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私の主治医さん - 二人と一匹物語 -  作者: 鏡野ゆう
本編

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第三十一話 二人と一匹から三人と一匹に

 それから更に月日は経って私達にとっては三度目の夏。


 その日、私は新しく東出家に加わったばかりの赤ちゃんを連れて帰宅した。


「ただいま~キャラメル~!」


 先生にドアを開けてもらって玄関に入って声をかけると奥からキャラメルが尻尾をピンと立てて走ってきた。


「ニャーー!」

「ただいま、キャラメル。お留守番御苦労さま」

「ニャーニャー!」


 私に返事をしながらその視線は私が抱いているおくるみに釘づけだ。


「久し振りに会えたのにキャラメルってば私のこと見てないよ」


 キャラメルの気持ちは分からないでもないけどちょっとショックかも。


「ここ最近ずっとそわそわしていたからな。赤ん坊が帰ってくるのを心待ちにしていたんじゃないか?」

「自分の弟だものねー」


 私のお腹が大きくなってきてからも真剣な顔をしてよくお腹に話しかけていたっけ。もしかしてあの頃から既にお互いで分かりあっていたのかな?


 赤ちゃんは一姫二太郎が理想だってお爺ちゃんが言っていた通り我が家に新しく加わった一員は男の子。え? 一姫二太郎なら女の子だろって? うちの長女はキャラメルだから間違いなく我が家は一姫二太郎の順番通りに子供がやって来たことになるのね。


 甘えん坊なところは相変わらずだけど最近ではすっかり大人になったキャラメル。猫ちゃんの知能って幼稚園児さんぐらいはあるっていうし、キャラメルは普通の猫ちゃんよりずっと賢いからちゃんとお姉さんしてくれるんじゃないかなと期待している。


 寝室に入って用意してあったベビーベッドにおチビさんを寝かせると、横で立ち上がるようにして寝ている自分の弟を覗き込んだ。


「仲良くしたいのは分かるけど一緒に寝るのはもう少ししてからだからね。今はまだ駄目だよ?」

「ニャーン」


 キャラメルはその言葉にちょっと残念そうに鳴くと尻尾をパタパタさせて、待ち遠しいなって顔で鼻をひくひくさせながら寝顔を眺めている。


 私達の息子の名前は克也君。


 東出家の名づけの法則で行くと『俊』の字が入った名前にするのがお約束らしいんだけど、我が家はそれに逆らって先生の『克』の字をとって付けさせてもらった。


 ああ、別に私は『俊』の字をとった名前でも良かったんだよ? だけど先生がいい加減に俊ばかりでややこしいって言い張ったのよね。まあ確かに間違えやすいかもしれないなって私も思ったので先生の言い分を採用することになったってわけ。


 ちなみに女の子だったら私と同じように一文字でつけようかって話だった。


 先生はお腹にいる子が男の子って分かってからは、じゃあ次は女の子になるように頑張ろうなんて気が早いことを言い出す始末。全く気が早いパパなんだから。だいたいどうやったら男の子と女の子を産み分けられるのって話だよね。


「なあ、本当に里帰りしなくても良かったのか?」


 克也君が大人しく眠っているのを確かめてからキャラメルをつれてリビングにいく。入院中は看護師さん達がいてくれたから安心していられたのは事実だけど、やっぱり我が家の方が寛げるね。


「うん。だって実家に帰っちゃったらキャラメルが克也君と一緒にいられないじゃない? だけど先生こそ良かったの? 明日からしばらくお母さんがこっちに滞在することになるのは」

「俺の方は一向に構わない。それより問題はお義母さんがこっちにいる間、実家の方が大惨事にならないかの方だな」


 男三人で本当に大丈夫なのか?って先生は心配そう。こういうところは三兄弟ともそれなりに家事能力の高い東出家が羨ましいんだよね。うちはやる気はあっても全然それに伴わないんだもの。


「今年は睦美ちゃんが顔を出してくれるって言ってるから大惨事は免れるんじゃないかな。お母さんがこっちにいる間にハートマン軍曹なみに厳しくしごくって言っていたから」

「そのうち別の意味で早く帰ってきてくれって紘君から電話がかかってきそうだ」


 お母さんがいない間は一体どんな生活になるか興味はあるよね。


「ああ見えても紘君はドМだから大丈夫」

「そうなのか……?」


 そう言う問題か?と先生が微妙な顔をした。


「少しでも家事能力がつけば儲けものじゃないかな。睦美ちゃんには期待しないでとは言ってあるけど」

「すっかり猫田家の立派な嫁さんだな、睦美ちゃんも」

「あまりにも頼りないから見放せないんだって」


 本人はそんなこと言っているけど実際のところは紘君とラブラブなんだよね。


 だけど紘君には言ってあるんだ、あまりにも家事能力がお粗末だといつか睦美ちゃんに逃げられちゃうぞって。それを聞いてから本人なりに何とかしようと頑張ってるみたいだけど、お母さんが電話をしてくるたびに愚痴っているところをみるとあまり改善されていないみたい。


「うちの三人が先生やお義兄さんの域に達するには百年ぐらいかかりそう」

「我が家は必要に迫られて覚えただけなんだがなあ」

「うちは必要に迫られても上達しないんだから困ったものだよ」


 猫田家男子の得意技は野良猫を大人しくさせることぐらいじゃないかなって最近では思い始めている。


「ニャー」


 先生と私が話している間にキャラメルが割って入ってきた。ここしばらくは御無沙汰だったんだから大人しく自分の相手をしろってことらしい。


「はいはい、久し振りにブラシしてあげるよ。先生も忙しいからあまり構ってあげられなかったって話だからね」


 キャラメル専用グッズが片づけてある引き出しからブラシを出してソファに座ると直ぐに膝の上に飛び乗ってきた。


「それでも毎日おとなしく留守番していたよな」

「本当に?」

「……まあ大方の日は?」


 先生は毎日出掛ける時にキャラメルに今日の帰宅は何時ごろになるぞって話して仕事に行っていたらしくて、その時間通りに帰らないと猫砂を蹴散らしているんだって。しかも時間が遅くなるごとに蹴散らされた砂の量が多くなるらしくて、どうやってキャラメルが時間を測っていたのかは未だに謎らしい。


 とは言え、だいたいは先生とキャラメルだけでもうまく生活をしていてくれたみたいだ。そりゃ先生は一人暮らしが長かったから炊事洗濯はお手のものだしね。


「そうだ、義姉さん達がそのうち克也に会いに来たいってさ」


 ゴロゴロと気持ち良さそうにブラシをされているキャラメルを見下ろしてニッコリしてから先生が言った。


「私はいつでもウェルカムだよ」

「もう少し待ってもらった方が良くないか? 昔から床上げという言葉がある通り、一ケ月ほどは無理せず安静にしていた方が良いと言われているのは出産によって母体がダメージを受けているからなんだぞ」

「別にお義姉さん達とプロレスをするわけじゃないでしょ? お義姉さん達が来てくれたらお喋りも出来るし気晴らしになるんだけどな」 


 私の言葉に先生は信じられないといった顔をする。


「なんでそんなに元気なんだ」

「え、皆そうじゃないの?」

「恵は元気すぎるぞ」

「そうかなあ……」


 だけど元気じゃないより良くない? 今日からは自宅で育児が始まるわけだからこの元気が続かないかもしれないけどさ。


「新しい東出家の一員だからね。早く皆に会わせてあげたいなって思って。誰が一番最後になるのかな。お義父さん達? それとも俊哉お義兄さん?」

「オヤジ達だろうな。上のチビ達の時もそうだったし」


 確か今は確かカンガルーとコアラがいる国の何処かにいるはずなんだよね、お義父さん達。


「明日からうちのお母さんが来ているけどそれで良ければいつでもどうぞ」


 だけど先生の方は“いつでも”には異議ありって感じだ。


「元気すぎる恵に聞くよりもお義母さんに決めてもらった方が良いかもな」

「ちょっとそれってどういう意味?」

「そのままの意味なんだが」


 それから一ヶ月ほどしてお義姉さん達はお祝いを持って来てくれたんだけど、まさかそこでキャラメルが克也君とお義姉さん達の間に立ち塞がるとは思わなかった。意外なところに伏兵っているものなんだね。



 というわけで、最初は私と先生とキャラメルの二人と一匹だったこの家も、新しい家族が増えて三人と一匹になりました。気の早いパパさんがいることだし四人になる日は意外と近いかもね!




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