第5話
五人目の被害者、秋海丁介は自分が笑っていることに困惑していた。ひたすら、口を大きく開けて、笑っていた。
楽しくなんてない。むしろ、苦しいだけだ。
なのに笑っている。
笑っている。
とめられない。
あはははは。あはははは。あは。あは。わはははっはははっははははは。
一時間後。
あはは。はは。はあはあはあははははは。ふはは。ぎゃははははははは。
三時間後。
ぎゃはは? はあは。わははは。わはっはははあは。ぎゃばばあははは。
十時間後。
がぼばばば。ごる。ばは。ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば。
十二時間後。
か……は…………あ、あ、あ……。
秋海丁介の死について言えることはひとつだけだった。笑い死にだけは、イヤだ。顎の骨がはずれて人間の顎ってこんなに伸びるのかというほどだらりとしていて、体内の臓物をあたりにまき散らし、吐血し、嘔吐し、泣きじゃくり、鼻水を垂れ流し、舌がでろりと飛び出し、失禁し、脱糞し、それでも丁介は笑っていたのだろう、そのせいで、楽しそうには、見える。それでも、とボクは思う。笑い死にだけは、イヤだ。
樹海にどこまでも伸びる一筋の血と汚物。丁介は人里におりて助けを求めようとしたのだろうか。それならば、出口付近でUターンはしないはずである。腸だろうか、非常に長い内臓が血痕とともに森の中へと引き返しているのだ。
「ねえ、由壱。これを見て」
言われるまま視線を下げると彼女が言わんとしていたことがわかった。
「小さいね」「うん」
その足跡に……大きさに、ボクは見覚えがあった。大きな足跡のまわりに、いくつも小さなくぼみが残されていた。
「メリヤ。犯人ってやっぱり、子どもなのかな」
「これらの変な事件って、同一犯による犯行なの?」「断定はできないけど、そういう、予感がするんだ」「そういえば!」「どうしたの?」
「ワタシが死にかけたとき犯人らしき人物を見かけたって、言ったよね。小学生くらいの女の子だったの、うん間違いないわ。赤い服を着た女の子だった」「男の子じゃなくて?」「うん。女の子」
赤い服の少女……ボクは唯一の手掛かりであるその子を、なんとしても見つけてやる、と心に誓った。
つづく