表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

  #08 邦明

 破滅的な光が消え去った後、上宮斉明はその場から消えていた。

 確かにあの解創は強力無比だが、オリジナルと比べれば威力も射程も遠く及ばないし、肉体だけ損傷させて『探り手』などの道具への被害を最小限に抑えるべく威力を調整していた。それゆえに『何も残らない』という事はありえない。真正面から食らっても、黒焦げの死体くらい残っているはずだ。

 上宮斉明に対して『大蛇殺し』を使ったことについて、雅には適当に言い繕っておいた――上宮斉明は何かしら防御の解創をこしらえているようだった、と――だが実際には殺すつもりだった。あそこで斉明を潰せば、最後には雅を殺せばそれで上宮への復讐は達成される。

 だがそうはいかなかった――上宮斉明の持つ飛翔体を甘く見ていた。

『我が復讐の権化』の持つ『大蛇殺し』の日本刀に、何かがぶつかったようなくすみ(、 、 、 )が見られる。

 周囲を観察すると、上宮斉明のいた場所から十メートルほど離れた場所にある植木に、ワイヤーが食い込んだような一条の跡があった。

 ――なるほど……。

 どうやって彼があの状況から離脱したのかを、邦明は見抜いた。

 上宮斉明は『弦鳥』を操り、一つ目は放たれる直前に『我が復讐の権化』の手元を弾き、二つ目は近くにあった木を滑車に見立てて身体を木に引き寄せることで、熱と圧の奔流から逃れたのだ。

 もしあそこで靴に仕込んだ移動――おそらく『風踏み』――を使っていたら逃れられなかっただろう。たとえ射程圏内から離脱しても『我が復讐の権化』が逃げた彼に照準し直せば終わりだ。『弦鳥』と『風踏み』を二つ使うのは、あの状況では難しい。追求者は道具の使用を即座に切り替える精神性を有するが、さすがに、あの一瞬での切り替えは不可能に近いからだ。

 凡庸な追求者ならば、反射的に離脱を優先しただろう。だがそこで理性を働かせた上宮斉明は、やはり冷静な観察眼を持つ厄介な相手と言える。


 上宮斉明に逃げられてから、邦明は二手に分かれて行動することにした。邦明は『我が復讐の権化』を伴って斉明を追跡、雅は後見人である篠原久篠乃を襲撃するというものだった。

 ――ったく……。

 三対一のあの状況から逃げおおせるとは、上宮斉明の認識を改めなければいけない。

 作り手主義の追求者――倒すうえでは何でもないと思っていた。『我が復讐の権化』の小手調べにしたって、多少劣勢ではあったが、それは『探り手』を調べるために手を抜いていたからだと思っていたし、実際そうだったはずだ。

 だが今は違う。もうあの時とは違うのだ。上宮斉明は『使い「手」』と『使い「手」作り』と『探り手』によって、道具を使う事も可能になっている。

 だが、それだけではなく……派生に戦闘という性能は備わっても、所詮は作り手であると……自分は、そうやって上宮斉明を、無意識に舐めていたのではないだろうか?

「意外にやるね、上宮斉明」

 だが上宮斉明の原本は現在の状況を理解できないだろう。なら派生が行動を続行するはずだ。一度、原本に戻るとは思えない。

 上宮斉明には弱点があると邦明は踏んでいた。それは派生と原本が記憶を共有できないことだ。

 記憶を共有しないことで使用による作る才能への悪影響を回避しているという発想はあっぱれだが、こういう危機的状況では、それが仇となる。

 やはり派生は一つの道具しか使えないと言うわけではなく、ある程度の数の道具を使う事ができるようだ。しかしそれも限界があるだろう。四つか? 五つか?

 それに、なにより『使い「手」作り』を押さえてしまえば、こちらのものだという事だ。

 首にある『使い「手」作り』が『使い「手」』に書き込んでいるわけだから、あの道具を奪うなり破壊するなりすれば、上宮斉明は無力化できる。

 もちろん、命の危機となれば原本が『探り手』を使う可能性もある。だが躊躇や隙が生まれるだろうし、使わせたという事実は精神的なアドバンテージとして大きい。それに今までの戦闘の経験がリセットされるのも、彼にとっては不利になる要因だ。

「さて……」

 公園から出て足早に追う邦明だったが、まだ午後七時半とあっては人も多く、目立ってしまうような事はできない。

 となると、逃げた上宮斉明の行く先を知り、先回りするのがいい。

 ヒッチハイクなどしないだろう。となると徒歩か電車で行ける範囲に限られる。靴底に移動の解創を仕込んでいるようだが、あれを使うかは微妙だ。

 ――いや……。

 使う可能性はある。人通りの少ない場所であれば目立たない。とはいえまだ時間が時間だ。車の通りも多く、まだ人は普通に歩いている。人の少ない場所の方が少ない。

 とりあえず歩道を小走りに進みながら、周囲を警戒し観察する。

 ふと、視界に何か映った。注意していなければ気づかない程度、雑木林に、ちらりと何かが飛んでいた。

「あれは……」

 普通なら鳥か何かと思うだろう。だが色や光の反射、そしてさっき見た実物から、邦明はそれが上宮斉明の操る飛翔体であると見抜いた。

 ――誘導している?

 周囲に被害が及べば、裁定委員会が出てくる。とばっちりを食らうと考えれば、確かに上宮斉明としても大事(おおごと)にしたくないかもしれない。

 だが、それだけの為に、果たして自分が殺されるリスクを増やすだろうか?

 ――けど、考え無しってわけでもなさそうだ。

 邦明と飛翔体が見えた地点の間には車道がある。これから誘導する時も、似たようなシチュエーションを繰り返して人の少ない場所に誘い込むことだろう。ある程度人目がある場所であれば、追跡はしても強襲はされないと思っているのだ。実際、その読みは正しい。癪ではあるが見失うわけにもいかない。向こうのペースで踊るしかない。

 ともかく見失っては元も子もない。邦明は追跡を開始した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ