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魔導図書館の小さな司書  作者: 結城 才斗
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2.魔導図書館の日常<後編>

「リナちゃん、その人を安全なところへ避難させて。とりあえず1階でいいから。」


通路に立ちはだかる邪気を放った天使。それを見たヨムは即座にリンクへと指示を出した。

リンクも自分がやるべきことがわかっているかの如く、素早く女性に近寄る。


「立てますか?あちらの階段まで、頑張って走ってください。」


これが、魔導図書館の司書に必要な使命。暴走した魔導書から、利用者を守ること。

魔導図書館の司書は、強い魔術師にしか務まらない。


徐々に安全な場所に向かうリンクと女性。それを見逃さないように天使は剣を構え、飛んでくる。


「行かせない!ここで食い止める。」


ヨムは精神を集中し、自分の周りに風の空間を作り出す。そして、その風を右手に集中させ、纏った風で天使の剣を受け止めた。風は常に動き続けるため、天使の剣をすぐに弾き飛ばす。バランスを崩した天使は一度距離を離して体制を整えた。


「先輩、こっちはもう大丈夫です!」


階段の途中からリンクの声が聞こえる。どうやら安全圏まで移動できたようだ。


「ありがとう!そのままその人についててあげて!」


「了解です!」


ヨムは深呼吸をして、まっすぐな瞳で天使を見つめる。そして、再び風を纏って身体を構えた。


「天使さん。申し訳ないですけど、魔導図書館の規則に基づき、暴走したあなたをここで倒します。」


「・・・・。」


ヨムと天使、互いに構える。2人の距離はおよそ5mほど。一瞬で詰めようと思えば詰めれる間合いだ。

しばらくの静寂。膠着状態がずっと続くかと思った矢先、天使が動きを見せた。

左手に持っていた剣が弓へと形を変える。そして右手には虚空から矢が出現し、瞬く間に弓を構えた。すぐさま引かれるその弓に対し、ヨムはすぐに天使に向かって走り始める。天使が放った矢は、ヨムの纏う風を貫通し一直線に飛ぶが、ヨムはこれをギリギリで回避した。ヨムはそのまま天使の懐へと飛び込む。


「これで決める。ー風刃ふうじん鎌鼬かまいたち!」


右手の拳から振り下ろすそれは、風による真空の刃。その刃は天使の身体を真っ二つに切り裂いた。

切られた天使は徐々に身体が光となり、消滅していく。そして、最後には両断された一冊の本となった。


先ほどまでの邪悪な気配は消え、図書館の緊張した空気は徐々に解けていく。


「これでおしまい。ふぅ・・、疲れた。」


ヨム自身、緊張が解けたのかその場に座り込んでしまう。少しすると2階が静かになったことに気づいてか、リンクが階段を駆け上がってきた。


「先輩、無事ですか!?」


「なんとか大丈夫〜。利用者さんは無事だった?」


そう言って、ヨムは立ち上がり自分の制服をパンパン叩いて埃を落とす。リンクもヨムの無事な姿を見て一安心といったところだ。


「とりあえず、下(1階)で休んでもらっています。危ない本もないですしね。動揺はされてましたが、怪我もなさそうでしたし問題ないと思います。」


「そっか。よかった。じゃあ、後片付けしようか。」


2人は通路に散らばっている本を拾って元の棚に戻し始めた。かなりの量で、2人での作業でも元に戻すのは1時間くらいかかってしまいそうだった。しばらく作業をしていると、階段を人が上がってくる音が聞こえる。


「あの・・・。」


「ひゃ、ひゃい!!?」


そう言って声をかけてきたのは、先程まで1階で休んでいた女性だ。突然話しかけられたもので、ヨムは動揺が隠せずに返事を噛んでしまう。リンクがもう大丈夫か尋ねると、女性は平気だと伝えヨムへと向き直った。女性の表情はまだ少しこわばっている。あのような体験をしたら、普通の反応だろう。文句の一つでも言われるのだろうか。そう思っていたのだが、女性から出てきた言葉は想像と反対の言葉だった。


「先程は助けていただいて、ありがとうございました。司書さん。」


「あ、あの、あのえっと、私・・・。」


素直な感謝の言葉。予想と反するその言葉にヨム自身返す言葉がすぐに出てこない。

少しの間を置き、その後ヨムはしっかりと女性の方を向く。


「あの、この図書館、たまにこんな危険なこともあるんですけど、利用者さんのことは絶対に守ります。だから、もしよかったら、また利用しに来てください。」


それは感謝に対するヨムの決意だった。魔導図書館には危険がつきまとう。そのため、利用者は極端に少なく滅多に人が来ることはない。しかし、それでも利用してくれる利用者がいるなら、その安全を守りたいと思っていた。


「ええ。是非また利用させてもらいますね。私自身、危険に対してしっかりと対応できるように修行しないと。本当にありがとうございました。」


ヨムとリンクは女性を魔導図書館の入り口まで見送った。

女性は見えなくなるギリギリまで何回か2人の方を向き、手を振ってくれていた。

見送りを終え、2人は図書館へ戻り閉館作業を始めた。


これが魔導図書館の日常。多くの人々が魔術を使い、その魔術の知識を集約した図書館の司書の日常である。

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