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  #10 邦明

 上宮斉明――殲滅された上宮家が残した稀代の作り手にして、同時に『使い「手」』と『使い「手」作り』が、彼を使い手たらしめている。

 逆に言えば『使い「手」』と『使い「手」作り』さえなければ、彼は『探り手』を用いての道具の解析が出来ない。正確に言うと『探り手』を用いて道具を解析すると、使う才能に悪影響が出る恐れがあるため使いたくない。

 相手の道具はガラス製の飛翔体と、風による移動に関する解創。左手には先程までは無かった、片面にレンズの付いた筒状の道具を持っているが、こちらの詳細は不明。さらに飛翔体で別の解創を即席で作る技術もあるが、それには準備に多少時間を費やすものと思われる。

 防御において邦明の投擲物を飛翔体や弦で弾く都合上、彼自身から遠くなりすぎると、いざというときの対応が間に合わなくなるはずだ。そこから推測すると、攻撃時でも飛翔範囲は七メートル程度と推察される。

 対してこちらの状況――『我が復讐の権化』を破られたことで、数ある道具の使用が不可能に。回収できたものは『大蛇殺し』の刀のみ。

 邦明自身の道具の準備――『盗奪』の左腕、靴底に仕込んだ『踏(ふ)み跳(と)び』の解創、上宮斉明の『探り手』を参考に作った右手。そして切り札の『特別(トクベツ)良(ヨ)キ童(ワラシ)ヲ作(ツク)リタクバ犠牲(イケニエ)ヲ立(タ)テルベシ』。

 となれば相手の戦法と、それを考慮したこちらの戦術は決まっている。

 敵はこちらと距離を取って飛翔体による攻撃を仕掛けてくるだろう。対してこちらは距離を詰めて刀や、左手の『盗奪』で攻めるという形になる。

 だが飛翔体による接近戦での反撃を考慮すると、近距離から攻め続けるのは厳しい。よって距離を詰めて刀などで攻撃し、離れてからは『大蛇殺し』で牽制を繰り返すヒット&アウェイにこそ勝機はある。

 ここまでは上宮斉明も読んでいるだろう。そこで注意しなければならないのは、即席の解創の作成だ。彼の挙動に少しでも違和感があれば警戒するべきだ。だが、相手もそれを見越してブラフをばら撒く可能性がある。共通点と、それによって作られうる解創の予想と、その脅威度、そして取捨選択――それらに思考を割く必要性が出てくる。

 ――手元に直接的な道具がないってだけで、これほどの牽制になるわけか……。

 通常なら、即席で解創を作るなんて真似をするよりも、準備しておいた解創を使う方が遥かに効率的だ。知られたくない解創、不意を突くための道具であれば、即席で作らずとも隠し持てばいいだけだ。

 だが、上宮斉明の場合は違う。不意を突くにしても、その意味が違う。

 通常の追求者の戦いは、事前に考えていた戦法や戦術を、それに合わせて準備した道具で組み立てるというやり方である。時間をかけて作り上げ、使いこなしてきた道具を使うので、安定して力を発揮できる反面、どういう流れで使うかが決まっていて自由が利かない。準備している通りか、せいぜい応用する程度だ。

 対して上宮斉明の即席の解創作成は、作成するための時間稼ぎが必要というデメリットこそあるが、相手の出方に応じた解創を作れるという大きなメリットがある。

 追求者の戦いは、解創と意図の読み合いだ。たとえば「意図は読めたが対処する術を持ち合わせていない」という状況が出てきても、即席の解創作成という技術があれば、そこで対処するための解創を作成して対処できる。

 無論、すべて対処できるわけでもないだろうが、不利になる状況を想定して単純に一つ道具を作るよりも、その場で状況にあった解創を作れる方が対応力は断然違う。

 自発的な戦法としての不意打ちと、受け身の、相手の策を崩しつつ自分が流れを掴むための不意打ち。どちらの方が厄介かといえば、追求者の戦いのセオリーから逸れる後者だ。凡庸な追求者がやるならいざ知らず、相手は上宮稀代の作り手である。発想の豊かさと作る技術の質の高さは折り紙付き。生みだす可能性は多岐に渡り、こちらの策を潰して利用してくる。

 これほどの脅威度となれば、注意しないわけにもいかない。具体的に相手の策を考える方法としては、邦明が当初から想定している流れを、向こうが察していると仮定したうえで、それに対して何をしてくるかを読むことだ。

 ――なら、まず少しずつ、向こうの選択肢を絞ってやるか……。

 上宮斉明の初撃は、予想通り『弦鳥』を用いた一撃だった。大振りの一撃は、威力は高いだろうが軌道は見え見えだ。回避するのは難しくない。邦明は接近しながら、弦が落ちてくる場所を迂回する。

 弦が落ちる場所を迂回して、邦明は彼我の距離を詰めると、右腕に携えた刀を振るった。

 剣術などには、てんで疎い邦明ではあるが、青年の膂力で振るわれる長い刃物は、それだけでも十分に脅威である。上宮斉明は、平均的な同年代男子よりも体格が小さい。創傷を負えば、たとえそれが小さくても、失血による影響は深刻になりやすい。

 このヒット&アウェイの戦法は読まれるだろうが問題ない。この刀に宿る真の解創は『大蛇殺し』だ。『我が復讐の権化』に主に使わせていたが、彼自身も十分に使える。

 上宮斉明が靴に仕込んだ解創で遠間に逃げたところで切っ先を向ける。陽炎が揺らめくタイムラグ――その隙を突くようにして、作り手の追求者は飛翔体を差し向ける。

 一見すると対処されているようだが、この状況で流れを掴んでいるのは邦明だ。これで一手を無駄に消費させた。

 そして彼が消費した一手は隙となる。対処されると同時に、邦明は飛翔体を躱しつつ踏み込んで、再び彼我距離を詰めた。

 飛翔体と弦による攻撃を前に迂闊な接近は危険だが、敵の意図が『大蛇殺し』の発動タイミングを失わせる事と分かっている以上、相手が動き出す前から、どんな軌道を描くかは容易に読める。

 腕を伸ばせば届く距離。近すぎて、もう刀の間合いではない。

 邦明はそのまま左腕を振るった。狙いは首にある首輪、『使い「手」作り』である。

 上宮斉明も、さすがにこの露骨な狙いには気づいたようで、『風成り』の解創を使って後退する。

 邦明は足元の『踏み跳び』の解創を使って追い縋ると、さらに『盗奪』の左腕で執拗に上宮斉明の首元にある『使い「手」作り』を狙い、上宮斉明はそれを回避する。あれを破壊ないし盗奪できれば全ての道具の使用を停止できる。

 道具を解析する『探り手』を用いた「道具を使用した経験」の影響によって、作る才能に影響が出るのを防ぐ以上、本来の『原本』と現在の『派生』に、記憶の継続性はないはずだ。その場合、戦闘中に『原本』が元の意識を戻したとして、現在の状況を認識できるか? 少なくとも、作る才能へのリスクを認めたうえで『探り手』を使うという選択を即断するのは難しいはずだし、できたとしても思考する猶予が必要だ。

 そして『使い「手」作り』を一瞬で止められるのが、この『盗奪』の左腕である。左腕には刺青が施されており、それが道具だ。『盗奪』を目的としてこの腕を使用する限り、この腕は常態とは比較にならない速度や動き、膂力を発揮し、奪ったものを大まかに把握していれば、その性質を読み取り、奪った先から使う事も出来る。触れることで道具から得られる情報の量や質は上宮斉明の『探り手』に劣るが、かわりに他者から道具を奪うという『探り手』には無い特徴がある。

 邦明はこの『盗奪』で『使い「手」作り』を奪い取り、そして一瞬の隙を突いて『探り手』も破壊する算段でいた。

 当然、これに上宮斉明も対処してくるだろう。それに対して邦明も、既に考えを巡らせ対策を考えている。

 上宮斉明は、飛翔体の飛翔範囲を狭めてきた。先ほどまで間合いは七メートル程度だったが、今はもっと近づいており四メートル以下だ。さらに彼の周囲――特に首の周りを中心に飛翔している。

 ――防御を優先してきたか……。

 あれでは左手の『盗奪』で『使い「手」作り』に触れるよりも先に、『弦鳥』の弦で手を切断されてしまう。弦を掴めば『弦鳥』を奪うことは不可能ではないが、その場合は飛翔速度がネックになる。『盗奪』の左手で触れて『弦鳥』の操作を奪う事は出来るが、奪っても慣性で動く弦を制御するのは無理だろう。触れても弦で手を切断されれば、何の意味もない。

 ――なら……。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。邦明は右腕を伸ばし、刀を振るって飛翔体の弦を切断せんと牽制する。

 弦を切断することまでは出来なくても、弦を絡めたりして隙を作れば十分だ。そこで『使い「手」作り』に左腕で触れられれば事実上の勝利である。

 刀による首元への刺突に対して、飛翔体と弦が迫る――邦明は手を引いた。直後、刀身に強かに弦が打ち付けられる。手を引かなければ腕が輪切りにされるところだった。

 さらに刀を首を狙って横薙ぎに払おうとするが、タイミングを見計らうように飛翔体が空中に留まる。邦明の腕が通過した瞬間に、弦で切断しようという牽制だ。

 邦明は逆に飛翔体を狙って刀を振るうが、軽いとはいえ、一キロ程度の金属塊と小鳥サイズの飛翔体では俊敏性が違いすぎる。ひらりと交わされ、刀は空を切る。

 さらに三度四度と似たような流れが続くが、一向に状況は変わらず苛立ちが募る。それは向こうも同じだろう。何か手を打ってくるかもしれない。

 彼があえて選択するとしたら、『使い「手」』を囮にして、こちらの選択を絞って、それを踏まえた対応、ないし策に嵌めることだ。

 何かしらの策に嵌めてくるとすれば、注意するべきなのは即席の解創作成だ。

 ――厄介な……。

 即席の解創作成は何が来るか分からないとはいえ、できることは絞られる。首の周囲で飛翔体を飛ばしている以上、それに不要な動きがあれば注意すればいい。そういった事を仕掛けてこないにしても、何かしてきているという前提で常に注意していれば、それが手掛かりになるはずだ。

 再び刀の狙いを『使い「手」作り』に移行する。これには彼も対処せざるを得まい。弦で打ち落とすべく近くに戻すが、その芸当は見飽きている。

 喉元に向けて振るっていた刀を空中でぴたりと止めると、邦明は、その切っ先を彼に向けた――揺らめく陽炎が『大蛇殺し』の発動を暗示する。

 この近距離だ。即座に回避するしかあるまい。飛翔体や弦を使って手元や刀を弾いても、大きく切っ先をずらせなければ、首や胴体からは外れても、四肢などに当たる可能性はある。

 だが回避のために走力の解創を使えば、その間、飛翔体は自由落下か滑空するしかない。完全に『大蛇殺し』の射程圏内である。

 ――捉えたか!?

 飛翔体を捨てて逃げるか、賭けに出るか。どちらが来るかというところで――敵は第三の選択をした。

 左手――片面にレンズの付いた筒状の道具を、邦明に向けて来たのだ。

 ――ここでそれか!

 左手に持っている筒状の道具の存在には気づいていたが、このタイミングで使ってくるのは予想外だ。だが躊躇わない。回避できないと悟った上宮斉明が、邦明が避けてくれる可能性に賭けてこの攻撃のフリをした場合、みすみすチャンスを逃がすことになる。

 いざ『大蛇殺し』を発する瞬間、この状況にまでなって回避に出ない上宮斉明と、正体不明な道具のレンズが、右腕を映していることに本能的な危機感を抱いた。

「――ッ!」

 邦明の右腕が動く――直後、両者の間で、二つの光が煌いた。

 一つは『大蛇殺し』。もう一つは上宮斉明が左手に持っている筒状の道具からだった。

 熱と圧の二重解創。その威力は制限されているが、上宮斉明一人を屠るには十分な威力の筈だったが……。

 ――俺に避けさせることで、狙いを外させたか……。

 立ち込めた白い煙が晴れると、まだ少年は五体満足で立っていた。射程から外してしまったため、飛翔体も無事である。互いに素早く移動の解創を成して下がって距離を取る。

 結局のところ、邦明が右腕を大きく引いたため、彼の『大蛇殺し』は中断に近い形となり、熱と圧は天井を貫くだけに止(とど)まった。

 対して上宮斉明の謎の筒はというと――邦明の右肘のあたりを掠め、薄手のコートには黒い跡がついていた。

 幸いにも致命的な命中はしておらず、焦げた焼け跡こそ付けども、腕の動きに支障はない。

 ブラフではなく、本当に避けなければやられていたかもしれない……今の一撃を避けられたのは、最後の最後で危険を察知し、攻撃を捨てた邦明の判断だった。

「なんだい、それは……?」

 答えを期待しての質問ではなかったが、相手の反応は、やはりお茶を濁すようなものだった。

「さぁ? 解創自体は、そっちの刀と似たようなものじゃないですか?」

 上宮斉明が、四年前の戦いでの観察を参考に『大蛇殺し』を複製した可能性を考えたが、即座に否定した。道具からすると『大蛇殺し』という感じではない。熱的なもののようだが『大蛇殺し』とは違い圧は無い。

 飛翔体と違い、この筒は手元が見えないと、軌道を読む一瞬の隙が突けないのが厄介だ。『弦鳥』の持ち味は変幻自在さだが、この筒は瞬間的な火力だろう。

 威力は? 距離は? 疑問が錯綜するが、邦明は迂闊に動けない。どんな道具か分からないので、せめてもの情報が欲しいが、撃たせるのはリスクが高い。

 さらに邦明の刀とは違い、全長が二十センチメートルほどしかない筒は取り回しが良い。筒自体がどの程度の堅牢さを持っているかは知らないが、あれだけ短ければ接近戦でも十分に使う事が出来る。

 どの程度の威力かは分からないが、少なくとも顔面に受けるのは避けたい。少なくとも感覚器を潰したり、表層や弱い部分に対して火傷を負わす程度の威力はあるだろう。逆にその程度しか無ければ、四肢で受けても大きな痛手にはならない。

 一度距離を開けた状態から、邦明はギリギリまで接近する。彼我の距離は、彼の腕を常に視界に収められる三メートルを保つ。だがこれでは刀の間合いでも届かない。一度接近する必要があるが、そこで筒を使われると面倒だ。

 邦明は袈裟に切りつけつつ左に踏み込む――飛翔体の弦で防がれるが、そこまでは予測済みだ――相手の左側に突き進んで距離を取ると、振り返って、またも左に踏み込みつつ切りかかる。一度防いですぐに、別方向への防御は難しいのだろう。上宮斉明は移動の解創で退くことで刃から逃れる。

 邦明は相手に捉えられないように、一撃離脱を繰り返す。上宮斉明は筒のレンズが逆にくるよう、逆手に筒を持っている。順手で持つと、左手では左側をカバーしにくいためだろう。逆手なら順手に比べて、左右と正面に筒のレンズ部分を向けやすい。

 相手の左腕を視界に収めるために、邦明は必ず左に通り抜ける。逆にすると通り抜ける間際に後ろへ腕を回されて不意打ちを食らう可能性がある。この近距離なら、向けられそうになっても邦明は『盗奪』の左腕で牽制できる。

 だが三度も同じことを続けていれば、さすがに上宮斉明も対処し始める。靴に仕込んだ解創を使って後ろに下がろうとするので、邦明も『踏み跳び』を使って追い縋ると、筒のレンズが邦明に向けられた。

「チッ――!」

 思い切りに右斜めに跳ぶ。光と熱で目がやられるのを防ぐために瞼を閉じて、保険として刀の刀身で目のあたりとレンズの間を遮断する。

 直後、光が煌いた。間接的な光が瞼越しに入ってくる。足が床を踏みしめる感覚と同時に一瞬だけ目を開けると、上宮斉明は筒を持った左腕を下していた。それを見て邦明は再び接近する。

 左腕を上げれば切れる位置に刀を振る――が、強かに弦が打ち付けられて、無理やり刀が突き飛ばされて、筒が邦明に向けられる。

 ――今度は飛翔体か……。

 反射的に上体を大きく倒して踏み込むと、身体を上げつつ刀を振り上げ、筒の光を遮断し身を守る。光が収まったときに切りかかるが、飛翔体が正面から刃にぶつかり、刃の軌道が右にズレる――ここで止まるのは危ないと思い、邦明は右斜め前に通り抜ける。

 擦れ違いざまの隙を狙って、こちらに筒が向けられる――邦明は左腕を振るって筒を牽制し、大きく距離を取る。

「ギリギリだな……」

 小さな声で、邦明は嘯いた。

 遠距離からの筒と、近距離からの弦と飛翔体。明らかに有効距離(レンジ)の違う二つの道具による攻撃は、邦明に流れを掴ませず、反撃の機会を潰していく。

 邦明の左腕と刀とはワケが違う。近距離と遠距離の差はもちろん、どちらも取り回しが良く。そして何より攻撃の質が違う。死角からも攻めてこれる飛翔体は、トリッキーな動きと弦による斬撃、飛翔体そのものによる刺突という、攪乱と物理的な攻撃を旨とする。逆に筒は直線かつ熱によるものであり、発動の速度と当てやすさは手堅く、少しでも隙を見せればすぐ突いてくる。

 ふと思いつき、邦明は刀の刀身に触れる――一度刀身で筒からの光を受け止めたはずだが、熱は感じない。多少時間が過ぎているが、それにしても感じなさすぎる。

 少しずつ相手の解創を紐解いていく。威力はそれほど高くない。顔面などの感覚器ならいざ知らず、四肢などに食らっても即時にダメージには直結しないようだ。コートに掠って黒い跡が付いたが、案外、正面から食らっても大差なかったかもしれない。

 ――威力を調整できるのか……?

 それにしても、この威力の無さは変ではないか? もっと致命的なダメージを負わせられたはずだ。ただのミスか?

 ――試してみる価値はあるか……。

 問題は顔面――特に目に食らった場合が致命的という事だが、刀身による防御で、ある程度防げることは確認済みだ。熱の加減からして、衣服を照らされても発火するほどの熱量はないだろう。

 先に邦明は刀の切っ先を向ける――切っ先から陽炎が揺らめく前に、飛翔体が斜め上に飛んでくると急降下し、弦を使って刀を叩き落とそうとする。

 それを読んでいた邦明は、手首を返してそれを回避すると、両腕で顔を隠したままに突進する。

 飛翔体と筒、さらに後退時には移動に関する解創を靴で成している。三つもの道具を同時に使いこなすのは至難だ。

 そして飛翔体を一度使うと、加速をつけるために飛翔体はある程度距離をとる必要があるので、隙が出来る。飛翔体による二撃目まで時間が掛かると分かっているからこそ、邦明は突進などという行為に及べたのだ。

 足で退くのでは間に合わないと、上宮斉明は逆手に持った筒のレンズを邦明に向け、直後、光が迸る。

 何度も何度もフラッシュの明滅のように、筒からの熱的攻撃が邦明を襲う。幸い通常の光のように光源から放射状に広がるわけではないようで、広範囲的に攻撃が通るものではないようだが、逆にエネルギーが収束されているためか威力はそれなりにあるようだ。着ていた薄手のコートから煙がくすぶり、光から外れても熱を帯びている。

 だが――発火にまでは至らない。邦明の『大蛇殺し』ほどの威力は無い。

 ――もらった!

 筒を使うのをやめて、飛翔体での迎撃に移るかもしれないが、時間的に戻っくるまでには間に合わない。

 踏み込むと、邦明は右の『探り手』と首を狙う。

 上宮斉明は右の『探り手』を後ろに下げる。『探り手』を失えば『探り手』で操作している飛翔体すら失いかねない。

 首を狙う一撃に、対処する方法は一つしかない――苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、上宮斉明は、邦明の刀を筒を使って受け止める。筒の先端部分に、刀の切っ先が食い込んだ。

 どんな材質で出来ているか知らないが、直径は四センチ程度。刀には『切断』に関する解創を有していないとはいえ、この程度なら敵ではない。

 邦明は更に『大蛇殺し』を為そうと意識を集中する。切っ先に陽炎が立ち上り熱を帯びると、刃の食い込んだ筒を熱で溶かしつつ切断した――レンズの付いた筒の先端部分が、回転しながら落ちていく――。

 ――これで厄介な牽制は消えた――!

 気が緩むとはいえ、一瞬もない刹那足らずの邦明の僅かな隙を突くように、上宮斉明は手首を返すと、筒の後部で刀身を叩く。

 瞬間、炸裂音が響き渡った。

 刀が砕けて破片が飛ぶ中――破片よりも、なお早く一直線に飛ぶ影を見た。

 ――これは……っ!

 邦明が筒を狙うように、向こうは『大蛇殺し』を狙っていた――そしてその為に、隠していたカードを一枚切ってきた。

 筒は、あの熱的な攻撃こそ囮――本命は、その後ろに付いていた仕込み弾だった。

 筒は長さが二十センチ程度、一瞬だけ見えた影――弾の大きさは、直径一センチ、長さ二センチ程度だろうか? 熱的攻撃に使っていた部分を筒全体の半分としても、仕込み弾があの一発だけということはあるまい。

 刀の砕けた破片が床に散在している――どうやらこれは、単に弾を撃つのではなく、撃ってから弾が、指向性を持った炸裂をするようになっているのだろう。

 同じ直線的、ピンポイントに対する高火力の道具。違いは熱的なものか、それとも物理的な衝撃か、そしてその威力と危険度だけだ。

 ――そのズレをうまく利用された……。

 筒による攻撃で、刀を損傷する心配がないという見積もりで突貫したが、筒の機能の一つを壊した後で、刀を壊せる道具を使ってくるとは性質が悪い……。

「やってくれたね……」

 得物が無くなり、手持ち無沙汰となった右手を握り締め、邦明は眼前の敵を改めて見据えた。

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