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 家に入ってもらったら早速、席についてもらう。

 別に豪邸ってわけでもないからな、見て回る所なんぞ無いし。



「それで、まずは自己紹介からか?ファルマだ」


「えっと、リコリスって言います」



 飲み物を出さないのもアレな気がしたので、さらっと水を出しておく。

 う~む、こういう時の為にトマトジュースでも作っておくべきだったか?

 今後の為に…後で作っておくとしようか。

 まぁ…それは置いておいて…



「それでリコリス、単刀直入に聞くけど…なんでこんな場所まで来て依頼を申し込みに来たんだ?」



 で、早速切り出していこう。

 実際の所、彼女がどうしてここに依頼を申し込みに来たのか疑問でならない。

 それも昨日家を買って、適当に庭先に畑を作った相手の所に…だ。

 たまたまここを通りかかって訪ねたら…とか、ここら辺に用事が有って尋ねるついでに…

 なんてふざけた理由ならお引取り願うつもりだ。


 なにせここは文字通り、町の外れだ。

 周辺には辛うじて店舗持ちのNPC以外、俺以外は誰も住んでいない事は購入段階で確認済みだ。

 昨日の今日でNPC含め誰かを尋ねられる用事も無いし、迷子以外にここを通りかかるたまたまなんて存在しない。



「…ふぅ、それはここでしか頼めないと思いましたので…」


「…そりゃあどういう事だ?」



 で、これが彼女の返答。

 渡した水は一気に飲み干すついでに答えてくれた。

 つか初対面の農家を相手にしてのヨイショ作戦だろうか?

 まぁ俺には効かないけどな。

 ちょっと凄む感じの雰囲気を変えて、相手の様子を伺ってみる。



「えっとその!言葉通り!…です!

 実は確認できるかぎりプレイヤーの中で、あなた以外に農業なんてやって無くてですね…?」


「…?はぁ…!?」



 理解に一瞬の間を要した上になんか変な声が出た。

 俺以外に…まさかぁ!

 流石に誰か彼かやろうとしてる奴なりいるだろうに。

 そりゃあ…流石に嘘ってもんだろう?



「えっと…農具とか売ってないのを疑問に思いませんでしたか…?」


「そりゃ最初の町だから無いものも多いだろ?」



 確かに市場は見てきたが、何処にも農具どころかスコップさえ売ってなかった。

 初歩的なNPC販売キットしか売ってない。

 松明とかポーションとか矢とか…



「だけど、二番目の町ではピッケルも釣竿もあるし、指揮棒でさえ売ってるんですよ」



 最初(アイン)の町ではピッケルも釣竿も指揮棒も売ってない。

 つーか指揮棒まで売ってるって…すげぇな。

 そこら辺の枝でも削って代用しろよって言いたくなる。

 ちなみに二番目の町はここから南に行った所にあるそうだ。

 さらっと説明すると山脈が北東に伸びていて西には大森林があり、南には特に何もない。

 だからプレイヤー達は軒並み南から他所への進行をしてるって訳だ。

 まぁ今はどうでもいい話だ。



「それに作ってもアビリティの関係で使えませんし…」


「あぁ、うん…」



 ちょっと適当にごまかしておこう。

 悪いがそれについては詳しく知らないし。



「それに初期獲得可能アビリティにも農業って無いじゃないですか」


「釣りとか料理に舞踊、演奏なんてものはあるのにな」


「それに土地代なんてものも考慮するととてもじゃないですが高くて…」


「あぁ、うん…」



 確かに結構な値段だよな。

 この家屋一帯で90万近い額が吹き飛んでるし。

 …割と余計な物も買ってるけどさ。



「まぁ、俺に頼む理由は分かった。

 しかしどうして俺が農業をしていると知ってて、更にどうやってここが分かったんだ?」



 実は大抵が宿暮らしか野宿ってのがこのゲームのプレイヤー達だ。

 どんどん次の街へと進んでいくからな。

 最初の町の入居率なんて実は生産職含めて三割にも満たってない。

 だからこそ、町外れなんて隠れ家に近い状況だったんだが…

 つかそれよりも農業の方がバレてるってのが心配だ。

 折角の隠居が台無しじゃないか。



「えっと、実はだいぶ前から探していて、不動産のNPCさんに前々から相談してたんですよ!

 それで今日訪れたら…その…」


「農業をやりそうな奴がいたと?」



 確かに要望として畑が作れそうないい環境の庭付きって言ったしなぁ…

 しかし案外、NPCにはプライバシーって無いのか。

 …今度から注意しよう。



「はい!それで街中駆け巡りまして…」


「あぁ、お疲れさん」



 渡した水も思いっきり流し込んでたしな。

 駆け巡ってきたのは本当だろう。

 そのNPCに聞けば…?なんて野暮な事を聞く気は無い。



「あぁ、別に誰にも他言するつもりは無いのでご安心下さい」


「そいつは助かる」



 現在思いっきり隠居中だしな。

 そこの脅しになんて入られたら…こっちも何らかの手段に出るしか無かった。



「こっちも埋めるとかは勘弁したいしな」


「えっ…!?」


「このゲームってさ、死ぬまでずっと苦しみが続く訳じゃん?

 手とか足とか動かせなかったらさぁ…」


「えっ、ちょ…!?」


「あぁ、冗談だよ冗談」



 ちょっとブラックジョークをかましたら見事に怯えちゃってまぁ…



「それで、俺としては育てるのに反対は無い。だが…」


「種は無料で差し上げます。その代わり…」


「安くで売ってくれってか?」


「…はい」


「具体的には?」


「市場価格の半額、40ミルスでどうでしょう?」


「ふむ…」



 中々に悪くない取引だな。

 別に俺は金儲けでやってる訳じゃないし。

 適当に時間は潰せていいし、何よりコネと実績ができるってのも悪くない。



「よし、分かった!

 その依頼受けようじゃないか!」


「わぁ!ありがとうございます!」



 とは言っても口約束だし、納品の時に少し話し合う必要があるかもしれないな。

 まぁ、とにかく、こうして俺とリコリスの商談は終わったわけだ。



「それで、大変言いにくいんですが…さっきから何か声が聞こえません?」


「あぁ、これか」



 スルーされるかと思ってたけど、ちゃっかり聞かれてた。

 野菜共の叫び声だ。

 厨房からそこそこ離れているから大丈夫かな~と思っていたが…

 どうやらダメみたいだ。



「何が知ってるので?」


「知ってるも何も…」



 それにこれからお得意様になるかも知れないお客だ。

 畑の現状は知ってもらっていた方がいいだろう。



「まぁ付いてくるといい」


「えっと、何があるんです…?」



 俺が家の奥に案内しようとすると、恐る恐るといった感じに訊ねてくる。

 う~ん、なんて答えようか…?

 野菜?いやゲーム内で野菜が喋るって知らない可能性もあるし…



「…地面に埋めてたモノ達、かな?」



 結局どうにもいい表現が思い浮かばなかった自分に苦笑いしながら、そう答えた。



「えっ…?」


「最初は怖いと思うかもしれないけど…その内慣れると思うし…」



 なにせ優秀なドーピングアイテムだしな。

 特に売るつもりも無かったが、少しくらいなら分けるのもいいかもしれない。



「いやぁ!いいです!別にいいです!!」



 とか思っていたら、何故かリコリスに滅茶苦茶拒絶されましたとさ。



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