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思いついたものを、そのまま流れで書き上げて投稿しました。
…唐突だが俺は今大量のモンスターに追われている。
この洞窟の只の雑魚…アークスカル・ノービスの群れだ。
目算でも…総数が分からん。
それだけ多いのだ。
「「「ケタケタケタケタ!!」」」
「う、わにゃあぁぁぁ!!」
どれだけ走っても決して振り切れない恐怖からか、自分の口から変な声が出てくる。
…このアークスカル・ノービスの足の速さと俺の現在のAGIによる足の速さはほぼ同じらしい。
いや、全く同じだ。
だから振り切れず、追いつかれないのだ。
そして向こうはアンデッドに対して、俺はこのゲーム新参で、ほぼ初期ステのVIT…
つまり体力無尽蔵の骨っ子VS体力有制限のひよっこだ。
いつか俺のゲーム内体力は尽き、確実に追いつかれその後は…まぁ死に戻るだろう。
なぜ絶体絶命のピンチを、俺はこのゲームを開始しておよそ二時間程で味わわなければならないのだろうか?
まず説明しなければならないのは、ここは初心者用のダンジョン、誘いの洞窟…
そこは土を削っただけの洞窟で、バットやらラットやらの下級モンスを相手にダンジョンでの戦いにくさというものを実感させてくれるダンジョンだ。
そう思っていた時期が俺にはありました…
で、実際に俺が居るのはそことかなり名前が似ている贖いの魔窟である。
紫色のランプに照らされた石壁と、人海戦術を得意とする死者の蔓延る魔窟だ。
現状、この世界で攻略組とさえ言われている奴らでさえまともに攻略出来ない様な…凶悪なダンジョンでもある。
ちなみに暫定攻略レベルは公式曰く…約70だったかな?
ここの一番の雑魚で40とか何とか…
あと言っておくと、攻略組のトップで48レベルらしい。
…何でこんな事になってるんだろうな!?
馬鹿じゃないのか!?全く!
なんて過去の自分を叱責しながら、今の自分の足を動かす活力を絞り出させている訳だ。
「はぁ…はぁ…はっ…」
やだ…なんだか自分の息遣いがエロい…
これを異性に聞かせればイチコロですわぁ…
「…んな訳ねぇだろうがよぉ!!」
自分が非モテな人間であるくらい分かってる。
だから少しくらいイケメンっぽい顔にしてみたんだがな。
つか走りすぎていよいよ頭に酸素が回らなくなってきたか?
打開策の一つでも考える前にこれだ。
いや、酸素が回って無いのはおかしいか。
これ、VRMMOだし…俺はVRマシン内だし…
そう、これはVR、それもMMOだ。
ゲームタイトルは…Choice Command Online、通称CCOだ。
つい数ヶ月前、新機能を搭載したVRマシン用に現実世界でリリースされたMMOだ。
…ガゴッ
な~んて、今まさに嫌いになりそうなこのゲームの事を考えていたら…不意に足元の石床から嫌な音がした。
何か…トラップを踏んだみたいだな!
そして反応する間も無く目の前の床が無くなった。
トラップは仕掛け床だったみたいだ。
「うわっと!」
止まりきれずに落ちるかと思ったが、なんとか踏みとどまれた。
そしてついでに穴を覗き込むと、果てしなく思える奈落がその先に広がっている。
てっきりそれっぽく針山なのかと思っていたが、どうやら違うようだ。
ある意味、安心だ。
「「「ケタケタケタケタ!!!」」」
後ろを振り会えると、そこには十数メートル程距離を開けて沢山の骨達が俺に向かって迫ってくる。
で、俺の真後ろには通路幅一杯、長さ10メートル程の奈落穴。
普通に考えたらこれは届きそうにないが…
…ちょっと覚悟を決めようか。
「ふぅ…はぁ…」
意を決して、俺は自分の武器である短剣を抜き、意識を集中させる。
そうすると視界左上のHPやらバフのあるアイコンの、その下に三つの枠が出てくる。
暗めの灰色に黒の縁取りがされている枠だ。
それにピースを嵌める様に念じていく。
まず、溜める。
そして、突く。
最後に、風魔法……!
そうすると、その三つの枠には念じた順番通りに溜める、突く、風魔法の三つの文字が埋まる。
枠に文字が埋まるとそれらは一つに重なり、一つの白い枠に変わる。
それと腰だめに短剣を構え、叫んだ。
いや、口から出たと言ったほうがいいか?
「ウィンドスラスト!」
ウインドスラスト…風属性の下級武技コマンドだ。
とにかく、そうしてスキル名を叫んで形になった俺のスキルは放たれたのだ。
俺はスキルによって力強く地面を蹴り、体をまっすぐに伸ばしながら刺突の一撃を見舞う。
…奈落に続く落とし穴の方向に向かって。
「ケタケタケタ!!」
対岸まではおよそ10メートル、どう考えても人力では届きそうもない。
そう、人力だけでは…
「い…っけえぇぇぇ!!」
刃を突き出して踏み出した勢い、それを更に加速させるように俺に風が吹き付ける。
一歩踏む込み相手に詰め寄り、更に風を纏って勢いを増しながら相手に強烈な刺突を見舞うスキル。
それの強烈な推進力を使おうと考えたのだが…
「わぶっ!」
それでも10メートルという距離は相当に遠い。
まず10という数字が俺のレベルの三倍以上あるし…というのは余計な事か。
余裕を持って対岸に着地は出来なかったが…穴の壁に顔を打ち付ける程度のダメージと、手に持った短剣を手放し奈落に落とすという代償を持って、なんとか対岸の床にぶら下がる事は出来た。
色々と無駄にしない内に力を振り絞り、急いでよじ登る。
「「「カラカラカラ………………」」」
よじ登ってから振り返ると…次から次へとアークスカル・ノービス達が奈落へと身投げしている光景が目に映る。
どうやら奈落の前で止まったものの後続に押されて次々に落とされているようだ。
そして…対岸10メートル先のここまでやってこれる様子はない。
俺は九死に一生を得た事と、走りっぱなしの疲れからも相まってその様子を面白おかしく眺めている事しか出来なかった。
そして、こう思う…
このゲーム…どんなクソゲーだよ、って。
一時間後に二話投稿します。