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魔導図書館の小さな司書  作者: 結城 才斗
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4.風の魔装術師<後編>

リンクは昼食を終えて、図書館の入り口から外へと移動した。ヨムがやってくれているであろう新刊の納品作業を手伝うためだ。しかし、図書館のすぐ外にはヨムの姿はなく、疲れ切った馬と、息を切らせた業者の老人しかいなかった。


「業者さん、そんなに疲れてどうしたのんですか?というか、先輩来てませんでした?」


リンクは業者に問いかける。業者はまだ荒い息を整える前に図書館から少し離れた道の先を指差した。


「あの小さな司書さんは、私を助けるために・・今戦ってくれている・・・。敵は・・ウルフェンが3匹じゃ・・。どうか助けてくれ・・」


「ウルフェン!?わかりました。すぐに行ってきますから、業者さんはここにいてください!」


図書館からの道を駆けるリンク。その腰には刀を携え、今まさに死闘を繰り広げる先輩の元へと向かった。




ヨムの前には2匹の狼型の魔物ーウルフェンがいる。そして、そのうちの1匹が炎を纏ってしまったことで戦況は一気に不利なものとなった。


(まずい・・。私の属性は風。あの火属性のウルフェンとは相性が悪い・・)


ヨムは自身の周りに風を纏い続けている。それを見て、炎を纏ったウルフェンが攻撃を仕掛けた。

素早い動きだが、なんとか目で追うことはできる。ヨムはウルフェンの牙を間一髪で避ける。そして避ける時に自身の纏う風のコントロールが乱れるのを感じた。ウルフェンの纏う炎が、ヨムの周囲の風から空気を燃焼してより強い炎に変えている。一方、空気を奪われることによって、風は力を失い、そこにはわずかな隙が生まれる。その隙をもう一方のウルフェンは逃さずに詰め寄り、ヨムに対しその爪を振り下ろしてきた。避けようとするヨムだが、素早い2匹の動きに完全には対応できず、左肩に爪の一撃を受けてしまう。


(ぐっ・・痛っ・・)


ヨムの左肩からは血が流れる。ウルフェン2匹は再び体勢を整え、ヨムの周囲を回り始める。次の攻撃で止めを刺そうとしているのだ。戦況は不利。逃げることもできない。左腕は出血のためか、痺れて思うように動かせない。


(集中するんだ・・・。あの炎を纏ったウルフェンを倒せば、勝機はある)


ヨムは自身の纏う風を弱めた。纏っていた風の大半を右腕に集中したのだ。ヨムの右腕にはまるで小さな台風が存在しているように風が唸りを上げている。ウルフェンは、ヨム自身が纏う風が弱くなったことを感じ、すぐさまヨムに正面から飛びかかった。自身の纏う炎が、ヨムに近づけば近づくほど強くなるのは、先ほど学んだ。しかし、先程と打って変わり炎の勢いは強くならない。それどころか弱くなっているように思える。


「私の周囲の風を全部右腕に集めているから、完全ではないけどさっきまでと比べると私の正面は空気が薄くなってる。だからこそ、炎は弱まって私の一撃が強くなる!空破掌くうはしょう!」


ヨムはウルフェンに対し、渾身の掌底しょうていを放つ。右腕に纏った風は手首からてのひらへと伝わり、ウルフェンに強烈な一撃を与える。直撃を受けたウルフェンは勢いよく飛ばされ、そのまま20mほど離れた木にぶつかり虚空へと消えていった。


(あと1匹・・!)


最後の1匹を撃退するために、体勢を整えようとするが、身体に力が入らない。ヨムはその場に膝をついてしまう。遠吠えを上げて襲い掛かってくるウルフェン。しかし、その牙はヨムに届くことなく虚空へと消えていく。


「これは・・・?」


ヨムの目の前で消えたウルフェン。そして、その背後には刀を抜いた赤髪の女性が立っているのが見えた。


「リナちゃん、来てくれたんだ・・。」


「先輩、一人で頑張りすぎですよ!少しは後輩も頼ってください!」


納刀した後、ヨムに駆け寄るリンク。応急処置として、持っていたハンカチを破いて出血している左腕に巻き止血を行った。


「3匹くらいならなんとかなると思ったんだけど、火属性のウルフェンがいてね・・。」


「遠くからですけど、うっすら見えましたよ。あんな無茶しないでください。」


ヨムを背負ってリンクは来た道を戻っていく。図書館に戻ると、業者の老人が駆け寄ってきた。


「すまなかった、大丈夫か!?司書さん、ひどい怪我じゃないか。すぐに治療するから。」


そう言って老人は、自分のカバンから一冊の本を取り出す。そして、ヨムに対し呪文を唱えると本は白い光を放ち、ヨムの傷口へと集まった。しばらく白い光に包まれると、左腕の傷は治っていった。


「とっておきの回復の魔導書だ。効力が高い分、一回使ってしまうとすぐに消えてしまうんだが。」


ヨムの治療が完了すると同時に、魔導書も虚空へと消えていった。


「痛くない・・。もう治っちゃった!業者さん、ありがとうございます。」


「なんの。礼を言うのはこちらの方じゃ。助けてくれて、本当にありがとう。」


聞けば、業者の老人はいつもと同じように魔導図書館に向かっていた。その途中で、運んでいた魔導書の一冊が急に光始めたらしい。その光に連れられるようにウルフェンが寄ってきて、襲われる事態となったようだ。


「一体どの本が、それを起こしたのか私にもわからん。ただ、この本のうちのどれかが、その危険な魔導書になっている可能性がある。このことは君たちの館長にも伝えておくから、この本達は納品だけして、館長の指示があるまで封印しておいてもらっていいかね?」


「わかりました。ではこちらで預かりますね。」


ヨムはおよそ20冊ほどある新刊の束を受け取り、業者の書類に受け取りのサインをする。


「え!先輩、そんな危ない魔導書をこのまま預かるんですか!?」


「だって、このまま持って帰ってもらったら帰り道でまた襲われちゃうかもしれないよ?そんなことになるくらいなら、図書館の地下倉庫に置いておく方が安全だよ。」


「確かにそうですけど・・・。わかりました、じゃあ私地下倉庫まで持って行きますね。」


リンクはヨムから本を受け取り、図書館へと戻っていく。ヨムは業者を送るために、その場に残っていた。業者の老人は納品作業を終え、次の場所へと向かうために馬車の調子を確認していた。確認作業が終わり、馬車に乗り込むと馬車の上からヨムに向かって話しかける。


「司書さん、今日は本当にありがとう。あの魔導書たちの扱いには、くれぐれも気をつけるんだよ。」


「わかりました。業者さんもいつもありがとうございます。帰り道もお気をつけてくださいね。」


ヨムは走り始める馬車を見送った。魔物を引き寄せる魔導書。今までそのような物騒な代物には出会ったことのないヨムはこれまでにない不安の胸に募らせる。その日、魔導書が再び暴走する様子はなく、穏やかな1日の中で業務が終了しても、ヨムの不安が晴れることはなかった。

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