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第8話

 八人目の犠牲者、茂津善三(もつぜんぞう)は口からにょろにょろと飛び出し宙を漂う糸のような物体を見て、嬉しさと困惑を同時に感じていた。

 薄暗い、試験管や遠心分離機などが散らばる実験室のような部屋。平たい天井に絵を描くように漂うにょろにょろ。喉をくすぐる異物におもわず咳きこむ善三。しまった、と焦る。何故なら彼はにょろにょろの正体を瞬時に悟り、咳をしたことにより失ってしまうという危険性を知っていたからだ。しかし杞憂に終わる。それでも、驚いたのか姿を消すにょろにょろ。あわてて善三は哀願する。


善三 「カイチュウ様。カイチュウ様。どうかもう一度、そのお姿を私の前へお見せになってください」


 しばらくの間があり、再び姿を現すカイチュウと呼ばれたにょろにょろ。


カイチュウ 「ご飯がマックスになっておるな?」


善三 「ああ、育ちます、ありがたき幸せ。あなたのためでございます」


カイチュウ 「きさまの発言は控えなければならない」


善三 「まさにそのとおりでございます」


カイチュウ 「きさまは母親なのだ。出産を経験し、我が死刑囚にメッセージを送ることにしよう」


? 「呼んだか?」


 どこからともなく声が響く。かすれた謎の声。善三は一瞬、戸惑いの表情を浮かべたがそれもすぐに消滅し、パッと顔を明るくさせる。


善三 「おおおおお! まさかあなた様でしたか。お待ちしておりましたハリガネムシ様!」


 カイチュウの気配が消えた。代わりに増幅するハリガネムシの生命力、存在感。


 善三はベッドから飛び降り、窓辺へ移動し、白いカーテンを勢いよく引いた。まぶしさに眉をしかめる。


ハリガネムシ 「協調が足りないようだな、おぬし」


善三 「すみません、すみません」


 頭を窓に叩きつける善三。額が割れ、血がにじみ出す。


善三 「裏切りではないので勘違いしないでください」


ハリガネムシ 「無意味!」


善三 「この手を見てください」


 窓に両手を張りつける善三。


善三 「うまみがぎっしりとつまっているのが見えますでしょうか?」


ハリガネムシ 「超えている、確かに、刺激を超えている。グランデ!」


 善三は大粒の涙を流しながら窓に接吻した。彼のよだれがガラスを曇らせる。

ハリガネムシ 「時は動き続けている。永久という言葉がふさわしい。末期だよキミ。ミラシディウムからスポロシスト、すでにセルカリアなのだ。これがどういう意味かわかるかね? キミキミキミ~ン!」


善三 「存じております。睾丸が二個あるほどに……」


ハリガネムシ 「よろしい。感動している。ハリガネムシが提供しました」


 善三が雄叫びをあげながら窓に肘を叩きつけた。小動物がやっと通れるくらいの隙間が出来た。善三は臆することなく、身を乗り出す。


善三 「マンサッキュリナよ、永遠に!」


つづく

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