⒈魔導図書館の日常<前編>
ーこれは遠い昔の話ー
魔法が今よりも遥かに栄えた時代に人々を支配する6人の魔王が存在した。
人々は彼らを「第六天」と呼び恐れていた。人々は滅びの道を進むのだと、誰もが諦めていた。
しかし、一人の魔導師が第六天に立ち向かい、彼らをそれぞれ一冊の魔導書に封じ込めることに成功した。
計六冊となるその魔導書は「魔王の書」と呼ばれ、秘密裏に各所に封印されたという。
その場所は今では誰も知らないのかもしれない・・・。
◇ ◇ ◇
ここは町の外れにある小さな図書館。魔導図書館と呼ばれるその図書館には、小さな司書が働いていた。
「ねえ司書さん。白魔術系の魔導書ってどこにあるかしら?」
受付に問い合わせに来たのは若い女性。質問に対して、司書は少しオドオドしている。
「し、白魔術系の魔導書でしたら、2階に上がってすぐ・・・の棚にあります。」
「ん?2階のどこ?」
その小さな声が聞き取れず、若い女性は質問を返す。
「に、2階の・・上がってすぐ右の、棚にあります。」
「2階上がってすぐ右ね。ありがとう。」
そう言って、若い女性は踵を返し、2階への階段を上っていった。
対応した短い黒髪の小さな司書ーヨム・リードナーは肩を落とし、再び受付の椅子に座り直した。
(また、うまく対応できなかったよ・・・。どうしても初対面の人だとオドオドしちゃうな・・)
そんなことを考えながら、それまで読んでいた本を広げ、再び読書を始める。
普通の図書館であれば、他にやるべきことがたくさんあるのだが、この図書館はまず利用客が極わずかであり、作業もそれほど多くない。基本的には、受付の椅子に座って読書したりしても問題ないのである。
(どうすればうまく対応できるんだろう・・?ちゃんと「3日で学ぶ接客術」も読んで勉強したのに)
ヨムは基本的にコミュニケーションが嫌いなわけではない。ただ、初めて会った人とうまく話すことが苦手なだけだ。それでも、人間関係というのは難しく、自分と相手のコミュニケーションのテンポが合わないとうまくいかないことは多い。ヨム自身改善したいとは思っているが、なかなか難しい問題であった。
読書を続けていると、後ろから声がした。
「先輩、書籍の配架作業終わりましたよ!」
長く赤い髪に高い身長の女の子ーリンク・ナレッジは元気な声でそう報告する。
「あ、リナちゃんお疲れ様。配架ありがとう。」
ヨムは読書を中断し、リンクの方を向いて礼を述べた。
「ま、配架もそんなに数多くないので問題ないですよ。それに先輩だと高いところの棚には手が届きませんからね。」
「そんなことないよ!ハシゴ使えば届くんだから!」
後輩であるリンクだが、フランクな後輩でありヨムのことをこうしてからかうことも多い。2人の仲が良いからこそ、そのからかいも楽しくして接することができているのだろう。
「今読んでるそれって、『封印語』ですか?」
リンクはヨムが読んでいた本を指差して問いかける。
「そうだよ。有名なお話なんだけど、この話の中で封印された魔王の書の場所は現在では誰も知らないんだ。」
ヨムはリンクに本の表紙を向けて、本のタイトルをわかるように見せた。
リンクはヨムの隣の席に腰掛け、一緒に本を覗き込む。
「確か魔王の書は6冊なんですよね。どこかで管理されているんですかね?それとももう既に燃やされて無くなったりしてたりとか?」
「うーん。不思議だねー。」
そんな雑談をしている時のことだった。突如、図書館の2階から悲鳴が聞こえる。
「先輩!2階です!」
「わかってる。」
そう言って2人は2階へと走っていく。2階に上がってすぐ右側の棚。その周辺には散らばった本。尻餅をついている先ほど受付に問い合わせに来てた女性。
そして、本棚に囲まれた通路の真ん中に強烈な邪気を放つ天使の姿があった。