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「はぁ…」
ため息を一つ、吐きながら街を歩く。
新品の…着心地の良い鎧に身を包んで心機一転とはいかないようだ。
装備の更新は終わったけど…まだ本当の問題は解決しちゃいないからな。
そう…金だ、ミルスだ。
現在の手持ちは…112万8000ミルス丁度。
ポーションなんかの消耗品を補充しても余裕で余る。
「どうすっかな…」
あ…鎧は結局買ってしまった。
むしろ買わない理由は無かったんだがな…
それに傷んできたら安く修理してくれるとも言ってたし。
あの店は今後も利用していく事になるだろう。
だが、今はアスティの言っていた言葉が無駄に胸に引っかかる。
「ワイルドな感じとか、危険を感じるデザインは君にピッタリだと思うよ?」
これを着てる俺は危険な感じがするんだろうか…?
なんて思いながら歩いていると、不意に道をすれ違う人と目が…合わない。
それに丁度俺を避ける前に先に人が避けていく。
…危険な感じがするんだろうなぁ。
つーか金の事よりむしろこっちの方が辛ぇわ。
段々とパーティが組めないんじゃないか?とか不安になってくる。
威圧感が売りのシーフってなんだよ…みたいな感じで。
それにさっき掲示板を確認してみたけど…色々と噂が酷い。
曰く、マリーと戦って一矢報いた面白ルーキー。
曰く、拷問の様なリスポーンを果たしてなお復讐心の折れなかった復讐鬼。
曰く、全ての事象をマリーを仕留める方向に向かわせる、マリー絶対仕留めるマン。
…最後に至ってはもう俺の理解力が追いつかん。
とまぁこんな事ばっか言われてっから、どうも普通のパーティーに入る事が出来る気がしない。
暫くはほとぼりを冷ます為に身を隠した方が賢明か?とさえ思ってしまう。
つか…もう時間が解決してくれると信じるしかない。
「はぁ…」
もう店を出てから何度目だろうか分からないため息をつく。
とにかく…目下の問題は金だけになるのだが…
一番使いたかった武器防具は揃った。
だが余っている金を何とかして持ち歩きたくない。
持ち歩きたく無いが、金を預ける施設はこの世界には無い。
だから使わなきゃって思うけど、でも目立つ事に使うってのは避けたいな。
そもそも俺は普通にプレイしていきたいんだ。
これ以上の注目は必要無い。
そして…何より無駄になる物は絶対に買いたくない。
ついでに死んでロストするような物も出来るなら避けたいってのもある。
…となると金の使い道は…高価だが死に戻りでも無くならならずそれでいて…地味?
いや、そもそも金を厳重に保管できれば良いのか?
う~ん……………………家?
もしかして家を買えばいいのか?
そうしたら金庫くらい設置出来るし…
いつかは考えなきゃいけない拠点作りを、今ここで済ませるべきか?
「それに、なぁ…」
ぼんやりと考えた案を後押しするように、ホルダーに留めてある短剣…もといシャベルに手が触れる。
こいつには武器固有のコマンドには[埋める]やら[掘る]がある。
まだ使ってないが、文字通り地面を掘ったり何かを埋めたり出来んじゃなかろうか?
家を買ったついでに土地も買って…ちょっと農家でもやってみるってのもいいな。
離れた場所なら目立つ事も避けられるだろうし…
流石にこのシャベルだと家庭菜園が限界だろうけど…どのみち暫らく買った家に引き込もれるだろう。
後は適当に作った作物で料理アビリティ上げにでも時間でも費やせば良い。
考えれば考える程良い案じゃないか!
…よし、決めたぞ!
俺、ちょっとファーマーになってみよう!
間違われる程度には名前も似てるしな!