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  #10 久篠乃

 建物と建物の隙間を縫いながら、篠原久篠乃は、襲撃者と相対する場所のに適した場所を、スマートフォンでインターネットを利用して探していた。

 久篠乃の感覚では、二〇一一年くらいから、スマートフォンというのが流行しだした気がする。二〇一七年現在、若者の間の普及率は、通常の携帯電話と比べ物にならないほど高いらしい。

 確かに便利な道具ではあった。誰でも大概のどんな情報でも探せる、送れる、受け取れるというのは便利だ。弊害があるとすれば便利過ぎて頼り過ぎてしまう事だろう。今や屋外ですらWI-FIスポットが普及して、街の中ではインターネットと繋がらない場所の方が少ないのではないかと思えてくる。だが、もしそうじゃない環境、インターネットの利用できない状況や、インターネットでは情報が収集できない事態に陥ったとき、利用者の能力は極端に減少してしまう。

 便利な道具を使う事は、今までの人間にとって、さして問題ではなかった。それが火でも電気でも。けれどインターネットは違う。あまりにも汎用的過ぎる情報網は万能に過ぎた。ゆえに利用者から情報を利用させて(、 、 、 )もらって(、 、 、 )いる(、 、 )に過ぎないという実感を欠落させてしまった。利用している間でも、実感が湧かないだけで、情報は常に外部に依拠している。自分が持っているのではないのだ。

 人は繋がることを当たり前にした。繋がらない状況を減らす事で、その欠点を補おうとしている。

 だがそれも完璧ではないなと、久篠乃は身をもって体感していた。

 人のいない場所などとは、インターネットで検索しても、具体的な住所が出てこない。特に現状は周辺二キロ、徒歩圏内でなければいけないが、そんな局所的な情報は、まるで上がってこない。人のいない場所は、人にとって興味のない場所だ。そんなものは情報の海では浮かび上がってこない。あれこれしているうちに、スマートフォンのバッテリーが底を尽かけていた。まさか呑気に充電できるチェーン店のカフェテリアに入るわけにもいくまい。一方的に捕捉されれば不利になる。

 情報を取得するのにネットに依存した結果として、有効な手を打てずに時間だけを食い潰してしまった。

「しゃーないか……」

 周囲を見て歩いき、工事現場のような場所を地道に探すしかないだろう。出来ればこの時間帯で大きな音がしても、さして気にされないような場所がいい。

 ――というか、向こうは人払いを考えてないのかしら?

 襲撃者――おそらくあの女が上宮雅だと思われるが……どう対処したらいいものか。

 そもそも襲ってくる理由が分からない。偽名での参考資本の貸与依頼は牽制とみるべきだ。襲撃者は自分であると示すことで、裁定委員会と対峙することも辞さないという断固たる態度を強調してきた。だが裁定委員会も黙っていないと分かっているだろう。なら上宮雅は短期決戦に持ち込む気だ。

 なら久篠乃は逃げていればいいが……。

 ――そうはさせてくれないでしょうね……。

 狙ってくるとしたら斉明だ。だが斉明はどうなったのだろうか? あの女が斉明と会うために呼び出したが、この状況に陥れば、それが罠だということくらい分かる。

 斉明が人質に取られている可能性――久篠乃は即座に否定した。部屋で対峙したとき、その事を言ってこなかったのは変だ。取ったのならば、堂々とエントランスから訪ねてその旨を伝えて、交渉などに持ち込めばいい。

 なら斉明を殺し終えたか? これも考えにくい。斉明にはそれなりの自衛の手段を持たせている。

 なら、上宮雅の行動の意味は分かった。斉明に逃げられたから、自分を狙った。つまり目的は斉明であり、自分を狙ったのは横やり及び援護を恐れた先手、そして自分を捕縛した場合に斉明に対して人質として利用できるからだ。

 コンビニの裏で考えを続けていた久篠乃の耳に、ふと喧しい鳴き声が聞こえてきた。警戒して身を低くする。

 街頭によって不気味に照らされた曇りの夜空を、大量に覆う黒い羽の群れ……それはムクドリの群れのようだ。

 だがその動きは不自然だ。まるで何か一つの目的を持っているように、知性だった統制が為されている。

 まさかこれは監視の解創か――そこまで考えが及び、ようやく久篠乃は、この一件の黒幕の存在に感づいた。

「国枝邦明か……!」

 斉明の安全確保のために久篠乃がつけていた、カラスの遺骸による監視の解創――一週間ほど前に紛失したと思ったが、あいつに奪われていたのだ。このムクドリは、おそらくあの監視の解創を解析して作ったものに違いない。

 そして他人の解創を奪って、僅か一週間足らずで形に出来るほど追求者としての優れた能力……なおかつ上宮、もしくは篠原久篠乃に、敵対的な縁のあるもの……可能性として挙げられるのは、あの男しかいない。

 ――私と斉明の連絡を絶つ気か……!

 あのムクドリの監視が、どの程度か分からないが、音を拾われる場合になると問題だ。久篠乃が斉明に連絡を入れて策を練れば、それを踏まえて国枝邦明は次手を講じられる。逆に久篠乃は後手に回る。

 ならば斉明との合流よりも先に、敵の兵力を削ぐことを考えた方が良い。削いだ後ならば、たとえ久篠乃が斉明に連絡を入れても、近くに居なければ、邦明や雅は分かっていても久篠乃たちを止められなくなる。

 ――となると……。

 できることは上宮雅の迎撃だ。いるか分からない邦明を探索するよりもよほど堅実だ。なにより斉明もしくは自分に対して二対一の状況を作らせないためにも、国枝邦明に合流させるわけにはいかない。追跡可能なレベルでギリギリまで誘導しつつ、こちらの迎撃態勢を整える。痕跡を残し、向こうに立ち去るよりも追跡を優先させる理由を付けてやればいい。もし合流するために引き返そうものなら、逆に追撃してやればいい。

 となると……。

 ムクドリに自分の姿を晒すタイミングが重要になる。久篠乃はムクドリの群れの移動方向を確認しながら、自分が有利に戦える場所を探すべく移動を再開した。

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