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 変わった自覚はある。

 前の世界にいた時は物語のことばかり考えて、愛想が欠けていてネクラと印象を持たれるタイプだった。

 でもこの世界に来てから、言葉を学ぶ前から伝える努力をして笑顔を心掛けた。

 憧れでもあったんだ。

 感情も感動も素直に出して、時には大袈裟なくらい露にして、素直で無邪気でいたかった。そんな子に変われたと、自覚している。今の自分が好きだ。

 なのに、双子王子はそれを猫被りで、周りを騙していると言っていた。猫被りを止めた私なんて、レーガ達は助けに来ない。

 嫌なことを言われて、不快になった。よく知りもしないくせに、嘲笑うなんて。嫌われるのも当然だ。

 私が怒らないのは、我慢をしているだけ。それに叱ってあげるほど、優しくない。

 私は謝罪してもらうまで、口を閉じた。

 馬を走らせて、小さな森を抜けた先。崖の下で休んだ。崖の下なら、ジオスも感知ができないと考えたらしい。

 私が黙り込んでから、二人はつまらなそうにしていた。謝る気は、ないらしい。

 全く。どんな育ち方をしたんだ。あの優しい王様の身内だから、愛されずに育ったなんて考えにくい。ジオスのように後継者争いが激しい環境ではなさそうだ。

 ああ、でも、誰一人として、自分達を見分けられないと言っていた。母親さえも。それが二人の性格を捻らせた元凶か。

 自分達は一つだと、言っていた様子を脳裏に浮かべる。何度も何度も思い浮かべて、彼らの様子を探った。

 母親さえも。

 そこだけはまるで、憎たらしそうだった。歪みは、そこ。母親となにがあったら、こんな風に育つのだろうか。


「なー、いい加減にしろよ。ラメリー」

「いつまで黙ってるんだよ。ラメリー」


 向かいで足を広げて座っている双子王子が、痺れを切らした。

 でも私は、ツーンとそっぽを向く。

 謝ればいいの。謝ることを教わらなかったのか。

 王様の身内で、殿下だから、なにされても我慢してきた。ゲームをクリアするために、二人を知ろうとなにされても我慢した。

 そんな私を、いい子ぶっていると嘲笑った。

 なにをしても許されると、自惚れてしまう環境で育ったのか。

 それとも自分達以外に、どう思われてもいい環境で育ったのか。甘やかされ過ぎたのか、孤独を感じすぎたのか。

 そうか。この二人は、ずっと、二人ぼっちだったんだ。


「なんだよ?」


 私が二人を交互に見ると、少し怪訝な表情をした。

 ジオスが疑心の鎧で他人と距離を取ったように、この二人も自分を守っているのかもしれない。傷付くことから。


「喋らないなら、お前の日記読んじゃうぜー?」

「!」


 いつの間にか、私の荷物が双子王子の手に渡っていた。ギョッとしてしまう。でも、日記は大半は日本語で書かれているから読めないはず。


「なんだこれ」

「読めねー……」

「あ、これ読めるぞ」

「小説か」

「!?」


 日記に挟んでいた小説が、見付かってしまったらしい。ジオス似の青い髪の魔法使いとの恋愛小説。絶好の悪戯のネタにされかねない。

 それがもろに顔に出てしまったらしく、双子王子は私を見てニヤリと笑う。吟味するように、じっと見据えられた。


「フン、お前の書く物語なんて、価値ねーよ」


 双子王子は揃って、また私を嘲る。

 それは一番、突き刺さった。冷たさが、私の中で沸騰する。


「……――読んでもねーくせにほざくなよ、クソ王子ども!!」


 気付いたら、そう立ち上がって怒鳴っていた。

 檻に閉じ込められようが、拉致されようが、剣先を向けられようが、我慢ができた。

 でも、これだけは無理だ。読んだ結果にそう告げられたら、反省しながら泣く。でも読んでもいない人に、私の物語を貶されるなんて耐えきれない。私の生きる糧だ。生き甲斐だ。これまでずっと、私を支えてくれた。生かしてくれたんだ。それを価値がないなんて、許せない。

 二人は目を見開いて固まる。私が初めて怒りを露にしたからだ。

 私だって、この世界に来てから、初めて怒りで声を上げた。私の物語を否定するなと、腹の底から悲鳴を上げたい。


「……ハン。それがお前の本性かよ」


 ロキが懲りずにまた嘲る。わからない人だ。他人の気持ちがわからないのか。何故、他人を怒らせるんだ。どんな気分になるのか、わからないのか。

 私はナイフを抜いた。すると二人は反応して立ち上がると、剣を掴んだ。

「やんのかよ」と私を睨み付ける。

 すると、その時。

 頭上から、岩が落ちた。違う、岩じゃない。ゴリラのような風貌で、腕も腹も脚も筋肉で太っていた。

 二メートルはある魔物が、双子王子に雄叫びを上げる。崖の上から二人を見付けて襲いに来たらしい。


「チッ! ラメリー、じっとしてろ!」


 剣を抜いて身構えた双子王子が揃って叫んだけれど、それが逆効果になってしまった。魔物の黒い瞳が、私に向けられた。私の後ろは、崖。逃げ場がない。


「おい!」

「ざけんな、相手はこっちだ!」


 双子王子が気を引こうとしたけれど、魔物は私に狙いを定めて身体を向けた。あの太い腕で拳を叩き付けられては、崖が崩れて潰れてしまう。

 私がやるべきは一つ。先に、倒す。

 後ろの壁を飛び込むように蹴り上げて、魔物の頭にナイフを力一杯に突き刺した。

 魔物はドスンと膝から崩れ落ちて、倒れる。その勢いで、私も地面に着地をした。


「……ひゅー。やるじゃん」

「ラメリー、非戦闘員かと思ったのに」


 双子王子は何事もなかったかのように笑う。そんな彼らを睨み付けて、私は引き抜いたナイフの先を向けた。


「煩い! クロロ王子!!」


 二人が忽ち、顔をしかめる。


「なんだよっ、急に!」

「急に!? ほんっとにわかってないのね! アンタ達、どんな風に育てられたのよ!」

「唐突にぶちギレるなよ!」

「煩い! 黙って聞きなさいよ、クロロ王子!!」


 今度は私が怒らせる番だ。私の話を聞かせるために、怒鳴り付けた。


「オレはロキだ!」

「オレはロクだ!」


 二人はそう言い返してきて、私は気付く。クロロと呼ばれることを拒絶している。


「……。二人合わせて、クロロだって言ったじゃない」

「お前はオレ達を見分けられるだろ!」

「一度も間違えてないし!」

「オレ達を別々に呼んでくれた!」


 私には、クロロと呼ばれたくない。二人は怯えたように、声を上げた。

 理解できない。なら何故、見分けられる私を怒らせるようなことを言うの。貶して、嘲るようなことをするの。見分けられることが嬉しいはずなのに。どうして、そんな風に育ってしまったの。

 浮かんできたのは、母親の存在。もしかしたら、二人を見分けることを、放棄してしまったのかもしれない。だから怯える。ゲームを持ち掛けても、わざと当てさせない。自分が傷付かないように、見分けられない者は突き放す癖が染み付いたんだ。


「……母親に、見分けてもらえなかったの?」


 私が静かに問うと、二人の顔が歪んだ。ロクは後退りするけれど、ロキは怒りを示して怒鳴り出した。


「わかったような口を聞くな!! 作家だからって勝手に想像すんなよ! 小説なんてなんの役にも立たねーよ!」

「ああそう! じゃあ母親に愛されたの!? クロロ!」

「っ! ざけんなよ、ラメリー!!」

「なによ!? 私を殺す!?」


 ロキが剣を向けてきたけれど、受けて立ってやる。


「やめろって!! ラメリーはクロロって呼ぶな! もう二度と!」


 ロクも怒鳴った。


「アンタ達が改めないなら呼び続けるわ! アンタ達が理解するまで、同じことをしてやる! 他人を嘲るな! 貶すな! 怒らせるな! 心を許せる相手なら、傷付けるようなことをするな! 先ずは謝りなさい!!」


 力一杯に、私は怒鳴り付る。こんなにも他人を叱ったのは、生まれて初めてだ。でも、叱りつけた効果はない。


「……っ、何様だっ!! 世界のよそ者のくせに!」

「図に乗るんじゃねぇよ!! 猫被り!」


 ロキもロクも、噛みつき返す。刃物を持ったままの睨み合い。そっちがその気なら、理解するまで言い続けてやる。


「クロロ!!」

「っ黙らせてやろうか!?」

「来なさいよ!」


 ロクが殺意に満ちた目を向けようとも、私は言い返す。捩じ伏せた方が早そうだ。例の手袋は装着している。来るなら来い。


「言っておくけど、私、当てずっぽうだった! どっちがロキで、どっちがロクかなんて、いい加減に言ってた!!」


 力の限り言った言葉は、彼らが傷付くものだと知っている。だから、最悪な気分に襲われる。私自身、胸を抉られてしまうようだ。

 普通はこんな気持ちになってしまうのではないのか。最低な気分にならないの。この二人は。


「嘘をつくんじゃねーよっ!!」


 二人はついにぶちギレて、魔法を使い出した。二人の背後から、木が生え出して急速に成長をする。どんな魔法にせよ、攻撃するもののはず。私はエレクドラーロを召喚するために念じようとしたら。


「ラメリー!!」


 私を呼ぶ声に、気が逸れた。

 光の刃が降り注いで、木は微塵切りにされる。光の剣の魔法。レーガだ。

 呼ばれた方を向くなり、私は――――抱き締められた。


「ラメリー! ご無事で!」


 私を抱き締めるのは、アクアマリンのような甘い香りがする――――ジオスだ。

 両腕で力一杯に抱き締められ、彼の首元に顔が押し付けられる形になる。あまりのことに、ポカンとしてしまう。自分が何をしていたのかも、うっかり忘れてしまった。


「怪我は? なにもされていませんよね? どうしてエレクドラーロで逃げないのですか。僕があんな提案をしたからですか? 本当に申し訳ありません。あんな馬鹿げた提案をした僕を許してください。ラメリー」


 一度離して、私の頬を両手で包んで覗き込んだジオスは、心配のあまり苦しそうな表情をしていた。息も上がっている。走ってきたのだろうか。

 ジオスは心からの謝罪をして、また私を抱き締めた。

 謝罪、で思い出す。そう言えば、私は双子王子に謝らせようと怒っていたんだった。ジオスに抱き締められて、怒りがどっかに飛んでしまったみたい。


「あ……えっと、心配をかけて……すみません。はい」


 ただただ放心してしまっている私は、心配かけたことを謝る。

 ジオスが言う通り、双子王子を懐柔することにしてしまった。一日中探し回らせてしまったのだろう。

 ジオスの肩越しから、崖にいるポルとロサを見付けた。手を振ってくれるので、振り返す。


「あの、ジオス、放して?」


 言えば、ジオスは腕の力を緩めた。冷たい目で双子王子を見据えている。私と初めて会った時よりも、鋭く冷たいものだ。少々、寒気を感じた。


「……ラメリー」


 メラマヴロが隣にまで来たので、彼にも謝る。彼も走り通しだったのか、綺麗な顔から汗が滴り落ちて、息が乱れていた。

 静かに私を見つめて怪我がないことを確認すると、目の前で跪く。そして私の右手を取ると、自分の額の前で握り締めた。


「ご無事で……なによりです」

「本当に、ごめんなさい……」


 深く息を吐くメラマヴロは、安心したようだ。私はもう一度謝る。

 顔を上げたメラマヴロは、眉間にシワを寄せた。


「大丈夫ですか? ラメリー」

「? はい……」

「……」


 メラマヴロが深刻そうに見上げるけれど、私はジオス達を振り返る。


「邪魔しやがって!」

「引っ込んでろ!!」


 双子王子は、ジオスといつの間にか、そこにいるレーガを睨み付けていた。


「連れ去った上に連れ回して、何を言っているのですか」

「あー、ちょっと落ち着け? なっ?」


 ジオスは睨み返して剣を抜くけれど、レーガは間に入って宥めようとする。


「ラメリーも無事だったし、そう殺気立つなよ。とりあえず、剣、しまおうぜ?」


 話し合いに持っていこうとするレーガだけれど、双子王子は聞かない。

 双子王子が動くと、レーガの反応は早かった。双子王子の細い剣が鞭のようにしなやかに向かってくると、レーガもジオスも受け止めて、押し返す。

 あのレーガとジオスにも劣らず、ロキもロクも素早く鋭い斬撃を繰り広げている。


「やめろって!! クロロキ! クロロク!」


 レーガは受け止めたりいなしながらも、止めようとした。

 でもジオスは、ロクに反撃をして押し始めている。


「うるせっ! 奴隷の分際で、命令すんじゃねぇよ!!」


 ロキが怒鳴り付けたその瞬間、私の中でまたあの怒りがぶわっと込み上げた。

 その場に、大きな大きなドラゴンが、琥珀の光を撒き散らして現れる。ドラゴンの鳴き声が、空気を震わせた。


「ラメリー!?」


 驚くレーガとジオスには、退いてもらう。


「いい加減にしなさい! クロロ!!」

「なんだよ!」

「お前には言ってないだろ!」


 エレクドラーロに驚いたのか、ロキとロクもたじろいだ。

 本当にわかっていない。


「謝りなさい!! レーガに!」

「はぁ!?」

「謝りなさいよバカ王子!!」

「誰が奴隷なんかに!」

「っクロロ!!!」


 本当にわかっていない。私が怒鳴り付ければ、二人でびくりと震え上がった。


「クロロって、呼ぶんじゃねーよ!!」


 怒鳴り返す二人に、私は走って向かう。後ろから呼ぶ声がした気がするけれど、今はこれが優先だ。双子王子をお仕置きしてやる。

 ロクの剣にナイフを叩き付けて、ロキの剣には糸を一回り絡めた。次にナイフの柄をロクの腹に打ち込む。ロキが反撃しようとしたけれど、糸で絡めた剣をしっかり止めている。

 私の両手にある糸に二人は気付いていない。ロキは剣が動かない理由がわからず、困惑した。そのロキに膝蹴りを食らわせる。


「ごめんなさい、それを言えば許す。言わないなら、叩きのめす! 私がどんなに怒っているか、わからせてやる!」

「っ!」

「ざけんなっ!」


 一撃を食らったことにまた頭に血が上ったらしく、ロキとロクが反撃に出た。

 振り下ろされる剣を、私は腕を伸ばして張った糸で受け止める。メラマヴロよりは、全然軽い。でも長くは持たない。


「!?」

「糸、だと!?」


 そこで漸く、二人は糸を見付けた。手首を回して糸を剣に絡めたあと、二人の間を飛び上がりながら、引っ張り剣を奪う。


「っ!」


 二人から離れた地面に突き刺さる剣。向き合い直ってから、私は出方を待つ。

 剣が奪われたなら、魔法を使うことにしたらしい。また地面から、植物が飛び出す。

 魔法の相手は、エレクドラーロだ。見下ろしているエレクドラーロが、牙を剥き出しにして威嚇する。ロキとロクも、大きなドラゴンを見上げて身構えた。


「やめろって!!」


 そこでレーガの声が轟く。かと思えば、私の身体が浮いた。そして、ロキとロクの周りに、無数の光のナイフが現れて取り囲む。


「メラ!?」

「落ち着いてください、ラメリー」


 私の身体が浮いた原因は、メラマヴロが腹に腕を巻き付けて持ち上げたからだ。暴れるけれど、メラマヴロの腕から逃げられない。力強すぎる。


「放してください! メラ! あのバカ王子を叩きのめす! ボコボコにしてわからせてやる! やんなきゃ気が済まない!!」

「ラメリー! どーどー、落ち着いてくれよ、なっ?」


 間に立つレーガが、私をなんとか宥めようとする。


「ラメリーが気が立つと、エレクまで暴れる。落ち着いてくれないと、死人がでちまうよ。オレ達は仲間だ、そうだろ?」


 私の目を見て、レーガは諭す。大きなエレクドラーロが暴れたら、お仕置き以上の惨事にもなりかねない。

 エレクドラーロを見上げて、私は落ち着こうと深呼吸をした。エレクドラーロも、ふしゅーと大きな息を吐く。

 落ち着きそうだと思い、レーガは二人に向く。光の剣の魔法は、指をパチンと鳴らすだけで消えた。


「仲間なんだから、魔法や剣で喧嘩しちゃだめだろ!」


 それはジオスにも向けられたみたいで、ジオスはそっぽを向いて剣を納める。双子王子はムッスリとレーガを睨み付けているだけ。


「ラメリーはオレ達と上手くやれるように努力してくれようとしたんだ。それなのに懲りもせずに怒らせて! ラメリーが怒るなんて、初めてみたぞ! ラメリーに謝るんだ、クロロキ、クロロク。許しを乞うんだ!」


 奴隷呼ばわりされたのに、レーガは双子王子に私への謝罪を求めた。胸を張って厳しく叱りつけるレーガの姿に、見惚れる。


「……流石、レーガ……主人公」


 仲間割れする仲間を叱る姿。止めることが出来たのもまたかっこいい。流石は主役肌。

 怒り任せてぶつかる私とは違う。慣れないことはしない方がいい。

 私が感心していると、レーガはギョッとしたあと、顔を赤らめた。


「ちょ、ラメリー! 今話してるんだからな? 物語について考えるのはストップ! 話に集中して!」

「……はい」


 今の姿を取り入れたシーンについて考えたかったけれど、止められてしまったので渋々頷く。メラマヴロが、やっと地面に下ろしてくれた。


「ゴホン。……それで、クロロキ、クロロク」

「……わかった」

「へ?」

「謝る」


 双子王子は、もう剣を納めていた。謝ると言い、私に歩み寄る。身構えたけれど、二人はただ手を差し出す。

 レーガも戸惑っているけれど、私に握手するようにと視線で伝える。

 私は警戒しながらも、右にいるロキに左手を掴む。左にいるロクに右手を掴む。交差して握手。


「ごめん……ラメリー」


 二人は初めて謝罪を口にする。かなり躊躇した様子からして、本当の謝罪みたいだ。


「……私も、ごめんなさい」


 私も謝るけど、レーガに目を向けて彼へ謝罪をしろと伝える。同じ顔が嫌悪で引きつった。ギロッと睨めば、二人は震え上がる。


「ラメリー、オレは気にしてないよ」


 レーガが落ち着くように掌を向けて笑いかけた。奴隷と呼ばわりされたのに、全然気にしていないなんて出来た人だ。


「……ごめん」


 物凄く嫌そうな顔をしながらも、双子王子は揃って謝る。その顔に、レーガは苦笑を溢した。


「……街に向かって進みましょう。今夜は野宿ですね」


 ジオスが出発を促す。


「オレ達も行くー」


 続いて発言した双子王子に、ジオスもレーガもギョッとした。


「なんだよ」

「同行させたかったんだろ?」

「一緒に旅してやるって言ってんの」

「文句あるのかよ」


 双子王子は、ツンと突っぱねるように二人に言う。

 ジオスもレーガも、何故か私を見た。私のせいだと責めたいのか。説得は失敗したはずだけど。


「今夜はシチュー作るって言ったじゃん。……作ってくれる?」


 ロキとロクが鏡のようにぴったりと動きを合わせて、私の顔を不安そうに覗き込んだ。

 まるで、子犬みたいな表情。ちゃんと反省したみたいで、私の顔色を窺っている。


「あ、うん……」


 うっかり、頷いてしまったら、安心したようにロキとロクが笑みを溢す。とても無邪気で、子どもっぽい笑み。

 誰も同行拒否ができませんでした。




20150923

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