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クロウ王子と季節の塔

作者: 鯨波人
掲載日:2017/01/05

 あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおりました。

 女王様たちは決められた期間、交替で塔に住むことになっています。そうすることで、その国にその女王様の季節が訪れるのです。

 ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。

 冬の女王様が塔に入ったままなのです。辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。

 困った王様はお触れを出しました。


『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

 ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

 いかなる者も決して、季節を廻らせることを妨げてはならない』


 何故、冬の女王様は塔をはなれないのでしょうか。


 何故、春の女王様は塔におとずれないのでしょうか。


 時は流れて、冬の女王様が塔に閉じこもってしまってから2年の月日が過ぎ去りました。けれども、王国は現在いまも雪と氷に覆われたままです。

 これまでに王様のお触れを受けて多くの者が季節の塔をおとずれ、冬の女王様に塔から出てきてもらおうとしました。  

 人々は女王様に塔からはなれてもらおうと、塔の周りでお祭りを開いてさそい出そうとしてみたり、高名な学者や話上手な者達が説得をこころみたり、女王様を怒らせて出て来させようと悪口を言ったりとさまざまな方法を試してみたのです。

 しかし、女王様は誰が来ても「私は塔を出る気はありません」と言ってかたくなに塔を離れようとしませんでした。

 このままの状態が続けば王国内の食べ物が全て尽きてしまい、王国そのものの存亡そんぼうすらあやうい事態になってしまいます。


「う~ん、う~ん…………一体いったい、どうしたものだろうか」


 王様は、毎日玉座の上で悩んでうなっていました。

 いつまでも続く冬の影響で、作物が思うように取れず王国内では食料不足が続いており、終わらぬ寒さによる体調不良を理由りゆうに国民の中には王国をはなれる者まで出始めておりました。

 いまから一年前、王様の十四人の王子様は話し合って春の女王様を探しに各地へと旅に出て行ったのですが、その王子様たちからの連絡れんらく一切いっさいなくなり、王様は王子様たちの事も大変心配して悩んでおられました。


「王様、クロウ王子が謁見に来られました」


「おぉ、クロウ王子。もう身体は良くなったのか?」


「はい、王様。ご心配をおかけしましたが、クロウはこの通り元気になりました」


 すえで生まれつき身体の弱かったクロウ王子は、他の王子様たちと一緒に春の女王様を探す旅に出たのですがやまいをわずらってしまい王国に戻って身体をやしておりました。


「王様。あれから兄上あにうえたちから、なにからせはありましたか?」


「うむ……。それが、まったく連絡れんらくが無いのだよ。王子たちの様子ようすが心配ではあるが、兵士たちは王国の民に食料をくばったり、盗賊とうぞくなどから国民を守るために国をはなすことが出来ないのだよ。困ったのう、どうしたら良いのだろうか。う~ん、う~ん……」


 王様はまた悩んでうなりはじめました。

 

「王様、わたしが冬の女王様に塔を説得せっとくしてみましょう。塔を離れていただければ、この寒さが収まり食べ物の心配もいらなくなるでしょう。そうしたら、春の女王様と兄上あにうえたちを探しに兵士たちとともにわたしも旅に出られます」

 

「う~ん…………そうだな。クロウ王子よ、冬の女王様を説得せっとくするために塔へ行ってくれ。ただし、十分じゅうぶんに気を付けてくのだぞ」


「はい、ありがとうございます王様。では、塔へ行ってまいります」


 こうしてクロウ王子は冬の女王様を説得せっとくに塔へと向かいました。

 クロウ王子が城門じょうもんをぬけて外に出ると、王子の視界しかいにはまっしろな雪でおおわれた世界がひろがっていました

 街の家々(いえいえ)は、みな雪をかぶり窓は冷たい風が入り込まないようにと外から木の板でふさがれていた。

 街路樹がいろじゅには葉が一切いっさいなく、氷柱つららが葉のようにしげっている。みちは雪でおおわれ、食料を運搬うんぱんする馬車ばしゃ車輪しゃりんあとのこっていることで、かろうじてわかる状態じょうたいだった。


「わたしがやまい寝込ねこんでいる間に、ずいぶんと悪化あっかしてしまったようだ。いそいで、冬を終わらせないと」


 クロウ王子は決意けついむねに街をぬけ、塔へと向かう道を力強ちからづよく歩きはじめました。

 街をぬけると風をさえぎる物が何もないために、クロウ王子にふるえるほどつめたい風がおそいかかり、もった雪が風で舞い上がって視界しかい邪魔じゃました。

 その光景は、まるで塔へと向かうクロウ王子を冬の女王がこばんでいるかのように感じられた。

 しかし、クロウ王子はそれにどうじることなく真っ直ぐ前を向いて歩いて行きます。

 

「うん? あれは………ツル?」

 

 クロウ王子が塔へ向かうにつれて、それまで樹氷原じゅひょうげんと雪原ばかりだった風景の中に、なにやら動くものがちらほらと見えるようになってきました。

 雪景色に溶け込むほど白い羽根に、遠くては分からぬほどに細い足と遠くからも白い雪にえる頭頂部とうちょうぶ紅色べにいろの丸い模様もよう、そして首とつばさの下、尾先おさきにある黒い羽がりんとした姿を際立きわだたせている。

 そう、わたどりのツルだ。

 毎年冬の女王様がおとずれるとともに王国に飛来(ひらい)し、春の女王様が訪れて暖かくなる頃に飛び立って行く。

 もしかしたら、冬がずっと続いているために飛び立つ機会きかいのがして王国に残っているのかもしれない。

 

「……塔だ。塔が見えてきた」


 それまで吹き荒れていた吹雪ふぶきが晴れて、空高くそびえ立つ塔が姿をあらわしました。

 クロウ王子は塔へと近づいて、塔の入り口を守る兵士に話しかけて扉を開けてもらいました。


「クロウ王子、どうかお気を付けて。それと、一兵士いちへいしである自分じぶんが言うのは失礼とは思いますが……どうか、冬の女王を責めないでください。冬の女王は、おやさしいお方なのです」


「はい、わかっています。冬の女王様にも、なにか理由わけがあるのでしょう。だから無理に出て行ってもらうような事はしませんよ」

 

 クロウ王子は、心配そうな兵士に優しく笑顔でそう答えて塔の中へと入っていきました。外は雪景色だというのに、塔の中は不思議とあたたかく、とても優しい花の香りに満ちていた。


「外は雪でおおわれているのに、どうしてこんなにも花の香りがするのだろう。それに、窓も松明も無いのに明るいのも不思議だ」


 クロウ王子は首をかしげて不思議に思いながら塔の階段を登っていきます。塔の中は、まるで別の世界のようでした。クロウ王子は、ここまで歩いてきた疲れが階段を一段一段登るごとにやされるような感じがしていました。


 塔の階段の行き止まり、最上階に冬の女王が閉じこもっている部屋があります。部屋の入口の扉には、春、夏、秋、冬をあらわす装飾そうしょくほどこされており、冬の装飾そうしょく青白あおじろかがやいていた。

 

「失礼します、冬の女王様。わたしは十四番目の王子でクロウと申します。謁見えっけん許可きょかいただけないでしょうか」


「…………クロウ王子ですか。どうぞ、お入りなさい」


「はい、失礼します」


 クロウ王子が扉を開けると、正面しょうめんに冬の女王がこちらに背を向けて窓辺に置かれた椅子に座っている姿が見えました。部屋を見まわすと左手側ひだりてがわに置かれたながテーブルの上に、見たことのない綺麗きれいな花が花瓶にけられていました。

 塔の中にちている花の香りのもとは、この花なのだろうかと考えながらクロウ王子は膝をついて背を向けた冬の女王に話しかけました。 

 

「冬の女王様、このまま冬が続いてはたみえて王国がほろんでしまいます。どうか、塔を離れていただけないでしょうか。どうか、お願いいたします」


「クロウ王子、この塔を訪れた者達ものたちにも言ったはずです。塔を離れる気は無いと……」

 

「しかし、それでは王国が、民が……」


「それに、いまだに春の女王は来ていないそうではありませんか。ならば、交代する女王がいないというのに塔を離れることなど出来ません」


「それは…………。春の女王様のことは、兄上あにうえたちが探しおります。だから…………」


 クロウ王子は言葉ことばまってしまいました。冬の女王が言っているとおり、交代する女王がいない状態で女王が塔を離れたことは過去かこに一度もありません。

 クロウ王子は考えこみました。季節をつかさどる女王が塔にいないことで王国にどのような事態じたいこるのだろうか、それこそ今よりもわることきるかもしれません。

 

「(どうしたら良いのだろうか)…………ん?」


 クロウ王子は冬の女王の背中を見つめ悩んでいると、冬の女王がずっと窓の外を見ていることに気が付きました。

 

「…………失礼します」


 クロウ王子は冬の女王が見つめている窓の外がどうしても気になり立ち上がって、冬の女王の隣に立ち外をながめてみると、そこには塔の下にいるたくさんのツルが見えました。


「(女王様は、あのツルをながめておられたのか)……あっ、あのツルは」


 クロウ王子が女王の視線しせんさきって見ると、そこには他のツルとは違う白銀の羽根をしたツルがいました。白銀のツルの左羽根には、包帯が巻かれていました。

 

「冬の女王様は、あの白銀のツルを見ていらしたのですね」


「……えっ…………クロウ王子、無礼であろう」


 冬の女王はおどろいた様子ようすでクロウ王子を見ました。どうやら冬の女王は、クロウ王子が隣に立っていたことに気が付いていなかったようです。

 

「あっ……はい、失礼いたしました」

 

 クロウ王子はあわてて先程さきほどまでいた入り口近くの床に膝をついて、頭を下げました。


「…………クロウ王子。絶対に、わたしは塔を離れません。そう、国王にも伝えなさい」


 冬の女王は椅子から立ち上がって、クロウ王子の前に立ってそう告げました。

 

「………………」


 クロウ王子は、冬の女王の言葉に反応はんのうせず、膝をついて頭を下げたままでした。


「クロウ王子、返事をしなさい」


 冬の女王は、クロウ王子に強い言葉で返事をもとめました。


「…………」


 しかし、クロウ王子は沈黙ちんもくしたままでした。


「クロウ王子、答えなさい。わたしを怒らせようとしたところで、塔を離れたりはしませんよ」


 冬の女王は苛立いらだった様子ようすで、クロウ王子にかたりかけます。


「……冬の女王様」


 それまで頭を下げたまま黙り込んでいたクロウ王子が顔を上げて、冬の女王の目を見て話しかけました。


「な、なんです、クロウ王子」


 まっすぐな瞳で目を見つめて話しかけてきたクロウ王子に冬の女王は動揺どうようしながらも、そう返事をしました。


「冬の女王様。クロウは、冬の女王様が塔を離れない理由がやっとわかりました。女王様はあの白銀のツルを守ろうとしておられたのですね」


「………………」


 真っ直ぐな瞳を向けたまま、そう笑顔で語りかけるクロウ王子に今度は冬の女王が黙り込んでしまいました。  


「冬の女王様が、あの白銀のツルの怪我けがを手当てをされたのですね。そして、怪我けがで飛べない白銀のツルがひとりぼっちにならないように塔に残っておられた」


「……ええ、そうよ。クロウ王子はかしこい方なのね。だけど、わたしが塔を離れない理由はそれだけではないわ…………」


「ツルに怪我けがをさせたのが王国の人間だからですね」


「……そう……そこまで、わかっているのね。本当にかしこい人ね、クロウ王子」


 そう言ってクロウ王子を見る冬の女王の視線しせんには、一欠片ひとかけらもクロウ王子をめているようなあたたかさはありませんでした。

 クロウ王子はそんな視線しせんを受けながらも、笑顔のままで言葉を続けました。


「あの怪我けがをした白銀のツルを見て、ようやくわかりましたよ。わたしが城を出たころには歩くことさえも大変だった吹雪ふぶきが、この塔に近づくにつれて弱くなっていった。あれはツルたちをまもりすごしやすくするためだけではなく、ツルに怪我けがをさせた王国の人間へのばつなのですね」


「ええ、そのとおりよ。だから、塔を離れることは出来ないの」


「では、ツルの怪我けがなおったなら塔を離れて……」


「いいえ、離れないわ」


「どうしてですか? 冬の女王様は、あの白銀のツルを心配しんぱいして塔に残っておられるのでしょう。ならば、怪我けがなおってしまえば仲間なかま一緒いっしょ旅立たびたてるのですから、心配しんぱいいらないではありませんか」


 クロウ王子は不思議そうに問いかけました。


「クロウ王子、あのツルが怪我けがをしたのは人間のせいなのですよ。仲間と一緒だとしても、きっと銀色の羽根では目立めだってしまうことでしょう。そして、また銀色の羽根を狙ってツルをろうとする者があらわれます。だから、わたしが守ってあげなければいけないのです」


「そんな…………。それでは、いつまでたっても王国は冬にざされたままではないですか」


「人間がツルを絶対ぜったいらないと約束やくそくするならばともかく、そうでなければツルを旅立たびたたせるわけにはいきません」


 冬の女王はそう言ってふたたび窓辺の椅子に腰掛こしかけました。


「ですが、お願いです。冬の女王……さ……ま……」


 クロウ王子は、ふたたび立ち上がって冬の女王様に横に立ちりましたが、クロウ王子はそれ以上言葉を発することが出来ませんでした。

 窓辺で白銀のツルを見つめる冬の女王の横顔よこがおは、ぬくもりにちた優しい表情ひょうじょうでした。その横顔よこがおを見て、クロウ王子は亡くなった母親ははおやおもしてむねがいっぱいになってしまったのです。


「……失礼します」


 クロウ王子はかたを落として部屋をあとにすることにしました。

 塔を降りるクロウ王子の足は重く、あがる時にちたつかれが戻ってくるような感じがしました。


「クロウ王子、いかがでしたか?」


「…………」

 

 外に出ると兵士がクロウ王子にそういかけましたが、クロウ王子はだまって首を横にることしか出来ませんでした。


「そうですか……。クロウ王子、私にはむすめがいましてね…………」


「……えっ…………はい」


 突然とつぜんかたはじめた兵士に、クロウ王子は驚きながらも話に耳をかたむけることにしました。


「……むすめまれながら目が見えなくねぇ、それはもう大変でしたよ。色んな物に興味きょうみを持ってちょろちょろとうごまわって、怪我けがをしなように守るのに必死ひっしな日々でした…………」


「へぇー、そうなんですか」


「えぇ、元気なのは良いことですからしかるわけにもいかなくてね。そんなある日に……妻が亡くなりましてね…………」


「えっ…………どうして」


長雨ながあめが続いたあとに河原かわらへとつまむすめが遊びに行ったそうなのですが、遊んでいると山の方から鉄砲水てっぽうみずせて、それに二人とも巻き込まれて…………むすめは近くにいた人に助けられたのですが、妻は…………」


「…………」

 

 クロウ王子は、悲しそうな兵士になぐさみかける言葉を探しましたが見つかりませんでした。


「…………本当に大変でしたよ、それからの日々は。兵士長のはからいでむすめれてはたける仕事しごとえてもらえましたが、それでも心配事しんぱいごとることはくてね……。どこに行くにも一緒に付いて行きましたよ。だから、友達ともだちと遠くへ出かけたいと言ってもゆるしてあげられませんでした。……今にして思えば、過保護かほごぎたバカな父親ちちおやだったとずかしくなりますよ。あははっ」


 そう言って恥ずかしそうに笑う兵士を見て、クロウ王子の脳裏のうりにふと冬の女王の横顔がよぎりました。


「(そうか、冬の女王様が白銀のツルに向けている思いは親の愛情と同じものなのかもしれない)心配なのは当然とうぜんですよ、大切なむすめさんなのですから」


「えぇ、でもね。だからこそ、一人ひとり人間にんげんとしてあつかってやらなければいけなかったんですよ。なのに、バカな自分じぶんは守ることばかり一生懸命いっしょうけんめいで、むすめ友達ともだちと楽しくごす時間じかんを邪魔してしまっていた。だから、十歳じゅっさいになったころに言われましたよ。「お父さんはどうして、わたしを閉じ込めるの? わたしはお父さんのお人形じゃないんだよ」ってね…………」


「……それは…………」

 

「……なんというかね、頭を丸太まるたなぐられたような気持ちでしたよ。実際じっさい、自分でも多少は自覚じかくがありましたからね。それからは一方的いっぽうてきめるんじゃなくて、むすめ会話かいわをして一番良いちばんい方法ほうほうを見つけるようにしているんです。だから、冬の女王様のされていることがあのころの自分とかさなってしまってね…………」

 

会話かいわですか……。でもそれは、ツル相手あいてでは無理むりな話ですね…………」

 

「ええ……。動物園と会話だなんて、できませんよねぇ…………」


 兵士とクロウ王子は、塔の裏手で銀色の羽根をととのえているツルを見つめながら黙り込んでしまいました。


「あのう、海辺の賢者様に相談されたらいかがでしょうか?」


 背後はいごから話しかけられて、兵士とクロウ王子がおどろいて振り返ると、髪の長い笑顔少女がバスケットをかかえて立っていた。


「えっ……なんだフランか。クロウ王子、むすめのフランです」


「あぁー。どうもはじめまして、クロウともうします。いま海辺の賢者様って……」


「あっ、はい。クロウ王子様、海辺の賢者様なら何か知恵ちえさずけていただけるのではないかと」


「海辺の賢者様が戻って来られてるのですか?」


「はい、さきほど私の目薬をとどけに来て下さいましたので……あっ……」


「フランさん、教えてくれてありがとうございます。馬をりていきますよ」


 クロウ王子は、すぐさま馬に飛び乗り走って海辺の賢者様のもとへと向かいました。

 海辺の賢者様とは、いつの頃からか王国の東の浜辺にうつり住んできた老人のことです。

 6年前のこと、流行はややまいで【ヤミナキ】という名の病気びょうきが王国内で流行りゅうこうして多くの国民がくなる非常事態ひじょうじたいがありました。

 海辺の賢者様は、多くの医師をほかの国々(くにぐに)からひきいて国民の治療ちりょうをおこない助けてくれたのです。

 海辺の賢者様は旅好たびずきで、王国内の流行り病がしずまると「このままみなで、他の国々へとやまい治療ちりょうするため向かいます」と言って旅立たびだって行かれ、今日のこの日までかたれずでした。

クロウ王子が浜辺に着くと、王国内で見たことのない木で作られた海辺に建つ家が見えてきました。家の前には若木わかぎを思わせる明るい緑色のローブをまとった白髪の人物が立っています。


「お久しぶりです、賢者様」


「おや? これはこれはクロウ王子。ごあいさつに行けず申し訳ない」


 白髪に東方とうほうくに民族衣装みんぞくいしょうでユカタというらしい服を着た優しい笑顔の老人。この人が海辺の賢者様だ。


「海辺の賢者様、いつ王国に戻ってこられたのですか?」


「王国に着いたのは、ひと月くらい前だったんですがね。今回の旅で船が損傷そんしょうしてしまってねー。修理しゅうり一段落ひとだんらくつくのに時間がかかってしまってね」


「そうでしたか。アメノトリフネを直しておられたのですね」


 海辺の賢者様が旅に使っている船アメノトリフネは、ニワトリの卵を横にしたような不思議な形の船で海辺の賢者様が自分で作られた物だ。

 ちなみに、この海辺に建つ家も海辺の賢者様が建てられてもので、賢者様は自分で使うものは自分で作るようにしているらしい。


「ところで、クロウ王子。お身体のほうは、いかがですかな? なんでも、寝込んでおられたとか?」


「はい、おかげさまで良くなりました。それで今日は賢者様にどうかお知恵をお貸しいただきたいのですがよろしいでしょうか?」


 クロウ王子は、これまでの経緯いきさつを海辺の賢者様に説明しました。


「……ふむ、なるほど。王国が冬に閉ざされたことはたびそらで聞いておりました。しかし、そのような事態じたいになっていようとは難儀なんぎなことですなー」


「ええ、このままでは本当に王国が滅びてしまいます。賢者様、なにか冬の女王様が安心してツルを旅立たせる方法はないでしょうか? もしくは、あの親子が会話で和解わかいしたように何か解決かいけつする手立てだてはありませんか?」


「うん、会話ねぇー。それなら、あの子の出番ですかな?」


 海辺の賢者様はそう言って、後ろを振り返りました。

 クロウ王子もつられてその方向を見ると、すこし離れたところで浜辺でオオカミと遊んでいる子供の姿がありました。

 

「おーい、ゆにちゃーん」


 海辺の賢者様の呼びかけに、その子供がこちらへとオオカミと一緒にけて来ました。


「なぁーにー? あれ? らくようじい、その人はだ~れ?」


「うむ、こちらのかたクロウ王子だよ」


「ふーん、王子様なんだぁー。わたしはゆにちゃん、よろしくね」


「どうも、はじめまして。よろしくね、ゆにちゃん」


「うん」 


 笑顔で答えるその女の子は、ふかい海のような青い髪に、夜を思わせる黒いひとみをしていました。


「あのね、ゆにちゃん。これから一緒に行って、ツルさんとのお話をお手伝てつだいして欲しいんだ」


「ツルさんとおはなしー? いいよ、お手伝てつだいする~。おおかみさんも一緒に行こうよ」


「えっ、そのオオカミも一緒に? (それは、ツルが逃げてしまうんじゃないだろうか)」


「うん、いっしょ……え?  なぁーに? おおかみさん」


 ゆにちゃんとオオカミさんは向かい合って、なにやら会話をはじめました。その様子を見て、クロウ王子はゆにちゃんならツルとも会話ができるかもしれないと思いました。


「えー……うん、わかったよ。ふくろうさんと行ってくるね。行こう、ふくろうさん」


 ゆにちゃんがそう言うと、頭上ずじょうから一羽いちわのフクロウがオオカミのとなりちました。クロウ王子はその様子に、フクロウと話せるならばツルとも話せるはずと確信かくしんして自然と笑顔になりました。


「それじゃあ、塔に向かいましょうか。クロウ王子」


 こうして海辺の賢者様、動物と話せる女の子ゆにちゃん、そしてフクロウ一羽いちわと一緒にクロウ王子は塔へと戻りました。


「おかえりなさい、クロウ王子……あっ、これは海辺の賢者様。娘がお世話になっております」


「いやいや、こちらこそ美味しいお菓子かしをいただいて感謝かんしゃしていますよ。ねぇ、ゆにちゃん」

 

「うん、おねーちゃんのお菓子かしだーいすきだよ」


「そうかそうか、喜んでもらえて良かったですよ。娘のお菓子作りの腕は、自分も自慢じまんなんですよ。あははっ」


 クロウ王子が塔に着くと兵士がむかえてくれた。兵士と一頻ひとしきり話をわしたあと、クロウ王子達は塔の裏手にいる銀色のツルをたずねた。


「うわぁ~、ぴかぴかなツルさんだぁー」


 ゆにちゃんは嬉しそうに銀色のツルのもとへと走って行きましたよ。

 クロウ王子達もそのあとに続いて、銀色のツルへと近づきます。その銀色のツルは、ゆにちゃん達が近寄ちかよってもまったく逃げようとしませんでした。


「こんにちは、ツルさん。わたし、ゆにちゃんよろしくねー……うん、そうだよ…………」


 ゆにちゃんは、自分の背よりも大きいツルに物怖ものおじすることなく話しかけはじめました。

 クロウ王子達はその様子をじっと見守っています。


「…………へぇ~、そうなんだ。クロウ王子、ツルさんも王子様なんだってー」


「へっ、王子様って……それはツルの王子様ということですか?」


「ううん、ツルさんは南の国の王子様なんだって。おなまえは……えっと…………マギだって~」


「ほう、南の国のマギ王子様…………。ということは、4年前から行方不明になっているアスナ共和国の第二皇太子様ですな」


「えっ、本当ですか海辺の賢者様? この銀色のツルがアスナ共和国の王子様…………。でも、どうしてマギ王子がツルに?」


「ふむ……。おそらくは、ヤミナキの影響でしょうなぁ」


「流行り病のヤミナキでツルになってしまったというのですか? そんなことが……」


「う~ん、わたしも直接ちょくせつ見たことは無いんだがね。一緒にヤミナキの治療ちりょうをしていた医師の話では、ヤミナキによって身体からだ一部いちぶ変容へんようする者がいたそうでねぇ。その医師の患者かんじゃの右手が馬の足のようになったと言っておりました」


「…………」


 クロウ王子は、あまりの衝撃しょうげきに言葉を失ってしました。


「らくようじい、ツルさんの病気びょうきなおしてあげて」


「あぁ、そうだね。なおしてあげたいが治療ちりょうする道具は家に…………」


 バサバサッバサッ……


 突然、周囲しゅういにいたツル達がさわぎ出して飛び立って行きました。


「何事ですか? クロウ王子」


 その騒ぎに塔の入り口を守っていた兵士があわてて近寄ちかってきた。


「いや、わたしにも何が起きているのか……ん?」


 その時、クロウ王子は近寄ってきた兵士のはるか後方こうほう、塔をかこむように植えられたモミの木林きばやし一角いっかくに光る二つの点を見つけました。

 その二つの光る点は上下運動じょうげうんどうを繰り返しながら、すこしずつこちらへと…………近づいてきます。


「あー、オオカミさんだー」


 ゆにちゃんのその声で、光る点がオオカミの眼なのだとクロウ王子もわかりました。

 モミの木林を抜けて出てきたオオカミの口には、手提てさげカバンがくわえられていました。

 

「おぉ、道具を持ってきてくれたのかい? ありがとうね」


 海辺の賢者様は、オオカミから手提てさげカバンを受け取ると頭上を見上げました。

 クロウ王子も海辺の賢者様と同じように見上げてみると、そこにはフクロウが旋回する姿がありました。


「ふくろうさんも知らせに行ってくれて、ありがとうよ」


 そう言う海辺の賢者様を見て、クロウ王子は一緒にいたフクロウが話を聞いていてヤミナキを治療ちりょうする道具をオオカミに持ってくるように海辺の家へと知らせに行ったのだと気が付きました。


「(そうか、フクロウもオオカミも私たちの言葉がわかっているんだ)海辺の賢者様、これでマギ王子をなおすことができるのですね」


「うむ、この薬が効くまで一週間いっしゅうかんくらいはかかるだろうがね。馬の手に変異へんいした患者かんじゃ治療ちりょう効果こうかがあったそうだよ。さて、それでは治療ちりょうを…………」


「待ってください、海辺の賢者様」


 治療ちりょうをしようとしていた海辺の賢者様を背後から呼び止める声が聞こえてきました。

 声の聞こえてきた方向を見ると、そこには冬の女王様が立っていました。


「冬の女王様、どうして止めるのですか?」


 クロウ王子は不思議そうに冬の女王様にいかけると、冬の女王様はゆっくりと銀色のツルの前まで歩いて行きました。


「……やはり、マギ王子だったのですね」


 そう言うと冬の女王様は銀色のツルをでました。


「冬の女王様は、マギ王子をご存知なのですか?」


「ええ、わたしがアスナ共和国近くを通った時に馬車ばしゃ車輪しゃりんが外れてしまい困っていた時に、マギ王子が助けてくれたのです」


「そうでしたか。それなら、なぜ治療ちりょうを待てというのですか?」


「クロウ王子。この王国とアスナ共和国は、昔からなかが良いとは言えない関係にあります。そんな状態じょうたいで、もし行方不明の王子が見つかったとなれば大きな問題になりかねません」


 そう言ってクロウ王子に語りかける冬の女王様の瞳は、とても悲しそうに感じられました。


「ふむ、冬の女王様の言うことは間違いではないね。気にしすぎなようだが、いらぬ誤解ごかいをしたがる者達ものたちには気を付けないといけない。冬の女王様、マギ王子をアスナ共和国まで連れて行ってもらえないでしょうか? 冬の女王様の馬車ならば、誰にも見られること無くマギ王子をアスナ共和国まで送り届けることができるでしょうから」


「わたしがですか? ……それはかまいませんが。わたしは、春の女王が来ない限りは塔を離れることができませんよ?」


「ええ、いますぐというわけではありませんよ。マギ王子の怪我が治るのにも時間がいるでしょう、それにヤミナキによって変異へんいしたのならくわしくを検査けんさして、もとの姿すがたに戻っても大丈夫なのかも確かめておきたいのでね」


 こうして、ゆにちゃんと海辺の賢者様の助けもあって、冬の女王様が塔を離れなかった理由の一つが解決しました。

 ただ、クロウ王子には一つだけどうしてもマギ王子に確かめたいことがありました。


「ゆにちゃん、マギ王子に聞いてもらいたいことがあるんだ。マギ王子は、自分を傷つけた王国の民をどう思っているのだろうか聞いてもらいたいんだ。そして、その王国の王子の一人として、マギ王子に心から申し訳ないと思っていると伝えて欲しい」


「うん、わかった。マギ王子に聞いてみるね」


 ゆにちゃんとマギ王子の話し合う姿を、クロウ王子は静かに見守りました。


「クロウ王子、マギ王子は怒っていないって。矢を撃たれたのは助けを求めようと、マギ王子が近づいたのを子供がおそわれると思ったお母さんが守ろうとしてのことだから仕方がないって言ってるよ」


 そう伝えてくれたゆにちゃんの言葉を聞いて、クロウ王子は銀色のツルの前にひざまずきました。


「マギ王子、寛大かんだい配慮はいりょいただきありとうございます。王国の王子として、謝罪しゃざい感謝かんしゃべさせていただきたい」


クロウ王子の最大限さいだいげんれいに、マギ王子は銀色の翼を折りたたみ頭を下げて答えました。


「さて、それではマギ王子の様子を見るといたしましょう。冬の女王様、塔の中をおりしてもよろしいですかな?」


「ええ、海辺の賢者様。わたしの部屋を使ってください。塔の頂上ならば、人の目にもつきませんから」


 マギ王子と海辺の賢者様が塔へと入っていく姿を見送ってから、クロウ王子はいそぎ王宮へと戻り王様にこと顛末てんまつを話しました。


「そうか、よくやってくれたクロウ王子。しかし、今度は春の女王のことじゃなー……困ったのう、う~ん…………」


 王様はまた悩んで、うなりはじめてしまいました。


「失礼します、王様。オニタケマル王子様たちがお帰りになられました」


「おぉ、帰ったか。早く顔がみたい、通しなさい」


 知らせに来た兵士が下がると、謁見えっけんにオニタケマル王子を先頭せんとうにしてぞろぞろと王子たちと見慣みなれない人々が入ってきました。


「王様、ただいま戻りました」


「おぉ、オニタケマル王子たちよ。よくぞ戻った。して、その後ろのたみたちは何じゃ?」


「はい、王様。まずは春の女王様について、ご報告ほうこくさせていただきます。私たちが春の女王様をさがしていたところ、どうやら春の女王様は西にある太古たいこの森へと向かったのだと分かりました」


「なんと、太古たいこの森とな。しかし、あの場所は誰も立ち入らぬように高いかべきずかれていたはずだが」


「はい。どうもその壁がこわされ、こうがわからおにあらわれたそうなのです。しかも、おには近くのまちおそってたみさらっていったそうのです」


「なんと、そんなことがあったというのか」


「そのさらわれた人々(ひとびと)の中に春の女王様の侍女じじょもいたらしく、春の女王様は侍女じじょを助けるために太古たいこの森に入っていったそうのです」


「あいわかった。すぐに救出きゅうしゅつのための兵を招集しょうしゅうさせよう」


「ありがとうございます。それで王様、ご存知ぞんじの通り太古たいこの森は広大こうだいおにを探すまでには時間がかかることと思われます。そこで、この者達ものたちは様々(さまざま)な土地よりあつめた王国を冬の寒さから守り、すくすべを持ち者達ものたちです」


「おぉー、左様さようなのか。どうか、王国の民をすくうためにちからしてくれたのむ」 


 王様はそう言って頭を下げました。


「もったいないことでございます、王様。我々(われわれ)は持てるすべてを王国のために使つか所存しょぞんです。それでは、すぐさま寒さにえしのげる家の補修ほしゅうと雪の中でも育つ作物さくもつ栽培さいばいからせていただきます」


「うむ。どうか、よろしく頼むぞ」


 こうして、オニタケマル王子たちがれてきた者達ものたちは、それぞれの作業さぎょうかりはじめました。

 王様のゆるしをて、王国の北側に位置する松林まつばやしを切り開いて彼らの住居と作業場が作られ、それは一つの街と呼べる大きさになりました。

 オニタケマル王子とクロウ王子は、春の女王様たちを助ける兵士団へいしだんを作り出発しゅっぱつの準備を進めていました。

 

「失礼いたします、クロウ王子。冬の女王様がお話があるそうで、塔に来て欲しいとのことです」


「冬の女王様が? 一体いったいなんだろう?」


 クロウ王子は不思議に思いながらも馬に乗って塔へと向かいました。

 塔への道のりは、あの日の吹き荒れていた吹雪が嘘であるかのように、とてもおだやかな雪景色が続いていました。それは冬の女王様の心がおだやかになられたあかしなのかもしれません。

 

「クロウ王子、お待ちしていました」


 クロウ王子が塔に着くと、冬の女王様が塔の入り口に立って待っていました。

 

「冬の女王様、お話というのは何でしょうか?」

 

 クロウ王子は馬から降りて、冬の女王様に聞きました。


「春の女王の事は聞きました。太古たいこの森は広く、けわしい樹海じゅかいが続いています。普通ふつうさがしたのでは、見つけるまでに多くの時間がかかりますし、クロウ王子たちがまよって出てこられなくなる可能性かのうせいもあります」


「(あぁ、そう言われたらその通りだ)それは考えてもみませんでした。鬼を倒して春の女王様たちを助けても、王国に帰ってこられなければ意味いみがありませんね。どうしよう?」


 クロウ王子は悩み考え込みました。  


「心配いりません。そこでクロウ王子をお呼びしたのです。これを春の女王を探すのに役立ててください」


 そう言って冬の女王様はクロウ王子に一輪いちりんの花を手渡てわたしました。


「花ですか?」


 クロウ王子には手渡された花に見覚えがありました。それは間違いなく冬の女王様の部屋にかざられていたあの花でした。


「その花はコノハナという名前の花で、わたしたち季節の女王にとって、とても大事な役割やくわりをもった花なのです」


「コノハナですか? それでこの花が春の女王様を探すことと、どのような関係があるのでしょうか?」


「コノハナは、季節の変わり目を知らせる役割をもっているのです。その花は、冬の女王であるわたしの近くでは満開まんかいで咲きます。そして、春の女王が近づくとともに花は閉じてつぼみになるのです」


「なるほど。この花の変化へんか目印めじるしに春の女王様を探し、帰りには花がひらく方向に戻れば良いのですね」


「はい、その通りですクロウ王子。どうか、春の女王たちをすくって無事ぶじに戻ってきてください」


「ありがとうございます、冬の女王様。かならずや春の女王様たちを助けて戻ってまいります」


 クロウ王子は、笑顔で見送る冬の女王様よりコノハナをさずかって王宮へと戻りました。

 そして、オニタケマル王子にコノハナが春の女王様のもとへとみちびいてくれるのだということを話しました。


「そうか。それならば、食料しょくりょうなど装備品そうびひんすくなくして移動いどうはやくできるな。冬の女王様のねがいにこたえるためにも、頑張がんばろうクロウ王子」


「はい、兄上あにうえ


 こうして、春の女王様たちを助けるための準備じゅんびととのいました。

 クロウ王子とオニタケマル王子は王様に出発しゅっぱつのあいさつをすると、王様は二人を宝物庫ほうもつこへと案内あんないしました。


「オニタケマル王子、クロウ王子。これは王国に代々(だいだい)つたえられるている鬼を太刀たちで、めい鬼丸おにまるという。これから本当に鬼をたおしに行くのだから、この太刀たちたずさえてかならずや春の女王様たちを助けて無事ぶじに帰って来ておくれ」


「はい、お約束やくそくします。王様」


 二人の王子は、元気よくそう王様に答えました。 


 満足まんぞくげに笑顔えがお見送みおくる王様にりながら、二人の王子は太古たいこの森へと兵団へいだん指揮しきいて向かいました。

 いくつかの山をえ、川をわたり、数度すうどのゴブリンやオークによる襲撃しゅうげき退しりぞけて、みちすがらの村々(むらむら)で鬼や春の女王様の情報じょうほうあつめながら王子たちは太古たいこの森へとたどりきました。

 

「兄上、コノハナの花びらが少しじはじめました。やはり、春の女王様は太古たいこの森の中にいるみたいです」


「あぁ、クロウ王子。これからが本番(ほんばんだぞ、こころしていどむ。かならずや春の女王様たちをすくすぞ」


「おぉぉぉー」


 クロウ王子と兵士たちは鯨波ときの声をあげて答えました。

 クロウ王子たちは鬼によってこわされたかべから、太古たいこの森へとりました。

 太古たいこの森は木々(きぎ)や植物しょくぶつつたからい、先が見通みとおせないほどふか樹海じゅかいが広がっていました。

 意思いしをもってまとわり付いてくるようなつたを切り開きながら、クロウ王子たちはコノハナの花びらが閉じる方向へとあゆみをすすめて行きます。


「クロウ王子、みんなかがんで静かにすすむんだ」


 太古たいこの森をしばらくすすむと、きゅうにオニタケマル王子はそう言ってみな身体からだひくくするように指示しじした。


「兄上?」

 

 不思議ふしぎそうにクロウ王子がオニタケマル王子を見ると、オニタケマル王子はだまって森のおくを指差しました。


「えっ? あっ、あれは……」


 オニタケマル王子の指差ゆびさしたそのさき、森の木々(きぎ)の合間あいまとおしてつたおおわれた廃城はいじょうの姿が見えました。


「クロウ王子が手にするコノハナの様子ようすを見るかぎり、あの廃城はいじょうに春の女王様がいるに違いない」


「はい。いよいよ鬼との対決ですね」


 クロウ王子と兵士たちはめ、廃城はいじょうへと近づきました。


「クロウ王子、おまえにはここで弓兵ゆみへい数名すうめい待機たいきしていてもらう」


「なぜですか、兄上? わたしも兄上とともに鬼とたたかえます」


「あぁ、わかっている。おまえのゆみの」腕前(うでまえ王国一おうこくいちだ。だがな、おまえはがりの。鬼がいるような瘴気しょうき場所ばしょはいるのはい」


大丈夫だいじょうぶです、兄上。そんな心配は……」


「それに、もしも我々(われわれ)ののがれて逃げた鬼がいたら、また街をおそ被害ひがいるかもしれない。おまえには、その大事なたみまも役割やくわりたして欲しいのだよ」


 オニタケマル王子はクロウ王子の両肩をつかみ、まっすぐに目を合わせてそう言いました。


「…………わかりました。兄上、このゆみにかけて鬼を一匹いっぴきたりともにがしはいたしません」


「あぁ、たのんだぞクロウ王子」


「はい、兄上」


 クロウ王子は廃城はいじょう見渡みわたせる位置いちかくし、しずかに廃城はいじょうへと潜入せんにゅうしていくオニタケマル王子たちを見送りました。

 オニタケマル王子たちが廃城はいじょうに入ってから一時間以上がりました。

 太古たいこの森の中は、どこで鳴いているのかわからない鳥の声と風に揺れてざわめく木々の音につつまれています。

 クロウ王子はだんだんと不安になってきました。もしかしたら、オニタケマル王子たちのに何かあったのではないかと…………。

 あまりのしずけさにごうやしたクロウ王子が、みずからも廃城はいじょうへともうと立ち上がったその時、廃城はいじょうの中からはげしくけんち鳴らす音とさけび声がひびいてきました。


「(いよいよ、たたかいがはじまった)弓構ゆみかまえ、一匹いっぴきも逃がすなー」


 クロウ王子たちは弓を引き、廃城はいじょう見張みはります。

 廃城はいじょうからさわぎの音がしなくなり、太古たいこの森に静けさが戻ったころ廃城はいじょうの門から負傷者ふしょうしゃかついだ兵士たちとともに、オニタケマル王子が春の女王様をかかえて出てきました。


「兄上、ご無事ぶじでしたか」


「あぁ、無事ぶじにこうして春の女王様をおたすけしたぞクロウ王子。さぁ、かえろういえが王国へ」


 王国へと春の女王様とともいたクロウ王子たちを、国民はおおいによろこ歓迎かんげいしました。


「よくやってくれ、クロウ王子、オニタケマル王子よ」


 王様は二人の王子にそう言ってねぎらいの言葉ことばをかけました。

 こうして、王国に春の女王様が戻り、冬の女王様も銀色のツルとなったマギ王子とともに塔をはなれることができるようになりました。

 しかし、心優こころやさしい冬の女王様は「春の女王様の怪我けがが良くなるまでは、近くにいてあげたい」と言って、しばらくのあいだは、冬の女王様と春の女王様が一緒いっしょに塔でらすことになりました。

 ということで、王国にまだ少し冬が続くことにはなりましたが、以前いぜんのような心配はありませんでした。

 なにせ、オニタケマル王子が連れてきた職人たちはとても優秀ゆうしゅうで、冬の中でもあたたかくらせるすべ以外いがいにも多くの技術ぎじゅつを王国にもたらしてくれたからです。

 毎日まいにちのように職人たちのらすところには、ほかの国からかれ技術ぎじゅつまなぼうと多くのものおとずれました。

 いつしか、彼らのまう場所は、もの学問がくもんを【つく】をやくして【ツクバ】とばれるようになりました。

 それと王国では、めずしい動物どうぶつつけたときには兵士へいしかなららせるまりが作られました。

 もちろん、銀色のツルがマギ王子であったことは秘密ひみつにされました。

 それとおなじくして、海辺うみべ賢者様けんじゃさま各国かっこく医師いしたちへと、ヤミナキにくすり人知ひとしれずめずらしい動物どうぶつためしてみるようにといた手紙てがみしました。

 クロウ王子は今回こんかい一件いっけんを考えて、王国の兵士へいしだけでは国民を守りきれないとして、自警団じけいだんを作ることにしました。

 その自警団じけいだん名前なまえは【カマドネコ】と名付なずけました。

 のちに多くの伝説でんせつのここととなるギルド・カマドネコのはじまりです。

 しかし、それはまたべつのおはなし

 王国をはなれてしまった国民こくみんたちも王国にもどり、冬を快適かいてきたのしめる国として、観光かんこうに多くの人々(ひとびと)がおとずれるようになりました。

 こうして、四季のある王国に平和が戻ったのです。

 めでたし、めでたし。

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