―6
街を出発した翌日。荒地で魔物と遭遇した。今回の相手は、前回の三倍。六匹は鋼の巨体をしていて、手強そうだ。
また前線には、レーガ、レムネー、ジオスが出て戦う。私とメラマヴロは、ポルとロサの後ろにつく。
レーガが真ん中に突っ込んだ。迷うことなく、剣を持って突き進む。剣を一振りすると、左右の魔物を切り裂く斬撃が生まれた。魔法だ。光の剣の魔法。剣が折れてしまいそうな鋼の身体を、切り裂いた。魔物はまだ倒れない。
ジオスが剣を突きつけると、無数の氷柱のようなものが飛んで魔物に突き刺さった。水の魔法。二匹を足留め。とどめにかかる二人が、別の魔物の二匹が向かってきて見えなくなった。
身構えたけれど、杞憂に終わる。
ポルが素早く呪文を唱えると、巨大な矢を降らせて、まるで柵のような壁を作った。遠距離魔法だ。ぶつかり跳ね返った魔物の頭に、レムネーが大きな剣を深く突き刺す。一撃で倒した。レムネーはもう一匹を、まるで殴り飛ばすように大きな剣を叩きつける。吹っ飛んだ魔物の上に、レーガが着地と同時に剣を突き刺す。最初の二匹も仕留めたらしい。残り、二匹。
レーガの剣に、光が集まる。構え直すジオスの剣には、水が渦を巻いて集まった。
レーガもジオスも、ほぼ同時に飛び出す。魔物達も、受けて立つと言わんばかりに突進していく。
レーガは真っ直ぐに突っ込むと、そのまま剣を振り下ろして頭をたたっ切った。光が弾けて、魔物まで飛んだ。
ジオスは一度、横に避けたかと思えば、次の瞬間には剣を鋼の身体に突き刺していた。剣の渦は、さながらチェーンソーの刃のように、鋼を裂いていく。突き刺したまま反対側へ飛べば、魔物はほぼ真っ二つとなった。退治、完了。またもや、圧勝。
「レーガ! またアンタ、怪我してるわよ!」
「あ、悪い。頼むわ、ロサ」
最初の二匹のとどめの際に、牙にやられたらしく、レーガの右腕から血が流れていた。軽傷らしく笑っているけれど、ロサが駆け寄る。
「しょうがないんだから」
ロサは傷口の上で、指を一振りした。光がたちまち包んで、傷を塞いでいく。治癒の魔法だ。
今回の相手は、鋼の魔物が六匹。レーガは光の剣の魔法の使い手。ジオスは水の魔法の使い手。ポルは遠距離魔法の使い手。ロサは治癒魔法の使い手。まず最初にレーガが突っ込んで、二匹に切り込んだ。次にジオスが氷柱のような水の魔法で攻撃した。二人がとどめをさしている間に、他の二匹が向かってきたが、ポルが矢を降らせて盾を作る。足留めされた魔物は、レムネーが一突き。そして殴り飛ばした。そのあとレーガがとどめ。残りの二匹を、魔法をまとった剣をレーガとジオスが一匹ずつ倒した。軽傷を負ったレーガを、ロサが治療。
今回は、鋼の魔物が六匹。レーガは光の剣の魔法の使い手。ジオスは水の魔法の使い手。ポルは遠距離魔法の使い手。ロサは治癒魔法の使い手。まず最初にレーガが突っ込んで、二匹に切り込んだ。次にジオスが氷柱のような魔法で攻撃。二人がとどめをさしている間に、他の二匹が向かってきたが、ポルが矢を降らせて盾を。足留めされた魔物は、レムネーが一突きして、殴り飛ばす。そのあとレーガがとどめ。残りの二匹を、魔法をまとった剣をレーガとジオスが一匹ずつ倒した。軽傷のレーガを、ロサが治療。
繰り返し繰り返し、さっきの光景を頭の中で再生した。刻むように、繰り返す。すぐにその場に座り込んで、一先ず繰り返して刻んだものを簡単に箇条書きをする。初めての魔法戦闘。その迫力を書き留められる表現を探り出しながらも、書いて書いて書いていく。
「あの、ラメリー? おーい、ラメリー?」
「……すまない。夢中になっていると、なにも聞こえないんだ。一時間ほどすれば、我に返るはずだ」
「一時間もこのままなのか!? すげーなおい!」
「なんて集中力っ……!」
「今のを一気に書き上げようとしてるの? わっ……また細かく……」
「……ラメリー、にやけてる」
「夢中になっていると、大抵こんな顔をしている」
「まじか」
この世界は、魔法は人を選ぶと云う。治癒の魔法、キュア使いはレアだ。使える者はごく少数。魔物討伐一行は、手練れの集まり。だからロサは、世界一のキュア使いと言っても過言じゃないはず。遠距離魔法は、魔力を多く使う上に、器用さが必要不可欠。攻撃範囲は広く破壊力もある。だから使える者は、最強の魔法使いとも呼ばれる。ポルも、強いんだ。だからこそ、レーガは二人の後ろにいれば大丈夫と言ったのか。治癒も援護も最強の後衛。戦闘に優れた前衛もまた最強。
何冊も読んだ勇者や英雄の物語の登場人物のようだ。彼らは、いつかは英雄と呼ばれるのかもしれない。興奮したままペンを走らせた。
「ラメリー」
ポン、と背中を軽く押されて、顔を上げてみれば、メラマヴロ。
「もう出発します」
「へっ?」
きょとんとしていれば、脇を持たれてカルディに乗せられた。いつの間にか、皆は馬に乗っていて進み出している。
「ラメリー、書けた?」
レーガが横について笑いかけてきた。
「え、うん……あとは見直しかな」
「はは、すごい集中力だな。オレら、何度も話しかけたのに、無反応だったぜ」
「え!? そうなの!? ごめんなさい!」
「ぷははは! すごいな、ラメリーは!」
全然気付かなくて慌てて皆に謝ると、レーガだけが盛大に笑う。うう、恥ずかしい。
「戦い、すごかったね。私は初めて魔法の戦闘を見たの。レーガは光の剣の魔法で間違いないよね?」
「ああ、光の剣だぜ! 昔っから剣ばっか振ってたけど、なんとかこの魔法が使えたんだ。でも、初めて見るなんて、ラメリーはどこ出身なんだ?」
「ん? んー……魔法のないところ」
苦笑をしながら、私は答えた。この世界では、魔法の戦闘なんて珍しくないらしい。レーガは首を傾げた。異世界から来たなんて話は、今は止しておこう。私が目を逸らすから、レーガは追及しなかった。
魔物討伐一行の後ろ姿を一人一人眺めながら、さっきの戦いを振り返る。どんな描写なら、高揚感が伝わるのか。じっと、考えてみた。
じっくりと考えながら、付け加えていたその夜のこと。
「いい加減にしてよね!!」
ロサがいきなり怒鳴ってきたから、私は震え上がった。また夢中になっていたから、話を聞いていなくて怒らせてしまったのだろうか。怒鳴られるなんて、いつぶりだろう。メラマヴロも王様も、私に怒鳴ったことはない。牢屋に入れられた時以来だ。騎士に怒号を浴びせられたトラウマを思い出して、私は放心してしまう。
「今日一日、じろじろじろじろと!! 見張るように見て! なんなのよ! やっぱり陛下の命でスパイしてるの!? あたし達が使命を果たしてないとでも!?」
観察のための私の視線を、そんな風に思ったらしい。ロサも、ポルも、ジオスも、私を鋭い目で見ていた。焚き火の前に立つレーガは、困ったように私達を交互に見て、仲裁に入ろうとしてくれる。でも先にメラマヴロが私の前に出た。
「ラメリーには考え込んで見つめる癖がある。見張るためではなく、観察していただけだ」
静かに誤解だと言ってくれた。ロサはメラマヴロに怯えた様子で身を縮める。いつものメラマヴロなのに、何故か後退りまでした。
私はペンを置いて、座ったままだけれど、しっかり彼らを見て誤解をとくことにする。
「陛下は皆さんを疑ってはいません。ただ……たぶん、心配しているんだと思います。ジオスの報告書は簡潔で成果は一目瞭然でしたが、どんな戦いをしたのか、一行がどんな状況なのか、わからないので……。陛下は私が描く物語が好きだと仰ってくださっていたので、私に頼んだんです。陛下が知りたいのは、皆さんのことなんです。この旅です。私の視線に気分を害してしまったなら、申し訳ありません。他人の目を見つめたまま考え事をすることもありまして。私はただ、皆さんがどんな人で、どんな戦いをするのかを、陛下に教えたいんです。不快に思われない努力をしますので、改めましてよろしくお願いできないでしょうか?」
初めから、こうやって話すべきだった。反省も謝罪もしつつ、私は笑顔で頼む。
「陛下は、皆さんを信頼してますよ。国民を救っていると信じています。そんな皆さんを、知りたいと思っているんです」
疑ってなんかいない。あんな優しい人が、スパイを送り込むわけない。彼をそんな風には思わないでほしい。
見ず知らずの私に、シワのある大きな手を差し出して救ってくれた人だから。
「……わ、わかったわよ……怒鳴って、ごめんなさい」
ロサは理解してくれた。ポルも疑ったことを反省しているように俯く。
「じゃあ、改めてよろしくな!」
皆を見渡してから、レーガはニッと笑ってくれる。笑い返してから、私も他に目を向けた。ただ横目で見ていたレムネーも、ジオスも別の方向に顔を向けている。崖の方だ。私もそっちに意識を向けてみると、音を耳にした。シャカシャカとマラカスのような音と、ドンドンと太鼓のような音。地面が微かに震えて伝わってくる。一同が沈黙したから、よく聴こえるようになった。テンポの速いリズム、音楽だ。
「……キノキノですね」
沈黙を破ったのは、ジオス。
キノキノ。部屋にあった図鑑で見たことがある。岩や石の多い荒地などに生息して、地中に穴を掘って生活する生き物だ。群れで生活して、虫や植物を食べる。
「キノキノのお祭りの音ですか?」
私はメラマヴロの手を掴んで、そっと聞いてみた。メラマヴロは頷く。
キノキノ祭り。月に何度か、お祭りをすると書いてあったのを覚えている。キノキノ達が踊るそうだ。
「見たい!」
「え? ちょ、ラメリー、止めた方がいいぜ?」
飛び上がって立って、私は崖まで駆け寄る。すぐにレーガとメラマヴロも追い掛けてきた。
「人間が見てるってわかったら、逃げちゃうって」
レーガは声を潜めながらも、私と肩を並べて崖の二メートル下を覗き込んだ。
蛍ような発光をする鬼灯に似た植物が、その場を淡く照らす。ぷっくりした二頭身の生き物が、ざっと二十匹がいた。毛並みは黄色っぽく、頭は逆三角。二重の円を作りながら、短い手足を振って踊っていた。動く度にシャカシャカと音が鳴っている。身体から出ている音のよう。毛、かな。ドンッと太鼓を叩いたような音は、ジャンプして地面に着地する音だった。図鑑にも体重は見た目よりあると書いてあった。力持ちで、小さな手には猫のように鋭い爪が隠されているそうだ。時々、シャリンシャリンと音が鳴るのは、爪だと思う。リズムに乗って、私は身体を揺らす。キノキノ達はとても楽しそうだ。
「まざりたいな……」
「だめだって。警戒して、攻撃されちゃうぜ。キノキノは温厚でも、強いから」
レーガが声を潜めて私を制止するけれど、目を輝かせて食い入るように見ている。レーガも見ているだけで楽しげだ。そんなレーガをじっと見てしまう。目の輝きとか、緩む口元だとか。視線に気付いたレーガが、私と目を合わせるときょとんとする。肩が触れ合いそうな距離。また観察してしまったから、私は顔を逸らす。キノキノのスケッチしようと立ち上がろうとすれば、支えにしようとした腕を崖の向こうに出してしまった。体重移動してしまった私は、崖に飛び込むように落ちてしまう。
「ラメリー!」
メラマヴロが掴もうとしてくれたけれど、崖にぶつかりそうだと咄嗟に蹴ったから離れてしまった。宙で半回転して、両足で着地。両腕を掲げて決めポーズ。ふっ、伊達にドラゴンと戯れていないわ。レーガ達とは比べ物にはならないけれど、身体能力はそこそこある!
自画自賛したけれど、キノキノ達も両腕を上げたまま固まって、私に注目していた。メラマヴロの呼ぶ声で、人間に見られていると気付いてしまったんだ。私の登場に、フリーズしてしまっている。沈黙も視線も痛い。
「……」
私はスカートを掴んで、シャカシャカと振ってから、ジャンプしてドンッと地面に両足をつける。キノキノ達は、まだ固まっていた。めげずに笑顔でシャカシャカとスカートを振って、また両足でドンッと踏み鳴らす。キノキノ達は顔を合わせた。シャカシャカ、ドンドン。もう一度やってみれば、一匹のキノキノが踊り出した。嬉しくなり、またやってみれば、キノキノ全員が踊り出す。
シャカシャカ、ドンドン。シャカシャカ、ドン。シャカシャカ、ドンドン。シャカシャカ、ドン。
お祭りが再開した。受け入れられたことが嬉しくて、私は躍りながらキノキノの輪に入る。ステップして、スカートを掴む腕を振った。近くにいると、まるで地面がトランポリンに感じるほど揺れる。最初に踊り出してくれたキノキノと顔を合わせれば、笑ってくれた気がした。リズムに乗ったまま、後ろを振り返る。崖の上のレーガに手を振って、招いた。今なら、まざれるよ。
こんな楽しいキノキノ祭りに、エレクドラーロも参加させてあげたい。だから、すぐに召喚した。
大型犬サイズのドラゴン。両手を握って、さぁ、ステップ。腰を振って、シャカシャカとスカートを鳴らす。エレクドラーロも器用に翼を動かして、シャカシャカと音を鳴らした。一緒に、ターン、ターン。
ドンドン、シャカシャカ。ドン、シャカシャカ。シャリンシャリン。ドンドン、シャカシャカ。ドン、シャカシャカ。シャリンシャリン。
爽快なリズムに合わせて、踊る。踊っていく。エレクドラーロも楽しそう。私も楽しくて、高くジャンプをしてしまいたくなる。
「ラメリー、召喚の石持ってたのか! ドラゴンなんて、初めて見た! オレと踊って?」
参加したレーガが、エレクドラーロに手を差し出すから、私は頷く。エレクドラーロも翼を広げて、宙に浮かんだまま、レーガと踊る。
いつの間にか、ポルとロサも参加していて、そばで踊っていた。笑い声を上げて、楽しんでいる。キノキノ二匹と、ハイタッチして、ステップ。ステップして、ターン。
崖の下に、メラマヴロがいた。下りてきて、見守っている。上には完全に傍観を決めているジオスとレムネーが見下ろしていた。参加しそうにもない。
私はメラマヴロの元まで駆け寄って、両手を掴む。そして輪の元まで連れていこうとした。メラマヴロは踊らないと首を振るけれど、無理矢理引っ張っていく。
腰を振りながらステップして、笑いかける。メラマヴロが困り顔をしているけれど、繋いだ手を振って振って、リズムに乗ってもらった。鎧がカチャカチャと鳴る。ひたすら笑いかけていれば、観念したのか、メラマヴロの困った表情はなくなった。笑い返してくれるまで見つめたけれど、いつもの無表情。でも、柔らかい。見つめあいながら、お祭りらしい光の中、踊った。
お祭りは一時間近くも続いて、ぶっ通しで踊る。そのあとは、キノキノ達は巣穴へと帰っていった。だから手を振って、見送る。踊り疲れたレーガ達も、笑っていたけれど、寝床につくとあっという間に眠りに落ちた。
私はエレクドラーロに膝枕してあげながら、キノキノのスケッチをする。灯りは、お祭りの鬼灯。レーガ達の眠りを妨げないように崖の元にいる。また落ちないようにと、メラマヴロはまたそばにいた。
「どうですか? キノキノ」
「上手です」
「ふふっ。陛下、この話を報告書で読んだら笑ってくれるだろうなぁ」
キノキノ祭りに乱入したと書いた報告書を読んだ王様の微笑んだ顔が、目に浮かぶ。メラマヴロにも誉め言葉をいただいたから、このスケッチも送ろう。
「疲れたでしょう、眠ってください。明日に響きますよ」
「楽しすぎてまだ眠れそうにないです。ねー? エレク」
エレクドラーロは顔を上げると頷いた。高揚がまだ残っている。ああ、この気持ちを、物語に詰め込めたらいいのに。
「メラは楽しくなかったんですか?」
「とても楽しかったですよ」
メラマヴロが即答するけれど、笑顔にならなかったから疑ってしまう。
「……ダンスもお上手ですね。まるで踊り子のようで、素敵でした」
「! 踊り子なんて、そんな……」
照れて私は頬を両手で押さえた。跪いたメラマヴロは、真っ直ぐに私を見つめてくる。リズムに乗って身体を振っていただけなんだけれど。
「楽しそうでしたね……ラメリー。でも、もう休みましょう」
優しい声をかけて、メラマヴロは手を重ねてきた。出発前の満月の夜のことを思い出す。黒曜石の真剣な眼差し。
お祭りあとの高揚が、あの日の高鳴りに似てしまう。また、眠れそうにもない。
ふと、メラマヴロの肩越しから鋭い視線を向けてくるジオスに気付く。剣を握って、歩み寄ってきた。メラマヴロも気付いて、立ち上がる。
「やはり……その宝石は、召喚の石、エレクドラーロ。人間の国の秘宝ですね」
見据えるのは、私のチョーカー。
それを聞いて、知る。ジオスはずっとこれを所持していることに疑問を持って、盗人だと睨んでいたんだ。報告係を奪ったことに怒っているなんて、私の思い込みだった。
「何故……エレクドラーロが持ち出されているのか、そして何故その女性が持っているのか。話していただけますよね? 黒騎士メラマヴロ」
冷たい声で、ジオスが問い詰める。メラマヴロがゆっくりと剣に手を伸ばそうとするから、慌てて立ち上がった。
「私はっ、私は、別の世界からこの宝石に導かれたんです!」
唐突すぎるけれど、話すしかない。ジオスが眉を潜めた。
「この秘宝は主を選ぶ石。エレクドラーロが選んだのは、私です。城の財宝部屋まで導かれた私は、一時的に盗人疑惑で牢屋に入れられましたが、アルートゥリア陛下に出してもらいました。秘宝、エレクドラーロが主に選んだから……。見ての通り、私は召喚できます」
召喚出来るのは、主に撰んだ者の魔力だけ。詳しく知っているようだから、これだけ言えばわかるだろう。エレクドラーロは、私の背中に引っ付いて肩に顎を乗せた。少し鼻息が荒いのは、ジオスに警戒しているからだろうか。
「アルートゥリア陛下は、私を所有者と認めています」
「……」
私を見据えたジオスの瞳が、メラマヴロに映る。彼がなにも言わないと、信じたのか、肩が微かに下がった。
「だから、あなたが一緒に来たのですか……。納得しました。しかし、それならば予め話すべきでは? 我が国の秘宝も盗まれたのですから」
「……申し訳ありません。公言すべきではないと、アルートゥリア陛下が仰せつかっております故」
「……はぁ。アルートゥリア陛下は、城の外に持ち出せば安全だと考えておられるのですか」
私を一瞥するジオスは、そうは思えないと言いたげ。でもこれ以上は追及する気はないようで、私達に背を向けた。
「万が一の時、我々に責任を押し付けないでください」
それだけを告げると、一番離れた寝床に横たわる。
一触即発の雰囲気から解放されたら、眠気がきてしまった。エレクドラーロも眠たそうに目を細めて、寝る催促をしてくる。メラマヴロに肩を押されて、私も毛布をした寝床に身体を沈めた。エレクドラーロはべったりと私にしがみついたまま寝息を立てる。それを子守唄のように聴きながら、私も眠りに落ちた。
その二時間後、エレクドラーロが宝石に戻る光で、一度目を開く。ドラゴンがいなくなってしまった腕で、自分を抱き締める。
そう言えば、ジオスが他の国の秘宝が盗まれたって言っていた。じゃあ、エレクドラーロは、狙われているの?
疑問は浮かんだけれど、意識は眠りの中に沈んだ。
20150809