第2話
二人目の犠牲者、策元零音は上空を見上げていると思っていたら視線の先に地面があるので自分の身体が逆さになっていることに気づき、困惑していた。
顔を叩く強い風、急速に迫ってくる地表により、落ちているとも、知った。
しばらく失神していたのだろう、地面はもう、眼と鼻の先だ。
はははははははは。笑うしかなかった。
どうすることもできない。死を待つのみ。実は足首にゴムが巻きつけられていて都会の真ん中でバンジー? そんなゴム、どこにある! くそ!
あいつが突き落としたのか? くそ!
それともあいつか? くそ!
思い当たる節がありすぎる!
まあ、いずれはこうなるだろうと腹をくくっていた。いつかは罰を受けるだろうな、と覚悟を決めていた。
はははははははは。こんな終わり方か。もう笑うしかない。くそ!
強風がまるで鉄板のように叩きつけてくる。あいつも、こんな感じで痛かったんだな、あ! あいつもか。ちょっとだけ、悪いことしたな。今度から、鉄板はやめよう。
氷をべっとりと肌につけているように風が冷たい。冷たさが、痛みを運んでくる。冬の海に突き落としたあいつも、こんな感じで痛かったんだな。あ! あの子もか。冬に海へ突き落すのは、もうやめよう。
吹きすさぶ風は、呼吸を困難にさせる。今度から、首を絞めるのはやめよう。
ふいに、熱いものが頬を伝った。
おい! なんだよこれ。俺が、泣いているだと?
信じられない。後悔しているのか? くそ! 怖いのか? くそ! どちらでもない。わかったぞ。俺の内で薄眼を開けているこいつがその正体だ。
解放!
俺は今、俺にのしかかっている重圧から解放されている。肩が軽くなっているのを感じる。だから安堵の涙を流しているのだ。他人を見たら傷つけたいというどうしようもないくそったれな衝動、暗闇の背後を気にする不安と苛立ち、爆発感情からの脱却によって俺は涙しているのだ。そんなはずはない俺は暴力を暴行を破壊を心から楽しんでいた、しかし泣いている、泣いているということは心の底の底では望んでいなかったのか?
その証拠に、泣けば泣くほど、俺の心が楽にな――
策元零音の死には三つの謎が残されていた。
ボクはビルの屋上を囲う金網を丹念に調べたが、どこにも、零音の指紋が検出されないのだ。彼は素手だった。それなのにどうやって、二メートルはあろうかという金網を指紋も残さずに乗り越えられたのか。それに屋上へと通じる唯一のドアはかたく施錠されていた。もちろん彼は合いカギなどを持ち合わせてはいない。ピッキングも考えられたけれど、カギ穴には少しの傷痕も残っていなかった。
ボクは貯水タンクしかない寂しい屋上を歩き回り、他に手がかりがないかを探しまわった。すぐに見つかった。それは、二十七センチくらいの靴の跡、零音のものだろう。そしてもうひとつ、小学生低学年のものであろう足跡。しかしそれは、零音が落ちたときに残されたものなのか、もっと以前についたものなのか、調べる術は、なかった。
つづく