまった。


 あまりのことに惚けていると、通りがかった人に声を掛けられた。


「ここの店主はな、肉を極めたいがばかりに自分で魔物を狩っているんだよ」

「肉に詳しくないと仕留める過程で肉を痛めてしまうからハンターには任せられないって結論になったんだそうだ」

「だから、ハンターがとってきた肉という言葉を自分の肉に対して使われると、自分が馬鹿にされているように感じるようなんだ」



 料理人はこの日から猛烈に体を鍛え始めた。

 ハンターから買い取る肉の質を考えれば肉屋の言うことはもっともだと思ったからだ。

 自分が狩った魔物の肉で料理を作る。それだけを目標として鍛え続けた。


 1年が経過する頃には弱い部類の魔物には勝てるようになっていた。

 あくまでも勝てるだけで綺麗に倒せるわけではなかった。


 更に1年が経過した頃には弱い部類の魔物を綺麗に倒せるようになっていた。

 当然もう少し強い魔物にも勝てる。

 まだ綺麗に倒せるわけではないが…。


 こうして自分で狩った肉で料理をするという修行を続けるある日、狩場で見覚えのある顔と出くわした。


「ん?あんたは肉屋」

「なんだ?知らねぇ顔だな」

「それもそうだな。俺からするとあんた1人を覚えるだけだが、あんたは肉屋でその他大勢をいつも相手にしているからな」

「よくわからんが、用事がないならもういいな」

「いや、あんたにどうしても言いたいことがあった」

「なんだ?」

「肉屋で肉を仕入れているようじゃ料理人失格だってわかったよ。あのときはありがとう」

「あぁ!?なんだと?料理人ごときが肉屋の俺より肉を上手く捌けるとでも言うつもりか?」

「今は負けているが、あと1年したら俺の方が上になっているだろうな」

「はっ、言うじゃねぇか。やれるもんならやってみやがれ」


 こうして2人は別れたが、この日の狩場は重なっていた。



「おいおい、大口を叩いた割には大したことねぇなぁ」

「うるせぇ、こっちは料理の盛り付けを考慮した倒し方をしてるんだよ」

「客に盛り付けのせいで味が落ちましたとでも言うつもりか?」

「今はあんたに負けてると言っただろ、1年後には俺の方が上になってるから覚悟しとけ」

「へいへい、せいぜいがんばんな」



 それから1年が過ぎた。


「おい料理人、1年経ったと思うんだが俺より上になったか?」

「うるせぇ、なんで毎日毎日俺と同じ狩場に来るんだよ」

「別にどこで狩りをしようが俺の勝手だろ?」


 肉屋は元々はあまり狩場を変えなかった。

 いくつかの狩場を定期的に回るような狩りをしていただけだった。

 しかし、1年前のあの日から料理人の行く先を調べて後から到着するようにしていた。

 強面の自分に突っかかってくる奴は珍しかったため興味を持ったからだ。当時はそれだけだった。


 最初の頃は口ほどにもないと思っていたが、料理人の狩りが目に見えて上達していくため自分もうかうかしてはいられないと思うようになり、料理人と同じ魔物を狩るようになっていった。


「肉屋は何で毎回毎回俺が倒すのと同じ魔物を倒すんだよ。おかしいだろ」

「何を言ってるんだ。優しい俺がお前に自分の未熟さをわからせてやってるんだぞ?感謝して欲しいもんだな」


 この頃には、料理人は屋台のような店を用意して狩った魔物を調理して売りに出すようになっていた。

 そして、当然肉屋にも同じ魔物の肉が並んだ。


 客の間では「肉屋で買った肉を調理すると料理屋の料理になる」という認識となっていたが、肉屋は「品質でうちが勝っている」と言い張り、料理人は「盛り付けも考えられているうちの方が優秀だ」と言い張っていた。

 しかし、客からすれば今すぐ食べられるかどうかの違い程度でしかなかった。


 更に1年が経過した頃…


「おい料理人」

「なんだ?」

「ハンター登録するぞ」

「なんでだよ」

「ハンター登録しないと狩れない魔物がいる」

「わかった」


 2人は今でもいがみ合っているが、ライバルとして認めあってもいた。

 同じ条件下で競わないと意味がないと考え、肉屋は料理人をハンターに誘ったのだった。


 ハンター登録に来た2人を見てハンター達は驚いた。

 ハンター達からは2人はとっくにハンター登録しているものだと思われていた。

 ハンターは2~3日に1回程度狩りをするが、2人はほぼ毎日だった。

 そして、俺の方が上手いだなんだと罵り合っている姿は、他所から見れば肉の捌き方の話をしているとはとても思えない。

 ハンター目線的には「俺の方が魔物を倒すのが上手いだろ」と狩りを極めようとしているようにしか見えなかった。


 そのため、ハンター登録をする2人を見たハンター達は「あいつらハンターじゃなかったのかよ」とヒソヒソと話をしていた。



 ハンター登録から3年が経過していた。


 この頃には2人はトップハンターとして有名になっていた。

 多くの強い魔物を速やかに倒し、時にその場で肉料理ができあがる。

 その手際の良さからハンター仲間からも若干ではあるが恐れられていた。


「あいつら、魔物が動く肉の塊にしか見えてないだよ」

「生きて動いている魔物をなんで部位ごと綺麗に切り分けられるんだよ」

「その気になれば人間だってできるぞきっと」


 2人はそんな話を知っていたがどうでもよかった。

 気にしたところで肉の捌き方が上手くなるわけではないからだった。


「おい料理人」

「なんだよ」

「いい加減諦めたらどうだ?」

「うるせぇ、絶対に俺が勝つ」

「そもそも、おまえはわかってないんだよ」

「何がだよ」

「いや、これは知識で知っていても意味がないんだ。実体験しないとな」

「まったく、なんなんだよ…」



 こうして2人がいがみ合いながらも切磋琢磨しているある日、国を揺るがす出来事が起きた。

 ドラゴンが人里に姿を現したのだった。


 即座に優秀なハンターに声がかかり、その中には当然肉屋と料理人も含まれていた。


「最初に俺と料理人の2人であたらせてくれねぇか?」

「駄目だ」

「なら俺達は降りる」

「逃げるつもりか」

「2人であたらせてくれと言っているのに頭沸いてるのか?」

「………」


「わかった。ただし、最初の一撃で駄目そうだと判断したら他の者も攻撃する」

「駄目そうというのはどういう状況だ?」

「攻撃が弾かれたらだ」

「そうか、じゃあ俺達が押されても攻撃していいし、俺達が死にそうになったら見捨ててくれ」

「わかった」


「料理人、そういうわけだ」

「あぁ」



 決戦当日。


 ドラゴン討伐部隊から2人だけが前に出てドラゴンと対峙していた。


「おい料理人」

「なんだ」

「心臓の位置わかるか」

「わからねぇな」

「なら恨みっこなしだ、俺が右に立ってるから向かって右半分、お前が左半分を捌くでいいな」

「それでいい」


 この時の戦闘を見ていたドラゴン討伐部隊のメンバーが口々に言う。


「あれは戦闘ではなかった。ただの巨大な肉の塊を捌いているだけだった」

「左右でまるで鏡写しのようにドラゴンが崩れていった」

「敵が物量で押してこない限り、どんなに強大でもあいつらがいれば解決するんじゃないか?」


 2人によるドラゴンの討伐という名の解体作業が終わった後、2人の近くにいた討伐隊のメンバーが聞いた会話は恐ろしいものだった。


「おい料理人」

「知らねぇ」

「なにも言ってねぇだろ」

「ドラゴンの居場所だろ」

「あぁ、チョットミスがあったからまだまだ未熟だなと思ってな」

「俺もだ」


 2人のドラゴンスレイヤーに褒賞を与えようという話になったが、2人共ドラゴンの巣か居場所を教えてくれと言うだけだった。



 それから30年が経過した。


「おい料理人」

「なんだ」

「俺は引退する」

「何故」

「最近な、手が正確に動かなくなってきたんだ」

「………チッ、勝ち逃げかよ」

「おまえは俺より10年以上若いからまだ大丈夫だろうが、今のうちに教えておく」


「一度でいいから完璧なひと切れの肉を作ってみろ」


 これ以降、料理人は盛り付け関係なしの完璧なひと切れの肉を作ることに専念することになった。

 なぜなら、完璧なひと切れと言うのが信じられないほどに難しかったからだ。


 そしてそのひと切れの肉が完成した日、元肉屋に見せるとこう言われた。


「なぁ、その肉に余計な盛り付けは必要か?」

「必要………ないな」


 この日、料理人は自分の店を畳んで肉屋を継いで再開店することにした。

 ただし、肉を売るのと同時に自分の肉料理も出す方式に変えていた。



 この日以降、料理人が引退宣言するまでの短い期間だったが、最高の肉と肉料理を出す肉屋として名を轟かせた。



- 完 -


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