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「お…やってるやってる」
草原に出て約5分。
ぼんやりと遠くに見えるのは、恐らくプレイヤーだろう。
第一プレイヤー発見だ。
人がいなさそうだと思ってはいたが、それでも誰も来ないって訳ではない、か…
まぁ向こうは戦闘してるし、気付かれない内に去るとしますか。
という事でコマンド展開。
警戒、集中、風魔法、隠密…
「クワイエットブリーズ…」
そよ風が自分が出す音をある程度軽減、または遮断するっていう風魔法だ。
地味に探索との融合コマンドって所がミソだな!
ちなみにこのコマンドを使いたかったから風魔法と探索を優先して取っていたって経緯があったりするが…
まぁどうでもいいな。
それに、流石に姿は隠しようも無い…
こんなだだっ広い草原で音だけ消してもあまり意味は無いんだがな…
一応、野生動物に接近しても気づかれにくくなるくらいか。
「って土魔法ならどうなるんだ…?」
風魔法以外にもこの組み合わせで応用が利きそうなんだがな…
そう思い立ったのでちょっとやってみるか。
警戒、集中、土魔法、そして隠密…っと
「カムフラージュ…」
お!やっぱり発動したか!
………で?
何が起こったのやら…
まさか、失敗か?
「ん…?あれ?」
と思って体を見てみると、なんだか奇妙な事になっている。
こう…体中をオーラが纏ってるっていうか、なんか普段と色艶が違う。
全体的に若干緑っぽくなったな。
「確かに、カムフラージュか…?」
周囲の緑している草原と確かに色的には近づいたな。
MPの消費は…まぁ悪くない。
10分っていう効果時間と合わせれば、現状ギリギリ使った分は回収が間に合いそうだ。
重ねがけて使っていける程度には優秀か。
ここにはターゲットを取って襲ってくるモンスターはほぼ居ないし、人を避ける目的で使っていけば問題ないだろう。
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…という訳で、そんなこんなで一時間。
まっすぐ探索しつつ、人を見つけたら隠れるって戦法でどんどん進んでいった。
成果は殆ど無いが…まぁ魔法と隠密のいい訓練にはなっている。
結局、10分に一回程度プレイヤーと遭遇するからカムフラージュはずっと重ねがけし続ける羽目になってるしな。
人は相当にまばらだが、それでもこんな場所で狩りしてる奴もいるんだな。
全く…物好きめ…
……ぁぁぁ!
「ん…?」
なんだか悲鳴の様な声が聞こえた気がしたので、少し立ち止まり様子を窺う。
どこだ…?と暫く姿勢を低く息を潜めて警戒していると…その原因が分かった。
まだ相当に距離があるが…どうやら数人のパーティが走っているのが見えた。
そして、そいつらの後方には…相当な数の魔物…
ここら辺に生息してる、名前は確か…ウルドッグだったかな?
ここいら唯一の、アクティブモブだ。
あいつらはこちらを見かけると容赦なく攻撃してくる。
特徴は正に名前の通りで、狼っぽくて犬っぽい奴だ。
結構強かった気はするが…それでも単体相手なら3レベルで十分に余裕をもって倒せた。
ま、俺はな?
あいつらがどうかは知らん。
で、見る限りどうやら魔物を引っ掛けすぎて逃げ帰ってるパーティみたいだ。
少なくとも、偶然これだけの群れに出会って即逃げ…ってのは無いだろう。
だって、隠れる場所もロクにない草原だぜ?
後退しながら戦ってるってなら分かるが…逃げて逃げ切れると思ってるのか?
まぁ…あいつら全員逃走を選択してるのか、背を向けて逃げているんだがな。
何やってるんだか…馬鹿馬鹿しい。
ここから町までどれくらいの距離があると思ってるんだ?
体力が切れて後ろからガブリ…が先だろうよ。
それに一体全体、ウルドッグは何匹居るんだか。
明らかに追われてるパーティよりも多いが…
ひー…
ふー…
みー…
…沢山っと。
「合計で18か」
流石に数え始めたんだから、ある程度おおよそでも数えるって。
数えられないと思ったらそもそも数えてないし…
しかし、なんとまぁ多い。
Wikiには確か、多くても6~8体と書いてあった気がするんだが…
それの倍以上か。
難易度の低い草原様でこんな事が自然に起こるか…
まぁアイツ等が魔物を引っ掛けたってのが正解だろうけど。
それが故意…トレインやMPKなのか、それとも偶然なのかは知らん。
つかどうでもいい。
助ける気は毛頭無いしな。
だって…普通に殺りあっても勝てるだろ、きっと。
そりゃあ死に戻りする奴も出てくるだろうけど、全滅はもっと深刻な問題だ。
それに倒せば少しでも経験値が貰えるんだ。
なんで逃げられないのに逃げようとして…撤退しながら戦おうとしないのか、理解に苦しむね!
せめてもっと足止めとかあるじゃん、って思う。
「あ…あぁ~」
とか何とか見ている傍から一人、一番足の遅かった奴が背後からガブリと噛み付かれて押し倒された。
そいつに群がるウルドッグを見て、遂に戦闘に入るが…
結果は言わずもがな、最悪だな。
だってパーティの役割、その一つが上手く機能しない状態で戦ってどうなるか…?
特に足の遅かった奴…恐らく壁役だろ、あれ?
壁役が機能してくれないんじゃ…どう頑張っても乱戦までだな。
少なくとももう撤退しながら戦うなんて望めやしない。
それに元々数で圧倒的不利な状況だったんだ。
元々彼らは六人パーティ、一人頭三体を相手にしなきゃいけない計算だ。
それが、一人が一匹に背後から押し倒された状況も加わる。
更に周りが助けにいけないもんだから更に少しだけ数が増える…絶望的だな。
それに群れで襲ってくる動物の恐ろしさはその連携にある。
少しでも頭が回るなら、背後を取ったり厄介そうな奴を狙ったり…
そうして多対一の状況が五組程出来上がるんだ。
そうなったらもう勝ち目は無い。
「終わり、か…」
傷つけたウルドッグも数体居るが、倒せた数はたったの3だ。
結局倒したとしてもその隙を突かれて数体に噛まれ、身動きが取れずにジ・エンド…
どう考えても赤字だろう、割に合わない。
そんなこんなで彼らが全員力尽き、蘇生猶予なのかは分からないが残った死体が消えるまでの三十秒間を息を潜めて待っていた。
勿論その間に救いのスペードを構え、いつでも飛び出せるように準備をしておく。
「よし…今だ…!」
で、何をしようとしてるのかって…?
勿論、こいつらを狩る。
手負いの獣共をみすみす見逃す気は無い。
それに、ああも酷い戦いを見せられたんだ。
ちょっとした報酬として、俺の集団戦の獲物になる権利を与えよう。
俺も少し集団戦をしておきたいしな。
それに、なんとなく視線の先の獣共とこないだの骨とが被るんだよな。
おれの心が果てしなくリベンジを望んでいる。
何も復讐相手はアイツ一人だけじゃないって訳だな。
ここは一つ、俺の復讐の為の踏み台になって貰おうじゃないか。




