14
「それだけあれば今の君にとってピッタリの防具が買えるよ」
「あ、そうなんですか?」
これだけ出して、ピッタリか…
駆け出し用の防具でも思ったより金が掛かるんだな。
「少なくとも今の君にとっては、だけどね」
とか考えていたらどこか意味深な感じと言うか、何かある感じと言うか…
そんな補足が追加された。
しかもその言葉でこちらの様子を伺ってるって様子ではある。
まぁ俺は間の抜けた顔をしてるはず…
アスティさんが使えるかは知らんが読心術は効かないはずだ。
「だけど、もっと多いかなぁ~?って思ってたよ」
「へ…?」
返答も間が抜けた感じになったな。
ってか何がもっと多いんだ?金か?
金なら十分に出し惜しんだぞ?
「だって君、マリーと戦ったって噂の新人君でしょ?」
「えぇ、まぁ…」
「戦った後に、魔窟で採れた物を売りさばいて一財産を築いたって聞いたよ?」
「確かに文無しは脱しましたけど…」
実際には文無し脱出どころか小金持ち入りしましたけど。
つかもう、いつPKが来てもおかしくない気がしてきたな。
掲示板の情報にしても口コミにしても…周りに広がるのが早すぎるし…
やはり一番いい装備を…でもなぁ…
「てっきりそのお金で、一番良いのを買っていくと思ってたけど…」
「そんな事したら、プレイヤースキルが身につかないじゃないですか?」
「へぇ…プレイヤースキルを、ねぇ…」
自分の脳裏をよぎった疑問と同じものを、改めて言い訳付きで否定してみる。
実際、自分と同じレベルのプレイヤーと比較したら、圧倒的に戦闘回数で負けている自信がある。
だって、1デュエルで4レベルから一気に10レベルだぜ?
それだけのレベルアップで積む戦闘経験の大半を、あのデュエルのせいですっとばしてきてる計算になる。
実の所まだまだコマンド操作にも慣れてはいないし、それにシステム的に知らないことだってある。
ここで高性能な防具で身を包んでも、レベル相応の経験を得るってのは難しいだろう。
ただレベルの高さと装備のスペックだけが取り柄のポンコツにはなりたくない。
だからハイスペックの装備はレベル相応の実力を身に付けるまでとっておきたい。
という言い訳更に考えて、もし聞かれたら答えようと思う。
これも内心で一理あるっちゃあるが、実際は察しの通りだ。
予算50万と告げる勇気が無かっただけである。
「ふ…ふふっ…」
で、プレイヤースキル云々の言い訳を即興で考えている間、沈黙を貫いていたアスティさんが静かに笑い始めた。
彼女…なんでいきなり笑い始めたんだ…?
「えっと…?」
「君…面白いね!気に入ったよ!」
なんだか今日は気に入られる事が多い一日だ。
で、彼女はそれだけ告げると店内を歩き始める。
歩く先は、予算として提示した7万で収まる値段で展示されている防具の展示スタンドだ。
「確か要望は軽さと防御力が両立した防具だったね?」
「あ、はい!」
「となると…そこそこ高い防御力の軽防具と、そこそこ軽量化した重防具があるけど?」
「動きやすいのとなると…?」
「この値段帯なら差は殆ど無いけど…軽防具の方かな?」
「じゃあ軽防具で」
「おっけ~」
こうして話しながら彼女は展示品を確認しながらその合間を縫い歩き、いくつかの防具の前で時々立ち止まる。
どうやら何かを弄っているようにも見えるが…?
店には店で、何か特殊なコマンドやらメニューがあるのだろう。
「あぁ、そうだ!肝心な事!」
「へっ?」
と、ここで突然、クルリと体を回して人を指差してくる。
何か弄っている動きから派生して、奇怪なポーズになってるな。
奇妙な冒険をする漫画でありそうな感じ。
とまぁそれは置いておいて…
「君の使ってる武器は?」
「短剣です」
「デュエルで壊れたって聞いたけど、今手元にあったりする?」
「えっと、ここに一応…新しい物が」
防具選びにも重要だろうから、特に隠さずに答えていく。
で、一応これからはあの魔窟で手に入った短剣を使っていく予定なので、それを見せる。
あまり見せたくは無いがな…
「えっ?これ…」
「短剣です…」
「ふふっ、アハハハハ!!」
「…短剣です!」
アスティさんは笑っているが立派な短剣だ。
カテゴリが短剣になっている、優秀な武器だ!
見た目が完全にあれだが…強いんだぞ!
激レアな魔道具でもあるんだからな!
・救いのスペード レア度7
カテゴリ:短剣(魔道具)
威力:91(斬性能:78 突性能:100 打性能:28)
耐久:130/530
特殊能力:装備時、コマンド[掬う][埋める][掘る][スペード]使用可
アンデッド特攻Ⅳ
アンデッド撃破時、特定の魔法コマンド使用時時耐久回復Ⅱ
特殊能力発動時以外、耐久回復無効。
大いなる力を持つ魔道具。
死してなお救われぬ存在に大いなる救いを与え、か弱き者へは力を与えるとされる。
また大地から力を貰う武器で、その形状故か地面を掘る事にもよく使われている。
「アハハハハ!!イ…ヒヒヒ!!わ…笑い死ぬぅ!!」
見ろよ、アスティを…
展示品の防具を避けながら器用に転げまわって大爆笑してるぜ…?
まぁ…他人事ならそうだよな。
俺も、最初にその形を確認した時は変な顔になったし。
ってかさ、よく使われている…じゃねーよ!
完全に園芸で使うようなシャベルじゃねーか!