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「うぅ…美味しい、美味しいです…グズ…」


「それは良かった」



 見る前はあれだけ嫌がっていた彼女も、今では血涙のトマトスープを美味しいと食べるまでになった。

 まぁ、嫌がっていたのもつい数分の出来事なんだが…


 やはりというか、彼女が野菜共を見た時の反応は予想できたものだった。

 こう…曲がり角で食パンを咥えたクリーチャーとぶつかった時の様な…

 それはそれは見ていて可哀想で…面白いものだった。

 いや、間違えた。

 見せたのを後悔する様な反応だったと後悔したんだ。

 面白かったのは本当に心の一部だ。

 …重箱の隅をつついたら出てくるレベルの。



「やはりここのお野菜達は皆、生き生きとしていますね…うぅ…」


「鮮度がウリだからな!」


「良すぎるってレベルじゃないですよ!」


「あはは…」



 とか何とか、適当な事を言って誤魔化しておく。

 しかしまぁ彼女…ここまで見えても依頼のキャンセルなんて言ってこないな。

 畑の現状を見せるだのと言っておいて少しやり過ぎた感があったりもしたが…


 あれだけ嫌がってるのに野菜共と対面させたり…

 怨嗟の声を生で聞かせながらトマトスープ作成の光景を見せつけたり…

 普通に味は良いから納得してくれたか。


 良かった…



「あぁ、それとステータス見てみな」


「え…ブフッ!」


「ちょ…!?汚っ!」



 クソ!どれだけ芸人みたいな反応を魅せるんだ!コイツは!

 吹き出すなよ…全く!



「ななな…!なんですかコレェ!!」


「凄いだろ?野菜パワーだ」



 これがほうれん草なら割と完璧なんだよなぁ。

 …次に栽培するリストにほうれん草も入れてみようか?



「凄いなんてもんじゃないですよ!?」



 で、彼女の反応。

 そういえばステータスの事を言ってないなぁって思い言ってみたが…

 やはり芸人みたいな反応だ。

 ってか普通に驚くか。

 なにせ合計値6レベル分のドーピングだし。



「そう思うならきちんと食えよ?犠牲になった野菜達の為にも」


「それを言うのは卑怯ですよ!」


「あと、吹き出すの汚ねぇし…」


「…すいません」



 とかなんとか会話しながらテキパキと彼女が吹きこばしたスープを拭いている俺。

 リコリスはきちんと謝りつつ、恥ずかしさも相まって無言でスープを飲み始めた。

 ちょっと可愛い。

 で、思う事があるんだけど…


 やっぱ彼女、芸人に向いてるんじゃないか?

 つか、芸人で思った。

 そもそも何で薬草の栽培依頼なんてしに来たんだろう?



「そういえばリコリス、何で薬草の栽培依頼なんて頼むんだ?」


「あ、それ聞いちゃいます?」


「うん、芸人みたいに面白い君との接点が見つからなくて」


「ちょ!?それはひどいですよ!」



 芸人という言葉に何を思ったのか、立ち上がって猛抗議の姿勢を見せる。

 やっぱ芸人じゃないか。



「飯中だろ?行儀が悪いぞ?」


「う、すいません…」



 で…また座り、スープを啜る作業に戻る。

 …ちょっとだけ可愛い。



「一応!私これでも薬師なんですよ!」



 で、今度こそ飲み干した後にそう言い放った。



「じゃあこれを加工して、ポーションに加工出来ると?」


「えぇ!品質が良ければそれだけ良いポーションが作れるんですよ!」


「…へぇ」



 なんだか物凄く引っ掛かる言い方だな。

 まるで品質次第でポーションの質も決まると言いたげな…

 気のせいだろうか…?

 いや、試してみるか。



「だからファルマには良い品質のチーユ草を是非作っていただきたいと思いまして…」


「具体的にはどれくらい?」


「ええと、出来ればこの品質以上でお願い出来ればと…」


「どれどれ…」



 と言って差し出してきたのは、一本の草だ。

 多分チーユ草の成長した姿なんだろうな。

 だけどなんというか…成長途中なのか小さいし、一部変色してる。

 粗悪品丸出しって感じだ。



「あ、勿論鑑定してもいいですよ」


「ありがとう、助かる!」



 という訳で遠慮なく鑑定。



・チーユ草 レア度3 品質評価2


 土地により様々な治療効果のある薬草。

 殆ど土地を選ばすに育つことでも有名である。

 ポーションに加工すると最大限その薬効が引き出され、そのまま食べても僅かだがHPが回復する。

 …しかしこれはかなり品質が悪く薬効も殆ど無い為、加工しても碌な物にならない。

 変色して十分な成長が出来ずに摘まれた只のゴミである。



(経験値獲得により、探索のレベルが上昇しました!)



「え~…なんだこれ…」



 遠慮なく言うとゴミだ、これ。

 ってかどこにでも生えんの?マジで?

 ウチの畑にこんなのが生えたら、悪いが雑草として抜いて捨てるぞ?

 それにどこでも採取可能だったら、俺に頼まなくたって良くない?

 ちょっと休ませれば品質だって戻るだろうに、きっと。

 適度に採取地をローテーションしながらやりくりしてけばいいじゃんか。



「知ってるかもしれませんがチーユ草って、実はどこでも採取可能なんです」


「うん、今確認した…」


「考えてると思いますから結論を言うと…

 薬師の間で乱獲が続きまして…何処もこんなのが少しだけって状況になっちゃってます」



 なんて言おうとしたら、この説明である。

 なんだか呆れてくるな。



「はぁ…」



 ため息の裏で、思わず『馬鹿じゃねぇの?』なんて口走りそうになったのを飲み込む。

 別にリコリスだけのせいじゃないし、それは間違いだからな。

 それに、彼女は問題を解決すべく行動しようとしている人間だ。

 彼女に掛けてやる言葉はもっと別にあるはずだ。

 …言わないけどな?



「それに他の奴らは解決になぁんて一切動き出してませんしぃ!」


「…で、自分はわざわざそれの解決に動き出したと?」



 どこか含みのある言葉に、刺のある言い方…それに力の入った表情。

 まぁ一悶着あったんだろうなぁ…くらいには想像がつく。

 なのでちょっとだけ意地悪く、そんな彼女に遠まわしに聞いてみた訳だ。



「いえ?違いますよ?

 私は高品質のポーションを売りたいってだけです。

 現状、周りは作れても評価は4止まりですからね!」


「ほう、それで…?」


「良いポーションって…より多く、高く売れるんですよ!」


「成る程…」



 より多く、高く…ねぇ?

 ちょっとここで、俺なりにプレイヤーの動向を考えてみようか。

 まずトッププレイヤーは、より効果の高いポーションを求めて買いに来るだろう。

 もし多少高くても、他で売ってないくらい良い効果なら間違いなく買う。

 つまり高品質は売れるよな、間違いなく。


 それで更に中間層や初心者層なんかは…高品質もあるが、それよりもお手頃の品質・値段のポーションを求めて買いに来る…はずだ。

 取り敢えずこのポーションの品質が4ってのがどれくらいかは知らないがな…

 それが一般的な値段なら買う人は買うだろう。

 更にそれが良心的なら…言うに及ばずだ。


 そこからもう一歩踏み込んで、量の問題がある。

 さっき言っていたが採取で採れる量は少しだけ、らしいな。

 それも品質が2程度の粗悪品だ。

 その採取量・採取品質をこの畑が超える事は…あまり難しくないだろう。

 まぁ、これは実際に植えてみないと…だな。



「きっと、他のお店で閑古鳥が鳴くくらいには…繁盛しますよ」



 つまり、彼女はこう言ってる訳だ。

 客の目から見て、他より多くの高品質ポーションを売ってくれる店にしたいと。

 在庫も豊富で、品質も良好…となると彼女の店で買わない理由がない。

 そうなると、きっと他の店が大打撃を受けるかも知れないが…

 まぁ予想の範囲だし、そもそも俺には知ったことではない。



「しかし、意外だ」


「何がです?」


「もう少し控えめに言うかと思ってたよ?」


「いやぁ、まさか?

 ゲームって…仲間と助け合い、他者を出し抜くものじゃないですか?」


「そうかい…」



 何と言うか、気に入った返答が返ってきたしな。

 助けるのは仲間で、見捨てるのは他者…

 そして今、彼女にとって他の薬師は出し抜く他者なのか。



「ふふ…」



 いかんいかん、思わず笑いがこぼれてしまった。

 それにこれだけの考えで行動してるのを考えれば間違いなく俺の隠居生活をばらしたりはしないだろう。

 バレれば自分のアドバンテージを大きく減らす事にもなるしな。

 俺は隠居しながら薬草を栽培して彼女はそれを買い取り、ポーションにして売り捌く。

 お互いにウィンウィンな関係って訳だ。



「うふふ…」


「ふふ、ふふふ…」


「「アハハハハ!!」」



 色々と考えている内にこぼれた笑いが、彼女と笑い声とハモる。

 なんだか…奇妙な一体感だ。

 そして互いに、どちらとも言わずに差し出した腕で握手を交わし合う。



「よし、協力しようじゃないか!」


「えぇ、こちらも精一杯頑張ります!」



 今、俺らはきっといい笑顔で笑い合っているだろう。

 そうに違いない。


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