クロウ王子と季節の塔
あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおりました。
女王様たちは決められた期間、交替で塔に住むことになっています。そうすることで、その国にその女王様の季節が訪れるのです。
ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。
冬の女王様が塔に入ったままなのです。辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。
困った王様はお触れを出しました。
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
いかなる者も決して、季節を廻らせることを妨げてはならない』
何故、冬の女王様は塔を離れないのでしょうか。
何故、春の女王様は塔に訪れないのでしょうか。
時は流れて、冬の女王様が塔に閉じこもってしまってから2年の月日が過ぎ去りました。けれども、王国は現在も雪と氷に覆われたままです。
これまでに王様のお触れを受けて多くの者が季節の塔を訪れ、冬の女王様に塔から出てきてもらおうとしました。
人々は女王様に塔から離れてもらおうと、塔の周りでお祭りを開いて誘い出そうとしてみたり、高名な学者や話上手な者達が説得を試みたり、女王様を怒らせて出て来させようと悪口を言ったりとさまざまな方法を試してみたのです。
しかし、女王様は誰が来ても「私は塔を出る気はありません」と言ってかたくなに塔を離れようとしませんでした。
このままの状態が続けば王国内の食べ物が全て尽きてしまい、王国そのものの存亡すら危うい事態になってしまいます。
「う~ん、う~ん…………一体、どうしたものだろうか」
王様は、毎日玉座の上で悩んで唸っていました。
いつまでも続く冬の影響で、作物が思うように取れず王国内では食料不足が続いており、終わらぬ寒さによる体調不良を理由に国民の中には王国を離れる者まで出始めておりました。
いまから一年前、王様の十四人の王子様は話し合って春の女王様を探しに各地へと旅に出て行ったのですが、その王子様たちからの連絡が一切なくなり、王様は王子様たちの事も大変心配して悩んでおられました。
「王様、クロウ王子が謁見に来られました」
「おぉ、クロウ王子。もう身体は良くなったのか?」
「はい、王様。ご心配をおかけしましたが、クロウはこの通り元気になりました」
末っ子で生まれつき身体の弱かったクロウ王子は、他の王子様たちと一緒に春の女王様を探す旅に出たのですが病をわずらってしまい王国に戻って身体を癒やしておりました。
「王様。あれから兄上たちから、なにか知らせはありましたか?」
「うむ……。それが、まったく連絡が無いのだよ。王子たちの様子が心配ではあるが、兵士たちは王国の民に食料を配ったり、盗賊などから国民を守るために国を離すことが出来ないのだよ。困ったのう、どうしたら良いのだろうか。う~ん、う~ん……」
王様はまた悩んで唸りはじめました。
「王様、わたしが冬の女王様に塔を説得してみましょう。塔を離れていただければ、この寒さが収まり食べ物の心配もいらなくなるでしょう。そうしたら、春の女王様と兄上たちを探しに兵士たちと共にわたしも旅に出られます」
「う~ん…………そうだな。クロウ王子よ、冬の女王様を説得するために塔へ行ってくれ。ただし、十分に気を付けて行くのだぞ」
「はい、ありがとうございます王様。では、塔へ行って参ります」
こうしてクロウ王子は冬の女王様を説得に塔へと向かいました。
クロウ王子が城門をぬけて外に出ると、王子の視界にはまっしろな雪で覆われた世界が広がっていました
街の家々(いえいえ)は、みな雪を被り窓は冷たい風が入り込まないようにと外から木の板でふさがれていた。
街路樹には葉が一切なく、氷柱が葉のように茂っている。道は雪で覆われ、食料を運搬する馬車の車輪の跡が残っていることで、かろうじてわかる状態だった。
「わたしが病で寝込んでいる間に、ずいぶんと悪化してしまったようだ。急いで、冬を終わらせないと」
クロウ王子は決意を胸に街をぬけ、塔へと向かう道を力強く歩きはじめました。
街をぬけると風をさえぎる物が何もないために、クロウ王子にふるえるほど冷たい風が襲いかかり、降り積もった雪が風で舞い上がって視界邪魔した。
その光景は、まるで塔へと向かうクロウ王子を冬の女王が拒んでいるかのように感じられた。
しかし、クロウ王子はそれに動じることなく真っ直ぐ前を向いて歩いて行きます。
「うん? あれは………ツル?」
クロウ王子が塔へ向かうにつれて、それまで樹氷原と雪原ばかりだった風景の中に、なにやら動くものがちらほらと見えるようになってきました。
雪景色に溶け込むほど白い羽根に、遠くては分からぬほどに細い足と遠くからも白い雪に映える頭頂部の紅色の丸い模様、そして首と翼の下、尾先にある黒い羽が凛とした姿を際立たせている。
そう、渡り鳥のツルだ。
毎年冬の女王様が訪れると共に王国に飛来し、春の女王様が訪れて暖かくなる頃に飛び立って行く。
もしかしたら、冬がずっと続いているために飛び立つ機会を逃して王国に残っているのかもしれない。
「……塔だ。塔が見えてきた」
それまで吹き荒れていた吹雪が晴れて、空高くそびえ立つ塔が姿をあらわしました。
クロウ王子は塔へと近づいて、塔の入り口を守る兵士に話しかけて扉を開けてもらいました。
「クロウ王子、どうかお気を付けて。それと、一兵士である自分が言うのは失礼とは思いますが……どうか、冬の女王を責めないでください。冬の女王は、お優しいお方なのです」
「はい、わかっています。冬の女王様にも、なにか理由があるのでしょう。だから無理に出て行ってもらうような事はしませんよ」
クロウ王子は、心配そうな兵士に優しく笑顔でそう答えて塔の中へと入っていきました。外は雪景色だというのに、塔の中は不思議と暖かく、とても優しい花の香りに満ちていた。
「外は雪で覆われているのに、どうしてこんなにも花の香りがするのだろう。それに、窓も松明も無いのに明るいのも不思議だ」
クロウ王子は首を傾げて不思議に思いながら塔の階段を登っていきます。塔の中は、まるで別の世界のようでした。クロウ王子は、ここまで歩いてきた疲れが階段を一段一段登るごとに癒やされるような感じがしていました。
塔の階段の行き止まり、最上階に冬の女王が閉じこもっている部屋があります。部屋の入口の扉には、春、夏、秋、冬をあらわす装飾が施されており、冬の装飾が青白く輝いていた。
「失礼します、冬の女王様。わたしは十四番目の王子でクロウと申します。謁見の許可を頂けないでしょうか」
「…………クロウ王子ですか。どうぞ、お入りなさい」
「はい、失礼します」
クロウ王子が扉を開けると、正面に冬の女王がこちらに背を向けて窓辺に置かれた椅子に座っている姿が見えました。部屋を見まわすと左手側に置かれた長テーブルの上に、見たことのない綺麗な花が花瓶に生けられていました。
塔の中に満ちている花の香りのもとは、この花なのだろうかと考えながらクロウ王子は膝をついて背を向けた冬の女王に話しかけました。
「冬の女王様、このまま冬が続いては民が飢えて王国が滅んでしまいます。どうか、塔を離れていただけないでしょうか。どうか、お願いいたします」
「クロウ王子、この塔を訪れた者達にも言ったはずです。塔を離れる気は無いと……」
「しかし、それでは王国が、民が……」
「それに、いまだに春の女王は来ていないそうではありませんか。ならば、交代する女王がいないというのに塔を離れることなど出来ません」
「それは…………。春の女王様のことは、兄上たちが探しおります。だから…………」
クロウ王子は言葉に詰まってしまいました。冬の女王が言っているとおり、交代する女王がいない状態で女王が塔を離れたことは過去に一度もありません。
クロウ王子は考えこみました。季節を司る女王が塔にいないことで王国にどのような事態が起こるのだろうか、それこそ今よりも悪い事が起きるかもしれません。
「(どうしたら良いのだろうか)…………ん?」
クロウ王子は冬の女王の背中を見つめ悩んでいると、冬の女王がずっと窓の外を見ていることに気が付きました。
「…………失礼します」
クロウ王子は冬の女王が見つめている窓の外がどうしても気になり立ち上がって、冬の女王の隣に立ち外を眺めてみると、そこには塔の下にいるたくさんのツルが見えました。
「(女王様は、あのツルを眺めておられたのか)……あっ、あのツルは」
クロウ王子が女王の視線の先を追って見ると、そこには他のツルとは違う白銀の羽根をしたツルがいました。白銀のツルの左羽根には、包帯が巻かれていました。
「冬の女王様は、あの白銀のツルを見ていらしたのですね」
「……えっ…………クロウ王子、無礼であろう」
冬の女王は驚いた様子でクロウ王子を見ました。どうやら冬の女王は、クロウ王子が隣に立っていたことに気が付いていなかったようです。
「あっ……はい、失礼いたしました」
クロウ王子は慌てて先程までいた入り口近くの床に膝をついて、頭を下げました。
「…………クロウ王子。絶対に、わたしは塔を離れません。そう、国王にも伝えなさい」
冬の女王は椅子から立ち上がって、クロウ王子の前に立ってそう告げました。
「………………」
クロウ王子は、冬の女王の言葉に反応せず、膝をついて頭を下げたままでした。
「クロウ王子、返事をしなさい」
冬の女王は、クロウ王子に強い言葉で返事を求めました。
「…………」
しかし、クロウ王子は沈黙したままでした。
「クロウ王子、答えなさい。わたしを怒らせようとしたところで、塔を離れたりはしませんよ」
冬の女王は苛立った様子で、クロウ王子に語りかけます。
「……冬の女王様」
それまで頭を下げたまま黙り込んでいたクロウ王子が顔を上げて、冬の女王の目を見て話しかけました。
「な、なんです、クロウ王子」
まっすぐな瞳で目を見つめて話しかけてきたクロウ王子に冬の女王は動揺しながらも、そう返事をしました。
「冬の女王様。クロウは、冬の女王様が塔を離れない理由がやっとわかりました。女王様はあの白銀のツルを守ろうとしておられたのですね」
「………………」
真っ直ぐな瞳を向けたまま、そう笑顔で語りかけるクロウ王子に今度は冬の女王が黙り込んでしまいました。
「冬の女王様が、あの白銀のツルの怪我を手当てをされたのですね。そして、怪我で飛べない白銀のツルがひとりぼっちにならないように塔に残っておられた」
「……ええ、そうよ。クロウ王子は賢い方なのね。だけど、わたしが塔を離れない理由はそれだけではないわ…………」
「ツルに怪我をさせたのが王国の人間だからですね」
「……そう……そこまで、わかっているのね。本当に賢い人ね、クロウ王子」
そう言ってクロウ王子を見る冬の女王の視線には、一欠片もクロウ王子を褒めているような温かさはありませんでした。
クロウ王子はそんな視線を受けながらも、笑顔のままで言葉を続けました。
「あの怪我をした白銀のツルを見て、ようやくわかりましたよ。わたしが城を出た頃には歩くことさえも大変だった吹雪が、この塔に近づくにつれて弱くなっていった。あれはツルたちを守りすごしやすくするためだけではなく、ツルに怪我をさせた王国の人間への罰なのですね」
「ええ、そのとおりよ。だから、塔を離れることは出来ないの」
「では、ツルの怪我が治ったなら塔を離れて……」
「いいえ、離れないわ」
「どうしてですか? 冬の女王様は、あの白銀のツルを心配して塔に残っておられるのでしょう。ならば、怪我が治ってしまえば仲間と一緒に旅立てるのですから、心配いらないではありませんか」
クロウ王子は不思議そうに問いかけました。
「クロウ王子、あのツルが怪我をしたのは人間のせいなのですよ。仲間と一緒だとしても、きっと銀色の羽根では目立ってしまうことでしょう。そして、また銀色の羽根を狙ってツルを狩ろうとする者があらわれます。だから、わたしが守ってあげなければいけないのです」
「そんな…………。それでは、いつまでたっても王国は冬に閉ざされたままではないですか」
「人間がツルを絶対に狩らないと約束するならばともかく、そうでなければツルを旅立たせるわけにはいきません」
冬の女王はそう言ってふたたび窓辺の椅子に腰掛けました。
「ですが、お願いです。冬の女王……さ……ま……」
クロウ王子は、ふたたび立ち上がって冬の女王様に横に立ち詰め寄りましたが、クロウ王子はそれ以上言葉を発することが出来ませんでした。
窓辺で白銀のツルを見つめる冬の女王の横顔は、温もりに満ちた優しい表情でした。その横顔を見て、クロウ王子は亡くなった母親を思い出して胸がいっぱいになってしまったのです。
「……失礼します」
クロウ王子は肩を落として部屋を跡にすることにしました。
塔を降りるクロウ王子の足は重く、あがる時に抜け落ちた疲れが戻ってくるような感じがしました。
「クロウ王子、いかがでしたか?」
「…………」
外に出ると兵士がクロウ王子にそう問いかけましたが、クロウ王子は黙って首を横に振ることしか出来ませんでした。
「そうですか……。クロウ王子、私には娘がいましてね…………」
「……えっ…………はい」
突然語り始めた兵士に、クロウ王子は驚きながらも話に耳を傾けることにしました。
「……娘は生まれながら目が見えなくねぇ、それはもう大変でしたよ。色んな物に興味を持ってちょろちょろと動き回って、怪我をしなように守るのに必死な日々でした…………」
「へぇー、そうなんですか」
「えぇ、元気なのは良いことですから叱るわけにもいかなくてね。そんなある日に……妻が亡くなりましてね…………」
「えっ…………どうして」
「長雨が続いたあとに河原へと妻と娘が遊びに行ったそうなのですが、遊んでいると山の方から鉄砲水が押し寄せて、それに二人とも巻き込まれて…………娘は近くにいた人に助けられたのですが、妻は…………」
「…………」
クロウ王子は、悲しそうな兵士に慰みかける言葉を探しましたが見つかりませんでした。
「…………本当に大変でしたよ、それからの日々は。兵士長の計らいで娘を連れて働ける仕事に変えてもらえましたが、それでも心配事が減ることは無くてね……。どこに行くにも一緒に付いて行きましたよ。だから、友達と遠くへ出かけたいと言っても許してあげられませんでした。……今にして思えば、過保護が過ぎたバカな父親だったと恥ずかしくなりますよ。あははっ」
そう言って恥ずかしそうに笑う兵士を見て、クロウ王子の脳裏にふと冬の女王の横顔がよぎりました。
「(そうか、冬の女王様が白銀のツルに向けている思いは親の愛情と同じものなのかもしれない)心配なのは当然ですよ、大切な娘さんなのですから」
「えぇ、でもね。だからこそ、一人の人間として扱ってやらなければいけなかったんですよ。なのに、バカな自分は守ることばかり一生懸命で、娘が友達と楽しく過ごす時間を邪魔してしまっていた。だから、十歳になった頃に言われましたよ。「お父さんはどうして、わたしを閉じ込めるの? わたしはお父さんのお人形じゃないんだよ」ってね…………」
「……それは…………」
「……なんというかね、頭を丸太で殴られたような気持ちでしたよ。実際、自分でも多少は自覚がありましたからね。それからは一方的に決めるんじゃなくて、娘と会話をして一番良い方法を見つけるようにしているんです。だから、冬の女王様のされていることがあの頃の自分と重なってしまってね…………」
「会話ですか……。でもそれは、ツル相手では無理な話ですね…………」
「ええ……。動物園と会話だなんて、できませんよねぇ…………」
兵士とクロウ王子は、塔の裏手で銀色の羽根を整えているツルを見つめながら黙り込んでしまいました。
「あのう、海辺の賢者様に相談されたらいかがでしょうか?」
背後から話しかけられて、兵士とクロウ王子が驚いて振り返ると、髪の長い笑顔少女がバスケットを抱えて立っていた。
「えっ……なんだフランか。クロウ王子、娘のフランです」
「あぁー。どうもはじめまして、クロウと申します。いま海辺の賢者様って……」
「あっ、はい。クロウ王子様、海辺の賢者様なら何か知恵を授けて頂けるのではないかと」
「海辺の賢者様が戻って来られてるのですか?」
「はい、さきほど私の目薬を届けに来て下さいましたので……あっ……」
「フランさん、教えてくれてありがとうございます。馬を借りていきますよ」
クロウ王子は、すぐさま馬に飛び乗り走って海辺の賢者様のもとへと向かいました。
海辺の賢者様とは、いつの頃からか王国の東の浜辺に移り住んできた老人のことです。
6年前のこと、流行り病で【ヤミナキ】という名の病気が王国内で流行して多くの国民が亡くなる非常事態がありました。
海辺の賢者様は、多くの医師を他の国々(くにぐに)から率いて国民の治療をおこない助けてくれたのです。
海辺の賢者様は旅好きで、王国内の流行り病が静まると「このまま皆で、他の国々へと病を治療するため向かいます」と言って旅立って行かれ、今日のこの日まで行き方知れずでした。
クロウ王子が浜辺に着くと、王国内で見たことのない木で作られた海辺に建つ家が見えてきました。家の前には若木を思わせる明るい緑色のローブを纏った白髪の人物が立っています。
「お久しぶりです、賢者様」
「おや? これはこれはクロウ王子。ごあいさつに行けず申し訳ない」
白髪に東方の国の民族衣装でユカタというらしい服を着た優しい笑顔の老人。この人が海辺の賢者様だ。
「海辺の賢者様、いつ王国に戻ってこられたのですか?」
「王国に着いたのは、ひと月くらい前だったんですがね。今回の旅で船が損傷してしまってねー。修理が一段落つくのに時間がかかってしまってね」
「そうでしたか。アメノトリフネを直しておられたのですね」
海辺の賢者様が旅に使っている船アメノトリフネは、ニワトリの卵を横にしたような不思議な形の船で海辺の賢者様が自分で作られた物だ。
ちなみに、この海辺に建つ家も海辺の賢者様が建てられてもので、賢者様は自分で使うものは自分で作るようにしているらしい。
「ところで、クロウ王子。お身体のほうは、いかがですかな? なんでも、寝込んでおられたとか?」
「はい、おかげさまで良くなりました。それで今日は賢者様にどうかお知恵をお貸しいただきたいのですがよろしいでしょうか?」
クロウ王子は、これまでの経緯を海辺の賢者様に説明しました。
「……ふむ、なるほど。王国が冬に閉ざされたことは旅の空で聞いておりました。しかし、そのような事態になっていようとは難儀なことですなー」
「ええ、このままでは本当に王国が滅びてしまいます。賢者様、なにか冬の女王様が安心してツルを旅立たせる方法はないでしょうか? もしくは、あの親子が会話で和解したように何か解決する手立てはありませんか?」
「うん、会話ねぇー。それなら、あの子の出番ですかな?」
海辺の賢者様はそう言って、後ろを振り返りました。
クロウ王子もつられてその方向を見ると、すこし離れたところで浜辺でオオカミと遊んでいる子供の姿がありました。
「おーい、ゆにちゃーん」
海辺の賢者様の呼びかけに、その子供がこちらへとオオカミと一緒に駆けて来ました。
「なぁーにー? あれ? らくよう爺、その人はだ~れ?」
「うむ、こちらの方クロウ王子だよ」
「ふーん、王子様なんだぁー。わたしはゆにちゃん、よろしくね」
「どうも、はじめまして。よろしくね、ゆにちゃん」
「うん」
笑顔で答えるその女の子は、深い海のような青い髪に、夜を思わせる黒い瞳をしていました。
「あのね、ゆにちゃん。これから一緒に行って、ツルさんとのお話をお手伝いして欲しいんだ」
「ツルさんとおはなしー? いいよ、お手伝いする~。おおかみさんも一緒に行こうよ」
「えっ、そのオオカミも一緒に? (それは、ツルが逃げてしまうんじゃないだろうか)」
「うん、いっしょ……え? なぁーに? おおかみさん」
ゆにちゃんとオオカミさんは向かい合って、なにやら会話をはじめました。その様子を見て、クロウ王子はゆにちゃんならツルとも会話ができるかもしれないと思いました。
「えー……うん、わかったよ。ふくろうさんと行ってくるね。行こう、ふくろうさん」
ゆにちゃんがそう言うと、頭上から一羽のフクロウがオオカミの隣に降り立ちました。クロウ王子はその様子に、フクロウと話せるならばツルとも話せるはずと確信して自然と笑顔になりました。
「それじゃあ、塔に向かいましょうか。クロウ王子」
こうして海辺の賢者様、動物と話せる女の子ゆにちゃん、そしてフクロウ一羽と一緒にクロウ王子は塔へと戻りました。
「おかえりなさい、クロウ王子……あっ、これは海辺の賢者様。娘がお世話になっております」
「いやいや、こちらこそ美味しいお菓子をいただいて感謝していますよ。ねぇ、ゆにちゃん」
「うん、おねーちゃんのお菓子だーいすきだよ」
「そうかそうか、喜んでもらえて良かったですよ。娘のお菓子作りの腕は、自分も自慢なんですよ。あははっ」
クロウ王子が塔に着くと兵士が迎えてくれた。兵士と一頻り話を交わした後、クロウ王子達は塔の裏手にいる銀色のツルを訪ねた。
「うわぁ~、ぴかぴかなツルさんだぁー」
ゆにちゃんは嬉しそうに銀色のツルのもとへと走って行きましたよ。
クロウ王子達もそのあとに続いて、銀色のツルへと近づきます。その銀色のツルは、ゆにちゃん達が近寄ってもまったく逃げようとしませんでした。
「こんにちは、ツルさん。わたし、ゆにちゃんよろしくねー……うん、そうだよ…………」
ゆにちゃんは、自分の背よりも大きいツルに物怖じすることなく話しかけはじめました。
クロウ王子達はその様子をじっと見守っています。
「…………へぇ~、そうなんだ。クロウ王子、ツルさんも王子様なんだってー」
「へっ、王子様って……それはツルの王子様ということですか?」
「ううん、ツルさんは南の国の王子様なんだって。おなまえは……えっと…………マギだって~」
「ほう、南の国のマギ王子様…………。ということは、4年前から行方不明になっているアスナ共和国の第二皇太子様ですな」
「えっ、本当ですか海辺の賢者様? この銀色のツルがアスナ共和国の王子様…………。でも、どうしてマギ王子がツルに?」
「ふむ……。おそらくは、ヤミナキの影響でしょうなぁ」
「流行り病のヤミナキでツルになってしまったというのですか? そんなことが……」
「う~ん、わたしも直接見たことは無いんだがね。一緒にヤミナキの治療をしていた医師の話では、ヤミナキによって身体の一部が変容する者がいたそうでねぇ。その医師の患者の右手が馬の足のようになったと言っておりました」
「…………」
クロウ王子は、あまりの衝撃に言葉を失ってしました。
「らくよう爺、ツルさんの病気を治してあげて」
「あぁ、そうだね。治してあげたいが治療する道具は家に…………」
バサバサッバサッ……
突然、周囲にいたツル達が騒ぎ出して飛び立って行きました。
「何事ですか? クロウ王子」
その騒ぎに塔の入り口を守っていた兵士が慌てて近寄ってきた。
「いや、わたしにも何が起きているのか……ん?」
その時、クロウ王子は近寄ってきた兵士のはるか後方、塔を囲むように植えられたモミの木林の一角に光る二つの点を見つけました。
その二つの光る点は上下運動を繰り返しながら、すこしずつこちらへと…………近づいてきます。
「あー、オオカミさんだー」
ゆにちゃんのその声で、光る点がオオカミの眼なのだとクロウ王子もわかりました。
モミの木林を抜けて出てきたオオカミの口には、手提げカバンがくわえられていました。
「おぉ、道具を持ってきてくれたのかい? ありがとうね」
海辺の賢者様は、オオカミから手提げカバンを受け取ると頭上を見上げました。
クロウ王子も海辺の賢者様と同じように見上げてみると、そこにはフクロウが旋回する姿がありました。
「ふくろうさんも知らせに行ってくれて、ありがとうよ」
そう言う海辺の賢者様を見て、クロウ王子は一緒にいたフクロウが話を聞いていてヤミナキを治療する道具をオオカミに持ってくるように海辺の家へと知らせに行ったのだと気が付きました。
「(そうか、フクロウもオオカミも私たちの言葉がわかっているんだ)海辺の賢者様、これでマギ王子を治すことができるのですね」
「うむ、この薬が効くまで一週間くらいはかかるだろうがね。馬の手に変異した患者の治療に効果があったそうだよ。さて、それでは治療を…………」
「待ってください、海辺の賢者様」
治療をしようとしていた海辺の賢者様を背後から呼び止める声が聞こえてきました。
声の聞こえてきた方向を見ると、そこには冬の女王様が立っていました。
「冬の女王様、どうして止めるのですか?」
クロウ王子は不思議そうに冬の女王様に問いかけると、冬の女王様はゆっくりと銀色のツルの前まで歩いて行きました。
「……やはり、マギ王子だったのですね」
そう言うと冬の女王様は銀色のツルを撫でました。
「冬の女王様は、マギ王子をご存知なのですか?」
「ええ、わたしがアスナ共和国近くを通った時に馬車の車輪が外れてしまい困っていた時に、マギ王子が助けてくれたのです」
「そうでしたか。それなら、なぜ治療を待てというのですか?」
「クロウ王子。この王国とアスナ共和国は、昔から仲が良いとは言えない関係にあります。そんな状態で、もし行方不明の王子が見つかったとなれば大きな問題になりかねません」
そう言ってクロウ王子に語りかける冬の女王様の瞳は、とても悲しそうに感じられました。
「ふむ、冬の女王様の言うことは間違いではないね。気にしすぎなようだが、いらぬ誤解をしたがる者達には気を付けないといけない。冬の女王様、マギ王子をアスナ共和国まで連れて行ってもらえないでしょうか? 冬の女王様の馬車ならば、誰にも見られること無くマギ王子をアスナ共和国まで送り届けることができるでしょうから」
「わたしがですか? ……それは構いませんが。わたしは、春の女王が来ない限りは塔を離れることができませんよ?」
「ええ、いますぐというわけではありませんよ。マギ王子の怪我が治るのにも時間がいるでしょう、それにヤミナキによって変異したのなら詳しくを検査して、もとの姿に戻っても大丈夫なのかも確かめておきたいのでね」
こうして、ゆにちゃんと海辺の賢者様の助けもあって、冬の女王様が塔を離れなかった理由の一つが解決しました。
ただ、クロウ王子には一つだけどうしてもマギ王子に確かめたいことがありました。
「ゆにちゃん、マギ王子に聞いてもらいたいことがあるんだ。マギ王子は、自分を傷つけた王国の民をどう思っているのだろうか聞いてもらいたいんだ。そして、その王国の王子の一人として、マギ王子に心から申し訳ないと思っていると伝えて欲しい」
「うん、わかった。マギ王子に聞いてみるね」
ゆにちゃんとマギ王子の話し合う姿を、クロウ王子は静かに見守りました。
「クロウ王子、マギ王子は怒っていないって。矢を撃たれたのは助けを求めようと、マギ王子が近づいたのを子供が襲われると思ったお母さんが守ろうとしてのことだから仕方がないって言ってるよ」
そう伝えてくれたゆにちゃんの言葉を聞いて、クロウ王子は銀色のツルの前に跪きました。
「マギ王子、寛大な配慮を頂きありとうございます。王国の王子として、謝罪と感謝を述べさせて頂きたい」
クロウ王子の最大限の礼に、マギ王子は銀色の翼を折りたたみ頭を下げて答えました。
「さて、それではマギ王子の様子を見るといたしましょう。冬の女王様、塔の中をお借りしてもよろしいですかな?」
「ええ、海辺の賢者様。わたしの部屋を使ってください。塔の頂上ならば、人の目にもつきませんから」
マギ王子と海辺の賢者様が塔へと入っていく姿を見送ってから、クロウ王子は急ぎ王宮へと戻り王様に事の顛末を話しました。
「そうか、よくやってくれたクロウ王子。しかし、今度は春の女王のことじゃなー……困ったのう、う~ん…………」
王様はまた悩んで、唸りはじめてしまいました。
「失礼します、王様。オニタケマル王子様たちがお帰りになられました」
「おぉ、帰ったか。早く顔がみたい、通しなさい」
知らせに来た兵士が下がると、謁見の間にオニタケマル王子を先頭にしてぞろぞろと王子たちと見慣れない人々が入ってきました。
「王様、ただいま戻りました」
「おぉ、オニタケマル王子たちよ。よくぞ戻った。して、その後ろの民たちは何じゃ?」
「はい、王様。まずは春の女王様について、ご報告させていただきます。私たちが春の女王様を探していたところ、どうやら春の女王様は西にある太古の森へと向かったのだと分かりました」
「なんと、太古の森とな。しかし、あの場所は誰も立ち入らぬように高い壁が築かれていたはずだが」
「はい。どうもその壁が壊され、向こう側から鬼が現れたそうなのです。しかも、鬼は近くの街を襲って民を攫っていったそうのです」
「なんと、そんなことがあったというのか」
「その攫われた人々(ひとびと)の中に春の女王様の侍女もいたらしく、春の女王様は侍女を助けるために太古の森に入っていったそうのです」
「あいわかった。すぐに救出のための兵を招集させよう」
「ありがとうございます。それで王様、ご存知の通り太古の森は広大で鬼を探すまでには時間がかかることと思われます。そこで、この者達は様々(さまざま)な土地より集めた王国を冬の寒さから守り、救う術を持ち者達です」
「おぉー、左様なのか。どうか、王国の民を救うために力を貸してくれ頼む」
王様はそう言って頭を下げました。
「もったいないことでございます、王様。我々(われわれ)は持てる全てを王国のために使う所存です。それでは、すぐさま寒さに耐えしのげる家の補修と雪の中でも育つ作物の栽培に取り掛からせていただきます」
「うむ。どうか、よろしく頼むぞ」
こうして、オニタケマル王子たちが連れてきた者達は、それぞれの作業に取り掛かりはじめました。
王様の許しを得て、王国の北側に位置する松林を切り開いて彼らの住居と作業場が作られ、それは一つの街と呼べる大きさになりました。
オニタケマル王子とクロウ王子は、春の女王様たちを助ける兵士団を作り出発の準備を進めていました。
「失礼いたします、クロウ王子。冬の女王様がお話があるそうで、塔に来て欲しいとの事です」
「冬の女王様が? 一体なんだろう?」
クロウ王子は不思議に思いながらも馬に乗って塔へと向かいました。
塔への道のりは、あの日の吹き荒れていた吹雪が嘘であるかのように、とても穏やかな雪景色が続いていました。それは冬の女王様の心が穏やかになられた証なのかもしれません。
「クロウ王子、お待ちしていました」
クロウ王子が塔に着くと、冬の女王様が塔の入り口に立って待っていました。
「冬の女王様、お話というのは何でしょうか?」
クロウ王子は馬から降りて、冬の女王様に聞きました。
「春の女王の事は聞きました。太古の森は広く、険しい樹海が続いています。普通に探したのでは、見つけるまでに多くの時間がかかりますし、クロウ王子たちが迷って出てこられなくなる可能性もあります」
「(あぁ、そう言われたらその通りだ)それは考えてもみませんでした。鬼を倒して春の女王様たちを助けても、王国に帰ってこられなければ意味がありませんね。どうしよう?」
クロウ王子は悩み考え込みました。
「心配いりません。そこでクロウ王子をお呼びしたのです。これを春の女王を探すのに役立ててください」
そう言って冬の女王様はクロウ王子に一輪の花を手渡しました。
「花ですか?」
クロウ王子には手渡された花に見覚えがありました。それは間違いなく冬の女王様の部屋に飾られていたあの花でした。
「その花はコノハナという名前の花で、わたしたち季節の女王にとって、とても大事な役割をもった花なのです」
「コノハナですか? それでこの花が春の女王様を探すことと、どのような関係があるのでしょうか?」
「コノハナは、季節の変わり目を知らせる役割をもっているのです。その花は、冬の女王であるわたしの近くでは満開で咲きます。そして、春の女王が近づくとともに花は閉じて蕾になるのです」
「なるほど。この花の変化を目印に春の女王様を探し、帰りには花が開く方向に戻れば良いのですね」
「はい、その通りですクロウ王子。どうか、春の女王たちを救って無事に戻ってきてください」
「ありがとうございます、冬の女王様。必や春の女王様たちを助けて戻って参ります」
クロウ王子は、笑顔で見送る冬の女王様よりコノハナを授かって王宮へと戻りました。
そして、オニタケマル王子にコノハナが春の女王様のもとへと導いてくれるのだということを話しました。
「そうか。それならば、食料など装備品を少なくして移動を速くできるな。冬の女王様の願いに答えるためにも、頑張ろうクロウ王子」
「はい、兄上」
こうして、春の女王様たちを助けるための準備が整いました。
クロウ王子とオニタケマル王子は王様に出発のあいさつをすると、王様は二人を宝物庫へと案内しました。
「オニタケマル王子、クロウ王子。これは王国に代々(だいだい)伝えられるている鬼を斬る太刀で、銘を鬼丸という。これから本当に鬼を倒しに行くのだから、この太刀を携えて必ずや春の女王様たちを助けて無事に帰って来ておくれ」
「はい、お約束します。王様」
二人の王子は、元気よくそう王様に答えました。
満足げに笑顔で見送る王様に手を振りながら、二人の王子は太古の森へと兵団を指揮いて向かいました。
いくつかの山を越え、川を渡り、数度のゴブリンやオークによる襲撃を退けて、道すがらの村々(むらむら)で鬼や春の女王様の情報を集めながら王子たちは太古の森へとたどり着きました。
「兄上、コノハナの花びらが少し閉じはじめました。やはり、春の女王様は太古の森の中にいるみたいです」
「あぁ、クロウ王子。これからが本番だぞ、心して挑む。必ずや春の女王様たちを救い出すぞ」
「おぉぉぉー」
クロウ王子と兵士たちは鯨波の声をあげて答えました。
クロウ王子たちは鬼によって壊された壁から、太古の森へと踏み入りました。
太古の森は木々(きぎ)や植物の蔦が絡み合い、先が見通せないほど深い樹海が広がっていました。
意思をもってまとわり付いてくるような蔦を切り開きながら、クロウ王子たちはコノハナの花びらが閉じる方向へと歩みを進めて行きます。
「クロウ王子、みんな屈んで静かに進むんだ」
太古の森をしばらく進むと、急にオニタケマル王子はそう言って皆に身体を低くするように指示した。
「兄上?」
不思議そうにクロウ王子がオニタケマル王子を見ると、オニタケマル王子は黙って森の奥を指差しました。
「えっ? あっ、あれは……」
オニタケマル王子の指差したそのさき、森の木々(きぎ)の合間を通して蔦に覆われた廃城の姿が見えました。
「クロウ王子が手にするコノハナの様子を見るかぎり、あの廃城に春の女王様がいるに違いない」
「はい。いよいよ鬼との対決ですね」
クロウ王子と兵士たちは気を引き締め、廃城へと近づきました。
「クロウ王子、おまえにはここで弓兵数名と待機していてもらう」
「なぜですか、兄上? わたしも兄上とともに鬼と戦えます」
「あぁ、わかっている。おまえの弓の」腕前は王国一だ。だがな、おまえは病み上がりの身。鬼がいるような瘴気の濃い場所に入るのは良く無い」
「大丈夫です、兄上。そんな心配は……」
「それに、もしも我々(われわれ)の目を逃れて逃げた鬼がいたら、また街を襲い被害が出るかもしれない。おまえには、その大事な民を守る役割を果たして欲しいのだよ」
オニタケマル王子はクロウ王子の両肩を掴み、まっすぐに目を合わせてそう言いました。
「…………わかりました。兄上、この弓にかけて鬼を一匹たりとも逃しはいたしません」
「あぁ、頼んだぞクロウ王子」
「はい、兄上」
クロウ王子は廃城を見渡せる位置に身を隠し、静かに廃城へと潜入していくオニタケマル王子たちを見送りました。
オニタケマル王子たちが廃城に入ってから一時間以上が過ぎ去りました。
太古の森の中は、どこで鳴いているのかわからない鳥の声と風に揺れてざわめく木々の音につつまれています。
クロウ王子はだんだんと不安になってきました。もしかしたら、オニタケマル王子たちの身に何かあったのではないかと…………。
あまりの静けさに業を煮やしたクロウ王子が、自らも廃城へと踏み込もうと立ち上がったその時、廃城の中から激しく剣を打ち鳴らす音と叫び声が響いてきました。
「(いよいよ、戦いがはじまった)弓構え、一匹も逃がすなー」
クロウ王子たちは弓を引き、廃城を見張ります。
廃城から騒ぎの音がしなくなり、太古の森に静けさが戻った頃。廃城の門から負傷者を担いだ兵士たちと共に、オニタケマル王子が春の女王様を抱えて出てきました。
「兄上、ご無事でしたか」
「あぁ、無事にこうして春の女王様をお助けしたぞクロウ王子。さぁ、帰ろう我が家、我が王国へ」
王国へと春の女王様と共に着いたクロウ王子たちを、国民はおおいに喜び歓迎しました。
「よくやってくれ、クロウ王子、オニタケマル王子よ」
王様は二人の王子にそう言って労いの言葉をかけました。
こうして、王国に春の女王様が戻り、冬の女王様も銀色のツルとなったマギ王子と共に塔を離れることができるようになりました。
しかし、心優しい冬の女王様は「春の女王様の怪我が良くなるまでは、近くにいてあげたい」と言って、しばらくの間は、冬の女王様と春の女王様が一緒に塔で暮らすことになりました。
ということで、王国にまだ少し冬が続くことにはなりましたが、以前のような心配はありませんでした。
なにせ、オニタケマル王子が連れてきた職人たちはとても優秀で、冬の中でも暖かく暮らせる術以外にも多くの技術を王国にもたらしてくれたからです。
毎日のように職人たちの暮らすところには、他の国から彼ら技術を学ぼうと多くの者が訪れました。
いつしか、彼らの住まう場所は、物や学問を【作る場】を訳して【ツクバ】と呼ばれるようになりました。
それと王国では、珍しい動物を見つけた時には兵士に必ず知らせる決まりが作られました。
もちろん、銀色のツルがマギ王子であったことは秘密にされました。
それと同じくして、海辺の賢者様は各国の医師たちへと、ヤミナキに効く薬を人知れず珍しい動物に試してみるようにと書いた手紙を出しました。
クロウ王子は今回の一件を考えて、王国の兵士だけでは国民を守りきれないとして、自警団を作ることにしました。
その自警団の名前は【カマドネコ】と名付けました。
のちに多くの伝説を残す事となるギルド・カマドネコのはじまりです。
しかし、それはまた別のお話。
王国を離れてしまった国民たちも王国に戻り、冬を快適に楽しめる国として、観光に多くの人々(ひとびと)が訪れるようになりました。
こうして、四季のある王国に平和が戻ったのです。
めでたし、めでたし。




