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  #11 branch_20171009_1923_30.11

 国枝邦明の『我が復讐の権化』による『大蛇殺し』の一撃から逃れた彼は、原本に戻さずに逃走を続けていた。

 だが、いつ原本に戻らなくていけなくなるか分からない。そこでバッグに入れていたメモ帳に、状況を簡潔に箇条書きしていく。記憶の継続性が無いのは不便だ。特に重要な事は腕の裏などにマジックペンで書いていく。メモを見ている暇すらないかもしれない。

 ――くそ……。

 現状を書き記しながら、彼は己の失態に歯噛みする。

 あの状況で『風踏み』の解創による跳躍だけでは、『大蛇殺し』の射程から逃げるのは難しかった。

 だから『弦鳥』を使った。ギリギリ発動前に『大蛇殺し』を弾き、離脱にも一役買った。もし慌てていたら『風踏み』を使ってしまっていたかもしれない――そう考えると、ぞっとする。攻撃前に離脱しようとしても、照準し直されたら餌食になっていた。その為に『弦鳥』で手元を狂わせてやる必要があったのだ。

 だが……。

 ――こっちは戦力ダウン、か……。

 彼自身はなんとか逃げられたが『弦鳥』はそうはいかなかった。彼を引き寄せるのに使った方は無事だが、手元を狂わせるのに使った方は、『大蛇殺し』の光に巻き込まれてしまった。

 ――『弦鳥』は残り一つ、他の道具でカバーするしかないか……。

 敵の方が余裕があるというのに、戦力ダウンというのは痛手だ。さらに問題があった。それは……。

 ――久篠乃さんが狙われるかもしれない……。

もしその場合、いくら家に道具があるとはいえ狭い空間で二人……いや『我が復讐の権化』を入れれば三人を相手にしなければいけない久篠乃は圧倒的に不利になる。久篠乃が現状に感づいているとは限らない。

 邦明か、もしくは雅か……どちらかは自分を追跡しているだろう、という予想はあったが、しかし斉明を見逃せば二人で久篠乃の元に赴くかもしれない。

 それはさせられない。ならば追跡にヒントを残してやって、追跡を続行させてやるしかあるまい。

 ――どっちが来るか……。

 あの二人の関係は、雅の言い分を信じるならば、互いに利用し合っているという事だろう。あの男は、雅と協力しているのではなく、互いの利害の一致によって利用しているに過ぎない。それは雅も同じだと思っている。

 だが彼としては、どうにも信用できなかった。国枝邦明はさらに一歩、雅を利用する腹積もりでいる気がするのだ。

 対等な利害一致の協力ではなく、邦明は雅に何か吹き込んで、何かしら操っている、騙している感じがする。

 ではなぜ利用するのか? 当然ながら上宮斉明を狙うためだろう。『使い「手」』や『使い「手」作り』、もしくは『探り手』なのか、それとも上宮斉明という作り手か、もしくは上宮という家に対する怨恨か――分からないが、どちらにせよ自分をつけ狙う理由がある事は、四年前に『我が復讐の権化』によって襲撃されたことからも、まず間違いない。

 上宮斉明を狙う上で、餌か、あるいは人質に出来るか――いずれにしても上宮斉明を|誘

《おび》き出すために上宮雅を必要としたのだ。

 だとしたら、最終的に国枝邦明は上宮雅を始末するかもしれないし、少なくとも邦明自身の本命である上宮斉明を、雅に狙わせるはずもない。

 となると追跡してくるのは国枝邦明と『我が復讐の権化』に違いない。

 ――あくまで予想に過ぎないけど、もし国枝邦明が来るようなら……自分に対して執着があるって事だ……。

 邦明の目的は、おそらく上宮斉明である。ただし、斉明本人か、それとも家か、もしくは彼の道具が目的かは分からない。

 そして邦明が追跡してくるならば『我が復讐の権化』と二人がかりで来るに違いない――ここまで情報が揃えば、何かしら手を打てるかもしれない。

 まずは兵力を削ぐ必要がある。国枝邦明を狙うのは難しいかもしれないが、『我が復讐の権化』だけであれば、比較の上ではまだ可能性はある。

 そうすれば二対一、久篠乃が入れば二対二になる。多少状況は改善するし、ある程度時間を稼げば裁定委員会の実働部が介入してくるかもしれない。そうなればこちらのものだ。

 逆に何も対処しなければ、短期決戦、数の利を生かして国枝邦明は久篠乃と自分を各個撃破しようとするだろう。

 敵に数を揃えさせないことが重要だ。敵の戦力を分散している現状を維持したままなら、兵力を削ぐ隙は生まれる。

 まずは『弦鳥』によってこちらの存在を知らしめつつ、追跡を続行させる。人の目を気にしているとすれば、人の多い場所を通れば、肉薄されることなく、ある程度の距離を維持したまま、人気(ひとけ)のない場所に誘導し、地の利を生かせる所で迎撃できる。

 リスクは大きいだろうが、背に腹は代えられない。――奇しくもその考えは、上宮雅から逃げる久篠乃と同じものだった。

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