表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導図書館の小さな司書  作者: 結城 才斗
3/8

3.風の魔装術師<前編>

この世界の魔法は火・水・雷・風・光・闇の6つの属性から成る。

火は風に強く、水は火に強く、雷は水に強く、風は雷に強い。そして光と闇は相反する存在である。

現代の魔術師は全てこの6つの属性を根本とした魔術を使うのである。



◇ ◇ ◇


昼下がりの魔導図書館。利用者はなく、ヨム・リードナーは昼休みを利用して読書をしていた。

午前中に予定していた書庫の確認と、傷んだ書籍の修繕はスムーズに終わり、早めに昼食を済ませた。

午後には業者による新刊の納品があるが、業者が来るまでにはまだ時間があった。

ヨムは昼下がりの読書が好きだ。特に、今いる図書館の外に用意されたテラスは風通しも良く、陽の光と相まってとても心地よい読書を満喫することができる。ヨムのお気に入りの読書スポットである。

しばらく読書にふけっていると、リンク・ナレッジが図書館の中から出てきた。


「あ、リナちゃんお疲れ様。」


「先輩、また本読んでるんですか?」


そう言って、ヨムの近くまで歩いて来るリンク。その右手には弁当箱を包んだ袋を持っている。彼女も図書館の利用者がいないので暇なようだ。受付に呼び出し用のベルを残して、外に出てきたところである。


「司書なんだから本は読まないとね。特に私たちは魔術師なんだから、魔術の基礎知識は必要だよ?たまには復習しないと。」


ヨムがリンクに見せた本のタイトルには「魔術の基礎①〜属性と相性編〜」と書いてある。この世界で魔術を習う場合に読まれるポピュラーな入門書の一冊である。ヨムは本をパラパラとめくりながら、リンクに対して問題でも出そうかと思案している。


「じゃあリナちゃんに問題です。私の風の魔法と、リナちゃんの雷の魔法。属性の相性で言えば、有利なのはどちらでしょうか?」


「えーと、私の雷は水に対しては強いんですけど、先輩が扱うような風の属性には弱いんですよね。」


問題に回答しながら、リンクは持ってきた弁当箱を開けて昼食の準備をする。二段式の弁当箱に用意された昼食は、いかにも女の子らしい彩りのある内容になっている。


「その通り。属性の相性が必ずしも勝敗を分けるわけではないけど、覚えておいても損は・・・。」


言い終える前にヨムはテラスの椅子から起き上がる。遠くで馬の足音と、車輪のカラカラ回る音が聞こえたからだ。午後から来ると言っていた業者がもうすぐ着くのだろう。リンクが今から休憩するなら、自分が相手をする必要がある。

家にいるときには宅配の荷物を受け取るのも一苦労するほどに人見知りなヨムだが、さすがに何度もあっている業者となると普通の対応ができるようになっていた。


「業者さん、そろそろ着きそうだから準備してくるね。リナちゃんは休憩していていいよ。」


「ありがとうございます。もうそんな時間ですか。」


確かにいつもより到着時間が早いとヨムも考えていた。普段は午後の業務開始と同時くらいに到着する業者だが、今日は30分ほど早い到着となりそうだ。


(なんだろう・・。いつもより急いでる・・。というより、もしかして・・・?)


ヨムは嫌な予感がした。杞憂であれば問題ないが用心しておくに越したことはない。準備を急いで済ませ、いつも馬車を迎える場所よりも少し遠い場所で業者を待った。馬車の音が近づいてくるが、先ほどよりもかなり荒々しい音で走っている。そして、馬車が目に入った瞬間にヨムは悪い予感が的中したと思った。


「助けてくれ〜!」


叫ぶ業者の老人、老人の乗る馬車を引く馬は必死の形相で走る。その後ろからは、狼の姿をした魔物ーウルフェンが3匹で馬車を追いかけていた。


(やっぱりかー!!)


そんなことを心中で思いながら、ヨムはすぐに切り替え戦闘態勢に入る。自分の近くに向かってくる馬車にヨムは一度呼吸を整え、息を大きく吸い込んだ。そして、


「このまま、走って!!あとはこちらで引き受けます!!」


普段出したことのないような大きな声で馬車に向かって叫んだ。馬車は、ヨムとすれ違うように猛スピードで図書館へ向かって走っていく。それを見送るヨムは、ウルフェン達に視線を向ける。ウルフェン達は馬車を追うことをやめた。標的を変えたのだ。


(さて、3匹か・・・。厄介な魔物に襲われちゃったなー。)


3匹のウルフェンはヨムを中心に円を描くように周囲を回って歩いている。タイミングを図っているのだ。

少しの緊張の後、ウルフェンが一斉にヨムに襲いかかる。ヨムは魔術によって、自分の周囲に強烈な風を起こし、襲い掛かってきたウルフェンを吹き飛ばした。体勢を崩した1匹に対し、ヨムはすぐさま詰め寄る。そして右手に集中した風の魔術を目の前の1匹に振り下ろした。


風刃ふうじん鎌鼬かまいたち!」


風の刃によって引き裂かれたウルフェンは、散り散りになって虚空へと消えていった。その光景を見て、他のウルフェンは動揺している。


(後2匹・・・)


常に周囲に風を纏っているヨムにとって、ウルフェンのように直接的に攻撃をしてくる魔物は、近づけさせずに戦うことができるため相性が良い。残ったウルフェンも、何度もヨムに飛びかかってくるが、その牙が、その爪がヨムに届くことは一度もなかった。


「残念だけど、あなたたちの牙も爪も私には届かない。私は風の魔装術まそうじゅつを使うから。常に纏い続けるこの風は、あなたたちを通すことはないよ。」


魔装術は、魔法を装い戦う術。自身が扱う属性の魔法を纏って戦える強力な魔術だが、魔術を扱える範囲が極端に短いデメリットもある。この戦いにおいては、ウルフェンの攻撃から身を守ることはできるが、動きの素早いウルフェンに対して自分から攻撃を仕掛けるのが非常に困難なのである。


ウルフェンのうち、1匹は諦めずにヨムを攻撃し続けている。しかし、もう1匹のウルフェンはヨムから少し距離を置いた。そしてウルフェンは、大きな遠吠えを上げる。その音に思わずヨムは耳を塞いだ。


(何・・?遠吠え・・?)


遠吠えを上げ続けるウルフェン。それは彼にとって儀式的なものだったのだとヨムは次の瞬間に理解する。

ウルフェンは遠吠えの体勢、しかし狼が発したのは「声」ではなく「炎」だった。ウルフェンの恐ろしいところは、その知性にある。魔術を使う魔物は少なくないが、獣型の優れた身体能力を持って魔術まで使えるウルフェンは厄介な魔物の分類に入るだろう。


(これはちょっとピンチ・・かも・・・)


互いに見合わせるヨムとウルフェン。お昼休みももう終わりとなる昼下がりの激戦である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ