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「さて、俺に解決される程度のレベルの依頼はどこだ!」
「来て開口一番がそれですか…?」
ちょっとだけバカっぽく、そして初心者っぽく振舞う。
まぁここまでやる必要も無いんじゃないかなとは…
ギルドに入って、これを言い終わった後に気づいた。
プレイヤー、誰も居ねぇでやんの…
「チッ、言って損した…」
「やっぱ演技ですか、それ…」
「当たり前だろ?」
俺はやると決めたら徹底的にやるのだ!
…と言うより、なんか無駄にテンションが上がったままだからな。
原因は疲労である事に疑いはない。
「で、色々と教えてもらっても?」
「はぁ…いいですよこうなったら…」
ちょっと渋々と言った具合だが、それでも内容としては非常に丁寧に説明してくれる。
まず、依頼はクエストボードとかいう張り出されている。
というのは設定の話で、実際にはクエストボード付近ならクエスト確認のアイコンが出てきてそれに注目すれば依頼内容が確認できる。
まず大まかに分けて採取から各種討伐、それに指定した物品の納品依頼に護衛なんかと言った依頼の種類。
そして肝心の報酬金に経験値、その他別途でもらえる物なんかも書かれてるな。
で、これはNPCからの依頼もあれば、プレイヤーが募集する依頼もあるとか。
また、ここでパーティの募集も出来たりするし、それを受ければその相手と臨時的なパーティも組むことが可能だ。
…これだけは俺も知っていた、何故か。
「何故かじゃないですよ!全く!」
「悪い悪い、うん」
「反省してないよね?それ!」
ここは黙秘権を行使して、やり過ごす事にした。
どうせ何を言ったって言い訳にしかならないのだ。
重要な事を忘れた俺が悪い、うん。
ちなみにパーティ募集等のプレイヤーが依頼していない、いわゆるNPC依頼で今までで確認された依頼の種類は…なんと200を超えているそうだ。
最初の町なのに、よくやる…
で、そんな大量の依頼なんか面倒くせぇよ!見たくねぇよバーカ!なんてひねくれた人間は幾つかあるカウンターに居る、受付人に話せばいいようだ。
自身のレベルや行動、持ち物等からオススメの依頼を幾つかピックアップしてくれるみたいだ。
時々オヌヌメと言いたくなる様な高難度の物やヘンテコな依頼が渡されるそうだが…
後、補足として受付は基本可愛いお嬢様的なNPCがやっているそうだ。
でもたまにオッサンとか、着ぐるみみたいな奴がやってる場合もあるそうで…
「今回はレアなパターンか?」
「そうですね、あれは」
その、レアなオッサンが受付をしていた。
厳ついと言うか、歴戦の戦士みたいな風貌だな。
おおよそ最初の街に相応しくない。
「取り敢えず、何か受けてみたらどうですか?」
「そうだな」
本音を言えば俺も受付嬢と話してみたいけどな。
まぁあれだけ厳ついオッサンなら、逆に安心できるか。
初心者を育ててくれそうって意味で。
「ようこそ新入り、ここはギルドだ」
「初めまして、今日は依頼を受けに来ました」
なんとまぁ、顔に似合う寡黙な雰囲気だ。
豪胆な語り方でなく、何処かカリスマを感じさせる様な態度…
つい畏まってしまった。
「ファルマ、貴方って…」
「…ん?」
「きちんと畏まって話せるんですね…」
「うるせぇよ」
いきなり横なら何言ってくるかと思ったら、そんな事かよ。
全く、失礼だな…
「あぁ、でもその前に…だ」
「えっと、何か?」
「先日は、災難だったな」
「あ、はい」
まぁ、間違い無くあの事だろう。
このオッサンも近くで見てたのか…?
「取り敢えずこの辺りが君には丁度いい依頼だろう」
「ありがとうございます」
「気にするな、仕事だからな」
で、バッと目の前にオススメ依頼リストなる物が出てくる。
上からさっと眺めていくと依頼数は合計8個…って8もか!?
「意外に多いな…」
てっきり2つ3つ位かと思ってた…
「それだけ町も困ってるって事だ、嘆かわしい」
「どれどれ…何が書いてるの…っと」
横からリコリスにリストを眺められながら、俺も内容に目を通していく。
えっと…依頼名は『調薬を志す者よ、集え!』『お野菜下さい!』『肉だけの生活には飽きました…』『厚切りステーキに彩りを!』『ベジタリアンへの救い』『楽しい楽しい公共事業』『ワン!クゥ~ン…ワオン!』『冒険者の日常(デイリークエスト)』か…
見事なラインナップだな…これ。
俺のやってきた事、殆ど筒抜けじゃねぇの?って言いたくなる位オススメの依頼群だ。
「…清々しい依頼名ですね!」
「そうだな、見事だ」
ひと目で町の現状が良く分かる依頼たちでもある。
半分が野菜の納品依頼で一つはデイクエ、二つが指定した場所に行って参加するタイプ、最後は犬からの依頼で骨の納品だ。
意味の分からない物が混じってるが、まぁ…素晴らしい内容じゃないか?
どれもそこそこの報酬金に、少なくない経験値まで貰えるみたいだし。
「こんな依頼を出すのも苦しいが、実際にこれが町の現状なんだ」
「へぇ~…」
これは…犬まで依頼する御時勢なのを言ってるんだろうか?
いや、野菜関連…だろう。
「全く酷い状況…一体どなた達のせいなのか…」
で、オッサンは深刻だという事を態度そのもので、リコリスはオッサンに賛同しながらも何か原因を知ってるからなのか黒い笑みを浮かべているので…なんとまぁ面白い構図である。
…後で聞いてみるか。
「無茶を通してまでやってくれとまでは言わないが、どうにか受けてはくれないだろうか?」
「そう必死に言わてもなぁ」
なんか無茶っぽいと言って貰っても困る…俺が。
取り敢えず野菜関連は持ってきっぱなしだったので4つともさっさと受ける。
数に指定はあるが、特に種類にこだわってないのが救いだ。
分散させれば…うん、余裕を持って足りる。
後でまた料理を作る分は残るな。
「すぐに達成できる物が殆どだし…」
「そういえば置いてきてなかったよね」
インベントリから持っていた、もれなく知性を獲得したトマトやらイモやら大根やらニンニク…野菜類を依頼された個数だけ適当に置いていく。
ホント、人が居なくて良かったわ。
なんでカウンターの上が大合唱してるんだって話だ…
あ、ついでに骨も置いておこう。
「これで、五つは終わりか?」
「…あぁ、納品感謝する」
そう言われて依頼五つ分の報酬と、経験値が手に入る。
(経験値獲得により、キャラのレベルが上昇しました!)
お?やった。
思ったより経験値貰えるんだな。
これなら人が居ない時間を見計らって来るのも…いいな!
「で、残りはどうする?」
「…デイクエと公共事業はキャンセルだ」
みれば片方は魔物討伐、もう片方は…町から北の洞窟の土砂の除去作業…らしい。
…誰が町の外に出てやるかよ。
今日はもう引きこもるんだ。
俺はまた明日、森に行くんだからな。
「折角の貰い物もあるし調合依頼にも手を掛けてみるかな」
「えぇ~…まぁいいですけど…」
「別に習った所でそっちの商品は取らんよ?」
俺は別に薬剤師としてポーション売りたい訳でも、農家として野菜を卸したい訳でもない。
ただ出来そうな事をやりたいから、やってみたくなったからやってるだけだ。
そうすると勝手に立場が混沌としていくだけなんだ。
「ホントですかぁ~?」
「オレェ、ウソワァ、ツカナァイ」
「疑われたいの、それ?」
と言う訳で調合の依頼も受ける。
どうにも依頼者の元へと向かえば、そこで色々と教えてくれるみたいだ。
NPCによる薬師チュートリアルって所か?
「まぁそこなら私も行ったことあるし、付いてきますよ」
「いや来なくていいよお疲れ、また明日!そしてオッサンありがとう!」
「酷い!ってかいきなり冷たい!そして怪しい!」
そんなこんなで依頼も受け終わったのでさっさとギルドの出口に向かう。
依頼者は…ここから結構近いな。
「絶対付いてくからね!」
「えぇ~…」
結局、半信半疑ならぬ無信全疑なリコリスも付いてくる羽目になった。
何と言うか、結構リコリスって強引だよなぁ…
そんな事を言って、ワーギャーとリコリスが色々と叫ぶのを聞きながら俺は目的地に向かっていった。
「・・・」
…で、ギルドを出る時に見逃さなかった。
そんなやりとりを見ていたNPCのオッサンが面白い物を見たって顔をしてたのを。




