温かい家
体中を蝕むひどい熱に、ふと意識が浮上する。
夢うつつのまま、ぼんやりと意識をたぐり寄せるも、上手くいかない。
あえぐように浅い息をする私の額に、しっかりとした温かい手を感じた。
「心配するな、大丈夫だ。直に良くなる。」
…ああ、この声は前にも聞いた…。きっと大丈夫なんだろう。
そうして私はまた意識を手放して、再び熱い夢の中へと帰っていった。
生活の気配。何かの物音と誰かの話し声。まぶたに明るい光を感じて、私は目を開いた。
しっかりとした木で組まれた天井。体を支える丈夫なベッドと馴染みの良いリネン。大きめの窓から明るい日差しが入るその部屋は、健康的な生活感に満ちていた。
「ここは…?」
部屋は広く、丈夫な造りの家具ががっしりとした暖炉と共に印象的な空間に私は寝かされている。動かそうとした頭に鋭い痛みが走り、左足には重い痛みと違和感がある。
「ただいま、ママ!ラウラちゃんは目が覚めた?」
「まぁ、あんたは戻ってくる度にそれを聞くのね、アム。いいわ、ちょっと様子を見てきて頂戴。静かに行くのよ、静かにね!」
はぁい!と元気に返事をする男の子の声とともに、軽やかな足音が駆けてくる。動けない私は、声の主の接近を緊張に身構えて待った。
「ラーウラちゃん♪起きてまーすかぁ♪って、ああああ!」
楽しげな歌いながら、つながっている部屋の奥から顔を見せたのは、11、2歳の麦色の髪をした少年だった。
「ママぁ!ラウラちゃん起きたーーーー!」
大きな声で報告しながら、少年は走り寄って来て、ベッドの脇に跪いた。
「大丈夫?どこか痛い?ラウラちゃん、3日も起きなかったんだよ」
なんのためらいもなく私の手を握って、心配げに揺れる水色の目が印象的だった。
「わったし…は…ごほっごほっ」
「アム、お姉さんにお水をあげて。そうよ、いいわ。私はロッタ。この子はアム。あんたは崩れた山道に埋まっていてね、うちの息子が連れてきたのよ。気がついて良かったわ。」
ひりつく喉に、清潔なガラスの水がおいしい。コップを手放せない私に、ロッタと名乗った女性は明るく笑った。
全てが、明るかった。健康的で清潔に保たれた、がっしりとした家とその住人。
――私、インクの染みみたい…。
そんな中にあって、異質感を抱く私がそこにいた。